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殺人鬼拾いました  作者: 独りんご
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第7話「黒暗天暗殺計画」

 月曜日は憂鬱。

 楽な日曜があるとその差で月曜は別段嫌に感じるんだろうなぁ。

 月曜から働いてる人には本当にソンケーしますね。

 そもそも学校があろうとなかろうとそこまで生活が変わらないわたしは月曜がいや、という感覚はあまりない。

 そもそも学校が嫌だし。

 そんなこんなで月曜から仕事をしている人は偉い、という話です。

 それは学校内でも条件は変わらない。

 風紀委員も、月曜に限ってこんな朝から働かないといけないなんて不憫なんだ。本人たちは好きでやってんのかな。いや、そんなことはないか。


 で、そんなストレスもあるからか風紀委員の人は結構冷たいなー、みたいな印象がちょっとある。

 まぁ規則に縛られているからそうせざるを得ないだけだとは思うんだけれど。

 人と断片的にしか付き合えないわたしにとっては印象が人と結構違ったりするものだ。

 人に特別やさしくするわけでもなく、無干渉。無干渉を貫くわたしは、人が取り乱しているときどう接していいかわからなかったりするものだ。

 とくに、普段からできる人であった場合には。


「く……くろぎしっ……!!」


 美波を見て完全に怯えきっている風紀委員は、腰を抜かして動けなくなっている。

 一方の美波はゴミを見るような、相手に興味のないと言わんばかりの冷徹な目をしている。

 以前わたしを殺したときに見せた目だ。

 人を人として見ていない目。こういう時にする行動は決まってる……!!


「ひっ、来ないで……い、いやぁ……」


 風紀委員の子は美波を見るというよりも、見えない何かから逃げるように身をよじらせている。

 完全に美波のことがトラウマになっているようだ。

 ひとまず美波をここから引きはがさなければ。それにしても美波、この子に何をしたの……?

 それこそ殺してたりしないと説明がつかないんだけれど。

 

 わたしは学んだ。美波は食べ物につられると。


「美波~。メロンパンあげるから早くいこうね~」

「いく」

 判断が早いな……。

 本当に食べ物のこととなるとすぐ に飛びついてくる。

 だんだんわたしも美波の扱いに長けてきた気がする。こいつは食い物があればなんとかなる。

 誰でも扱えるんじゃね?これ……。


 このままここに美波がいると風紀委員の子は取り乱し続ける気がする。

 美波の手を引いてさっさとこの場を離れる。

 マジでここ最近事件にしか巻き込まれてない気がする……。


 今回のだって、絶対にここでは終わらない気がする……!


 ――


「…………何をやっているんですか黒岸…………」


「ですよねー」

 今いるのは先週も高原先生といた生徒相談室。

 この場にいるのは、高原先生、美波、わたし、そしてさっきの風紀委員。

 あの場は高原先生が参入してなんとか収まったが、風紀委員の子はまだ気持ちが収まらないようで、いったんわたし達だけで生徒相談室へ行くことになった。事件の収拾もかねて。


「……いや、荷物を出せと言われたから…………」

「「それで剣をだすやつがどこにいる!!」ますか!!」


 わたしと高原先生が声を合わせてツッコミをする。美波には自分が非常識という自覚がないのか。この前自分で言ってたはずなんだけどな。あれは嘘か。


「まぁ……、私が彼女に黒岸のことを伝え忘れていたのにも非はありますが……」

「いや、あんな非常識なことをする美波が一番悪いですよ。先生は悪くありません!」

「……むぅ」

「?どうしたの美波」

「……なんでも」

 

 美波は相変わらず納得していない様子だが、このままこの調子で美波にいられると困るのはこっちだ。

 はやく美波を更生するプログラムを作らなくちゃ……。ドキュメンタリーとかで勉強しようかな。不良少女の更生物語。

 

 それはともかく問題はこの子だ。教室の端で体育座りのまま顔をうずめている。

 いまだに少し震えている。よっぽど美波が怖い、といった様子だ。ときおり顔を上げたかと思えば、美波が視界に映るとすぐに顔をすっこめてしまう。

 このまま美波と同じ空間に置いておくのは危険な気がする。となると。


「先生、一回この子と二人にしてくれませんか」

「…………ええ。わかりました。黒岸、こちらに来てください。今までの分たっぷりお仕置きしてさし上げます」

「……えっ、なにそれ」


 わたしの意図を汲んでくれたのか、高原先生は美波を引きずって教室を出て行ってくれた。

 わたしが手に負えない美波を軽々引きずっていく高原先生。本当に何者なんだろう……。


 先生と美波を見送ると今度は風紀委員の子に向き直る。これは明らかにこちらから話しかけないと。というか、わたしが頑張らないと!!改めて自分に気合を入れなおす。


「……えっと、…………」

 えっとで話しかけた時点でもう失敗臭が強い。でもめげないでわたし……!

 ひとまず名前がわからない。確かおんなじクラスにいたと思うんだけど……。自分の他人への興味のなさに少しひく。

 ポニーテールで短くまとめられた金髪。ピアスやアクセサリーの類は一切つけられていない。一応校則違反ではあるのだが、つけている子も意外と多くいて黙認されているのが現状だ。制服もきちんと着こなされていて、まめな性格であることも察せる。

 風紀委員という役職から見るに、いかにも真面目なことがうかがえる。

 

 わたしが話しかけるのに戸惑っていることを見かねたのか、風紀委員の子はうずめていた顔をあげ、自分から口を開く。

「…………金城」

「えっ」

「金城唯よ。あなた、同じクラスの水無月さんよね」

 向こう側からは認知されていたようだ。恥ずかしい……!


「水無月さん、先週のこともそうだけど……。合点がいったわ。あなた、黒岸とつながっていたのね」

 黒岸、その名前を出すと金城さんはいっそう目を尖らせる。

 なんか警戒されてない……?

 まあそれもそうか。先週のスカートの件、それに美波と親しげに話す姿。

 金城さんの視点から見たら警戒しないポイントがまるでない。

 どうやったら警戒を解いてもらえるんだ……!!まったく思いつかない。


 再びどうすればいいかわからないわたしをまた見かねて、金城さんは口を開く。

「はぁ……。水無月さん。何か誤解しているようだけど、私はあなたを警戒してるわけではないわ。黒岸が嫌いなだけ。黒岸が離れたからなんか落ち着いたわ……」

 美波はウイルスか何かなの。

 何はともあれ、金城さんは見るからに体の震えが止まっていた。

 これなら冷静に話し合えるかもしれない。


「金城さん。お、教えてくれませんか。美波との間に何があったのかを」

 いきなり踏み込んだ質問だったかもしれないが、これを聞かずに問題は進展しない。

 ここは無理をしてでも聞くべきだ。


「ま、そうなるわよね……」

 金城さんはどう話すべきか、と考えるようにしてわたしの方を見る。

「いや、話しにくかったらそんな無理には……」

「いいわ。あなたに話さないと話は前に進まないしね」

 

 金城さんはこちらをもう一度見ると、深呼吸してから再び話始める。


「…………あなた、黒岸の過去は知っている?」

「ええと、なんかすごい殺人鬼ってところくらいは……」

「…………私は、黒岸に……」


「…………………………」


 ――――


 思い出すのは中二の冬。

 私、金城唯は順風満帆といえる生活を送っていた。

 文武両道。生徒会長にまでなって、周りのみんなからの信頼も厚かったと思う。


「金城さんー、おはようー」

「あ、おはようー」


「唯ちゃん、あとで宿題見せて~」

「また~?しょうがないな、次の休み時間にね~」


「金城さん、ちょっと頼みたいことがあるですが、ちょっといいですか?」

「はい、先生。喜んで」


 人に頼られる、というのは好きだった。

 妹が4人いる5人姉妹の長女だからか、世話焼きな性格であることも自負している。

 でも、実際に私は人と接することが昔から好きだ。

 どんな人とも仲良くなりたい。皆が仲良くなればいいのに。小さいころからずっとそう思い続けていた。

 そんなちょっと優等生などこにでもいる女の子。それが私。

 でも、そんな私にも皆に言えない秘密がある。

 

 それは、実は私は魔法少女なのだ。

 アマテラスから力をもらって、私は世界を守る魔法少女となった。

 世界を守るといっても、悪魔みたいのがいるわけじゃない。

 私達は、与えられた命令をこなすだけ。相手は犯罪者だったり、任務は様々だ。

 でも、一貫していることは一つ。これは世界の平和のためにやっていることなのだ。私はそんな理念に惹かれて、今も能力者としてやっている。

 自分のコミュニケーション能力も相まって、そこそこうまくできている自信はあった。


 「高原さん、お客さんが来てますよ」

 教室で友達に勉強を教えているところに、先生からの呼び出しがかかる。

 生徒会長もやっているから呼び出しがあること自体は珍しいことでもないが、お客さん、という表現には少し引っかかった。

 

 「はい、わかりました」

 そういって指定された教室へ向かう。


 「あぁ。高原さん」

 「お久しぶりです。金城さん」

 お客さん、と呼ばれていたのは高原さんだった。

 高原天。元々高校の教員をしていたが、今は教育委員会の役員勤めをしている。

 表の顔で役員をする傍ら、裏では私のような能力を授かった者たちのまとめ役をしている組織の人間だ。

 実際、私も初めは高原さんに連れられて魔法少女になった。


 でも、しばらく高原さんとは会っていなかった。

 このタイミングで会うとなると、もしや。


「もしかして……、任務、ですか?」

「はい。任務です……ですが……」


 どうにも歯切れが悪い。

 なにか事情があるのか。


「なにか問題でも?」

「ええ……。問題といえば問題ですが……。ここで隠しても仕方がありませんね」


 観念したように高原先生は一枚の写真を私の前に差し出す。

「これは……女の子ですか?」

 写真に写っていたのは、私と同じくらいの年の女の子。長い黒髪に真っ黒なジャージ、感情を一切感じさせない冷酷な表情。

 果たして、任務とは何なのだろうか。


「それで任務っていうのは……、この子を探すってことですか?」

 私が疑問を投げかけると、高原さんは少しばつの悪そうな顔をする。

「ええと……任務というのは、この人物の抹殺です」

「え?」


 一瞬、言われたことが理解できなかった。

 抹殺?こんな小さい子を?


「ええ。その反応はわかります。ほかの皆さんもそうでしたし」

 ほかの皆さん、ということはすでに何人かには声をかけているらしい。少女の抹殺のために。

 ことの異常性は嫌というほど伝わってくる。いったい何が起こっているのか。


「この少女の名前は、黒岸美波といいます」

「はぁ……」

 特別引っかかる名前でもない。苗字が珍しい、くらいだろうか。

「この子が、なにか……?」


 少し言いにくそうに、高原さんは続ける。

「金城さん、黒暗天という名前は聞いたことがありますか」

「黒暗天……」

 黒暗天という名は、聞いたことがある。というか、この界隈にいる者なら一度は聞いたことがある名前。最強の暗殺者と呼び声高い能力者。

 その強さ故に、今まで一度も任務で失敗したことがないんだとか。

 噂では、3年前くらいから頭角を現したらしい。私が能力者になったのが1年前だから、私よりはるかにキャリアがある能力者ということになる。

 圧倒的な格上だ。しかし、それがこんな少女だったとは。見た目は私と大して年齢も変わらないように見える。

 

「なんでこの子を殺さないといけないんですか」

「……そうですね、それを知るのはあなたの権利です。端的に言うと、黒暗天は我々の手には負えなくなった」


 高原さんの話によると、最初のころは指令に対して従順であった黒暗天は、次第にいうことを聞かなくなってきた。そして、いつしか気の向くままに人を殺す殺人鬼になってしまったと。

 一度警察が動く事件にまで発展したが、なおも逃走。

 結果として能力者たちを集めて対応せざるを得なくなった、と。


「正直、黒暗天は強いです。とんでもなく。命の危険すらあります。ですが金城さん、引き受けていただけないでしょうか……」

 申し訳なさそうに懇願する高原さんに、いろいろな思いが渦巻く。

 元々私が魔法少女になった理由。それは、みんなが仲良くなれる世界を作ること。

 悪のない世界を作ること。

 そう志した私が、この件を引き受けないわけにはいかない。


 「やります。やらせてください」


――


 きたるは決戦の日。

 黒岸と戦うために、精鋭約50名の能力者が集められた。

 作戦では、黒岸を組織の施設に呼び出し、能力者たちで袋叩きにするんだとか。正直そこまでするかとも思うが、そこまでしないと黒暗天は止められない、というのが本部の見解なのだろう。

 

「唯、あんたも来てたんだ」

「お、三佳。やっぱり三佳もいたんだね」

 私に声をかけてきたのは郡道三佳。私の小学生の時からの親友だ。

 同じタイミングで高原さんからスカウトされて能力者になった仲だ。

 昔から馬が合う相手で、私と同じく悪いことはほおっておけない性格をしていた。今回の件に加わってくるのにも納得だ。


「唯。あんたの杖、鈍ってないでしょうね」

「三佳こそ。ちゃんと戦えるんでしょう?」

「ふふふ」

「ふふっ」

 お互い軽口をたたきあって少し緊張をほぐす。能力者同士でもずっと張りつめてたら任務もまともにこなせない。三佳はこうした状況でも心を許して話せる唯一の仲だ。


「でも、今回の任務、どう思う」

 ふと、三佳の方から私に尋ねてくる。

「どうって?」

「いや、だった今回のターゲット明らかに私たちと同い年ぐらいじゃん。さすがにまずくない?いつものおっさんとかじゃないんだよ?」

「まぁ……そうね」

 私もそのことに対して思うことがないわけでもなかったが。

 

「でも、相手は世界最強の暗殺者だよ?」

「まぁね。それも、私たちではお目にかかれないくらいのね」

「それに、こんなに能力者がそろうのなんて見たことない」

「確かに。さすがに過剰な戦力なんじゃない?」


 私達能力者と呼ばれる者には、アマテラスから与えられた何らかの能力を持っている。

 たとえば私や三佳だったら魔法使いの杖を与えられている。これによって私達は魔法を使うことができる。

 魔法の中でも色は異なっていて、私の場合は黄色、三佳は青色、といった具合に。

 中でも特別強い能力者には武器の力とは別に特殊能力を持っているのだとか。

 おそらくこれから対峙する黒岸も、剣と何かもう一つ、特殊能力を持っているに違いない。

 

「まぁでも、唯は死なないでよね」

 私が黒岸の対策について真剣に考えていると、突然三佳が話しかけてきた。それはどこか遠いものを見るような眼をしていた……気がした。

「何。縁起でもないこと言ってんの」

「ふふっ、唯はいい子だから、きっと世界を変えられる。だから、こんなところで死んじゃだめだよ?」

「はいはい。わかってますよ」

 いつも三佳は任務の前にこう言う。確かに死ぬ可能性はあるが、能力者による任務の死亡率はだいたい0.1%らしい。ほぼ死ぬことはないが、三佳は心配性なのかいつも死なないでね、と私に伝えてくる。

 それに、私が世界を変えられる、とも。いい子だからって。どんな理由だよと思うけれど。

 

「こないのかな。黒暗天」

 三佳がつぶやく。確かに、規定の時間に来る、と言われていたが、まだ黒暗天が現れる気配はない。

「さすがにこの人数の前には堂々と出られないんじゃないかな。いくら最強でも、結局は人でしょ」


 ビー、ビー


 そんな話をしていると施設の方から、緊急用のサイレンが鳴りだす。

 『黒岸美波、通称黒暗天出現。部隊αは、直ちに出動せよ』


 「よし来た」

 「いくよ、三佳」


 私たちは部隊の後方に配置されていたため、すぐに黒暗天と対峙することはないだろう。


 そう思っていた。


 がしゃぁぁぁぁぁぁん!!!!!


 「きゃっ、何!?」

 アナウンスが終わった途端、部隊の前衛で大きな風が舞った。

 かと思うと、私の顔になにか粘性の高い液体が飛び散ったことを感じる。


「……………………うそでしょ……」

 

 そして後方の私達が目にしたものは。

 

 戦塵に舞う、数十名の首のない体だった。


 その戦塵の中央にいる少女は、明らかに高原さんに見せてもらった写真と一致する。

 これこそが、世界最強の暗殺者。


「………………………………」


 黒暗天。

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