第十四夢:Never tears
「二人でたったの八千ルクラ!?」
チェックアウトの手続きをするため、私たちはカウンターにいた。
「いくらなんでも安すぎるよ、おばあちゃん!」
あそこまでしてくれたのに。
あんなに美味しかったのに。
どうしてそこまで低価格なのだろう。
それじゃあ赤字じゃない。
儲けなんて無いよ。
「いえいえ。本当は高いくらいよ」
おばあちゃんは、困ったように笑った。
「あそこまで私に関わってくださってね。本当はお金など取りたくありません。けれど、それならばやっていけない。分かってちょうだいね」
分かるも何も――
「ありがとうございました」
クリフが、大人しく紙幣を差し出した。
「こちらこそ」
「ク、クリフッ!?」
「誠意は黙って受け取っておくものです」
――何も言い返せない。
「お嬢さん、そんな顔しないで頂戴。私は大丈夫よ。どうか、あの笑顔で出発してくれないかしら」
おばあちゃんを見つめる。
困った顔。
もしかして、私も同じ表情かもしれないな。
イヤだ。
そんな顔して欲しくない。
心の底からこみ上げてくる何かを必死で抑えて――
――笑う。
「ありがとうございました」
「それでいいのですよ」
「私、エリザって言います」
おばあちゃんの目が少しだけ大きくなった。
「あら、奇遇ね。私もなのよ」
――私も、驚いた。
クリフも、偶然とは恐ろしい、などと呟いている。
「エリザおばあちゃん!私、絶対、また来ます!」
「ええ、約束よ」
涙は流さず。
絶対。絶対。
「それじゃあ、行ってきますエリザおばあちゃん!」
「ええ、行ってらっしゃいなエリザ」
別れは、お互いに笑顔で――
暖かな休憩を終えて、二人はまた進みます。
そこに困難が待ち構えていようとも。
――二人なら、行ける。