表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/68

なんで?

 1



「それで、お母さんったらブロッコリーは嫌だって言ったのに、今日もお弁当に入れてきて」


「いい、お母さんだね」


「もう、どこがですかー」


 小春は柔らかそうなほっぺをぷくっと膨らませる。ほんのり朱が差した、白い頬。陽光に艶やかな茶髪にが煌めき、小春は今日も元気いっぱいである。まるで昨日のことなどなかったかのように……


「そういや今日、女バレも休みなの?」


「はい」


「そう」


 二人並んで歩く帰り道。


 周囲の人からはどのように見えているのだろう。カップルか、それとも……


 告白を断られたにも関わらず、小春は一緒に帰ろうと提案してきた。それに乗ってしまう僕も僕だが、彼女は昨日のことは気にしていないのだろうか。


 もしそうなら、それが、僕にとって一番()()()()()展開なのだが……


「それにしても暑いですねぇ。アイスでも食べましょう」


 小春に手を引かれ、僕たちは道路を挟んだところのコンビニに向かうべく、歩道橋の階段に足をかけた。


「あの……さ」


 僕は意を決して言った。


「はい?」


「僕、昨日……その、君の告白を断ったよね?」


「あー、はい、そうですね」


 小春はきょとんとした顔をする。それがどうした、とでも言いたげな表情である。


「なのに、なんでまた」


「春樹先輩」


 小春はいっきに駆け上がる。その際、ちらっとスカートが翻り、中身が見えそうになったので僕は慌てて視線を逸らした。


 一番上で立ち止まると、小春は僕を見下ろして、


「私、諦めませんから」


「へ?」


「一度フラれたぐらいでへこたれるような女じゃありません。私、春樹先輩のことが好きなんです。結局、この気持ちは変わりませんから」


「でも、もう一回はっきり言うけどさ、僕は君と付き合う気はないんだ」


 心を鬼にして、僕は改めて告げる。胸が痛いが、仕方がないんだ。


「それは今現在の話ですよね。いいんです。いつか春樹先輩に好きになってもらえるように、頑張りますから、覚悟していてくださいね」


「えぇ……」


 付き合ってくれるまで執着します宣言を受け、僕は先ほどの楽観的な考えを心底後悔した。小春は本気だ。


 やはり、しっかりと()()()()を伝えるべきか。


 だけど、それをしてしまったら……


「それにしても暑いですねぇ、早くアイスでも買って食べましょう」


 小春に手を引かれ、コンビニに入る。冷房の効いた店内は気持ちがよく、汗がすっと引いていく。


「これ、半分こにしましょう」


 パ〇コのチョココーヒー味を買った。


「お金、出すよ」


 僕はポケットから財布を取り出す。


「いいんですよ」


「いや、悪いから」


「じゃあ、お言葉に甘えて」


 店の前でパ〇コを分け合う。


「これ、好きなんです。昔、お兄ちゃんと一緒によく半分こしたんです。ま、昔のこと過ぎてよく憶えてないんですけどね。あはは」


 そう言って笑う小春の顔は、いつもよりも可愛く見えた。


「私、頑張ります」


「何をだよ」


「春樹先輩に振り向いてもらえるように」


「それ、本人の前で言うかな?」


「えへへ」


 両手でパ〇コを持ち、小春はちゅうちゅうと吸う。なんだか小動物みたいで可愛いな。


 その後、小春を駅まで送った。彼女の家は隣町にあるのだ。


「じゃあ、春樹先輩、また明日」


「うん」


 小春を乗せた上り列車を駅の外から見送りながら、僕は心のざわめきを感じていた。


 こんなことになるくらいだったら、最初から関わらなければよかったと後悔している。


「華山……小春」


 僕はこれからどうすべきか考えながら、帰路についた。

 


 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ