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物語はいきなりクライマックス

 1



 オレンジ色に染まった空に大きな雲が浮かんでいる。


 その雲を眺めながら、僕はこれから起こるであろうこと、そしてその結果を想像し、重い息をつく。


 僕の目の前にいるのはこの学園で一、二を争う美少女、華山はなやま小春こはるだ。学年は僕の二つ下の一年生。紅潮した頬、そして少しばかり緊張した面持ち。


 緊張してるのは僕も同じか。


 なんせ、あの華山小春が目の前にいるのだから。


 長い栗色の髪、透き通るような白い肌。ブラウスは胸の部分がこれでもか、というほど盛り上がり、バレーで鍛えたむっちりとした脚が目の毒だ。


 その美貌と明るい性格で、入学して一月も経たないうちに学園のアイドルの地位を確立した。


 贔屓目抜きにしても、全国各地の本物のアイドルを束にしたって小春に敵うことはないだろうと確信している。美少女、という概念を擬人化したような容姿の彼女は、男子たちのあこがれの的だ。


 そんな彼女と二人きり。


 ロケーションは人気のない校舎裏。


 僕の手には靴箱の中に入っていた桃色の手紙が握られている。無論、差出人は小春である。その内容は『今日の放課後に校舎裏で待ってます♡』とあった。


 これだけの要素が出揃えば、どんなに鈍感な男でも、この後、ここで何が起きるのかは想像に難くないだろう。


 そう、告白である。


 おそらく小春は僕のことが好きなのだ。


 なんということだろうか。

 今、僕の胸中は日本沈没の渦中にいるのと同じくらいパニックに陥っている。こんなことがあっていいのか。神がこの世にいるとしたら、どうしてそんな悪戯をするんだ、と怒鳴りつけてやりたいくらいだ。


 小春のような美少女が僕なんかに気があるなんて、それは本来であればとても嬉しい、いや、めちゃくちゃ嬉しいことなのだけれど……


 平静を装い、僕は口を開く。


「ど、どうしたの華山さん」


春樹はるき先輩、来てくれてありがとうございます」


 耳がとろけるような甘い声。


「その、もう、分かってます……よね?」


 小春は斜め下に顔を伏せ、いじらしく手をもじもじさせる。彼女も緊張しているようだ。


 僕はなんと答えるべきだろう。


「なにが」とすっとぼけるのは無理があるが、かといって「僕のこと好きなの?」と言うのもなんだか鼻につく。


 無言の時間が続く。


 二人の間に流れる空気が、だんだんと甘酸っぱいものに変容していく。


 もしこれがドッキリだったら、何も問題はないのだ。


 僕はわざとらしく残念な顔を作り、「なんだよもぉー」とがっくり項垂れるだけでいいのだから。そしてそれを見ていた取り巻きたちが笑いながら登場する。そんなシチュエーションを期待していた。


 しかしながら、僕はここに来る前に校舎周辺を隅々まで確認し、()()()()()()()()()()を確認している。


 つまり、今ここの校舎裏には僕と小春しかいない。ドッキリはそれを見届ける人間がいて初めて意味を持つ。


 答えを模索していたら、小春が観念したように口を開いた。


「私、春樹先輩のことが好き」


 僕の方へ熱いまなざしを向け、ド直球に告白してきた。


「えっ」


 やはりか。


 僕の心臓がばくばくと活動を速める。


 小春は一歩こちらに歩み寄る。


「私と付き合ってください」


 今にも泣き出してしまうのではないか、と思うほどに瞳を潤ませ、彼女は右手を差し出した。


 細く長い指。


 艶のあるよく手入れされた爪。


 こんな美少女に求愛されるなんて、僕の人生で一度あるかないかだろう。このチャンスを逃してしまえば、僕のような平凡な男に春が訪れるはずがない。


 しかし……


「えと、その」


 自分の中で答えは最初から()()()()()()


 しかし、それをどう相手に伝えたものか。


 考えに考え抜いて、僕はようやく口を開く。


 そして、思い切って返事をした。






















「ごめんなさい」


「へ?」






 この時の小春の困惑しきった顔を僕は一生忘れることはないだろう。


 梅雨も明けた、六月の終わりのとある夕方のことだった。


 


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