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願わくば、彼に平穏な日常を

 1



「話は聞かせてもらったわ」


 マ○クのテーブル席でシェイクを飲みながら待っていると、よく見知った顔が現れた。


「遅いよ、みっちぃ」


「急に呼び出される身にもなってよ」


 美月は少し疲れた顔をしている。


「なんだ、エキスパートって美月ちゃんか」


「うちらの中で一番恋愛強者なのはみっちぃだからね」


 まあ、そこに異論はない。


「その道、とか言うからさ。ゆとりんの友達に兄弟と付き合ってるヤバい人がいるのかと思っちゃったよ」


「……はるっち、ヤバいって自覚はあんのかい」


 美月は自分の分のコーヒーを注文し、ゆとりの隣の席に座る。


「それで、小春、本気なわけ?」


「……うん」


 男を手玉に取る天才の美月なら、きっといいアドバイスをくれるはず。


「……」


「……」


「……えぇ」


 私とゆとりが見守る中、美月は分かりやすく頭を抱えた。


「ちょっとちょっと、美月ちゃん、お手上げです、みたいな顔しないでよ」


「お手上げに決まってるでしょ。私はノーマルなんだから。実の兄に欲情なんて、ヤバすぎるわよ」


「いや、欲情ってそんな生々しい気持ちじゃないんだって。ただ、お兄ちゃんだって分かる前から私の中にあった好きだって気持ちが、お兄ちゃんって分かったあとも続いてるってだけ」


「そういや、みっちぃって兄貴いるんだっけ?」


「私は兄が二人に妹が一人いるわ。家族としては好きだけど、ぶっちゃけ、兄と色恋沙汰なんて、考えただけで吐き気がする」


 美月は肘を抱き、青白い顔で言う。


「えー、そこまで言わなくてもいいのに」


「でも、みっちぃのが一般的な考えじゃね?」


「そうかなぁ」


 すると美月は急に真剣な顔になって、


「いい? 小春。生々しい話に戻るけど、あんた、春樹先輩とセックスできる?」


「ふぇ?」


「ぶふぉっ――ちょっ、みっちぃ。いきなりなにを」


 ゆとりは吹き出したシェイクをハンカチで拭く。


 こんな親子連れや子供もいる普通のマ〇クでそんな単語を出すなんて、美月ってすごい……


「あのね、あんたたち。これは大真面目に言ってるのよ? 恋愛と体の関係はどうしたって切っても切り離せないものだから」


「それでも話がぶっ飛び過ぎっしょー」


「なに言ってんの。恋愛ってのはつまるところセックスするのが最終目標なのよ? 男も女もセックスがしたいから人を好きになるの。好きって気持ちとセックスは表裏一体なんだから」


「そんな人前でセックス連呼しないでよ……」


 ゆとりは顔を赤くする。


「あんた、その辺は分かってるんでしょうね?」


「それは」


 春樹先輩と……


 考えただけで体が火照る。


「たぶん、大丈夫」


「マぁジぃ」とゆとり。


「本当に、血の繋がった、自分のお兄ちゃんと、セックス、できる?」


 美月はぐっと身を乗り出し、私の目を見据える。


「う、うん」


「あんたが進もうとしてる道は、人に知られたら偏見と好奇の目で見られてもしょうがない茨の道だけど、大丈夫なわけ?」


「うん」


「……」


「……」


「……」


「……」


「そこまで言うんなら、私が反対しても無駄そうね」


「うちも応援するよ」


「二人とも、ありがとう」


「でも問題は」

 

 顎に手を当て、美月は険しい顔をする。


「影山先輩に実の妹からのガチ求愛を受け入れるだけの胆力と器があるかしら」



 2



「それじゃ、いってきます」


 そろそろ学校に行く時間だ。


 僕はエナメルバッグを肩にかけ、玄関に向かった。


「いってらっしゃい」


 母が玄関まで見送ってくれる。


 その時、母は僕の手を取り、抱き寄せる。


「わわっ」


 僕は前のめりになり、母の胸に顔を預ける形になった。柔らかく温かいものに包まれる。懐かしい甘い香りが僕を包む。


 母は僕の頭を撫でながら、


「ちゃんと帰ってくるのよ?」


「うん」


「あなたはお母さんの息子なんだから」


「うん」


「お母さんの家族はあなただけなんだから」


「うん」


「あなたのおうちはここなんだから」


「うん」


「ちゃんと分かってる?」


「うん」


「じゃあ、いってらっしゃい。私の可愛い春樹」




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― 新着の感想 ―
[良い点] 雪美さんと小春の愛が重いww 春樹はこの先生き残れるのかw [一言] 血のつながりのない義理の息子の春樹のために女手一つで育ててさらに大学の学費まで用意してくれたんだから雪美さんの愛が重い…
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