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イケナイ気持ち

 1



「えええええええええ!」


 ゆとりはあまりの驚きに体のバランスを失い、そのまま芝生に背中から倒れ込んだ。


「き、兄妹って、えええええええ!」


 大の字になったまま叫び声をあげるギャル。なんてシュールな光景だろうか。


「びっくりしすぎだよ」


「いやいやいやいや。普通にびっくりするわ。てか、情報量が多すぎる。はるっちと影山先輩は生き別れた兄妹。兄は父親に、妹は母親に引き取られて一家離散。偶然同じ高校で再会するけど、妹は兄だと気づかず猛アタック。家に隠された写真を偶然見つけた妹は全てを思い出し、感動の再会……ドラマか!」


 夏の濃い青空にゆとりの咆哮が響き渡る。


 今日は部活終わりに偶然ゆとりと会い、ここ数日の激動について説明をしたのである。思えばゆとりにはまだ事の真相――私と春樹先輩が兄妹だということは報告していなかった。


 ゆとりには春樹先輩を落とす段階から色々手伝ってもらい、光先輩と春樹先輩の関係を探ってもらったり、名前が一緒だから付き合えない、という断り文句が嘘である証拠を掴んでもらったりと、かなりお世話になっていた。


 本当のことを伝えるとオーバーすぎるリアクションを見せてくれた。


「マジか……あー、だからあんなに頑なにはるっちのことを避けようとしてたのか。納得だわ」


「今になって考えると、いろいろ腑に落ちるんだよね」


「はぁ。でもま、よかったんじゃね? これで影山パイセンも変に身構えたり嘘をついたりしないでいいし人の目を気にする必要はなくなったじゃん。兄妹が仲良くすることは普通なことだし」


「うん、そうだね」


「はるっちの恋路が失敗に終わったのは可哀そうだけど、相手が血の繋がったお兄ちゃんじゃ諦めるしかないよね。まあ、夏は失恋の季節っていうし」


「それ、なんだけど」


「うん?」


 言おうか言わまいか迷ったけれど、ゆとりには伝えてもいいかもしれない。


 こんな気持ち、イケナイことなのかもしれない。ゆとりには気持ち悪がられるかもしれない。


 でも――

 

「あのね」


 私は意を決して口を開いた。


「私、まだ春樹先輩のこと好きなの」


「……」


「……」


「……」


「……」


「えええええええええええええええええええ」


 本日四度目の咆哮が空に轟いた。



 2



 ゆとりはがばっと起き上がり、私の肩を揺さぶる。


「な、なななな、なに言ってんの? はるっち」


「だから、私は春樹先輩のことが好きなの」


「いやいやいやいやいや、駄目っしょ。だって、パイセンはお兄ちゃんっしょ」


「そうだけど……」


「ブラコンってレベルで済む話?」


「いや、ガチの恋」


 そう、春樹先輩が同じ両親から生まれた兄妹だと知ってからも、私の中には春樹先輩のことへの恋慕の気持ちが残っていた。むしろ、久々に会えたせいか、前よりも強くなっているような気がするのだ。


「いくらなんでも、それはアウトだよ」


「そうかなぁ」


「だって、そもそも兄妹じゃ結婚もできないじゃん」


「そうなの?」


「法律のことはよく分かんないけど、多分無理。それに、はるっちのお父さんやお母さんが許すはずないじゃん。お母さんは一緒の人なんでしょ?」


「うーん、そうなんだけどぉ」


「考え直しなって。それは色々ヤバいことになる気がするから」


「そうかなぁ」


 実の兄に恋心を抱くことはたしかにイケナイことなのかもしれない。でも、自分の気持ちに嘘はつけないし……


 私はどうしたらいいんだろう。


「今のままでいいじゃん。仲のいい兄妹としてこれから過ごしていけばいいじゃん!」


「……でも、好きだもん」


 私はぷいっと顔を背ける。


「こいつ……」


 ゆとりはその場にしゃがみ込み、頭を抱える。


「えぇ……もう、ようやくひと段落ついたと思ったのに。はぁあぁ」


 先ほどの威勢のいい叫び声から一転、どんよりとした重い息を吐く。


「ちょっと、うちじゃ処理しきれん。その道のエキスパートに聞こう」


 そう言ってゆとりは携帯を取り出した。



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― 新着の感想 ―
[良い点] 小春いいぞもっと春樹を押して押しまくるんだww [一言] 小春は実兄だけど恋愛感情があるということ。春樹は小春の胸に釘付けだったということ。それに対して雪美さんの胸に全く興味を示さなかっ…
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