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殺人鬼拾いました  作者: 独りんご
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第4話「殺人鬼を拾った件」

「私は美波。家がないからここに来た。職業は…………強いて言うなら殺人鬼」


 それ言っちゃだめって言ったよねー!!


 言っちゃダメといったことを美波は言ってしまった。強いて言うな。何も言うな。

 美波はいつもしゃべんないくせになんでこういう時に限って流暢なんだよ。

 よし、こいつの返事は信用しちゃいけないんだとわたしの頭にインプット。

「ええと……」

 お母さんはわたしを一瞥すると、にこ、と笑いかけて。


「メイ。ちょっとお話があります」

「…………はい」


 ――


 今、わたしと一緒に住んでいるのはお母さんのみ。お父さんは単身赴任で家にはいない。

 でも、こんなに空気が重いのはいつ以来だろうか。わたしが勝手に空気重く感じているだけかもしれないけれど。今すぐにでもお母さんから目を逸らしたくなる。もともと目を合わすの苦手なんだけどさぁ。

 ちなみに美波はカップ麺をずるずるすすってる。

 どうやって話を切り出そうと考えるが、先に話を切り出してきたのはお母さんの方だった。


「え、なにあの子。ちょっとヤバイ子?」

 ですよねー。そりゃそうなるよ。というか、美波の言い切りがはっきりしすぎてて逆に信じにくい気もする。

 本当のこと、というよりかは頭のいかれたやばい人みたいに見えてくる。

 なんだかこの時点でもう美波に着いて誤魔化すのは不可能になってきたと思う。一旦諦めモード入りまーす。


「ま、そんなことはどうでもいいんだけどさ」

「どうでもいいの!?」

 相変わらずマイペースな人だ。

 

「あの子、モデル!?めっちゃきれいじゃない!?背も高いしさ!!」

 ああ、そっちね。お母さんが興奮しているのは美波の容姿らしい。

 確かに美波、顔はいいからな。顔は。

 それにしてもそれまでの奇行を帳消しにするとはこれ如何に。わたしにとってもお母さんの思考は全く読めない。

「さ、さぁ……」

 とりあえずお母さんに話を合わせておくことにする。変に勘繰られても困るし……。


「あ!あれ?こすぷれいやー、とかいうやつ?」

「いや、違うと思う……」

 明らかに現代に追いついていない……。

 まぁ、わたしもどちらかと言うとそっち側なんですけどね。クラスにいると聞こえてくる会話が全然分からなかったりする。流行に後れてる系JKです。


「えっと……美波ちゃん、だっけ?」

 お母さんはずっとラーメンをすすっていた美波の方に向き直って話しかけた。

 ていうか美波、ずっとうるさい。お母さんと話している間ずっとずるずる聞こえてた。話が半分くらいしか入ってこなかったし。

「…………」

「私は水無月由卯子。よろしくね、みなみちゃん」

「……ん、よろしく。由卯子。」

 相変わらず美波は人をいきなり下の名前で呼ぶ。美波は一応お母さんにも会話はしてくれるようだ。


「美波ちゃん、お家ないの?」

「………………うん」

 お母さんはさっきの美波の発言を一応聞いていたようだ。でもこの話これ以上深堀されるとまずいんじゃ……?

「え、えっと……お母さん?その辺の話は……」

「あれ。ダメだった?」

「いや、だめというか都合が悪いというか……」

 あまり言葉が出てこない。というかこういうところで上手く口が出ないのがわたしなんだよ……!


「と、とりあえず、美波はそんな悪い子じゃないから!」

 わたしのこと殺したけど。今は不問にしたる!今は勢いで押す!!


「……ん?そうね」

 お母さんは一瞬わたしの言葉に驚いたかと思ったが、美波の方にすぐ向いてしまう。今はわたしよりも美波と話したい、って感じだ。


「美波ちゃん。今は家出中、って感じ?」

「…………あ、うん。そんな感じ」


 そういわれたお母さんは少し考えこむと、一度わたしの方をじっと見つめる。

 わたしを見ながらちょっとだけにっと笑うと、再び美波の方に向き直り、笑顔で話しかける。


「……じゃあさ、美波ちゃん、しばらく家に泊まってく?」

「ええっ!?」

 美波よりも先に声が出てしまったのはわたしだった。


「ちょ、ちょっと待ってお母さん!?」

「え、ダメ?メイ」

「いや、だめも何も……」

 わたしの困惑の声にお母さんはああ!と納得したような反応を返す。


「何かアピールポイントほしいよね!」

「いや、そんな就活的な話してないから!」

 美波とお母さん、二人の天然に挟まれてなんだかもうどっと疲れてきた。ここ抜けて一人で寝たい。


「…………私は」

 そんなお母さんとわたしの間に美波が声を上げる。


 

「……私は、メイを」



「メイを守れるよ」


「「………………」」

 わたしとお母さんは少しの間押し黙ってしまう。

 美波のきれいに透き通った声。わたし達二人の間に突き通る一本の槍のように。


「ふふふ。いいでしょう。美波ちゃんの滞在を許可します!!」

 お母さんは美波の発言に少し笑うと、美波を受け入れてしまった。あっさりと。

 ……まあ、わたしとしてもそこまで異論はないけれど。

 わたし置いてきぼりな感じだけど。まあいいか。


「あ、でも部屋はメイとおんなじ部屋でね」

「……ん」「え」

 ここで知らされる衝撃の事実。わたしのプライベートいずうぇあ。


 ――


 「はい、ここがわたしの部屋」

 早速美波をわたしの部屋に連れ出す。

 わたしの部屋は一人っ子というのもあって結構広めになっている。

 しかも趣味なんてほとんどないから部屋も殺風景。

 なんて面白みのない女なんだ……。と我ながら客観視して思う。

 あるのは綺麗(自分評)に並べられた教科書の類と、中学の時に一人で練習するときに使っていたバスケットボール。

 

 「……ふーん」

 美波はこの部屋には興味なしといった感じの反応。失礼なやつ。


 「美波、荷物はほかにないの?」

 「……ああ、一応…………」


 シュン。

 

 そういうと、美波は突然剣を握りだした。

 突然握るという表現は正しいのかわからないが、厳密にいえば無から剣が出現した。

 

 「え、それは、どういう仕組み……?」

 

「……これはアマテラスからもらった剣」

「アマテラスって神様の……?神様がいるってこと……?」

「いや、神様ではない」

「はぁ。どういうこと?」

「とにかく、私はアマテラスからこの剣をもらっていつでも取り出せる」

「はぁ…………」

 美波の言っていることは全くもって要領を得ない。

 だが、それは美波に一番持たせてはいけない特権なのでは……?とわたしは思った。

 なんで美波にこんな権利を与えたのかアマテラスさんには小一時間問い詰めたい。

 アマテラスさんが美波というシリアルキラーを生み出した元凶であるということはよく理解できた。


「この剣を置いておきたい」

「いや、置いたらお母さんにばれるでしょ」

 わたしに正論をかまされた美波は少し悩んだ末、何かを思いついたようだ。

「そこは…………うまくやってくれ」

「雑か、こっちへの指示‼」


 美波の天然に突っ込んでいるとツッコミが足りない。

 若干わたしも息切れしてきた。

 美波は剣を置くのをあきらめたのか、シュン、と剣を無に還すと、改めてこちらに向き直る。

 じっと、こっちを見る。すると心なしか、にっと、笑って。気のせいかもしれないけれど。

 

「……私、ちょっと常識ないとこあるから、迷惑かけることもあるかもしれないけど……」

 自覚あるんだ。常識ないってことは。

 というかすでにかなり迷惑被ってるんだけれども。と言いかけたがぐっと我慢する。

 美波の謝罪を茶化すのはなんだかよろしくない。

 美波は少しこちらの反応を伺うようにして言葉を続ける。


「……メイ、これからよろしく」

 

 いままで美波と触れ合ってきた時間を思い出す。

 

 そんな純粋な瞳で言われたら。こちらとしても素直に返すしかなくなる。

 

「………………うん、よろしく。美波」


 こうしてわたし達の共同生活が始まった。

 波乱に満ちた日常が始まる――

 

 ――


「美波ぃ!服脱ぎ捨てんなぁ‼」

 美波と住んで4日間。1つ美波についてわかったことがある。

 端的に言って美波は常識がない。

 とても。とてつもなく。一日過ごしただけでわかるくらいに。

 ちょっとって言ってたよね?


 まず美波は服を脱ぎ捨てる。

 脱ぐときだけ脱ぎ捨てるのならまだいいが、そのまま放置する。それだけならまだこちらが我慢できるが、美波はとんでもない馬鹿力で服ごと破き捨てようとする。

 そして服を踏みつけてそのまま進む。

 とんだ破壊神だ。力加減に慣れてないとかほざいていたが、勢いで脱ごうとするからいけないんだよ。脳みそ筋肉。


 そして食べ方が汚い。

 服や机に食べかすは飛ばすわ、とにかく力で無理やり食べようとする。

 美波に白い服を着させてはいけない。なぜなら何を食べようと美波は食べ物をまき散らすから。白を着させた時点で詰みだ。わたしはすでに一着やられた。


 美波は意外と本を嗜むようで、わたしやお母さんの持っている小説を空いた時間で結構読んでいたりする。

 それはいいのだが、読み終わると本を投げ飛ばす。

 そしてその本が見えていないのか散らかったままの本を踏み潰す。

 図書館の本まで踏み潰したときは流石のわたしも手が出たね。

 

 それに美波は力でドアを破壊しようとしたり……………………。


 おわかりいただけただろうか。殺人鬼と住む恐ろしさが。

 いくら顔がいいとはいえ、美波と住みたいという方がいらっしゃったらどうぞ。差し上げます。絶対にいないけど。


「美波さぁ……」

「…………ん、なに。メイ」

 わたしはすっかりげっそりした顔で、美波に話しかける。

 美波は特にわたしに興味なし、といった反応だ。

 この4日間でよーくわかった。

 こいつ、人と一緒に住んではいけない人間だ。話が通じない。人間の言葉が通じるだけの化け物だ。


 美波はいつも寝ている押し入れの中で本を読んでいる。できればそのまま出てこないで欲しい。

「…………用がないなら出て行って」

 不機嫌そうに早速反抗期の子供みたいなことを言い出す美波。いつもならそのままスルーだが

「美波、あなたの生活態度をですね……」

「…………またその話?もう聞き飽きた」

「…………………………」


 その言葉にわたしの血管は切れた。


「大体さぁ!?全部悪いのは美波だよねぇ‼食器片づけないのもドア壊すのも服脱ぎ裂き散らかすのもさぁ!!それにトイレ流せよ!?なんで貯めたままなんだよ、おまえはコレクションしてるのか!?貯金みたいな感覚でトイレしてるんですかぁ!?あと本!!お前の金で買ってるんじゃねぇんだよその本は‼あと図書館の本も一緒に……」

「うっさい」


 どしゅっ。


「う……え?」

 

 わたしの怒涛の罵倒に対し美波はうんざりといった様子で、剣を取り出していた。

 なんか体に違和感があるなぁ、と思い、全身を見渡す。

 すると、わたしの右手は、なかった。

 腕の手とつながっている部分から先がなく、ぴゅー、と血が噴き出していた。

「いやぁぁぁぁぁ!!!!」


 傷に気づいてからは早い。痛みが一斉に押し寄せてきた。

「おいクソ美波!!何してくれんだぁぁぁ!!」

 わたしが負け惜しみみたいな口調で美波を睨むと、美波はわたしのことをゴミを見るみたいな目で見降ろしてくる。

「くぅぅぅぅ、この腕、学校行くまで直るんだろうなぁ……!」

「しらん、くっつけとけ」

「くっそぉぉぉ!!」

 

 ただ、美波は少し反省したのか次の日から若干態度が良くなった気がする。

 ちなみに腕は絆創膏でぺたぺたくっつけたら何とか次の日の朝には直っていた。

 その日の夕飯は美波に食べさせてもらったりした。

 というかさせた。無理やり。


 ――――


「はぁ……。最近散々だ……」


 昨日のドタバタがあってから一日。

 いつもは学校に行くのが憂鬱だが、美波から逃れられると思うと一人の時間も悪くない気がしてくる。ただ完全に寝不足なので授業中寝るのは確定だな……。

 授業中に寝るなんて中学の時はなかったのに、高校に入ってから途端にやる気がなくなってきた気がする。


 でもいいもん!

 わたしは高原先生に会えるから!!

 マジで最近の癒しがあの先生に会うことがわたしの癒しになってる。髪の毛一本とか持って帰れないかな……。


 と、思いながら教室に向かう廊下。

 そこに天使の姿を見つけるわたし。

 いたー!やっぱりわたしついてる!!


「あ、高原先生」

 つい勢いで話しかけてしまった。いつもは勝手に話しかけることなんてないのに。


 すると高原先生もこちらに気づいたようで。

「あら、水無月さん、おはようございます」

 いつもの笑顔で返事をしてくれた。天使。

 

「ちょうどよかったです。水無月さん、ちょっと教室に来ていただけますか?」

「あ、ハイ」


 ――


「水無月さん、こちらにおかけになってください」

「ハイ……」


 何だろう。めちゃくちゃ緊張する。

 先生に呼び出されるってすごく緊張する。連れてこられたのは生徒相談室。ほかに人は見当たらない。わたしも初めて聞いた教室だ。見たことない教室にあまりない先生からの呼び出し。また慣れないことされてる……。

 多分何もやってないと思うんだけど……。


 向かいの椅子に腰かけた高原先生は、何やら神妙な面持ちで口を開く。


「水無月さん、最近変わったことはありませんか?」

 急な世間話かは分からないが、高原先生はそんなことを切り出してきた。

 心当たりああるのはあるが、先生に特別話すことでもない気がする。第一家庭の事情ですし。

「いえ、学校生活では特に……」


「では、学校の外では?おかしな事件に巻き込まれたりとか」

 やけに具体的な高原先生の指摘にドキッ、としてしまう。確かに巻き込まれはした。だが、これはあまり口外するとまずい事件だと思う。

 なんせ血が流れた事件だし。そういえばあの事件はあの後どうなったんだろう……。

「えっと……」


「ずいぶんと歯切れが悪いですね。水無月さん」

 わたしを詰めるよう刑事に高原先生は問いかけてくる。

 わたしの心臓は過去最高にバク、バクと脈打っている。もしかして、この先生は――


 高原先生は鋭い目を真っ直ぐにわたしを見つめる。

 氷みたいに冷たい眼光を。何もやってないはずなのについ何かしたかと自分に問いかけてしまう。高原先生はその目でわたしを見据えたまま冷静に、冷酷に口を開く。


「水無月さん」

 

「黒岸美波と、通じていますね?」

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