第十七夢:Sweet chap
――何かが、飛び出してきた。
「ひうッ!?」
驚きで、間の抜けた声が出てしまう。
クリフはとっさに構えを解き、それを捕まえた。
「な、なんだった……?」
楯を背負った、その背に声をかける。
「こいつでした」
クリフが振り向く。
その手に捕まっていたものは――
三〇セルメトル程の動物だった。
赤紫色の甲羅に、灰緑の肌を持った生物。
貴方たちの世界で言う、「亀」に似ている。
「か、可愛い」
きゅるきゅると鳴き声をあげてクリフに抵抗しているその子の頭を撫でてやると、どうにか落ち着いたようだ。
くりっとした、〈群青石〉の如き青く潤んだ瞳で、こちらをきらきらと見上げてくる。
心にガツン、ズキュンと来る愛らしさだ。
「どうしますか」
視線を上げると、微笑むクリフの顔があった。
「どうする、って……?」
首を傾げる。
その子も私の真似をした。
「親とはぐれたのでしょう――こいつはまだ生まれて間もない幼生のようです。外敵に抵抗する術はおおよそ持ち合わせてはいない。このまま此処に放って置けば、幾日と待たずやられてしまうのでは……?」
これでは、誘導尋問だ。
「つ、連れて行きましょう!」
やられた、という感じで言い放つ。
クリフも、動物が好きなのかもしれない。
「それでは、エリザの馬車で保護しておいて下さい」
ニヤリと笑うクリフから、その子を受け取る。
「あ、れ……?」
抱いてから、違和感に気付いた。
この子の甲羅、生まれて間もないのに、多くの傷がついてる。
そして、後ろの右足から血が。
最近、やられたのかな――
そのことを言おうと視線を上げると、険しい顔をした騎士が居た。
「――ク、リフ?」
「し。静かに」
――緊張が走る。
何かを感じ取ったらしい。
クリフは、抜け殻の奥を見据えている。
「ど、どうしたのッ?」
小声で問う。
「僕としたことが――ぬかっていたようです」
さがって、とクリフが呟く。
「敵です」
なんか出ましたね(笑)
アイツが後々、鍵を握る恐れがあります。
決して目を離さないでくださいませ。