第二章 第四部 大都市クリセスト
「ひさしぶりだね優馬」
昨日の疲れから、ぐっすりと眠っていた彼の夢の中にあの子は現れた。
「キスティインか、」
相変わらず穏やかな口調で話す彼に、キスティインは少し申し訳なさそうに話を始めた。
「君が英雄になるって話、きっともう聞いたよね。ごめんね隠してたってわけじゃないんだけど。僕にそのことを伝える権限がなかったんだ。」
きょとんと顔を下に向け話を淡々と進めていく。
「いろんなことをこれから覚えなきゃいけないと思うし、きっと優馬に負担がかかるかもしれない、楽しいことばかりじゃなくて、昨日みたいな厳しい状況下で戦わなきゃいけない時もあると思う。」
そうしてうつむいた顔をを上げて一言こうつぶやいた。
「それでも自分を信じて」
そう呟いてキスティンは彼の目の前からゆっくりと消えていった。
「優馬!あれ、あそこ」
広い荒野を飛び続けて実に二週間、ついにクリセスト到着の兆しが見えた。それは数千メートル先に広がる大きな壁。
「きっと町の安全を確保しているんだね」
そうして壁の見える方向へ、スピードを上げてユーは飛び続け、ようやくあと少しで着くというときに目の前に長蛇の列を組んだ人たちを視認した。
「あれはなんだ」
眠っていたシロエと盗賊の男が目を覚まして、ユーの背中から顔をのぞかせその方向を見ると。
「あれは、ギルドですかね?」
「あ、あいつらつかまったのか」
シロエは彼らの服装からギルド関連の人間と推測し、盗賊の男は列を組む彼らの顔を見て、仲間だといった。
「てことは、シロエが報告してた、ギルドの人たちじゃないか?」
あの夜の後、倒れている盗賊の人たちをほっとくのもと、シロエがギルドに連絡を送り、ギルド隊が盗賊の身柄を確保するということだった。
「あいつらだけ捕まえて、俺をどうする気だ」
仲間だけ捕らえられたのが気に障ったのか、盗賊の男は急に叫び、暴れだした。
「お、落ち着けって、ちょっとユー着陸できるか」
彼がそういうと、はーいっとユーは標高を下げて、長蛇の列の前に降りた。人々は上を向きながら、口を開け、驚いたようにこちらに目線を送っていた。
「あ、あの。報告したものなんですけど」
「き、君たち三人でこの数を撃退したのか?」
「は、はいそうですけど、この男も一緒に連れてっていただけると、助かるのですが」
「わかりました」
先頭を歩いていた男性に事情を話し、男がこの盗賊のリーダー的者だと話、彼が連れてきた男を引き渡した。
「それでは、僕たちは先に行きますので」
男を渡した後彼らは再び飛び立つと、先頭に立っている男性がクリセストに入るには通行手形が必要だよと、彼らに伝え、一例をした。
「えっと、確か通行手形はエヒリヤスでギルドマスターにもらったはずなんだけど」
クリセストに到着する前に通行手形を出しておこうと彼は、バックの中をあさっていた。
「あれ、まって、」
確かに貰ったはずなのだが、バックの中には見当たらず、少しばかり不安そうな顔をしていた彼の顔を見ていたシロエはくすくすと笑いながら、シロエのバックから彼の通行手形を取り出した。
「エヒリヤスを出るとき私が預かったの忘れてたでしょ」
そう言われ、彼はシロエが預かっていたことを思い出し、よかったと、安心した様子でいた。
それから間もなくしてクリセスト入り口の門に二人の男性が立っているのが見えてきた。そうして彼らは二人の前に降り立った。
「とまれ」
一人の男がそういうと、二人は槍のようなもので彼らを止めた。
「どこのものだ、何しにこの町に来た」
「ちょっと待ってね」
そういうとシロエは用意していた、通行手形を取り出し二人の男性に見せた。
「ふむ、ではあなたが英雄優馬様ですか」
通行手形を見た二人は槍を自分の脇へと戻した。
「はい、一応」
「そうでしたか、どうか無礼をお許しください、門を通ってまっすぐの道を進むと、城が見えてきます、一度王様とお話をなさってはいかがでしょうか」
「分かりました、それでは、ご苦労様です」
思っていたよりも通行手形は有効だったのか、門番をしていた男たちはすぐに彼らを町の中に入ることの許可を降ろした。
「こんなに遠いい場所なのにどうして僕のことを知っているんだろう」
安全のためなのか町につながる門の先はトンネルになっており、それなりに長く、潜り抜けるまでにそんな話をしながら三人は歩いて行った、しばらくして暗かったトンネルの出口が近づいてきたのか光が差し込み、賑やかな人の声が聞こえてきた、だんだんと声は近づいていき、強い光が彼らの視界を奪った。そうして少しづつ見えてきた町の景色に彼は唾を呑み込んだ。
「す、すごい」
目の前にはとても輝かしい町が広がり、正面にある一本の長くて広い通路には元の世界で言う「車」が走っていた。
「十年ぶりくらいだけど、何も変わってないのね」
シロエは少しつまらなそうな顔で言ったが、彼にはなぜつまらなそうにしているのか見当がつかなかった。
ユーはあまりにも多くの人がいたのか怯えながら彼の背中に身を縮めていたが、彼はそんなことにお構いなしに町の方へと走っていった。
「ここは、まるで地球だ」
「地球ってあなたの元居た世界の?」
小走りで後ろを付いてきたシロエが驚いたかのようにしていた。
「ああ、この街並みは日本のようだ、それに車があったとは、技術力がエヒリヤスとは比べ物にならない」
「それって、私たちに喧嘩を売ってる?」
「い、いやそういう意味ではないんだけど、でもこのコンクリートでできた家も、鉄でできた自動で走る車だって、エヒリヤスでは一度も目にしていない」
「それはねぇ」
シロエの返事が返ってくる前に彼は目には入った和食の飲食店へと駆けつけていった。
「ちょっと、人の話は最後まで聞きなさいよ」
「シロエ、ユーここで飯を食べよう」
この世界に来てから訳一か月、まともな飯を取っていたなかった彼は、久しぶりの和食に舞い上がっていた。