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殺人鬼拾いました  作者: 独りんご
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第9話「金城VS黒岸」

 過去に受けた心の傷。

 それは決して簡単に癒えるものではない。

 今、こうして過去のトラウマに対峙している今も、動悸と恐怖心は消えることがない。

 でも、私は決めたんだ。戦うと。生き残ったわたしにしかできないことをするんだと。

 不思議と口の端がゆがんでしまう。自分にでも酔ってないとこんなことできないのかも。

 だけど私は、誰にもできないことをする。自分の弱さなんて、痛いほど味わってきたはずだ。

 弱い。弱いけど、弱い自分を変える――!!


「ふぅーっ」

 深く深呼吸をする。それでも心臓の鼓動は全然収まってくれない。

 そりゃあそうだ。目の前にいるのは、最強の暗殺者。

 一方の私はしがない魔法少女。勝ち負けは目に見えている。

 でも。私は決めた。もしこいつが本当に――


「……!!」


「金城さん!」

 ずっと膠着状態を維持していると思っていた黒岸が、突然大地をけりこちらまで身を詰めてきた。

 観戦していた水無月さんが声を掛けた時には、私の喉元に剣が添えられていた。


「……?」

「…………っっ!!」


 煽るような黒岸の挑発にも、私はなにもできないでいる。というか、対応できるはずもない。

 少しでも動いたら斬られる。そんな恐怖心が常に付きまとう。

 黒岸は自分より格段に速い。この場を切り抜けようとすぐにつかまって斬られるのがオチだ。

 でも。私は覚悟を決めたんだ!!


「ジョーヌ・ペティ・エクス!!」


 私が呪文を唱えると、黒岸の足元に小規模な落雷が起こる。

 本来黒岸に魔法を当てようものなら先に斬られるはずだ。

 でも、今の私は斬られていない。


 即座に黒岸から距離をとる。

 砂埃から現れた黒岸は埃が鬱陶しいらしくケホ、ケホと咳払いをしている。

 私のことなど眼中にないらしい。

 なら――


「ジョーヌ・ロート・エクス!!」


 黒岸の周囲に数発の落雷を起こす。

 だが、黒岸はそれをどこ吹く風といったように完全無視。

 冷や汗一つないってどうなってるの。

 一般人くらいなら全身の骨折れてるんだけど。


「……さっきから、当てる気がないな」

 こちらの意図は完全に見抜かれている。でも、これからだ。

 何発か魔法を打って少しづつ緊張も落ち着いてきた。思考もクリアだ。いける。


「じゃあ、脅しはこれくらいにしてあげる」

 私は魔法のステッキを黒岸に向けると、全力の魔力を込める。


「ジョーヌ・グラン・エクス!!!!」

 今度は完全に黒岸本体を狙った魔法。

 それを察知した黒岸は身を捩りかわす。だが、今回は落雷の規模が大きい。

 だがそれも分かっていたように黒岸は地面を踏みしめ、落雷の規模ギリギリのところまで逃げ切る。

 でも、それも織り込み済み。

「…………流石ね」

 私の魔法は雷魔法。本来は威力が小さい代わりに速さが売りの魔法なのだが。打たれてから雷の速度にも反応できる黒岸には賞賛の言葉を述べるほかない。

 でも、流石に爆発からも逃げ切るのは危うかった。

「だったら、これはどう?」

 もう一度私は同じ構えでさっきよりもさらに魔力を込める。


「ジョーヌ・エクス・グランセリア!!!!」

 さっきの爆発規模と同じ魔法を連発する。

 もう魔力もギリギリだが、この規模を叩き込めばさすがの黒岸も逃げ切れない……はず!


 一つ目の魔法をさっきと同じように逃げる黒岸。

 だが、二つ目に気づくと、今度は大地を思いっきり踏みしめて……


 ばっっ。


 上空に飛んだ。人間とは思えない跳躍力で。

 飛んだ黒岸はテニスコートの外にある電柱をつかみ、爆発から逃れた。

「猿かよ!?」

 だが、こちらとしては好都合。空中なら逃げ場はない。続けて電柱に向かって魔法を打つ。

 黒岸はそれに気づくや否や、電線を軽々とジャンプしながら飛び跳ねて逃げていく。

 本当に猿みたいな挙動だ。

 

 ぼごぉぉん、と魔法の爆発が電柱にぶち当たる。

 電線から降り立った黒岸は、息を切らす様子もなく、まだまだいける、といった感じでこちらを見ている。

「はぁ、はぁ、はぁ……」

 逆に私が息切れしているのはおかしいだろ。私しか攻撃していないのに。


 もう魔力もからっきし。

 やれるだけはやったが、もう限界だ。

 終わりが近いのを感じる。


 黒岸はゆっくりと、こちらに向かってくる。

 ギュオオ、と風を切る音がした。

 私の目の前で舞っていた砂埃の一つが黒岸に変わった。

 斬られる――


 ……


「………………」

「……ふふっ」


 私は生きてる。黒岸の剣は私の喉元でビタッと止まったままだ。

「……さっきの魔法にも、殺意はなかった……。何を考えてる?」

「さぁね」


 黒岸美波と()()はできるのか。

 殺意のない、一対一の殴り合い。きっと黒岸美波、黒暗天という名前が先行して出会った人はみな自分が殺されるのではないかという恐怖におびえる。ゆえに、結果として自分から殺意を発してしまっていることになる。だから、黒岸は喧嘩を知らない。人を殺さない戦い。自分の意思を突き通すための戦い。私はそれに賭けた。


 私の態度に黒岸は興味をなくしたのか、自分の剣を鞘に納める。

 本当に。殺さなかった。黒岸は、私のことを。これで――

「……私を殺そうとするやつは、皆私に殺意を持つ」




「……初めから私に敵わないならやめればいいのに」



 


 一瞬、私の中で何かが切れた。

 自分の目的は果たしたはずなのに、今度は不思議な虚しさが私の胸に押し寄せる。

 じゃあ、なんで三佳達は死ななければならなかったのか。

 いま私が生きていて、三佳達は死んでいる。このことを確かめたって、三佳が生き返るわけじゃない。じゃあ、誰が悪いのか。

 

 なんであの時自分は死ねなかったのか。

 あの時、あの時、私が。私が、こいつに立ち向かっていれば、こんなに悩むことも――

 こいつが私を殺してくれなかったから。私がつらいのは全部こいつの――

 

「あんたのせいだっ!!!!」

 気づけば私は全力の魔法を黒岸に向けて放った。さっき撃ったどの魔法よりも格段の威力を乗せた一撃。

 今度こそ、本当の殺意を乗せた。乗せてしまった。

 瞬間、こちらに気づいた黒岸の目が変わる。人殺しの、殺意と狂気が入り混じった目だ。

 死ぬ。間違いなく自分は死ぬんだ。その瞬間理解する。

 

――「唯は、死なないでよね」

 いつも三佳が言いていた言葉を思い出す。

「………………っっ」

 魔法を打った途端、自分の過ちに気づく。

 私は、死ぬんだ。


 どがぁぁあぁん!!


 黒岸に魔法が直撃する。


「…………!!」

 だが、その程度で黒岸は止まらない。

 魔法の爆風から現れた人影は、砂で汚れてこそいるが、傷は一つも見当たらない。

 殺人鬼の目をした黒暗天が、私のことを睨みつけながらこちらに歩いてくる。死のカウントダウンを刻むかのように。あの時と同じように。


 強く足踏みをした黒岸は、一瞬でこちらまで距離を詰め、剣を振り下ろす。今度こそ本当に躊躇のない、人を殺す剣。

 いやだ。怖い。死ぬのが怖い。

 いやだ。死にたく――




 ぐちゃぁっ。




 黒岸の剣によって血が飛び散る。

 だが、それは私の血ではなかった。

「………………水無月さん」


 私をかばった水無月さんが、斬られている。黒岸に。

 なんで。なんで。なんで!!


 私が駆け付けると、かろうじて意識はあるのか、水無月さんはうっすらと目を開け、絶えかけている息を吐きながらしゃべろうとする。

「水無月さん!!なんで……!!」

「よかった……美波が……余計な事言ったから嫌な予感したんですよ……」


 だから何だというんだ。それで命を懸けるんて……!


「美波は……わからないだけなんです……ひととの、付き合い方が……」

「それを伝えるためだけに命はったの!?ほんっとにバカじゃないの!?」

 それを私にわかってもらうためにそれをやったんじゃあ元も子もない。これじゃあ2年前と何も変わらない。


「違うんです……。金城さんは、つよいから……美波と正面から向き合える人だから……」

 水無月さんはかろうじて言葉を紡いでいく。今にも息絶えるといった様子で。


「きっと三佳さんも、おんなじ願いですよ、あなたに……しんでほしくない……」

「…………!!」

――『唯は死なないでね』

 何度も思い出すこの言葉。


「そもそも……金城さんが死ぬくらいならわたしが死んだ方が世のためですよ……。わたし……死にませんけど……」


 私に言いたいことは言い終えたのか、水無月さんは苦しそうに今度は黒岸の方に顔を向ける。

「…………」

「……あと美波……一回殺意向け会いっこしたからこれで終わりだからね……もう人殺しちゃダメだから……」

「……死にかけなのによくしゃべるねメイ」

「…………うっさいぼけ」


 そういって水無月さんは私の手から力なく崩れ落ちた。

 私は涙をこらえるので必死だった。

 また、私は目の前で失うのか。そう思うだけで。

 

「なんで……私は……また…………」


「金城さんにはそうするだけの価値がある。自分の心を壊した相手に再び正面から向き合える人間がこの世に何人いるでしょうか?」


 水無月さんの顔を大粒の涙で濡らす私に静観を決めていた高原さんが冷静に話しかける。


「水無月さんが言いたかったのはそういうことだと思います……。それでは納得できないのでしょうか?」

「高原さん……」

「ひとまずこの場を納めましょうか……。それと、水無月さんは死んではいない……らしいです」


「………………は?どういうことですか」


「水無月さんは不死身……らしいです。私も見たことはありませんが……」


「……メイの体はくっつけとけば治る」

「…………黒岸…………………………!!」

 黒岸は相変わらず私をゴミかなんかを見るような目でにらみつけている。これから殺されてもおかしくない、と思ってしまうほど高圧的な目だ。


「……帰る」

「は?」


「……もう疲れたし……あと、」


「……メイにあんま人殺すなって言われたし…………」

 

 すでに剣を納めていた黒岸はこちらに一言声を掛けるともう興味がなくなったというように校舎の方に姿を消した。

 もう私を殺す気はないらしい。


「…………金城さんはとんでもないことをしたのかもしれません」

「え?」

 高原先生は去っていく黒岸の方を見ながら独り言のようにつぶやいた。


「あの黒岸が変わろうとしている。あの黒岸が許すという選択肢をとった……。そのきっかけは間違いなくあなた」


「そして、水無月さん」


「…………」

 確かに、かつての黒岸だったら間違いなく私も殺していた。だけど、あいつは……。


 黒岸が去った元に、突然強い風が吹き出す。


「……さて、ここで考えても答えは出ませんね。ひとまず水無月さんをくっつけましょうか」

「っ!はい!!急がないと!!」


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