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偉い人

 1



 部活が終わった私は、ゆとりと合流する。並木道の路肩に座り込み、さっそく報告を聞くことにした。


「偉い人?」


「うん、光先輩はそう言ってた」


「どういうこと?」


「それはうちにも分かんない」


 ゆとりは肩をすくめる。ポニーテールにまとめた金髪が夕焼けを受けてオレンジ色に輝いている。


「偉い人、か」


 光先輩と影山先輩の関係について、ゆとりに探りを入れてもらっていたのだ。彼女は光先輩と同じ女子ソフトテニス部だし、話を聞く機会が多いだろうと見込んでの頼みだった。それによると、光先輩にとって春樹先輩は『偉い人』という印象だという。


 しかし、あまりに漠然としすぎているのでその言葉の意味するところがよく分からない。勉強ができるとか頭がいいとか、そういう意味だろうか。それとも、道徳的に偉いってこと?


 もしかしたら、私をナンパから助けてくれた時みたいなことが度々あって、そういう正義感の強さみたいなものを指して『偉い』という表現を使ったのかもしれない。


「エロい人と聞き間違えたんじゃない?」


 そう言いながら、制服姿の美月が割って入ってきた。


「わっ、美月ちゃん」


「みっちぃ、どしたの?」


「待ち合わせしようと思ったらあんたたちがいてね。で、どういう流れなの?」


 私はゆとりから聞いた話を説明する。それを受けて、美月は困ったように眉根を寄せた。


「……どういうことなの?」


「だからそれを考えてるんだってば―」


「影山先輩って進学に切り替えたのよね? それのことを言ってるんじゃない?」


「あー、それもあるかも……いや、あるかなぁ」


「その時の光先輩の様子はどうだったのかしら。表情とか、声の調子とかで好きな男のことを言ってるってのは分かりそうなものだけど」


 美月はゆとりに尋ねる。


「そうだなぁ」


 顎に手を当て、ゆとりは目を細める。


「顔が赤らんでたり、とかはなかったけど、表情はなんか柔らかい感じだったな……声も」


「ほう」


 顎に手を当て、美月は訝しむような顔を作る。


「えっ、それはどういう意味なの美月ちゃん」


「これはあれね」


 私は固唾をのんで美月の次の言葉を待つ。


「……」

「……」


「分からないわ」


「なんだー」

「分からないんかい」


「そもそも偉い人の意味が分からないんだからしょうがないじゃない」


「それはそうだけど」


「でも、光先輩と影山先輩、同じクラス以外にも、何かしらの接点がありそうな雰囲気よね。光先輩は影山先輩の何かを知ってるんじゃないかしら――あっ」


 美月は立ち上がる。


「お、お待たせ」と聞きなれた野太い声が聞こえた。


「待ってないわ。行きましょ」


 見ると、そこには私の前の席の男子がいるではないか。佇まいはぎこちなく、緊張しているのが手に取るように分かる。


 美月はそんな彼の手に自分の腕を絡める。まるで恋人みたいに……


 え?


 え?


 いつの間にそんな仲になってんの?


「じゃ、二人ともまたね」


「あ、うん」

「あ、うん」


 腕を組んだまま東門へ向かう二人を、呆然と見送るしかなかった。


「みっちぃって、手が早いよね」


「うん」


 一か月くらい前にはサッカー部の先輩と付き合ってたはずなのに。ロックオンから攻略までが速すぎるよ。


 私が一か月近く経っても未だ春樹先輩を落とせてないというのに……いったいどんなマジックを使ってるんだ。


「あれはいつか、刺されるパターンだよ」と私は精いっぱいの負け惜しみを言う。


「だね。それより、はるっち。二人の関係はまだ探る?」


「うん、お願い。美月ちゃんが言ってたように、あの二人は何かしらの関係があると思うんだ」


「おっけー」


 それにしても、偉い人っていうのはどういう意味なんだろう。


 春樹先輩には私の知らない秘密があるとでもいうのだろうか。美月が推測していた私と春樹先輩の間に立ちはだかる障壁、それも気になる。

 

 そんなことを考えながら帰路についた。



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