第十六夢:Vacant hill
それから、数時間。
時刻は、お昼近く。
私たちは、ようやく目的地〈ロントルトン〉へと向かう、別れ道にたどり着いていた。
「な、何コレ……」
そこで、ソレを見た。
「大きい……」
――それは、山道の大岩に、ぴたりと寄り添うようにして項垂れていた。
緩やかなカーブを描く頂はギザギザと隆起し、その上に鳥が止まろうものならそのまま串刺しにされてしまいそうだ。
「これはまた随分……」
クリフが相棒さんから降り、巨塊に近付いていく。
「あ、危ないよッ」
「大丈夫ですよ」
護衛する者が護衛される者に心配されるとはなんとも滑稽だ、いった表情でクリフはこちらを向く。
「コレは恐らく――抜け殻でしょうから」
「え……?」
理解が出来ない。
「もう少し行けば分かりますよ」
栗毛君に乗り直し、クリフは進みだした。
私もミリアを急かし、後に続く。
「ほら」
――意味が分かった。
私たちが見ていたのは、側面だったらしい。
で、こちらが正面。
大きなソレは縦にパックリと割れていた。
そこから、何かが這い出して行ったかのように。
ん?と、いうことは――
「そう、これは原生生物の脱皮の後です」
クリフが、私の表情を読みながら言う。
なんて大きいのだろう。
ゆうに、七メトルは超えているんじゃないだろうか。
「原生生物も此処までくると、最早自然災害としか言いようがありませんね」
クリフが苦笑しながら、その抜け殻を眺めた。
私は自然の驚異に圧倒され、言葉も出ない。
「見た所、脱皮してまだ日が浅いようだ。これからは、最善の注意を払って進みましょう」
「……そう、だね」
最悪の場合出くわすかもしれません、と末恐ろしいことを言い残し、クリフは進み始めた。
――その時。
私の視界にチラリと動くものが入った。
「何?」
抜け殻の穴の根元。
そこらへんが、揺れたような。
「どうしました?」
先を進んでいたクリフが、怪訝な表情で振り向く。
「いや、ちょっと……」
好奇心というものは、抑えきれない性質だ。
ミリアに待機の指示を出し、馬車から降りる。
「何か動くものが、ね」
そう言うと、クリフが慌てて戻ってきた。
「危険です。原生生物だったらどうするんですか」
旗を降ろし、腰の得物に手をかけながら走り寄って来た、クリフが追いつく。
「あそこ。あの根元らへんがさっき――」
「分かりました。私の後ろにいてください」
二人で、やや慎重に近付く。
ガサリ。
陰で、何かが動いた。
やはり、見間違いではなかったようだ。
瞬間。
――何かが、飛び出してきた。
大きい抜け殻でしたね(^^)
この物語の世界観では「生物」さも、我々の世界とは異なります。
分かりやすく言えば、あちらの世界にはカンブリア紀やオルドビス紀時代のものに良く似た植物が繁栄し、ジュラ紀や白亜紀時代の物に良く似た生物が跳梁跋扈しているのです。