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元魔王と元勇者の異世界冒険禄  作者: いもサラダ
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勇者と魔王

 薄暗い城の中、俺は最終決戦を迎えようとしていた。

「ミリア、まさかお前が魔王だったなんてな。・・・残念だよ」

玉座には赤いツインテールで2本の角が生えた少女が座っていた。

彼女の名前は『ミリア・アスガルド』、この世界の脅威の根源たる魔王である。

「ええ、そうね。私もまさかノインが勇者だとは思わなかったわ」

俺は『ノイン・カーチス』、勇者である。

彼女との出会いは半年ほど前だった。

道に彼女が倒れていたのだ。

この時のミリアは大きな帽子を被っていたため魔族とは分からなかったのだ。

「おい!しっかりしろ!大丈夫か!?」

「だ・・め・・・私はこのまま死ぬんだわ」

「待ってろ!今ポーションを出すから・・・」

俺がそう言って鞄を開けた瞬間だった。

彼女の手が突然伸びてきて中に入っていた黒パンを掴むとすごい勢いで食べ始めた。

「ごちそうさま。助かったわ。あやうく飢え死にするところだったわ」

「なんだ・・・腹が減ってただけだったのか」

「しかたないじゃない、もう2日も何もたべてなかったのだから。私はミリア、あなたは?」

「俺はノインだ」

この時、彼女の姓を聞いておけば良かったと後悔している。

その後、次の街に到着するまでの間ミリアとパーティーを組むことになった。

「へぇ、あなた強いのね。ワーウルフを一撃だなんて」

「ミリアこそ、なんだよさっきの桁外れの威力の魔法は」

ミリアは土魔法ストーンバレットで複数体のワーウルフを倒していた。

数日間ミリアと過ごしてきて、それは楽しい日々だった。

そんなミリアとの別れの時だった。

街に到着すると、ミリアは立ち止まった。

「ごめんなさい、この先は私は進めないわ」

「どうしてだ?せっかく街に着いたんだから何か美味いもんでも買ってやろうと思ったんだが」

「私は街に入るための身分証がないもの」

「そんなの俺が保証人になればすぐ発行されるさ」

「いいえ、やめておくわ。それにあの時のパン以上に美味しいものなんてないもの。ノイン、あなたとの日々は楽しかったわ。もしまた会うことができたならその時は私のこい・・・いいえ、なんでもないわ。ではさようなら」

「まっ、待ってくれ!」

俺が駆け寄るのも虚しく彼女は転移魔法で消えてしまった。

そして今、俺はミリアを倒そうとしていた。

「運命とは残酷なものよね。魔族と人間とは決して相容れぬ存

在」

「ああ、そうだな。俺は人々のため、そして神から与えられた使命のため魔王を倒さなければならない」

「そうね。お父様が病で死ななければ私も魔王なんてくだらないものにならなくて済んだものを」

そう、かつて暴虐の限りを尽くした先代魔王は数カ月前に病で死んだそうだ。

そして、今は一人娘のミリアが魔王を継いでいる。

魔王一族が滅びれば魔族はその力を失い、世界に平和が訪れる。

そして俺は神『グレイスフィール』により魔王を倒せる加護を授かった。

「いいわ、ひと思いにやってちょうだい。あなたに殺されるなら本望だわ」

俺は階段を上がり、聖剣ファルシオンを抜いた。

そしてミリアに向かって振り下ろす。

・・・が、できなかった。

ほんの数日ではあったが、ミリアとの楽しい思い出が蘇る。

魔王の血を継いではいるが、彼女は決して悪い魔族ではない。道中、怪我をした猫の足を魔法で治療していたのも見ている。

「・・・やっぱりできない!」

「臆病者!あなたは勇者でしょ!?あなたのその手に人間族全ての命がかかってるんでしょ!?」

「でも・・・」

その次の瞬間だった。

バン!

「え?」

ふと音のした胸元を見ると、そこには大きな穴が空いていた。

「やったぞ!俺が勇者を倒したんだ!」

後方から魔族の声が聞こえた。

そうか、俺は死ぬんだな。

「ノイン!!待ってて、今すぐ治癒魔法を・・・」

俺は残った力でミリアの腕をつかむ。

「も・・・むり・・だよ」

なにせ心臓がないのだ。

今は神から与えられた神聖力で保っている。

「み、りあ。もし次は同じ人間に生まれ変わることがで、きたら、俺の・・・恋び・・とに・・なって」

最後まで言い切る前に俺は力尽きてしまった。

「ノイン!!」

「ご無事ですか!魔王様!」

「来ないで!!」

次の瞬間、玉座のまわりに結界魔法が展開される。

「ノイン・・・あなたを一人にはさせないわ。あなたのいないこの世界には未練なんてない。魔族が滅びようが知ったことじゃないわ。次は絶対に人間に生まれ変わってまたあなたと会うわ!そして今度は私からあなたに交際を申し込むわ」

「魔王様!」

結界の周りには部下の魔族が集まっている。

「うるさい!全部あなたたちが悪いのよ!お父様が人間族の領地を侵略なんてしなければ・・・あなたたちが人間を襲ったりなんてしなければ・・・創造神グレイスフィールが魔族なんて作らなければ」

ミリアはノインの亡骸をそっと床に寝かせると立ち上がり、両手を天にかざした。

そして膨大な魔力が集まってくる。

「ノイン、今あとを追うわ」

「魔王様!そ、それはまさか」

「バカ!逃げるぞ!あれは命と引き換えに放つ禁忌魔法だ!」

そしてミリアの上空に巨大な黒い球体が出現する。

「今更逃げてももう間に合わないわ。私はノインが守りたかった人間の世界を守るわ・・・滅餽怒(めぎど)

この日、魔族は魔王を含めて領地ごと全て消滅した。

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


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