第10話「やばい新入生」
友達とは何なのだろうか。
達って入ってるから複数人いないと成り立たないのか。それとも自分と相手セットで友達というとても尊い考えなのか。この審議は人類永遠の課題である。
でもわたしは後者の方が平和だから好きかな。わたしとあなた、二人でお友達。
そも、友達の作り方とは何なのか。マニュアルがないからこの問いも不問となるのは目に見えているが。
よくあるのは新学期に隣の席の人と仲良くなっても部活とかでグループができてしまうとその人とは疎遠になってしまうというケース。
両方そうならいいけどさ、片方だけだったら目も当てられないよ?まぁそれがわたしなんですけどね。
おかげさまでわたしはほぼぼっち。
はぁ……。わたしは何でこうなっちゃったかなぁ。
「……メイ、顔暗い」
「そう?美波に比べたらましだと思うけど?」
わたしに話しかけてきたのは黒岸美波。何度もわたしを殺してきたナチュラルデストロイヤーだ。
隣を歩いているのは一緒に暮らしているからで、今日から彼女は高校デビューを果たすことになる。
こいつはわたしから言わせれば友達というより家族に近い。
良い面より悪い面のほうがよく知ってしまっている。
今までずっと私から話しかけることしかしていなかったが、ここ最近は美波の方から話しかけてくれることが多くなった気がする。
美波の扱い方はここ最近でかなり心得た。
ひとまず機嫌が悪くなった時に飯を与える。そうすれば意外と大抵のことは許してくれたりする。
わたしはペットを飼うような気持で美波に接しているといっても相違ない。
「ぺっ……美波、何度も言ってるからわかってるだろうけど」
「はいはい。人を殺さないこと剣を出さないこと、ね。だいたい、あの魔法使いは殺さなかったじゃん」
美波は耳にタコができるほど聞いたわたしの注意を繰り返す。聞きすぎて拗ねてるみたいだ。
「それはそうだけど……。いや、でもあれはわたしが入んなかったらやってたでしょ!?」
「…………いやぁ、どうかなぁ……」
「白々しいな貴様」
美波としょうもない会話も出来るようになった。
美波は怒られるのが怖いのか平気で嘘をつく。だいたいわたしかお母さんにバレるんだけれども。
「と、にかく。美波は今日初登校ってことになってるんだから、先に高原先生のとこに行ってきて」
「あいあい」
もうこれも聞くのがうんざりといったように美波は適当な返事をこちらによこす。
「美波教室わかるね?わたし先教室行ってるから!」
「あいあいあーい」
そう言うと美波はひとりでに高原先生のいる教員室へ向かっていった。大丈夫かな……、ついて行った方が良かったかしら……。
まぁ……いいか。
わたしの初登校、という訳では無いのに、どうも緊張してしまう。もはや親心だ。自分が初めて登校する時よりも緊張している気がする。
そんなドキドキのまま教室の自分の席に座る。
前の席には、金城さんがいた。そういえばわたしの前の席だった。この前はお世話になったし、挨拶ぐらいしないと感じ悪いかなぁ……。
金城さん、おはよう、みたいな感じで大丈夫だよね……?よしよしよし、行ける、自分。行け、自分。
「き……」
「あ、唯ー、おはよー」
「おはよー」
「唯ー、ちょっとこれみてよー」
「え、なになに?」
「…………」
おわった。今日はもうダメかもしれない。
陰キャの悲しい定め……。それにみんな唯って呼んでるし。何より呼びにくい。なんか疲れてきた。もうお家帰ろうかな。この後も面倒くさそうだし。
そんな一人で勝手に拗ねて席に着くと、金城さんはこちらに気が付いたようだ。友達との話をいったん終わらせると、こちらに向き直る。
「あ、メイー。おはよー」
はぁ……金城さん、すきぃ……。
「お、おはよう……き」
……
「…………唯」
負けた。だってここで呼び方変えないと一生このままじゃん!!これを逃したら呼び名を変えるタイミングは存在しない。これは仕方の無いことだ。うん。
「メイ、今日、あいつ来るの?」
わたしが呼び方を変えたことには特に気にすることもなく話を続ける金城さんもとい唯。こういうの助かる。
美波の名前を呼ぶその顔は少し深刻なものに変わった気がする。やっぱり美波に対して苦手意識は顕在しているようだ。これはもう乗り越えたとかそういう次元じゃなくて心に根付いてしまっているのかもしれない。この前はわたしの意識が戻った後泣いて喜んでくれたが。でもまあ苦手なものは苦手、ということだろう。対面で話せるようになっただけよかったと思おう。
「うん。今高原先生と一緒にいる……はず、だよ唯……へへへ」
「え、なんかきもいけど大丈夫メイ」
あかん。今のわたし本当にきもかった気がする。慣れない呼び方で呼べると変な感じになるよね。わたしだけですかわたしだけみたい。
「はぁ。ちゃんと美波は教室にたどり着けてるかな……」
「あ、そういう心配だったのね」
そこに関しては心配しかない。道に迷ったら壁を切り開いて進む女だからな。さすがにそこまではしないが。多分。
「まぁ、あの黒岸がどんな感じで学校生活を送るかなんて検討もつかないけどね」
「不安しかない……」
「あ、それとメイさ、話変わるんだけど今度どっか出かけない?いいお店知ってるんだけどさぁ」
「え?あ、はい……」
なんかすごい陽キャの会話って感じする。あの、話のスピードが。
なんか昨日までの金jy……唯とはかなり態度が違う気がする。なんかわたしにも優しくなってる……?
「ま、困ったら私に言いなさいよね」
「え、はい。ありがとう……」
どんな美波が来ても大丈夫な気がした。頼もしすぎる唯……!
何かあったら唯に頼らせてもらおう……。
「はーい、皆さん席に着きましょうね~」
騒がしい教室に響いたのはなんともかわいらしげな高原先生の一言だ。
まぁ、猫かぶってる声なんだけれども。もう純粋な目で見れなくなっちゃった。
「今日は編入生がこのクラスにきま~す」
クラスのみんなが席に座ったことを確認した高原先生は、さっそく本題に切りかかる。
普通なら編入生ということで騒ぎ立てそうなものだが、流石に高校生はその程度で騒ぐことはない。逆に騒いでくれたらわたしの胃が持たない。
「編入生の黒岸美波さんで~す」
高原先生の紹介が入ると、ガラッ、と教室のドアを開ける音が一つ。
黒髪ショートの編入生が入ってきた。
明らかにやばい目つきの。
「うわぁ」
前の席の唯も小さくうめき声をあげた。わたしもおんなじ気持ちだ。
美波が入ってきた瞬間、一気に教室の空気が変わる。
あ、こいつやばい奴だ。と肌で感じ取ったはずだ。そういえばわたしと美波が初めて会った時もこんな感じだったなぁ。
「黒岸さん、何か一言ありますか?」
高原先生はそのオーラに気圧されているわたし達に気が付いているのかわからないが、その美波のオーラを全く意に介すことなくそのまま話しかけている。
「…………」
「……話すのあんま得意じゃないんで……」
「……話しかけたら殺す」
「「「………………」」」
溜めに溜めた一言で美波は核爆弾級の発言を叩き落してきた。
え?なんかキャラ変わってない?
「じゃあ黒岸さんは柳さんの隣の席でお願いしますね~」
今の発言にも全く意に介すことなく高原先生は話を続ける。いや、流石に意に介した方がいいと思うんですけど。
やっぱりこの人も頭がおかしいのか?もはや怖いって。
高原先生に言われたまま美波は席に着く。席まで教室を歩く間にすごい机を引かれて道を作られていた気がするが。まああんな奴近寄りたくないけど。近寄ったら殺されそうだし。
ちなみに席順はわたしの近く、ということはできなかった。高原先生曰く、生徒に干渉するのはあまり得策ではないそうだ。
わたしは教壇から見て左から2列目の前から2番目の席、対して美波は一番右の列の一番後ろの席だ。一番いいやつ。
わたしの席と美波の席はさすがに離れすぎてる。
美波の隣の席になった柳さんはあまり活発な子というイメージはない。いつも眼鏡をかけていて、三つ編みの地味なかんじの子で、よく本を読んでいる、という印象だ。
はっきり言って美波との相性は最悪、な気がする。
ちら、と後ろを見ると、何もしゃべらない美波に対して柳さんは横をちらちらと見ながらあわあわしている。もうあわあわして気絶しそうなくらい慌ててる。一方の美波は何も気にせず物つまらなそうに窓の外を眺めている。いきなり隣にそんなやばいのくっつけられるなんて柳さんも災難だなぁ。
はああぁ。何はともあれどうなるわたしの学校生活……!