第三十一夢:Good bye chap
「待って――――――――――ッ!」
両者が激突する瞬間、私は叫んでいた。
――全てが分かったから。
手元で震えるアイギスが、教えてくれたから。
クリフの耳には届いたようだ。
だけど、間に合わなかった。
加速した両者は止まれない。
轟音を立てて衝突する。
土煙がもうもうと舞い上がる。
――私は、慄いていた。
前回、クリフは圧倒的に強かった。
けれど、今回は違う。
あの〈ディスターブ・クィア〉という凶暴な原生生物に互角、いや劣勢を強いられていた。
気丈に振舞ってはいたけど、気が気じゃない。
正直、とても心配だった。
そうやって、固唾を呑んで戦いを見ていた時だった。
――アイギスが、急に騒ぎ出した。
きゅいきゅいと大きな声を上げて、御者台でじたばたと暴れている彼を抱きかかえて、問うてみる。
「……どうしたの?」
アイギスは、私の言葉が分かったかのようにおとなしくなり、扁平な前肢を必死に振り始めた。
自分を指し、クリフたちの方を指す。
――まるで、何かを訴えているかのように。
「……?」
なんだろう?
アイギスを眺める。
何かを訴える、深群青の瞳。
赤紫の、ギザギザ甲羅。
続いて、クリフたちの方を見やる。
〈クィア〉を捉える。
怒りに燃えた、黄昏色の瞳。
紅蓮の、ギザギザ甲羅。
「―――!!」
ま、まさか。
いや、絶対そうだ。
だって、あの場所で出会った。
――あの場所。
それは〈クィア〉の脱皮場所。
アイギスと〈クィア〉は良く似ている。
それもそうだ。
そのはずだ。
よくよく考えれば、すぐ分かるはずだ。
――この子は、あの〈クィア〉の子供なのだ。
そして〈クィア〉は、可愛い我が子を取り返そうとしているだけ。
「なんてこと……」
――だから、叫んだ。
もう止めて、と。
最後の最後、最終局面の役者のようだった両者に。
――砂塵が晴れる。
両者は、彫刻のように立ちすくんでいた。
周囲では、麗細塵氷が宙を煌めいている。
クリフは、〈霙〉を大地に突き立てていた。
そこから、とてつもなく太い氷柱が天へとそそり立っている。
それで、〈クィア〉の一撃を受け止めたらしい。
どうやら、ぎりぎりで間に合ったようだ。
――走る。
「待って、二人とも……!」
アイギスを抱えて、急ぐ。
〈クィア〉の眼が、私を、いや私が抱えているアイギスを捉えた。
その瞳から、怒気が消え、その代わりに大粒の涙が零れ出す。
「エ、リザ……?」
クリフはというと、息を切らしながら困惑している。
私は、手短に話した。
――クリフが、眼を見開く。
「た、確かに……そうすれば、温厚な〈クィア〉がここまで暴れたのも納得できます。彼らは、子煩悩ですからね」
私は、アイギスを差し出す。
きゅーっ!と大声で鳴くと、アイギスはまだ氷の水滴で濡れる〈クィア〉の頭に抱きついた。
〈クィア〉も、喉を鳴らし涙を零す。
感動の再会シーンだ。
いつのまにか、私の瞳にも涙が滲んでいた。
「良かったね……アイギス」
きゅきゅいきゅい、と何かを必死で説明しているアイギスを眺めながら、つぶやく。
「本当に」
クリフも、〈霙〉を鞘に収めながら言った。
「一波乱ありましたけどね」
そういって、苦笑する。
私たちは、アイギスたちをしばらく眺めていた。
「そろそろ……行きますか」
クリフが言う。
「……そうだね」
名残惜しいが、これで良いのだ。
私は馬車に乗り込み、クリフは栗毛君にまたがる。
「行こうか、ミリア」
私たちが、進み始めようとしたその時。
クオォォォォォォォォォォ――
背後の〈クィア〉が、天に咆哮を上げた。
つい振り返る。
〈クィア〉の頭の上では、アイギスがきゅい!とパタパタ手を振っていた。
山が、頭を下げた。
私たちも、下げる。
それから〈クィア〉はのっしのぅしと山間へ、私たちは山道を、進み始めた――
遅れて申し訳ありません!
ですが、どうにか一段落着きましたね(^^)
あとは、「結」に向けて走っていくだけです。
ちなみに。
「著者突撃インタビュー」製作難航してます(^_^;)
誰かアイデアを!(汗)