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殺人鬼拾いました  作者: 独りんご
14/25

第12話「道場破り美波」

 学校という共同の場でアホが活躍できる場面とは何か。

 今わたしの隣にいる少女、黒岸美波は生粋のアホである。どのくらいアホかというと登校初日から5人ほどを病院送りにしてしまうくらいにはアホ。

 アホアホ言ってるとわたしもアホになってくる気がする。

 まぁ、こんなにアホばっかり言って何が言いたいかというと、5人を病院送りにしたとあって美波の運動神経はかなり高い。なんせ今のところすべての戦いをノーダメージで切り抜けているからだ。唯と戦った時でさえあの後美波の体を見ても傷一つなかった。丈夫なんてもんじゃない。

 バイクに足一つで追いついてみせたり、電柱に飛び乗って攻撃をかわしたり、銃より早く剣をふるったり。などなど……。

 あれ、これ運動神経とかの話じゃない?人間の話してる?してないな、うん。


 つまり、運動だけできるアホが輝く場面。それはまさに今みたいな体力測定の場だ。

 美波はただいまぶっちぎりのタイムで長距離走を走り終えたところだ。

 周りのクラス名とはだいぶざわついてる。そりゃそうだ。マジで下手したら世界記録とか出ちゃうんじゃないの。

「黒岸さん、1000m1分半!?」

 美波のタイムでクラスメイト達がざわざわざわ。


「ねぇねぇ、能力者たちってみんなあんなに身体能力が高いもんなの?」

 唯一美波で盛り上がる面々にいなかった唯に聞いてみる。

「いや、私魔法使いだし。肉体強度は専門外ね。あ、でも自分の魔法で身体能力を上げることはできるわよ。何ならメイのも」

 そんな便利なことができるのか。じゃあやれば、と言おうとしたところに唯が口をはさむ。

「わざわざそんなくだらないことに使わないわよ。魔力に限りもあるし。何より私、なくてもできるから」

 そう自慢げに言う唯は、確かに美波程とは言わなくてもクラスで2,3番手にはいくくらいの運動神経の良さだ。なんかわたしの周りスペック高くない?自己肯定感下がるわぁ……。


 教室に戻っても美波フィーバーは続いていた。

 「ねぇ黒岸さん、うちの部活入らない?」

 「いや、うちの部活に!」

 「黒岸さんならレギュラー確定だよ!」

「……あ、いや…………」


 大層人気なこって。

 美波は同級生にとどまらずうわさが広まってきた上級生達にまで部活の勧誘されている。

 そりゃあもしかしたら世界記録超えちゃってるかもしれないやつなんてチームに一人でもいたら爆アド間違いなしだしね。

 とはいえ美波が集団に入ってチームワークが取れるとも思えないが。

 なんか面白そうなのでちょっと静観してみることにする。

 

 「黒岸さんってなんかスポーツとかやってたの?」

「……いや、私は別に……」

 「え!?やったことなくてそんなすごいの⁉もうオリンピック狙えるよ!!」

 「それはいいすぎー。でも、全国とかならいけるって!一緒にやろうよ、黒岸さん!!」


 美波がはっきり答えないのでなんだか話が飛躍しまくってる気がする。

 美波が世界デビューなんてしたらそれこそ大変なことになってしまう。負けたら暴動事件とか起こさないかな。……ノーとは言えない……。

 まぁ、ぼちぼち助けてやりますか、と思って美波の元へ向かう。でもどうやって助けよう。まあ為せば成ると誰かも言っていた気がするし。


 すると。


「ちょっと。黒岸さん嫌がってるでしょ」


 わたしが割って入る前に皆の動きを止める声が入ってきた。

「金城さん!でもぉ……」

「はいはい、本人が興味ないって言ってるんだから深追いはなしよ~」

 止めに入ったのは唯だった。正直、一番意外な人が来た。てっきり唯は美波のことが嫌いなものだと思ってた。

 唯に言われて勧誘をしていた人たちも退き始める。

 ならいいか、とわたしはそのまま座る。わたしのやったこと、立って座っただけ。役立たずですみません。

 その後じっと見ていると会話が聞こえてきた。


「……ありがとう、金城」

「……っ」

「……?きんじょ?」

「……は、別にあんたのためじゃないんだからね。あんたが、ちやほやされてんのがうざかっただけだから!!勘違いしないでよねっ!!」

「……ん」

「ふんっ!」


 そういうと唯はプリプリ怒りながら席に戻っていった。

 意外とこの二人が仲良くなる日もそう遠くない気がした。

 ちょっとニヤニヤを自覚しながら戻ってくる唯のことをまじまじ見ていると、それに気が付いた唯はまたちょっと顔を赤くする。

「なによ」

「いやぁ?なんでも……」

「いっとくけど、私は黒岸のことはほんっと嫌いだからね!!」

「はいはい……」

 嫌いな相手ならかかわろうともしないと思うが。まぁ、これ以上言ってしまうのは野暮だろう。

 あと一押しすれば仲直りしてくれるかなぁ……。いや、この場合ほぼ0から作るから仲作り?

 

 

――


 

「美波、ほんとに何も入んなくていいの?めっちゃ部活の勧誘来てたじゃん」

「……いや、私そういうのほんと無理だから」

 めちゃめちゃ嫌そうな顔をして拒否られた。美波は続けて、「……いや、私集団とか本当に無理だから」とか付け足してくる。知ってる。

 今は授業終わりの放課後。

 美波からわたしの席に来ることはめったにないし、わたし側から行くのも億劫なので授業のある時間は交流することはほぼない。流石に帰りは一緒になるわけだが。

 今日も今日とて帰るか、と思っていた矢先。


「あのー---!!黒岸さー-----ん!!」

 わたし達に、というより美波を呼ぶ声がする。

 振り返ると、柔道着を着た女の子がそこにはいた。長い距離走ってきたのか、息切れしている。

 よく見ると、見覚えのある顔。同じクラスの花守さんだ。

 部活は……入っているかはわからないが、服装から察するに柔道部。うちは柔道部が結構強いらしく女子と男子それぞれ柔道部が存在している。

 花守さんはショートカットのボーイッシュな感じのいかにもスポーティ感あふれる感じの子だ。

 当然わたしとの接点もない。

 だが、花守さんは何やら美波に緊急の用事がある様子。

「黒岸さん、ちょっと緊急事態なんす!話聞いてくれないっすか!!」

「……え、やだ」

 そう言って美波はすぐさま帰ろうとする。

 

「ちょ、ちょっと待ってくださいっすよ!!」

 そんな花守さんの制止に耳を傾けることもなく美波はずけずけ帰っていく。

 さすがになんだか花守さんがかわいそう……な気がしてくる。

 いつもの手、使っちゃうか。

「そうだよ美波。それに話聞いてくれたら花守さんがメロンパン買ってくれるって」

 そう言ってわたしは花守さんに目配せをする。

 わたしの意図を察してくれたのか花守さんもはっとしてわたしの話題に乗っかってくる。

「もちろんっす!奢らせていただくっすよ!!」

「……ん、じゃ聞く」

 相変わらず反応が早い。美波はメロンパンのこととなるとすぐ話を聞いてくれる。

「あたし、柔道部なんすけど、ここ何年か女子の柔道部が弱くなってて……。男子は全国大会に何度も行ってるのに、女子は鳴かず飛ばずで……」

 話し始める花守さんはいきなりちょっと暗めのトーンになってしまう。柔道部が強い、くらいの話はわたしも聞いたことがあるが、女子が弱いという話は聞いたことがなかった。

「それで今柔道場が男子に奪われちゃってるんすよ……」

「だったら先生に言っちゃえばどうですか?さすがにそれは流されないんじゃ……」

 わたしの指摘に対してもどこか釈然としない花守さん。

「それはそうなんすけど……。でも、男子柔道部のやつ、うちらに勝ったら柔道室を貸してやるって言ってて……。今のところ全く勝ててないんすけど、このまま負けっぱなしも悔しくって……」

 下唇を噛んで悔しそうに震える花守さん。ここはわたしもどうにかしてあげたいと思うけど……。

 女子が男子に力で勝てるとは思えない。あまりに無理な要求だ。


 美波の方を見ると、美波は窓の方を見つめながらポケーっとしていた。完全に興味なしといった様子。キミ、さっき話聞くとは言ってたよね?

 窓の外では深まってきた夕暮れにカラスの鳴き声が哀愁を重ねている。

 完全に興味無しって感じか。花守さんを助けてあげたいという気持ちは持ちはある。だけど頼みの綱の美波がこの様子じゃ……。

 それを察したのか花守さんも悔しそうに美波の方を見る。


「でも……、あいつ、うちの部員を6人も病院送りにしてるんすよ‼自分は、許せないっす……」

「……!6人……?」

 悲痛な花守さんの叫びに美波は少し反応を見せた。

「……待って。それ、やるよ」

「え!?本当っすか!?」

「……うん。まかせろ」

 美波は突然花守さんの申し入れにやる気になった。本当にどうしたんだ。


「ちょ、ちょっと待って美波。本当に大丈夫なの?」

「……だって考えてもみな?メイ」

 花守さんから少し離れたところに美波を連れてくると、美波の意図を尋ねる。

 さっきの態度は明らかに興味なし、という態度だったのに。


「……さっきの柔道部、6人病院送りにしてるって」

「それがどうかしたの?」

 美波はさっき花守さんに言われたことをそのまま繰り替えす。

「それは確かにひどいけど……」


「……私が負けてる」

「はい?」

 美波はまじでよくわからないことを言い始める。


「……私が昨日病院送りにしたのは?」

「え?……5人だっけ?」

 そういえば昨日美波は朝のホームルームのあと散々高原先生に怒られていた。ついでにわたしも帰ってから怒っておいた。というか全然響いてないな、これ。


「そう。負けてる。6人に」

「それで勝負する気になったの?」

「うん。私が奴を6人目にする……」

 急に物騒なことを言い出す美波。明らかに目に火が宿っている。


「ちょ、ちょっと待って!?それはダメでしょ!!それは趣旨が違うって!!余計な騒ぎまた起こす気!?」

「それは仕方ないこと……。私は学校一のバーサーカーになる」

「なるなそんなもん!!待った、美波。わたし入れていいから。わたしも入れれば美波も6人だよ?」

「……それじゃあ一緒じゃん。勝たないと」

 何だこのよくわからん負けず嫌い……!!

 少なくともわたしでは止められない。ただここには助っ人唯もいない……!

 

 こちらで少し話し込んでいると、しびれを切らしたのか花守さんがこちらに呼び開けてきた。

「ほ、本当にいいんすか!?黒岸さん!!」

「……もちろん」

 ダメだ!!止まんない!!

「柔道室はこっちっす!!お願いしますね黒岸さん!!」

 そう言って花守さんは美波を連れて走って柔道室へと向かってしまった。


 ねぇ……、これ、わたしも追わないとダメかなぁ……?


――


 美波達に遅れて一応柔道場までやってくると、なにやら盛り上がっている声が聞こえる。

 見ると、何やら入口までざわざわと柔道部員が集まっている。

「あ、すいません、すいません……」とか言いながら人の波をかき分けて中まで入ると、そこには美波と対峙する大柄な柔道部員がいた。

 いや、大柄なんてもんじゃない。なんか、巨大。軽く見積もっても2メートルくらいはある。顔はまるで鬼、みたいないかつい顔つきをしている。その図体と迫力で後ろからオーラが出てるみたいに見える。

 6人送りもちょっと納得。いや、納得してる場合じゃない。まじでなんか変な色のオーラでてない!?

 軽く両手をひろげるだけで美波がすっぽり収まってしまいそうだ。


「来たっすね。水無月さん」

「花守さん……」

 柔道場の中央まで何とかたどり着いたわたしに話しかけてきたのは何やら自信ありげな顔の花守さんだ。

「黒岸さんはすごいっすよ。これなら勝てちゃうかもしれないっす!」

「え、こんな化け物相手に?てか相手、人?」

「黒岸さんがただの化け物じゃないってことは、水無月さんも、分かってるっすよね」

「ああ……そっすね」

 なんかわたしもうやる気なくなってきた。なんか相手頭おかしいし。もう好きにやってくれ。

 ただ相手はもはや人間なのか?と疑うレベル。体格が本当に化け物じみてるからだ。

 

「あれは男子柔道部の部長っす。全国大会のエースで、ホント化け物みたいな強さなんすよ。通称“オーガ”!!」

「美波はどうすれば勝ちなの?」オーガには一切触れず話を進める。

「一本取れば勝ちっす。美波ちゃんにはとりあえず相手を投げ飛ばせば勝ちって言ってあるっす!」

「そんなガバガバな説明で大丈夫かな……」

 とりあえず不安要素しかないことは分かった。ただ美波は馬鹿力なので投げ飛ばすことは問題なさそうだが。

 あ、あと急に美波とそんなに親しくなったんだ。流石陽キャのコミュ力。


「試合、はじめっ」


 そんなこんなと話していると試合が始まったようだ。


「「………………」」


 美波とオーガはまず睨みあいを続ける。じり、じりと距離を詰め、お互いまだ膠着状態。

 柔道場の中でも緊張が走っている。

 

 ばっ。


 膠着を破り、先に仕掛けたのは美波だった。

 オーガの襟をめがけてつかみかかろうとする。


「……待っていたぞ」


 だが、それを見越していたのか、オーガは美波の腕をするっと躱す。

 こいつ、図体の割に動ける!!

「ふんっっ!!!」

 そして、そのまま空を掴んだ美波の右手を掴もうと……。


 ばしゅっっ!!


 美波のことを少し甘く見ていたのか若干ゆっくりに発せられたその油断を逃さず、美波は畳の地面を蹴り上げ宙で体を捻りながら攻撃をかわす。まるでアイススケートのトリプルアクセルのようだ。

 え、なんか曲芸やってんの?

 柔道、と言うより新体操の動き。会場もわあっと歓声が上がる。

「え、これいいの?」

「何言ってんすか、これがフリースタイル柔道ですよ!!」

「いや待ってなにそれ」なんかよくわからない造語バトルが始まっていたらしい。


「……流石だな」

「ふっ」

 何やらオーガと美波が意気投合している。いいんだ。あれで。


「ふんっ!!」

 オーガが一気に掴みかかる。美波は想像以上の速さに右手を取られてしまう。

 そしてそのまま――


「背負い投げだぁ――!!!!」

 会場が盛り上がる。


 そしてその盛り上がりのまま、美波の背中がたたきつけられ――


 がぁぁぁぁぁぁん!!!!


 その瞬間、ものすごい音が鳴った。ただ背中が床とぶつかっただけの音じゃない。


「あれ……」


 美波が投げ飛ばされたと思われた場所。そこを見ると美波は確かに投げられていた。


 だが、背中はついていない。床についているのは左手一本のみ。投げられた状態のまま、美波はしゃちほこみたいに反り上げながら腕一本で立っている。


「「「「うわぁぁぁぁぁ!!」」」」


 またもや盛り上がる会場。


 美波は投げられた衝撃、自分の体重全てを左手一本で受け止めた。左手が床にめり込んでいる。

 そのまま美波は何事もなかったかのように足から着地した。まだまだ涼しい顔をしている。

「なんと……」さすがのオーガもこれには驚きを隠せないようだ。


「……じゃ、こっちの番」

 そういうと美波はさっきのオーガ以上の速さで胸ぐらをつかんだ。まるで瞬間移動のような速さで懐まで潜り込む。そして掴んだ右手だけでそのまま、

「……んっ」


 ぶんっっっ。


 片手でぶん投げた。2メートル以上の巨漢を。

 まるで野球のピッチャーのように。


「うおぉぉぉぉぉぉ!!!!」


 そんな雄たけびとともにオーガは柔道場の奥まで吹っ飛んでいった。

 さらにそのまま壁をぶっ壊して外まで。


 どがぁぁぁぁぁぁぁん!!!!


 ものすごい音とともにオーガは外まで吹っ飛ばされた。壁がトムとジェリーみたいに体の形で空いてる。


「「「「うおぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」」」」


 そして会場が再び大きな歓声に包まれる。私が気付かない間に観戦していた人たちも増えていたみたいだ。

 そしてみんなで美波の元まで駆け寄り胴上げなんかを始めた。

 美波は無表情で胴上げされてる。なんかシュール。


「美波ちゃん、美波ちゃん凄いでずよぉぉぉ」

 隣にいる花守さんもモーレツに感動している。あ、美波の胴上げに参加しに行った。


「……………………」


 ちょっと待って。終始なんだったのこれ?


 てかこれ、損害賠償とかどうするの?あとでお説教だなこれ……。バカ美波。

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