第五夢:Nest bird
――先生の家にて。
「それじゃあ、我らがエリザ嬢の初単独任務任命を祝して!」
立食パーティの様相を呈している。
『カンパーイ!!』
なんと私にもついに単独任務が回ってきたのである。
だから、早いとかそろそろとか言われていたのか、とようやく納得した。
「エリザちゃん、おめでとう」
先生の奥さんが、グラスを片手に微笑んでくる。
その足元では、お子さんが「オメデトー」と無垢な笑みをこちらに向けていた。
「ありがとうございます」
失礼にならないように微笑を返し、窓際に退く。
――正直、嬉しいやら悲しいやら分からない。
ついに、一人前への一歩を踏み出したのは嬉しい。
それは、とてもとても嬉しい。
けれど、単独任務をするようになるということは、先生と別れてしまうと言うことである。
そんなの、嫌だ。
さびしいよ。
笑顔を装いながら、心中ではそういった思いが渦巻く。
「エリザ」
背後から、声がかけられた。
先生だ。
「ちょっと良いか」
外で話そう、と先生は歩き出す。
私は静かに先生の後をついていく。
ベランダに出た。
色んな青を混ぜたような夜空。
短銀剣のようなお月様。
チカチカと瞬くお星様たち。
雲ひとつ無い綺麗な夜空だ。
私とは、全然違う。
「――嬉しくないのか」
私の表情の変化を敏感に読み取ったのだろう。
先生はそう質問してきた、
「そ、そんなことッ……無いです、よ……」
弱々しく尻すぼみになる。。
自分で聞いても、なんとも説得力の無い声音だった。
「なら、どうしてそんな顔をする」
「そ、それは――」
口篭る。
「不安か?」
「……それもあります」
ボソボソと返事。
「も、だと?」
眉を吊り上げられる。
――正直に打ち明けるしかないらしい。
「――寂しいんです」
それを聞くと、先生は肩の力が抜けたように笑った。
「な、何が可笑しいんですかッ!」
自分の気持ちを迫害されたようで。
「せ、せ、先生、は――」
なんだか、腹が立った。
「寂しくないんですか」
いつの間にか、頬を一筋の何かが流れていた。
ぼやけた視界で、先生を見つめる。
先生は、夜空を眺めていた。
月光に、赤褐色の髪がよく映える。
「――そんな訳無いだろう」
ボソリ、と先生はつぶやいた。
聞き取れない。
「え?」
私は間抜けな声を上げて、聞き返す。
「悲しくない訳無いだろうが」
先生がこちらに向き直る。
「一年にもなる付き合いだ。家族同然に、実の娘のように育てきた。寂しくない訳が無い」
その瞳は、どこか濡れているように見えた。
「けどなエリザ」
先生の、笑みが弱々しい。
「巣立ちする小鳥を、泣いて呼び止める親鳥なんているか?」
――はっとした。
「親鳥はな、悲しいよりも嬉しい方が大きいんだ」
ボロボロと何かが零れ落ちる。
――このバカ師匠。
「二度と会えなくなる訳じゃないだろうに」
そんなに落ち込むな、と先生は笑う。
「〈白線〉を辿る夢多き〈白追者〉のように、お前は歩き続けるんだ」
もっと素直に喜べよ、と頭に手を置かれる。
「お前は、|この素晴らしいオレ(ファルド=オ−バーン)の弟子だろうが」
くしゃくしゃ。
「お前は俺の誇りだよ」
もう我慢できなかった。
私は、先生の大きくて暖かい胸でひたすら泣いた。
悲しくて、悲しくて。
嬉しくて、嬉しくて。
想いは大きく変わった。
――ありがとう、先生。
私は、前に進みます。
良い事言いますね、ファルバン(しみじみ)
ま、ひいては私が良い事を言っ(略)
その通りだと思います。
自然界で、巣立ちをする子を呼び止める動物なんて人間くらいでしょうね……。