第三十二夢:Silent night
――しばらく進んだ山道沿いにて。
「ッ……」
「ガマン」
私はクリフの傷の手当てをしていた。
日も暮れてきた。
このままでは進むことも出来ないので、今宵はここにキャンプを張ることにする。
「そうは言っても――イテッ」
頬に出来た幾つもの切り傷に、〈リコ〉の葉を磨り潰して塗る。
「消毒なんだから仕方ないよ。それに、痛いってことはバイ菌が入ってた証拠だよ。ちゃんとしないと」
「それは分かっていますが……う~」
あんなに勇敢で強いはずのクリフが、私の前では、こうして顔を顰めている。
――なんだか、嬉しい。
……なんだそりゃ。
自分が分からないや。
笑えてくる。
それが表情に出たのだろう。
「何がおかしいんですか」
と、クリフがむくれた顔で聞いてきた。
「別に~」
クリフがふざけ半分ながらも怪訝な表情になり始めたのを見て、私は慌てて話題を変える。
「ア、アイギスさ、親に出会えて良かったね」
「……そうですね。まさかとは思いましたが」
クリフが穏やかに表情に戻る。
「もう大丈夫でしょう」
アイギスが危険に晒される心配はありません、とクリフが安心したように言う。
「大変だったけどね」
「もう死ぬかと思いましたよ。どうにか生きながらえましたけどね。本当に、親は怖い」
私とクリフは、安心したように笑った。
もう、何も怖くなかった。
「はい、終わり」
「ありがとう」
「どういたしまして」
それから、私たちは夕食にする。
ミリアと、栗毛君には、〈ロントルトン〉の新鮮な野菜の盛り合わせを振舞った。
私たちは、〈ミンネティー〉片手に、ふかふかのパンを焚き火で炙り〈ララム〉のジャムをつけて、頬張った。
もう、最高だ。
満足満足、と余韻に浸っていると、クリフが口を開いた。
「話しておきたいことがあるんです」
何時にも増して、真剣な表情だ。
「な、何……?」
私の表情も自然に引き締まる。
「僕の、過去のことです」
揺らめく焚き火の炎を眺めながら、クリフはぽつぽつと喋り始めた。
「僕は――白追者でした」
――え?
驚きが隠せない。
クリフが、私を見据える。
「過去形です。白追者だった、というのが正確ですよ」
「ど、どうして辞めちゃったの……?」
もう、その質問を投げても良いような気がした。
知りたかった。
彼の何もかもが。
たとえ、土足で心のうちに上がりこんででも。
――クリフは、その質問に沈黙した。
しばらく時間が空いてしまい、申し訳ありません<(_ _)>
リニューアルされたサイトにとまどってまして(笑)