第一章 第十三部 世界の闇
ギルドマスターに拉致されたあの日から、彼らは、エヒリヤスの総本部とも呼べる大きなギルド本部で寝泊まりをすることになった。そんな出発を決めた彼らにまた一人の女性が訪ねてきた。
「失礼」
それは出発を当日に控えた、その日の朝のことだった。
「少しばかり話をしたくて来たのだが、時間をもらっても構わないか」
彼女はどこからか彼らが旅立つと聞いて急遽話をしに来たらしい。
「ここではなんだから、ギルドマスターの部屋にでも行かないか?」
その話とは、彼が思っている以上に軽い話などではなく、彼が送るこれからの生活にかかる重大な話だった。
「ギルドマスター入るぞ」
「呼んできてくれたか、入ってくれ」
大きなギルド本部の最上階、大きな扉が待つその部屋へと彼は連れられていた。
「ささ、座ってくれ」
部屋に入ると正面にずっしりと構えるギルドマスターがひとり。
「どうしたのですか、こんな部屋でお話とは。」
「まあまあ、座ってからゆっくり話そう」
それではと彼らはギルドマスターの正面に用意されていた椅子へと腰掛、話を始めた。
「まず、挨拶がまだでしたね。改めて挨拶しよう。私はこの町のギルドマスターを任されている、アイル・ガレン、そしてそっちが」
「騎士団長を任されているアイル・ソフィです」
そういえば名前をまだ聞いていなかったんだった。こんなに丁寧に挨拶してくるとは、それなりの話ってことだよな。
「僕の名前は石月優馬です。それでお話とはいったい」
「そのことなんだが。優馬君が今日この町を離れると聞いて、話しておかなければと思っていたことがあってな。」
「私から説明させてもらいます。」
ソフィはそう言うと一度唾をのんでこう言った。
「単刀直入に伺います。あなたこの世界の住民じゃありませんね」
「え、いや住民っちゃー住民ですけどそれってどういうことです?」
思いもよらぬ質問が飛んできた彼は動揺を隠せずに少し高い声で返事をした。
「少し、質問を変えよう。あなたが生まれたのはこの世界ではない、ほかの世界ではないのか?」
あれ、何、これって言っていいんだよね。確かキスティインは言っちゃいけないだなんて言ってなかったし。うん、言っちゃえ。
「はいそうです。」
「うむやはりな。」
ほとんど見当がついていたのか、ギルドマスターも騎士団長も一切驚かずに、話を進めていった。
「前にもこの世界にやってきた、ほかの世界の住民がいた。彼の名は英雄松島茂、私たちが生まれる何千年と前の話だが確かに存在した、「別世界」の人間だった。」
「英雄ですか?」
「彼はこの世界が闇に包まれそうになった時に現れ、この世界を救ってくれたとここに記述されている。」
ギルドマスターが机から分厚い本を取り出し、あるページを開いた。
「これは。冒険者プレートですか」
「その通りだ、そして重要なのは職業と称号。」
そこには彼と似た職業と称号が記されていた。
「職業 実力者、称号 現われし者」
「ああ、あなたの職業と称号が少し気になり調べてみたのだが、やはりまったく一緒のものは見つからず、結論から英雄と同じく「別世界」の人なのではないかと推測した。」
「それで、その英雄と僕は同じ世界から来たとして、何を僕に伝えたいのですか?」
その質問をした後にギルドマスターと騎士団長は少し言いずらそうにしながら、こういった。
「「この世界を救ってほしい。」」
話の内容から若干感づいてはいたが、果たしてその英雄と同等の力が僕にあるとは思えないし。何よりこんな重大なことを任されることに僕が絶えられない。
「申し訳ないのですが、そのようなことを言われても僕には荷が重すぎます」
「わかっている、優馬さんただ一人でとは言わない、私たちも全力で手助けする」
助けがあるというが彼には「世界を救う」という実感がない、すなわち僕じゃなくてもという軽い気持ちでもあった。
「わかっている。優馬さんもこの「世界」にきて日が浅いだろうから、まだまだ知らないことも沢山あるだろう、君の行動を見て分かったが、本当に自分がどれほどの力を持っているかまだ、分からないだろう」
「それもそうですが、まだ世界の何から守ってほしいのかがわからないのですが。」
「す、すまなかった本題をまだ話していなかったな」