最終夢:Mobius band
――数日後。
私たちは、無事〈ブラーナ〉へと帰り着いた。
「任務完了です。エリザ、良くご無事でした」
「クリフのお陰だよ。本当にありがとう」
「いえ。…………では、また後ほど」
「うん」
私たちは、〈交商都市〉の入口で別れた。
けど、またここで会う約束をしている。
別に、寂しくなんか無い。
とにかく、今は師匠や皆にただいまを言わないと。
私は、ミリアと共に〈街道会〉本部へと向かった――
◇ ◇ ◇
「失礼します」
クリフは、重そうな扉を開くとそう言った。
――〈盾旗団〉本部にある団長室だ。
「なんだ、クリフじゃあないか。どうした?」
傷心していた自分を拾ってくれた心優しき団長、ヘンリー=グーレアン=アブソルートが気さくに言った。
クリフは、室内に入る。
まぁ座れ、と深青のサーコートを羽織ったヘンリーが促すのを丁重に辞退して、彼の執務机に封筒を差し出す。
「――退団届、だと……?」
まだ若いその精悍な顔が、怪訝になる。
「一体どうした、急に」
訳を聞かせてもらおうか、とその黒い瞳が語っている。
クリフは、しばらく逡巡していたが、やがて決意したように口を開いた。
「真の主を見つけましたので」
――沈黙。
ヘンリーの貫くようなその視線に、耐え切れず俯く。
拒否される。
そう思ったのだが――
「そうか」
ヘンリーは、あっさりとそう言った。
「なに、お前にとってここは仮の宿り木だったんだ」
仕方あるまい、とヘンリーは笑う。
「以前と見違えて立派になったぞ、クリフ」
「……光栄です」
「いやな、なんとなく分かっていたんだ。こういうときが来るのはな」
「も、申し訳あ――」
「謝る必要は無い。それで良いんだ」
嬉しいよ、とヘンリーが立ち上がる。
手を差し出される。
――握手。
「〈常に主の楯であれ〉だ。忘れるなよ?」
「はい……本当に、お世話になりました」
深々と頭を下げて、涙は堪える。
クリフは、ようやく新たな一歩を踏み出したのだった。
◇ ◇ ◇
――数日後。
〈ブラーナ〉の入り口にて。
私は、クリフと待ち合わせていた。
「お待たせしました」
〈盾旗団〉の団服ではなく、革の胸当てや動きやすそうな上下と随分ラフな格好だ。
流れる髪は、後ろでまとめている。
「別に大丈夫よ」
私は、笑う。
と、気付いた。
首には、白いロケットをかけている。
――〈白之断章〉だ。
〈白創石〉で創られた、白追者の証である。
「そ、それ……」
「ええ。許される事ならもう一度、と思って」
「そっか」
振り切れたみたいだ。
――良かった。
「〈盾旗団〉は、辞めてきました」
クリフは、清々しげにそう言った。
なんとなく、察しはついていた。
「そっか」
だから、あまり動揺はしなかった。
「これからは、エリザだけの〈楯〉であります」
ガシャリと背中の大きな楯を揺らして、笑う。
私も笑った。
――私のほうは、どうかというと。
〈街道会〉は辞めていない。
新たな任務を受け負ってきた。
「〈街道会〉の名を広めること」だ。
大陸中の都市から都市をまわり、能動的に依頼を受け付ける「巡回交易者」という新たな称号を授かった。
会長なりの配慮だろう。
(たまには帰ってこいよ……ッ!)
師匠は、もう涙涙だった。
私も泣いてしまったのは、秘密だ。
けど、この前みたいな憂鬱はない。
むしろ、高揚している。
――どこまでも、行ける。
無限の道が開いている。
彼となら、何処まででも行ける。
そう思った。
そう思って疑わなかった。
疑う理由なんて無いもの。
澄み渡る青空。
まぶしい太陽。
爽快な風。
全てが、私たちを祝福しているようだった。
「さぁ、行こっか!」
私たちの物語は、終わらない。
長い間、ご無沙汰にして申し訳ありません<(_ _)>
受験生なんです、昼行灯です(^_^;)
さて、今回で本編は終了です。
いかがでしたでしょうか?
彼女と彼の旅は。
読者の皆様が、本作を読んで何か得るものがあればなと説に願います。
これからは、番外編などを公開していければ良いかな(^^)
二人の旅は、まだ始まったばかりです!