第二十四夢:Reception
豪快な鐘の音に誘われるように〈ロントルトン〉の中央平場へ向かうと、そこには既に人だかりが出来ていた。
私は嬉しくなり、つい声を張り上げる。
「八荒八極橋渡し!この世の春を何処までも!皆様の生活の味方、〈街道会〉で御座いますッ!」
おぉ、と歓迎の声が次々と上がる。
『ようこそ、我らが〈ロントルトン〉へ!』
『良く来たな。待ってたんだよ!』
『若いのにご苦労なこったなぁ、お嬢さん』
『お疲れお疲れ!大変だったろう?』
『喉は渇いてないか?酒でも飲むかい?』
『馬鹿!昼間っから何言ってんのアンタは!』
『ガハハ!良いじゃねぇか奥さん!なぁ?』
湧き上がる笑い声。
歓迎に、涙が出そうになるのを必死で堪える。
「エリザ。仕事はまだ終わってはいませんよ」
クリフが微笑みながら、声をかけてくる。
アイギスもクリフの腕の中できゅいきゅいと鳴いている。
――そうだった。
彼の言う通り。
どっか行って頂戴、泣き虫さん。
泣いてる暇なんか無いんだった。
「この中で、ザスト=ハードロン様はいらっしゃいませんか?」
――ザスト=ハードロン。
今回の依頼主の名だ。
「うむ、ここにおるよ」
失礼、と人ごみを掻き分けて、一人の男性が私たちの前に現れた。
日に焼けた顔に刻まれた年相応の皺。
片眼鏡をかけた目元は柔らかい。
頭部にはまだ多くの髪が残り、豊かな髭を蓄えた人がよさそうな好々爺だった。
馬車から降りて、挨拶する。
「はじめまして。〈街道会ブラーナ本部〉よりやって参りました、エリザ=ブライドルです」
「うむ、はじめまして。この〈ロントルトン〉の村長をやっておるハードロンだ。遠路はるばる良く来てくださった。ここにおる皆の代表として感謝する」
手を差し出される。
「光栄です」
――握手。
農作業で硬くなったその手は、とても温かかった。
――……。
溢れ出しそうな感情をどうにか抑え付けて、業務的な話に入る。
「物資の方は、いかがいたしますか?」
「此処で開くのもなんだ。集会場へと運んでくれないか。案内するよ」
「かしこまりました」
自分の栗毛とミリアの手綱を握っていたクリフから手綱を受け取り、村長の後に従って歩き出す。
「皆、道を空けておくれ」
人波が割れる。
村長の人徳は、高いようだ。
姿勢の良い村長の後に続く。
広場を少し奥に入ると、横長の大きな木組家屋が見えてきた。
集会場だろう。
〈ステファン号〉を入口に横付けして、幌を開く。
「運び込みはこちらでやらせてもらうよ」
そう言って、村長は集会場に待機させていたらしい村の若手衆の肩を叩く。
お言葉に甘えて、彼らに任せることにする。
「分かりました。それでは、ご依頼された商品を確認していきましょう」
「うむ。入ってくれたまえ」
入り口の扉を開け放ち、荷を運びやすいようにしながら村長が言う。
「よし。では頼むぞ」
村長が声をかけると、はい!と威勢の良い声を上げて、屈強な若手衆は運搬作業に取り掛かった。
「僕も手伝います」
杭に手綱を繋いだクリフも、それに加わる。
「お願いね」
「まかせてください」
笑顔。
軽々と荷を持ち上げる。
さすがクリフ。
――さて、私も仕事だ。
私荷物から商品管理用の書類を挟んだファイルを取り出し、ハウス内の村長の元へと向かう。
村長の足元には既に荷物の山が出来ており、村長もファイルを捲りながら、視線を落としていた。
「お待たせ致しました。それでは、はじめましょう」
私は、元気良く言った――
エリザいわく、「前にも言ったけど!あれだからこの仕事は辞められないのよッ(涙)」だそうです。
人の心に触れる仕事だからでしょうね。
その横にいるクリフはとても穏やかな顔をしていました。
「あなたは誰?」って顔をしてましたが。
作者ですよ、作者。
まだまだ頑張ってね二人とも。