嗜好調査 その2
1
もし仮に春樹先輩が男の子が好きな男の子だったら、私の恋路は完全に断たれることになる。だって、恋愛ってのはお互いに矢印が向き合うことで始まるんだもん。
春樹先輩の矢印が男の子にしか向かないのなら、そもそも私は勝負の土台にすら立ててないんだ。
これはまずいよ。
「どうしたの? 華山さん」
春樹先輩が心配そうに私の顔を覗き込んでいた。その距離の近さに、私の頭は沸騰しそうになる。
「ひゃっ、あっ、いや別に……」
「?」
どうしよう。
このままじゃ嗜好調査どころじゃないよ。
まずは春樹先輩の矢印がどっちに向いているのかを確認しなきゃ。でもそんなデリケートな話をいきなりぶつけられないし、どうしたものか……
「春樹先輩ってぇ」
「うん?」
「アイドルとかには興味ないんですか? 最近めっちゃ人気じゃないですか」
「アイドル? うーん、ないかな」
なんて爽やかな顔で言うんだ。
「あ、そうですか。えっとじゃあ、好きな女優さんとかは……?」
「ごめん、あんまりドラマとか見ないから分かんないや」
「そうなんですね」
「嵐のドラマとかは見るけど」
「へ、へぇ」
これは本格的にヤバいんじゃない?
思春期男子がアイドルに興味ないなんてあり得る?
うちのクラスの男子たちは推しメンは誰かとか、今年は誰に投票するかとかでめちゃくちゃ盛り上がってるのに。
「それにしても今日は暑いねぇ」
ペットボトルのサイダーを飲みながら、春樹先輩は空を見上げる。
青い空には雲一つなく、夏のぎらぎらした日射しが絶え間なく降り注いでいた。
「ほんとですよねぇ」
私はポロシャツのボタンを全て開け、胸元にパタパタと風を送る。こうも暑くては日陰にいてもあまり体感温度は変わらない。
「ふう、あっつ……」
その時、春樹先輩がそっと顔をそむけた気がした。
顔が赤くなっているし、いつの間にか顔中汗びっしょりだ。暑いのかな?
「ちょ、ちょっと、華山さん」
「なんですか?」
「そういうのはさ、ちゃんとした方がいいよ」
「そういうの? ん? あっ」
ようやく私も理解できた。
「年頃の女の子がそんなふうにしちゃ――」
ポロシャツのボタンを全開にし、はためかせたことで谷間が露出してしまったのだ。そしてそこに反応し、顔を赤らめたということは……!
私は声を落とし、努めて目を細めながら、
「春樹先輩のえっち」
「ち、違うから。見ようと思ってたわけじゃなくて、偶然って言うか、いきなり目の前でそんなことされたら嫌でも目に入っちゃうっていうか」
「何が目に入ったんですかぁ?」
私はさらに胸元をまくる。
「ちょっ」
おやおや?
「ふふ、お嫌いですか?」
私は座る角度を変え、正面から見えるように位置をとる。自慢ではないが私のモノはそこそこ大きい。
「嫌いなわけない……じゃなくて、人前でそんなことしちゃダメ!」
私が前のめりになると、春樹先輩は女の子みたいに悲鳴を上げる。
「春樹先輩の前でしかこんなことしませんよー」
ゆっくりゆっくり、胸を近づけていくと、春樹先輩も少しずつ後ずさる。
「うっ……」
「うふふ」
「それでも、ダメだから!」
「はーい」
私が元の位置に戻ると、春樹先輩はほっと息をついた。しかし、その直前にちょっと残念そうな表情を見せたのを私は見逃さなかった。
ふふ、可愛いんだから。
「全く……」
「春樹先輩、私と付き合えば見放題ですよ。ここ以外にも、こことか」
今度はスカートを少しだけずらしてみる。すると今度はぎょっと目を向いてわたわたし始めたではないか。
楽しい。
「ば、馬鹿っ」
「冗談ですよぉ」
ふむ、この反応を見るに、どうやら春樹先輩の矢印はばっちり女の子の方を向いているようだ。
私も同じようにほっと息をついた。