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殺人鬼拾いました  作者: 独りんご
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第2話「美波とメイ」

「…………」


 わたしは今、放心状態にある。

 かれこれ30分くらいだろうか、ずっと夕陽とにらめっこをしている。

 考えることを放棄したまたしの頭にカァ、カァというカラスの鳴き声が響く。


 思い出せ。

 わたしは何をしていたのか。

 確か男二人組にぼこぼこにされてたところに全身黒ずくめの少女登場。

 男もろともわたしもぶっころし。


 ……なんだこりゃ。

 そしてわたしは今生きている。

 視線を落とすと剣でぶった切られたはずの足も復活している。


 …………ゆめ。


 多分さっきまでの出来事は夢だったという結論しかない。

 もう夕方だし。

 足のある喜びをかみしめながら立ち上がる。

 うーん、と一度盛大に伸びをする。


 「……あ、そういえばここどこ」


 そう思ってスマホを起動すると、鬼のようにLINEが来ていた。

 親だけだけど。友達からのLINEなんて一切ないけど!

 これ後処理すんごいめんどくさい……。


 ――


 どうやら隣町まで来てしまっていたようで30分くらいかけてやっと我が家まで帰ってくる。

 電話でも怒られたが再度家でも怒られてしまった。

 自分が死んで生き返ったなんて話誰が信じるものか。

 漫画の世界でもあるまいし。漫画の世界でもあんまりない気がするし。


 外で寝てたという説明をしたら、病院に行こうと何度も勧められた。特に体調も悪くないので断ったが。

 しかし、結果として明日から学校に行く羽目になってしまった……。

 嘘でも病院行くべきだったかも。はぁぁ。


 ――


 翌日。


 体調は本当に何ともない。自分でも怖いくらいだ。

 でも昨日ほぼ無断で欠席してしまったので少し気まずいなー。

 なんて思いながらいつもの通学路を歩く。


 いつもの通学路を。


 碁盤の目みたいなカクカクした住宅街を抜けてコンビニを通り過ぎる。

 そういえば、昨日の事件もこのコンビニが発端だったことを思い出す。

 ちらり、とコンビニの方に恐る恐る目を向ける。怖いもの見たさってやつだ。

 そこには、昨日会った黒い少女の姿は見えず、数台の自転車がガサツに置かれているだけだった。

 残念なのか安心したのか自分でも分からないが、ひとまず胸を撫で下ろす。


 きっと昨日のは夢だ。

 やっと自分の気持ちに踏ん切りをつけて、学校へ歩き出そうと前を向いたその時。


「……あ」


 出会ってしまった。

 間違いない。

 この雰囲気と真っ黒な服装。

 忘れもしない、昨日の黒少女だ。


「…………ぁ」


 その事実がわたしに恐怖として全身に襲ってくる。

 金縛りにあったみたいに体も動かなければ、言葉を発そうとしても出てこない。

 昨日の光景を鮮明に覚えているわたしはこの少女が紛れもない“殺人鬼”であると、理解してしまっている。

 逃げることも出来ない今の状況で、ついに少女が言葉を発した。


「……道でも聞きたいの?」


 …………


「いや覚えてないんかい!!!!」


 多分わたしの人生で一世一代の大ツッコミ。


「今までのシリアスな展開はどこに行ったの!?」

「……しりあす?」


 この子は天然なのか?

 昨日殺した人間の顔も覚えていないなんて……。


「……もしかして、前にどこかであった?」


 なおも疑問符の尽きない少女にわたしも呆れ果ててしまう。


「いや、昨日、わたし、ぶっ殺されたんだよ!あんたに!!」

 さっきまでの恐怖などもう忘れてしまったようにわたしは少女にツッコミをいれる。

 人間、ここまでのことがあると、もうどうにでもなれという精神になってくるらしい。

 わたしの怒りのツッコミを喰らった少女は、昨日のことを思い出すように静止して考え事をしている。


「……あ」

 なにかを思い出したかのように少女は声を発した。


「なんでおまえが生きてるの?」

「こっちが聞きたいわ!!!!」


 結局会話は平行線だった。


 ――――


「はい、これ」

「ありがとう」

 とりあえず話を聞くためにわたし達はコンビニ前の駐車場に腰を下ろす。

 今渡したのは黒少女に頼まれたメロンパンだ。

 

 冷静に相手の顔を見ると、目元までぼさぼさに伸びた黒髪に、きりっとした目元。

 学校にいたら女子にもてちゃいそうなタイプのイケメン系女子、といった感じの顔立ち。

 それに身長も高く、推定160㎝以上はありそうだった。昨日と全く同じジャージを相も変わらず来ている。汚れもかなりついてるし、まぁどうせ洗ったりしてないんだろうなぁ……。

 

 そんなことはともかく、なぜわたしは自分を殺した相手に奢ってやっているのだ。

「……ははっ、はぁ」

 なんともおかしな状況につい笑ってしまう。自分に対する嘲りのようなものだが。


「あなた、名前は?わたしはメイ。水無月メイ」

 メロンパンを貪る少女に問いかける。

「……みなみ」

 遠慮がちに少女は答える。

 名前しか名乗らないって幼稚園以来かも。

 でも初対面で名前呼びはしんどいぼっちメンタリティ。

「苗字は?」

「……ただのみなみ」

 これ以上は答えてくれなそうだ。

「東西南北の南?」

「……いや、美しい波」

 それ以上へ答えないといったように美波は半分くらい食べていたメロンパンに再びかじりつく。

 名前についてはあまり答えたくはなさそうだ。

 自分の名前が嫌いってどんな境遇だろう。名前で虐められたとか?

 でも普通の名前だと思うけどなぁ。


 まぁこの話には触れない方が吉か。

 なんせわたし殺されてるし。怖いし。

 またぶっ殺されちゃたまんない。

 多分人生でこんなことを言うのはわたしだけだと思うけれど。


「「…………」」


 二人の間に沈黙が続く。

 そういえば、と気になったことを美波に聞いてみる。

「美波って家がないの?」

「……ない」

 自分からは話さないが、一応聞いたことには答えてくれるようだ。

「どうやって生活してるの?」

「……カツアゲ」

 おい。推定女子高生から出ちゃいけないワードが出たぞ。

「お金取れなかったら?」

「……聞きたい?」

 心なしか美波は口の端をゆがめた微笑でわたしに聞き返してくる。

「…………いや、いいです」

「……まぁ堅気からはとる気はないよ。あくまでとってよさそうな奴だけだから」

 クズだ。

 やってる事がアウトすぎる。

 お金取れなきゃぶっころしって。ヤクザでも今どきそんな事しないでしょ。知らんけど。

 堅気なんて言葉正常な女子高生が使う言葉じゃないって。

 そもそもなんでこの子は捕まってないんだ……?


「……はぁ」

「?どうしたの」

「……私、こんなに人と話したの初めてかも」

「え」

 だからさっきから会話がワンテンポ遅いのか。美波と会話していると反応が一瞬遅れて返ってくる気がしていた。

「……だからストレスもたまる」

「えぇ……」

 美波はまた悪戯にニヤッと口の端を緩める。


 ……でも。

 いままで誰も心を許せない相手がいないままこの子は過ごしてきたのか。

 今のそっけない態度もすべて、接し方がわからないだけだとしたら。

 もしかしたら。わたしは――。


「きゃあああああ!ひったくりよぉぉぉ!!」


 わたしと美波の空間を引き裂くかのように、大きな叫び声が向かいの道路から聞こえた。

 わたし達のいるコンビニの向かい側の道路に、叫ぶお婆さんとバイクに乗って逃げる男の姿が見える。

 明らかにひったくりの現場だ。とりあえず何かしら行動を起こさないといけない、と隣の美波を見る。だが。


「あれ、もういない……」


 そこに美波の姿はなかった。

 今のこの状況。美波はひったくりを追いに行ったのか。

 でも、だとすると……。


「まずい!!!」


 さっき美波が行っていたことを思い出す。

 あの殺人鬼は絶対やる気だ……!

 大義名分さえあれば!!


「今の強盗どっち行きましたか!」

「え、えぇと……、あっちの角を右に……」

「ありがとうございます!」

 戸惑うお婆さんの答えを聞くや否や、わたしは駆けだす。

 わたしは流石に人殺しを放っておけるほど落ちぶれちゃいない……はずだ!


 お婆さんに聞いた通りコンビニ前の道路を駆け出し、突き当りの角を右に曲がる。

 だが、すでにひったくり犯の姿はない。

 追おうにもどこに行ったのかの手がかりさえもない。

 というか美波はなんなんだ。走り出す姿も見えなかったし、音すら聞こえなかった。

 まさかバイクに追いつける速さなんて、人間にはないはず。……ないよね?

 

 ひとまず美波を追うためにバイクの音がする方へ走っていく。

 中学は運動部だったから体力には多少自信がある。

 ……万年補欠だったけど。

 何のために使うかわからないアホみたいな長距離走ならやらされてきた!

 今、それを使うとき!!


――がしゃぁん!!!!


 住宅街を抜けた路地の先、隣町との境にある大通りの方で大きな物音が聞こえた。

 何か騒動が起こった音、間違いなくあっちだ!


――


 大通りに出ると、前輪が真っ二つになったバイクにまたがる男と美波の姿が見えた。

 少し離れた場所でも聞こえるくらいの音だ。周りに何人か通行人も集まってきている。

 よく見るとわたしと同じ学校の制服を着た人も何人か見える。

 だが、そんなことにかまっている暇はない。

 人が集まりきってしまう前に人を避けて美波の元に駆け寄る。

「美波……!」


 美波に話しかけるが、一切こちらの方を向かない。ゴミを見るような目をひったくり犯に向けている。なんと声をかければいいかも分からないままに、周りに人が集まってくる。

 中にはスマホを向けてくる人もいる。まずい。このままではわたしと美波がTi〇Tockデビューしちゃう……!


 周りの人たちに目を向けていると、なんだかこちらを見てざわざわとしだした。

 何が起こったと思って美波の方に視線を戻す。


「畜生、こんなガキに……!」

 見ると、ひったくり犯は美波の方を恨めしそうに見ながら、持っていたカバンからナイフを取り出していた。

 だが、美波は尚も怯まず、冷ややかな視線をひったくり犯に向け続ける。まるでそれがどうした、と言っているように。


「……はぁ」

 美波は一つ、大きめのため息をついた後、

「……もういい」

 そう吐き捨てると、どこからか一本の剣を取り出した。

 背後からざわ、と声が一段階盛り上がったのを感じる。


 美波の取り出した剣は真っ黒で、形状はいわゆる西洋の剣、というやつか。よくファンタジーで見るような左右にとがった鍔から両刃の刀身が伸びている。長さは大体100㎝くらいで、ナイフとは比にならないリーチだ。

 美波の手に持たれた剣は少し腕を伸ばせばひったくり犯の喉元にかかりそうな程の長さだ。

 この状況を見れば誰でも分かる、この場での勝者は間違いなく美波だ。明らかにリーチが違う。ひったくり犯が少しでも動こうものなら美波が剣を振るって美波の勝ちだ。

 これで終わるかと、誰もが思った瞬間。


「くっそぉぉぉぉぉ!!」


 敗北を悟ったのか、そのひったくり犯は持っていたナイフを――


 あろうことかわたしに向けてきた!?


「ちょいちょいちょい!!!わたしぃ!?」


 驚きで逃げることすらままならない。

 周りのスマホの全てがわたしに集まってきたとき――

 

 どしゅっ。


 ひったくりのナイフはわたしの喉前で止まった。


 ぼとっ。


 代わりにひったくり犯の片腕が地に落ちる。

 その犯人はもちろん、この女だ。


「美波……」

 わたしは公衆の面前で人の腕をぶった切った少女に感謝と畏怖の念をもって呼びかける。

 するとやっと美波はこちらを向く。

 

「……帰る」

「へ?」

 だがその少女の顔は先ほどの冷笑的な表情とは違った嫌悪感に溢れた顔だった。


「……ひ、ひとが多すぎる……ぉぇ」

 美波は人に充てられるのが苦手なのか、今にも吐きそうな顔をしている。

 今すぐ何とかしなきゃ。コンビニ袋とかあるかな……?

 

「誰かからの袋とかありませんかー?」

「……吐く前提で話、進めないでくれるかな……」

 後ろからおぞましく低いうなり声が聞こえる。

「……帰ろ」

「うぇ?」

 そう言うと美波はわたしをお姫様抱っこしながら――


 ばさっ。


「おぉぉぉ、とんだぁぁぁぁ!」


 並外れた運動神経でその場から飛び去った。

 感覚はジェットコースターに乗ってるみたいで、顔どころか全身で風を切るのが気持ちいい。

 後ろを見ると、さっきまでの人だかりはもう見えない。

 わたしもいろいろと張りつめていたから、もうこのままどこかへ行ってしまいたい。なんて思ってしまった。


――


――――


「……んん?」


 ぱちっと目を覚ました。

 どうやらあのまま寝てしまっていたらしい。

 というか体が痛い。どうやらさっきのコンビニの駐車場で寝ていたらしい。わたしもよくそんなところで眠れるなぁ……。

 

 なんて思いながらスマホを確認する。時刻は昼の12時ちょうど。

 これは欠席とはいかずとも遅刻確定だぁ……。

 昨日も休んだし、さすがに二日連続休める貯金はまだないか、と思いながら学校へ行こうと体に鞭打って無理矢理起こす。すると。


「……あ、起きたの」

「…………美波」


 美波がコンビニの袋を手にぶら下げながら、コンビニから出てきた。

 服はさっきと変わらず黒髪全身黒ジャージ。

 白いコンビニ袋がその異質さを際立たせている。

 最初はやばい奴だと思ったけれど、もしかして実はいいやつなんじゃないか。

 現に2回も私を助けてくれた。そのお礼はちゃんと言わないと。


「美波、さっきはありがとうね」

「……いや、うん。別に……」


 美波はお礼を言われ慣れていないのか、少し照れたようにそっぽを向いてしまった。

 そんなところも少しかわいいやつ、なんて思ってしまう。

 

「じゃ、わたし学校行くから!また来るねー!」


 美波からの返答はない。

 だが、なんだかすがすがしい気分。

 わたしだけの秘密ができたみたいで。わたしだけの、わたしにしかできないことが見つかったみたいで。

 ちょっと大げさかもしれないけれど。

 気分がいいからちょっと自販機でお茶でも買おうかと思って、財布を取り出す。

 やっぱりコーラとかにしちゃおっかなー。でもちょっと走っていくから炭酸はまずいかな~、なんて考えていると。


「……あれ」


「あれあれあれ?お金がない!!」


 確か朝には財布に1000円くらいは入っていたはずなのに。

 原因を思い出す。



――「……まぁ堅気からはとる気はないよ。あくまでとってよさそうな奴だけだから」


 それに、美波は最後、コンビニ袋を持っていた。一文無しのはずなのに。

 美波の言葉を思い出す。やっぱりあいつクズだ!!


「金、かえせぇぇぇぇ!!」


 わたしはダッシュでさっきのコンビニへ戻るのだった。

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