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にゃんにゃん

 1



 昼休憩。さんさんと降り注ぐ日射しから逃れるため、女子ソフトテニス部はテニスコートの側の木の下で昼食を食べていた。


「へぇ、光先輩って猫好きなんすか」


「うん、可愛いよねぇ」


 光先輩は頬に手を当て、うっとりした顔で言う。


「うちも好きなんすよ。何匹飼ってるんですか?」


「えっと」と指を折りながら光先輩は数える。


「12匹かな」


「マジすか!?」


 けっこうな多頭飼いだ。っていうか、猫をそれだけ飼うことができる家庭環境がすごい。


「ゆっちゃんちは?」


「うちは拾った雑種の子が一匹っす。あっ、写真見ます?」


 うちはスマホを取り出し、この前撮った写真を見せる。雌のキジトラで、うちのベッドの端でおなかを見せて眠っている場面だ。


「はわ〜、可愛い!」


 光先輩はかぶりつくようにスマホに顔を近づける。本当に猫が好きなんだなぁ。


「なんて名前?」


「ノノちゃんです」


「ノノちゃんかぁ」


「そういやこの子、尻尾がないんですよ」


 うちは別の写真――ノノのお尻のアップ――を見せる。


「へぇ、ボブテイルかぁ」


「光先輩んちの子たちはどんなですか?」


「私んちのは――」


 と、光先輩がスマホを探しているところで休憩が終わってしまった。残念。


「そうだ、ゆっちゃん。今日部活終わったらさ、うち来ない?」


「へ?」


「写真で見るより、実物を見て欲しいなぁ」


「いいっすけど」


 ひとしきり猫の話で盛り上がったからか、光先輩に誘われた。まあ、今日は予定もないし、猫ちゃんも見てみたいしで、うちには断る理由がないので二つ返事でおーけーする。


 それにはるっちのお願いも進めなきゃだしね。



 2



「うーわ、でっけぇ」


 でかでかと掲げられた『下村組』の看板。敷地の奥には事務所があり、その横から延びる渡り廊下の奥には二階建ての豪邸。駐車場にはハイエースや軽トラ、黒塗りのセダンなどが並んでおり、頭にタオルを巻いた中年男たちがたむろしていた。


「光先輩の家ってヤ〇ザだったんすね」


「ちょっ、違うから!」


 こちらに気づいたのか、「お嬢さん、お帰りなさい」と駐車場の男たちが声を揃える。


「ほら」


「誤解なんだって。うちは健全な土木系だから」


「そういうことにしときますよ」


「本当だからね。ほら、行くよ」


「お邪魔しまーす」


 中も広く、そして至る所に猫がいる。光先輩はフローリングの廊下に寝転がっていたアメリカン・ショートヘアを抱き上げて、


「この子はハッチ。よろしくにゃ~」


「可愛いっすね」


 光先輩はとろとろの笑顔になっている。


 うちが頭を撫でると、ハッチは「にゃあ」と小さい声で鳴いた。


 長い廊下を歩く。左手のガラス張りの向こうにはこじんまりとした庭園が造られており、なんだか料亭に来たような気分になった。


 突き当りを右に曲がるとそこは階段で、その中腹に白猫が鎮座している。


「この子はステイ。ほら、ゆとりお姉ちゃんに挨拶するにゃ」


 光先輩はステイを抱き上げる。


「可愛いっすね」


「ありがとう。ステイ、褒められたにゃー」


 いや、可愛いのは猫じゃなくて猫ちゃん言葉で話す光先輩が。学校では明るくてしっかり者だけど、こんなとろけた顔もするんだ。意外な一面を発見したかも。


「ここが私の部屋」


 二十畳はあろうかという広い部屋だ。


「あっ、ションとポッチ。私の部屋にいたの?」


 黒猫とブリティッシュブルーが奥のベッドの上でくっついて丸まっていた。黒猫の方がション、ブリティッシュブルーの方がポッチのようだ。


「適当に座ってて。今からみんな連れてくるから」


「はぁ」


 そう言って光先輩は部屋から出ていく。一人残されたうちはぼんやり室内を見回してみる。


 白を基調としており、清潔感溢れる部屋だ。ベッドに勉強机、テレビに本棚。これといっておかしなものはない。しいて言えば、猫モチーフの家具や小物が多いぐらいかな。


 それになんだか甘いいい匂いがする。


「この子がグッチ」


 光先輩はまるまる太ったマンチカンを部屋に放すとまた次の猫を探しに行く。


「この子はエクス」


 そうしてどんどん猫が増えていく。


 どの子も人間慣れしてるのか、うちの膝に座ってきたり、背中に飛びついてきたりする。


「うりうり」


 可愛いけれど、ちょっと数が多すぎやしないか?


「あっ、ちょっと」


 エロ猫がうちのスカートの中に顔を入れてきた。引っ張り出してみると、少し目が垂れたスケベそうな顔をしている。


「このエロ助め」


 うちは暇なので、本棚に寄ってみる。光先輩どんな本読むんだろう。テニスの雑誌や、テニス漫画などなど。


「おっ!」


 うちはあるものを発見する。


「この子がジャーニー」


「光先輩、卒アル見ていいすか?」


「え? いいよ」


 許可が下りたので卒業アルバムを棚から引き出す。これは小学校の時のものだ。


「ほー」


 下村光の名前を探す。すぐに見つかった。六年二組のページだ。見開きに並んだ生徒たちの顔写真。


 小六時代の光先輩。目がクリっとしていて、長い黒髪をポニーテールにしている。今と変わらず美少女だ。日焼けはしておらず、色白なのがなんだか新鮮。


「ん?」


 うちは同じページでとある名前と見覚えのある顔を発見した。


「同じ小学校だったのね」


 影山春樹の写真が、そこには載っていた。




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