第二十八夢:For my Merchant princess
前方の山が割れて――いや、詳しくは山と山の間からそれは――地響きと共に姿を現した。
鋭利な剣山の如き、紅蓮の甲羅。
炯々(けいけい)と光る、〈黄昏鉱〉色の瞳。
研ぎ澄まされた爪を持つ四肢は、歩む度大地を抉る。
――大きさは、八メトルはあるだろうか。
その巨体に絶句する。
「あ、あれ、は……」
――山道の入り口で見た大きな抜け殻を思い出す。
あいつだ。
あいつなんだ。
「――爬鎧套〈ディスターブ・クィア〉」
クリフがそう漏らした。
「危険度は――〈六〉です」
〈六〉。
人命に深刻な危険を与えるレベル。
そんな原生生物が、今、目の前に。
――戦慄する。
「ク、クリフ……」
思わず、名を呼ぶ。
「――どうしました?」
彼は、〈クィア〉から眼を離さず答えた。
その声音は、いたって冷静だ。
このことは予期していたかのようで、焦りは伺えない。
「どうしよう……」
そう言うしかない。
「どうするもなにも――」
クリフがこちらを向いた。
〈クィア〉が歩む轟音で、よく聞き取りにくい。
「こちらに危害を加えてくるようであれば、排除します」
けれど、それは良く聞こえた。
その機械的な返答が、心強く思えた。
「しかしまぁ、〈ディスターブ・クィア〉というのは湖沼を主な住処とする、大人しい生物のはずですが」
――そうだろうか。
私には、あの生物がおとなしそうとは思えない。
〈クィア〉の瞳は、私たちに注がれている。
その瞳には、炎が燃え盛っているように見えた。
「けどクリフ、あ、あいつヤバいよ…」
「確かに」
私の主張に、彼は同意する。
「あの感じはどうもいただけませんね」
クリフが、〈霙〉の柄に手をかける。
「エリザ、下がっていてください」
「む、無理だよッ!いくらクリフでも――」
「大丈夫」
彼が遮る。
「防具は、主を残して逝くような真似はしません」
笑顔。
――どうして。
どうしてそこまで強いのあなたは。
滲む視界。
クリフが、栗毛に背負わせていた楯を掴んだ。
壮麗な黄金十字。
その交差部分には蒼い獅子が牙を剥いている。
――守護者の騎士楯。
とても、美しかった。
「錬術」
〈霙〉の剣身が、生成される。
陽光を受けて、春の日の湖面の如き輝きを放つ。
「さぁ、轍姫、下がっていてください」
私を護る騎士が微笑みながら言う。
私は、それに従わざるを得ない。
「死なないで――獅子の楯」
気付いたら、そう言っていた。
「生きて、私の元に還って来て」
頬から伝う何かは無視。
「姫の仰せのままに」
クリフは恭しく返事をすると、〈クィア〉の方へと向き直った。
私も、興奮するミリアを宥めて、後退を始める。
――空気が張り詰める。
先程までは、ただの陽気な昼下がりだったのに。
――今ではどうだ。
こんなにまでも息苦しい。
いつのまにか、足音が止んでいた。
〈クィア〉は、鼻息荒く道を遮るようにして佇んでいる。
――静寂。
何かが、始まろうとしていた――
最終決戦といった雰囲気。
いや、まさしくそうなんですが(^_^;)
しかし、まぁ〈クィア〉は凄い大きさですよ(笑)
小さいビルくらいはある大亀です。
ガ○ラ?(笑)
それともク○パ?(^_^;)