表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
殺人鬼拾いました  作者: 独りんご
27/32

第21話「リリとメイ」


 リビングで目を覚ます。いつもと違う天井での目覚めに一瞬戸惑うが、すぐに昨日のことを思い出し冷静に寝起きの自分に戻る。

 今日は月曜日。もちろん学校がある。

 眠い眼をこすりながらとりあえず自分の携帯に手を伸ばす。

 タップして画面をつけると、そこには昨日出会った白峰さんから連絡が来ていた。


『メイちゃん昨日はありがとう!!私メイちゃんともっと仲良くなりたい!もしよければ今週末お買い物でも行かない?』


 短くも相変わらずぐいぐい来ている連絡が届いていた。

 昨日会った人と週末に買い物の約束。わたしでは想像もつかないチャートだ。

 でもわたしも人恋しくなっているのは否定できない。それに、美波がいなければわたしは基本暇もいいところなので気持ちさえ乗れば断る理由はない。

 いきなり昨日会った人と二人きりで出かけることへのハードルの高さはあるけれど……。

 今日一日は悩みそうだ。

 

 美波のことも気がかり……なんかじゃない、と言ったらうそになるが、まだ仲直りをする気にはなれない。

 学校に来るかは分からないがわたしの知ったことではない。

 昨晩わたしの部屋からお母さんに出してもらっていた教科書をバッグに詰め、用意してあった朝ごはんにつく。

 すでに朝ご飯を食べていたお母さんは少し心配そうな顔でわたしの方を見る。


「おはよう、メイ……」

「おはよう、おかあさん」


「美波ちゃんはまだ起きないけど……」

「しらない。どうせ学校行かないでしょ。美波のことだし」


「もう、ほんとに、メイ……」

「もう行くから」


「ちゃんと美波ちゃんとお話、してあげてね」

「……はいはい」


 お母さんとそっけない会話をして、学校へ行く支度をする。

 あの空間にいたら否が応でも美波のことを考えざるを得なくなる。

 すこしでも美波のことを考えていたくない。

 

 美波を恋しいと思ったら負けとすら考えてしまう。


 ――


「うううぅああ……」


 いつもと違う朝を感じながら、重い瞼を開ける。

 いつも時計など見る気にならないのだが、今日はなぜだが無性に気になってしまう。

 まだいつも起きる時間でなければいいのに。そんなことを思いながら12時ちょうどを指す時計に少しの苛立ちを覚える。


 あのままのメイと会うくらいなら学校も行かなくていい。メイの荷物を部屋から運び出すとき、そう伝えるよう伝言を頼んだのは自分だった。


「……めんどくっさ」


 自分から何とかしなければ解決しない問題に直面していることを自覚しながら、私はまだ何もする気になれなかった。

 私は自分から何かをする質じゃない。現状を変えたいと思い気概すらない。

 だから現状を変えるアイディアも出てこなければ、何もやろうと思えない。それはメイも同じはずだけど。

 そもそもメイには散々してるんだし、今更怒られてもなぁ……。

 私は堅気は殺さない。でも、メイは……。

 んー、考えれば考えるほどめんどくさいな。

 そんなことを考えながらリビングへの階段を下りる。


「美波ちゃん……」

 階段を下りると、洗い物をしていたメイの母がこちらに気づき、不安そうな顔をしてこちらを見ている。

 

 ……なんか居心地が悪くなってきた。


 …………。



 

「……ちょっと、家出する」


「ええっ!?」


「……そのうち戻ってくる。安心して」


「美波ちゃん……?」


 …………


 ――


「このカヌレめっちゃおいしくない!?」

「え、うん!めっちゃおいしい……」


 週末日曜の昼間。

 ショッピングモールの中にあるカフェでカヌレを食す。

 同じテーブルにカヌレをと紅茶、そして目の前に白髪の美少女。

 白峰さんと会うのは2回目。

 2回目から二人きりで出かけるのもかなり緊張と葛藤があった。それでもほかに友達を誘われても気まずいし、美波は家出したらしく、今週はほとんど誰ともコミュニケーションをしない空虚な日々だった。美波と出会って一か月程。こんなに何も波乱がない一週間は久しぶりだった。それも相まって誰かと出かける刺激が欲しくなってしまった。幸い白峰さんがかなりこっちに合わせてくれるのでとても快適に過ごせている。

 わたし一人だとカフェってコーヒーとか飲むためにしか来たことがなかったけれど、こんなおしゃれスイーツのカフェにわたしがいくことになるとは。いつも行くモールにあるのは知っていても、入るまでの勇気はなかった。


「メイちゃんはさ、兄弟とかいるの?」

「え、兄弟…いないです、一人っ子です」

「えー、意外!しっかりしてるのに!下の子とかいそう!面倒見よさそう!」


 家にいるのはお母さんとぐーたら悪魔だけだ。

 また美波のことを思い出してしまう。もう、うざい。


「……」

「あれ、メイちゃんどうしたの?なにかあった?」

 少し顔に出てしまっていたらしい。

「あ、いやなんでも……」

「あ、もしかして家の人と喧嘩したんだ~?」


 図星。


「いや、喧嘩というか、向こうが悪いんだけど……」

「ふふ!メイちゃん、結構怒ると怖いタイプだ!」

「そんなことないですっ!」

「はは、冗談!私、メイちゃんと話したのは数回だけど、メイちゃんは悪くないと思うよ!」

「?」

リリちゃんは私の目を真っ直ぐ見て言う。

「だってメイちゃん、いい子だもん!何か話したいことあったら、私にも相談して?いつでも相談乗るから!私はメイちゃんの味方!」

「…………」


 不思議と、すっと心が軽くなる。

 味方。その言葉が何故か深く自分の心に刺さる。

 わたしに良くしてくれる人にはたくさんあってきたけれど、わたしの人として味方でいてくれる人。事情も知らないのに味方という言葉を使ってくれる人。それが今のわたしにはひどく温かい言葉に聞こえてしまう。

 

「ふふふ、私もため口だしメイちゃんも敬語じゃなくてもいいよ!敬語の方がいいならいいけど…」

「え、じゃあ……タメで……」

「いいの!やった!じゃあ私のことリリって呼んで!」

リリちゃんは無邪気にわたしに眩しい笑みを向ける。

「え、あ、リリちゃん……で……」

「うん!ありがと!大好き!」

「え、だ……」


 白峰さんもといリリちゃんは本当にぐいぐい来てくれる。

 唯みたいなサバサバしてるタイプとも、美波のように強引なタイプでもない。

 こちらに配慮しながら距離を詰めてくれる。

 わたしもとても居心地がいい。


「おいしかったねー!」

「おいしかった、ね!」


 カフェを後にすると日曜日のショッピングモールは相変わらず人でごった返している。

 わたしはここに来るのが小さいころからあまり好きではなかった。

 人の流れでめまいがしてくるし、おしゃれな店も多くては入れる店も限られてくるし。

 まさかこの1か月の間に2回も行くとは思っていなかった。

 いつもはちょっとしんどいお出かけでも、今日は不思議と心が軽い。


「前さ、ここでなんか事件あったらしいよね?」

「あ、なんか……きいたこと、あります……」

「あれ、また敬語?ふふ」


 前の事件。おそらく美波が謎の集団を滅多切りにした件のことだろう。わたしもつかまってたし。世間でどうこの件が処理されたのかは知らないが、高原先生がどうにか別の事件にすり替えてでもくれたのだろうか。


「これめっちゃ可愛くない?」

「あ、いいね……!」


 ショッピングモールにある出店にアクセサリーが売っていた。

 リリちゃんは銀色のイヤリングを手に取ってまじまじと見ている。

 髪やまつ毛の白色と銀のネックレスが神々しささえ醸し出している。


「メイちゃんってイヤリングとかつける?」

「いや、つけたことない……」

「うーん、似合うと思うけどなぁ……、まあ学校だとつけられないけどね」

 ふーん、といったような顔で、考え顔でネックレスとわたしの顔を交互に見ている。

 悩んでる顔も長いまつげに閉じかけた目がどこか妖艶ささえ出すほど美しい。

 すると、何か思いついたのか、すこしにやっと微笑みながらわたしの顔を再度向く。


「せっかくだしお揃いのやつ買っていく?そこまで高いやつじゃないし」

「え、うん……!」


 思っても見ない提案。こんな美人とお揃いのものが買えるなんて!月をまたいでお小遣いも復活しているのでアクセサリー1つほどなら買える。


「せっかくだしさ、つけてあげるよ」

「え、いいの?」

「もちろん!」


 そういってリリちゃんはわたしの耳元に買ったばかりのイヤリングをつけてくれる。金属の感触が少し冷たい。

「うん、やっぱり似合う!私もいい感じでしょ?」

 自分では見えないがこんな美人が言うなら間違いない。うん。間違いない。

 リリちゃんは自分でもなれたようにイヤリングを片耳に着け得意げな顔で耳を見せながらこちらに目線を向ける。

 少し子供っぽく歯を見せながら笑う姿もクールな印象からギャップが感じられる。


「うん、超いい感じ!」


 ――


「今日は楽しかった!買い物付き合ってくれてありがとう!」

「こちらこそ!楽しかったよ!」


 時間は夕方。

 あのあとも洋服を見たり、コスメを見たり、またカフェに行ったり。

 すっかり楽しい時間は過ぎてしまった。


「また、今度は家にでも来なよ!私結構料理もうまいんだよ~?」

「ええ、ほんと!行きたい!」

「ふふーん、任せなさい!」


「じゃあ、今日は楽しかったよ!」

「わたしも!ありがとう!」


 ――


 それからというものまた一週間。

 特に、何もない日々が続く。

 以前のように高原先生や唯に美波の状況を聞かれるわけでもなく。

 学内でなにかトラブルが畳みかけるということもなく。


 そんな現状が、わたしの価値を形づけているんじゃないかとさえ思える。

 確かに美波に合う以前のわたしはこんなもんだった。

 特に目立たず、友達も少なく。

 害もなく、なんでもなく。

 そんなものの、はず……、はずだ……。



「え、ばかなんじゃないの?」

「……へぇ!?」


 放課後、リリちゃんと二人で初めて会ったカフェで話しているところ、ふとわたしが悩みを打ち明けた時のこと。


「てか、一緒に買ったイヤリングつけてくれたんだー!」

 リリと一緒に買ったイヤリングをつけていることにリリは気づいてくれた。リリももちろんつけてくれている。

「あ、そう!ありがとう!リリもつけてくれてる!」


「ふふん、いいでしょ〜!ま、そんなことは置いといて。そもそも、そんなのでメイちゃんの価値は決まらないもん。美波ちゃん?だっけ?その子がいたからメイちゃんがいろんな人と仲良くなれたとしても、それはメイちゃんと、仲良くなったわけでしょ?ってことは、メイちゃんがすごいってこと!」

「でもさ、美波がいないわたしなんて、皆別に興味ないのかなって……」

「ふふふ、じゃあ確かめてみればいいよ……!本当にメイちゃんに興味がないか……!」


 リリちゃんは少しニヤリとして言う。


「じゃあさ、唯ちゃんに連絡してみてよ!」

「え、今?」

 急な提案に驚いてしまう。

「そう!今!」

「でも、何か用事があったりしたらさ……」

「うじうじしない!携帯貸して!」


 リリちゃんは若干強引にわたしの携帯をとって唯に連絡してしまう。

 ひー!陽キャの行動力こわ!!てか、わたしのアカウントで連絡してる!!


「あ、既読ついた」

「や、やめてよ……!!え、はや」

 確かに唯って既読つくのめっちゃ早い。

 

「お、来てくれるって!」

「……え?」



 しばらくして、カフェの扉が開く。


「ちょっと、メイ。急にどうしたの、って……、どちらの美人さん?」


 カフェに入るや否や、わたしの隣にいるひときわ美人の色白少女に目が映る。確かにわたしがこんな美人と一緒にいたらびっくりだろう。


「まぁいいか……。それよりどうしたの、メイ?」

「え、どうでもよくないでしょ!?」


 間違いなく気になるはずの美女からすぐ気を逸らし、わたしの方を改めて向く唯に驚く。

 絶対こっちより気にすることでしょ……!


「だって、あんたが呼んだんでしょ。私はあんたに用があってここにきてるんだけど」

「え、迷惑とかじゃないの……?」

 わたしが聞くと、唯はきょとんとした顔をする。

「え、なんで?だって私たち、友達じゃん」

「え……」

 友達。自分でしかいったことがない言葉かもしれない。人に言われた、友達と。


「あいつがいなくなって済々するし、改めて二人でどっか出かけたりしよっかー」

「う、うん……!いこう!」

「で、用事は何?」

「あ、いや用事は特に……」

 唯の提案に浮かれながらも、呼んだ理由の言い訳を全く考えていなかった。わたしが口をつぐむと、リリちゃんが入り込んでくる。


「ふふふ、メイちゃんはね、唯ちゃんに会いたかったから呼んだんだよ」

「はあ?どうゆうこと?そんであんた誰?」

 急に割り込んできた白髪美人に若干あたりが強い唯。


「あ、私は白峰リリ。メイちゃんのマブダチ」

「あっそ。私は金城唯。メイの親友」

 唯は対抗するようにリリちゃんに自己紹介する。 

 

「ふふふ、これは親友同士会えて光栄だよ。じゃあまたね」

「ほんとになんで呼んだの!?」

「あ、ありがとね、唯……」

「あんたまでなんなの!?」

 唯は驚きながらも、改めてわたしに向き直って言う。


「ま、いいわ。あんた最近元気ないなって思ってたし。元気ならよかった」

「え、そんなこと思ってたの……。ありがとう……」

 唯がわたしのことを気にかけてくれていたなんて思わなかった。素直にうれしい。

 

「てか、結局何のために呼び出したかはわかんないんだけど!もう呼ぶな!!」

 

 不服になりながらも、唯は帰っていった。勝手に呼んでしまって申し訳ない反面、自分の心に何か温かいものがあふれる。


「リリちゃん、ありがとね」

 帰っていく唯を目で追いながら、きっかけを作ってくれた唯ちゃんに感謝の言葉を伝える。

「ふふ、わかったでしょ?あなたの周りは敵じゃない」

 リリちゃんは、青い瞳とわたしの瞳を重ねて言う。


「だからさ、黒い気持ちなんて忘れちゃお?」


 優しい瞳で、わたしに手を差し伸べてくる。甘く、溶けてしまうように。

 

 

「私、メイのことが好き」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ