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第二十九夢:The struggle ballade

意識が遠のく。

加速していく。

一切合切を、忘却の彼方へ。

〈クィア〉のみを、その視線に()い付ける。


――対峙。


なんとも巨大。

重い空気を放っている。

(本当に、〈クィア〉か……?)

鬼気迫るものを感じる。

〈ディスターブ・クィア〉には、到底見られぬような。

(……どうでも良いことか)

そう。

今となっては何もかもどうでも良い。

危害を加えてくるならば、排除する。


――()るか、()られるか。


それが全て。

全身を(たて)に、武器(つるぎ)へと変化させる。

旗を背から外し、地に突き立てる。


ここから後ろへは、行かせない。


一セルメトルさえも。絶対に。

――がしゃり、と楯を構える。


クヲオォォォォォォォォォォォォ――


〈クィア〉が咆哮(ほうこう)する。


瞬間、地が揺れる。


〈クィア〉が、大地を踏み砕きこちらに肉薄してくる。

こちらも、駆け始める。


それは、騎士の馬上決闘を思わせる流れだった。


(面白い……!)

血湧き肉踊る。

しかれども、このままではぶつかり勝てる可能性など万が一にも無い。

()き潰され肉片(ミンチ)になるのがオチだ。

そんな無様な事は出来ない。

楯の中央部分――〈青鋼(ブルスタイト)〉の獅子(リオン)に、どくどくと己の心力(クオーレ)を注ぎ込み始める。

そして、十分に浸透させたところで。


――解放。


心力を変化させる。

〈青鋼〉と相性が良い属性物質(エレメント)


――すなわち「氷」へと。


楯の面積が、青き輝きに包まれて恐るべき速さでぺきぺきびしびしと広がっていく。

心力は、空気中の水分さえも奪い取り氷へと強制変換させていく。

途中で割れぬように、地からも氷を伸ばし補強。

心力を隅々まで張り巡らし、強度も補う。

氷の表面は剣山のように隆起。


蒼きそれはまるで――槍衾(やりぶすま)


迎え撃ってやる。


「――来い」


――衝突。


轟音。


無数の青き結晶が、宙を(いろど)る。

「ッ……!」

大地をも揺さぶる激しい衝撃が襲う。

みしみしべきん、と氷壁に亀裂が走る。

だが、どうにか持ち(こた)えたようだ。

氷の欠片で切った頬の傷を凍結する。

痺れる腕を擦りながら、見上げる。

〈クィア〉も、痛手を(こうむ)ったようである。

ギィィ、と叫びながら、身を(よじ)じらせ氷の(とげ)の中から抜け出そうともがいている。

よし。

分はこちらに傾いている。

楯を、氷から切り離す。


第二ラウンドの始まりだ。


己で創った、氷の壁を駆け上がる。

〈クィア〉を、眼下に捉えた。

殺気を()めた視線で、〈クィア〉が見上げてくる。

「どうですか。見下されるというのは」

(あざけ)りの声を放つ。

それは、戦闘を更に加速させるための手段。


グゥゥゥアァァァアアァァァァ――


再びの咆哮が、耳朶(じだ)を打つ。

無視して、跳躍(ちょうやく)

心力を足裏に螺旋(らせん)状に篭めて、解放。


基本的な心術踏技、発条(ぜんまい)だ。


氷を踏み砕き、爆発的な跳躍力で〈クィア〉の上を取る。

鋭利な針地獄が眼下に広がる。

落ちぬ前にと〈(ミゾレ)〉に心力を篭める。

剣身が、蒼く光立つ。


――心力を解放。


目に見えぬ力が溢れ出す。

そして、〈クィア〉の巨体を包み込んだ。


「――凍れ」


号令。

途端、〈クィア〉を包括していた心力が、周りの司力、水分を食らい、凝結を始めていく。


――氷へとだ。


――我流氷心術、霧氷(むひょう)


その名の如く、心力の霧が氷へと姿を変えてゆく。

〈クィア〉の全身に白い霜柱が立ち、周囲の温度が急激に低下していく。


――これが狙いだった。


〈ディスターブ・クィア〉は、変温動物なのである。

目に見えて、〈クィア〉の動きが鈍くなった。

加え、霜柱は厚みを増し、動きを束縛する。

〈クィア〉の甲羅を覆った霜柱を踏み、地へと降り立つ。


一種の彫刻(オブジェ)のようでもあった。


陽光の下、輝く大気。

レリーフのように〈クィア〉を包む白く澄んだ(つた)氷。

(はた)から見れば、芸術的な光景。

されど、両者がそれを気にする余裕は無い。


〈霙〉を構える。


次の一手の為に心力を注ぎ込み始める。

手元で、指向性の攻撃エネルギーが莫大に膨れ上がるのを感じたところで―――


〈クィア〉が動いた。


鎌のような爪を備える左前肢。

それが、拘束していた氷縛を強引に砕き迫ってくる。


「!」


――刹那の判断で、〈霙〉を振り抜く。


注いだだけの心力を全て解放。


――心術剣技、放刃(ほうじん)


心力を、斬撃に乗せて飛ばす基本技だ。

普段は収束行為を行うそれを、膨張過程だけで放つ。

無為(むい)の空を切り裂いて、水面色(サーフェイス・ブルー)(きらめ)きが溢れる。

光を(まと)う剛風が巻き起こる。

その風は、迫り来る鎌肢に着弾し、その力を相殺した。

それを確認する事も無く、後退。

その肢の射程から離れる。

「なんと……」

驚いていた。

変温動物が、この温度でここまで動くとは。

これはやばい。

計算が狂う。


――天秤が平行に、いやあちら側に傾く気配がした。


アクションにつき、今回は大増量号でした(^_^;)

アクションって、スピードが命ですからドコで切れば良いのか分からないのです(汗)

けど、読者の皆様が少しでも満足していただければなと思います。


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