第8話「黄色の魔法少女」
「うそ…………」
満月の照らす夜十時。
1点のみの光と夜の真っ黒なキャンパスの中に舞う紅の絵の具。
そんな残酷で、どこか美しさすら感じさせてしまう風景。
高原さんが集めた精鋭の能力者50名。そのうち約半数が一瞬にして、壊滅した。
黒暗天一人の手によって。
いやでもわかってしまう。
この少女に数は無意味だと。
何人いようとも、この少女は押さえつけることができない。この少女には勝てない。
次々と人を切りつけていく黒暗天に対して、募るのは恐怖心しかない。
それ以外の感情が、なにもわいてこない。それほどの激情。
逃げたい。死にたくない。
ただその思い以外、なかった。
黒暗天から逃げようと、振り向こうとしたその時。
私とは逆方向に向かう一人の少女の姿をとらえた。
三佳だ。
三佳は、立ち向かう気だ。
あの、殺人鬼に対して。世界を守るために。
やめて。やめてよ。
お願い。いかないで。わたしを一人にしないで。
一緒に逃げよう。
怖い。怖い。怖い。
こわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわい。
いやだ。いなくならないで。私の前から。
そんな叫びは脳内に溢れてくるが、一切言葉には出てこない。
目の前から消えようとする友人一人、止められない。
手を伸ばしても、もう届かない。
私はただ、親友が殺されるのを見届けることしかできない。
三佳の体が斬られたのを最後にして――
そのまま、私の意識は途切れた。
――
私は奇跡的に一命をとりとめていた。
あの場で生き残った能力者は私を含め2名だけ。
私も、その子もこれを機に組織を引退した。
まさか高校生になって高原先生に再開するとは思っていなかったけれど。
それが私と黒岸の関係。
――
「…………ひっく、うっぐ………………」
「…………………………」
想像以上の話だった。あの態度にもうなずける。
黒岸美波は、金城さんの親友を殺した。
その傷は癒えるはずのないことなのだ。
わたしはなんと言葉をかければいいのか。正直、言葉が出てこない。カウンセリングの人って本当にプロなんだなぁと思う。
「…………私、このことを初めて人に話したかも。話せることじゃなかったし」
金城さんは少し気持ちが落ち着いたのか、涙にぬれた顔を上げる。
「……わたし、思うんですけど」
「多分、美波にも信念があって。何の意味もなく人を殺す子じゃないと思うんですよ。だから……その……、美波を、ちょっとでも信じてあげることは、できないですか」
それがいまのわたしに言える、精いっぱいの言葉だった。
事実、わたしは美波が本当に無意味に人を殺しまくる子じゃないと思っている。たったの1週間だが、わたしにはわかる。クズだけど。確かに美波はクズだけど。
「あいつを信じる……?水無月さん、あなたは見たことないから言えるのよ。黒岸が人を殺すところ」
「いや……見たことあります」
「え?」
「なんなら……本人に殺されたことあります…………」
「は!?なんで生きてんのあんた?」
「いや、それを話すとちょっと話が長くなるというか…………」
「………………え?」
金城さんは信じられない、というようにわたしを見る。目をかっぴらいて。
いや、わたしとしても信じられないんだけどね?まだ……。
「ホントに?」
「はい……」
「……………………」
金城さんは、わたしの話を聞いて、考えるようにして一人黙り込んでしまった。
1分くらいたっただろうか。
おもむろに金城さんは顔を上げる。まるで覚悟を決めたような顔つきで。
「わかった」
そういうと金城さんは立ち上がる。
「…………黒岸に殺されて共存する人間がいる。だったら……」
「……私も、確かめる」
そういうと、金城さんは締め切っていた相談室のドアを開ける。
「黒岸」
ドアを開けた先には、高原先生と、先生に鼻をつ編まれて涙目になっている美波がいた。
「ああ、やっと終わりましたか」
そう言うと高原先生は美波の鼻を開放する。
「…………うう…………やっと…………」
鼻がひりひりするのかしばらく鼻を抑えている。
「黒岸。あなたは、どうして人を殺すの?」
ストレートに、金城さんが美波にに疑問をぶつける。確かにそれは、わたしも初めて会った時から疑問に思っていたことだ。
美波はなぜ、殺人鬼になったのか。
「……刃を向けた人間は、刃を拒む資格はない」
美波は痛む鼻を抑えながらも静かにそう言い放つ。
「……私が殺すのは、人を殺そうとしてきた人間だけ」
「………………」
人を殺そうとしているものが殺されることに文句は言えない。
それにはわたしも共感するところだ。おかしいことを言っているわけではない気がするが……、でも、別にやりようはあるんじゃないかとも思う。美波ほどの力を持っているなら、ほかのやり方だってある気もしてくる。何も殺してしまうことだけが正しいとは言えないとわたしは思う。
ところでなんでわたしが殺されたかに関しては異議申し立てをしたいんだけど。だけど、今はそんな話をしている暇はない。
「金城さんと話はついたんですか」
気を取り直すように高原先生がわたしに尋ねる。
「え、えと……」話はついたのか?と思うわたしを尻目に、金城さんは先に言葉を放つ。
「高原さん」金城さんが高原先生の名を呼ぶ。
「私に許可を下さい。戦闘の許可を」
覚悟を決めた声でそう言い放った。
「………………いいでしょう」
高原先生も苦渋の決断といった様子で、少しうつむきながら答える。
そして、相談室から出てきた金城さんは美波の前に立ちはだかる。
「黒岸美波」金城さんは美波を指さす。
「私と、決闘しなさい!!」
「…………」
――
学校の裏のいつもテニス部が使っているテニスコートに立つ、二つの影。
時刻は午前10時。とっくに授業も始まったいる時間だが、わたし達は高原先生のとんでも権力で公欠扱いにされていた。もう裏でずぶずぶじゃん。
一人は明らかに緊張を誤魔化すように強気な顔で、一人はいつもと変わらぬ冷徹な面持ちで。
異質な二人がいま、ぶつかり合おうとしている。
「これって、どうなんですかね……」
わたしは高原先生に素人目線で解説を求める。
「これは99.9%黒岸が勝つでしょうね」
高原先生はそれしか考えられない、といったように即座に結論を出す。
「やっぱりですかー。美波にはちょっと痛い目みてほしいんですけどねー」
わたしの夢もかなわないかー。
それにしても、この状況。
自分を殺しかけた相手ともう一度対面する。
こんなの並外れた精神か頭のねじが外れてなきゃできないはずだ。
「黒岸美波……。私はお前を倒す!!」
「………………そ」
美波はなおもその表情を崩すことは無い。
一方の完全に吹っ切れてる金城さんは美波を倒す気満々だ。
金城さんは、宝石みたいな金色の石を天に掲げてる。
「ラーマ・ジン・レ・モーデ!!儚い愛と真実の光で世界を覆え!!」
若干痛い口上を述べた金城さんは突如光に包まれる。
その光が解き放たれると、金城さんは大きなリボンを身にまとったフリル満載の黄色の衣装の魔法少女の姿になった。まるで日曜日の朝にいそうな。
「え、なんですかこれ……!」
「これが彼女の能力です。黄色の魔法少女」
「黄色の魔法少女……!!」
金城さんかっけぇ……!
「…………」
一方の美波も相手の戦闘の意思を汲み取ったのか、真っ黒の剣を出現させた。
ゴゴゴ……、と音が聞こえてきそうな雰囲気。
今、戦いの火ぶたが切られる……!




