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小さな幻想の育成日誌

作者: ゆたんぽ

初投稿です。

 20XX年○月□日

 日曜日

 晴れ


 □■□


 06:09

 キョン、キョンと耳元から聞こえるよく通る声と、若干の焦げ臭さで目が覚めた。

 メガネをかけると、枕元に紅緋べにひ色と金色を混ぜたような色の小さな不死鳥がいた。

 この鳥が本来いるはずの鳥籠を見てみると、梧桐あおぎりでできた網に穴が空いており、縁が黒く燻っている。

 どうやらこの鳥は、またしても火を吹きかけて籠を壊したらしい。消火がされているのは前回叱られたのを覚えているからだろうか。

 火を吹く鳥を木製の籠で飼育する難しさに頭を抱えていると、悩みの種が肩の上に乗ってキョン、キョンとまたさえずりはじめた。熱い。

 どうやらお腹がすいているらしい。

 水槽と鉢植えには異常がないことを確認して髪を雑にまとめ、白衣に袖を通して餌の用意を始めた。


 □■□


 06:21

 金魚の餌(テ○ラフィン)と霧吹き、水差し、竹の実を用意し、給餌を始める。

 キュア!キュア!と叫びに近くなったさえずりを無視し、水槽のカバーを外した。

 この鳥の給餌には手間がかかるので、いつも最後に回しているのだ。

 水槽を覗くと、コバルトブルーの瞳と髪色の小さな人魚がオドオドとした表情でこちらを見上げていた。

 この人魚の水槽は15cmほどの全長に対して狭くはないのだろうか。もう一回り大きな水槽に変えてやりたいと思って何度か申請しているが、なかなか受理されない。

 金魚の餌(テトラ○ィン)をパラパラと落とすと、それを食べ始めた。

 髪に絡まったり掴みにくかったりでとても食べづらそうだ。もう少し食べやすいものを探してみよう。


 □■□


 06:25

 完食した人魚が水槽から身を乗り出して歌を歌い始めた。歌詞のない綺麗な歌だ。

 この人魚の由来は海らしいが、肺呼吸のようなので淡水でも問題ないとされ、以前は海水を使用していたがコスト面から今は淡水で飼育している。

 歌に呼応するように大きくなるさえずりを無視しつつ、小さな人型の木が植えられた鉢に向かう。

 木は不機嫌な老婆のような姿をしていたが、水を鉢に注ぐとどんどんと若返っていった。

 しばらくすると20代ほどの見た目で変化が止まったので、注水もそこまでにする。

 今日は天気が良いので窓際に移動させてやることにした。

 以前、うっかり鉢を落としてしまったときに耐え難い声で泣き叫ばれたので、移動は慎重に行う。

 指差しで細かい位置を指定してくるので、それに従う。機嫌を損ねてまた泣き叫ばれてはかなわない。

 霧吹きで水を吹きかけてやると、とても嬉しそうに笑った。


 □■□


 06:28

 あまり待たせると髪に火をつけられそうなので、不死鳥の給餌を始める。

 手間がかかるとは言ったがそこまで難しいことをする訳ではない。食べやすい大きさにした竹の実を、匙で掬って食べさせてやるだけだ。

 一丁前に飛び回るくせに食べさせてもらわないと食べられないというのはどういうことなのだろうか。

 私の肩などにも乗るし金属製のものでも良いはずなのだが、この鳥は梧桐製でないと酷く不機嫌になる。まだ幼鳥ということかもしれない。

 この鳥は籠の材質といい餌の内容といい鳳凰を連想させるが、本来鳳凰にはないはずの特性も併せ持っており、死んでも蘇るという特性から便宜的に不死鳥と呼ばれている。


 □■□


 08:18

 たっぷり8分かけて竹の実を食べさせて鳥籠の代わりに桐箱を被せ、シャワーと朝食を済ませると、水槽の方からピチピチと音が聞こえてきた。

 どうやら水槽から身を乗り出しすぎた人魚が落ちたらしい。やはり狭いのか。

 申請が通るまではせめて快適にすごして欲しいので、午前中は水槽の掃除をすることにした。

 人魚はバケツに水を張ってそこに入れ、別室へ掃除道具を取りに行った。


 □■□


 08:21

 戻ってくると桐箱は燃やされて不死鳥が部屋中を飛び回り、バケツから出てしまった人魚が床でピチピチと跳ねていた。

 気は使うが手のかからない窓際の鉢植えの主は呑気に寝ている。

 ……自分はこの仕事向いていないのではないか?

 人魚には申し訳ないがバケツに蓋と重石を乗せ、不死鳥は諦めて部屋の中を自由にさせた。


 □■□


 10:22

 流木や水草、生物濾過のためにヌマエビなども入れたことがあったが、この悪食な人魚がみんな食べてしまったのでこの水槽には底砂しかない。

 そんな水槽だが、フィルターは複雑な構造なので掃除に時間がかかってしまった。

 綺麗になった水槽に水を張って人魚を入れてやると、クルクルと舞うように泳いでいた。

 さて、昼食までに新しい鳥籠の申請と水槽の催促をしよう。


 □■□


 11:56

 上司殿は水槽の申請書をうっかりシュレッダーにかけてしまったらしい。前回は上司担当の生物に燃やされてしまったのだったか。嫌になる。ハゲてしまえ。

 部屋を自由に飛び回る不死鳥の監視を同僚に任せ、午後は備品などの買い出しに行くことにした。

 お使いを大量に頼まれたが、日曜日に仕事を頼んだのだ。仕方がない。

 この施設の外に出るのも久しぶりだ。いい気分転換にもなるだろう。

 とりあえず昼食を済ませよう。


 □■□


 18:18

 久々の外出と買い物に時間を忘れてしまい、遅くなってしまった。

 同僚には今度なにかしら奢ってやらなければ。

 部屋に戻ると不死鳥は壊れた籠の中で眠っていた。

 同僚に礼を言って缶ビールを渡し、買ってきたものを仕舞った。


 □■□


 18:30

 お優しい上司殿は鳥籠の修理に材料と工具を渡してくれた。新調は許してくれないらしい。いっそ燃やし尽くしたら新調してくれるかもしれないな。

 気持ちよさそうに寝ていた不死鳥にそっと声をかけて起こし、修理を始める。

 籠の修理は三回目なので慣れたものだ。燃えにくい加工などできないだろうか。


 □■□


 19:03

 寝不足がたたって作業中にボーッとしてしまい、手を怪我してしまった。

 救急箱を探していると、不死鳥飛んできてが傷口を羽で撫でた。

 すると傷が癒えた。

 ……報告書に書くことが増えたな。日が変わる前に寝られるといいが。


 □■□


 20:33

 籠の修理が終わったので夜の給餌を行う。

 朝とそんなにやることが変わらないので手早く済ませよう。

まずはすっかり老いてしまった鉢植えの主からだ。


 □■□


 20:50

 人魚の餌を今日買ってきたザリガニ用の大粒のものに変更したら喜ばれた。

 鉢植えを慎重に元の位置にもどし、おやすみと声をかけて部屋の明かりを落とす。今日は叫ばれずに済んだな。

 不死鳥は籠に入ると修理した部分を不服そうに齧った。夕方に少し寝ていたのでまだ眠くないのかもしれない。

 籠の中にちょっとお高い香木を入れてやる。これも今日買ってきたが、ザリガニ用の餌と違って経費で落とせなかったので自腹を切ったものだ。

 今日発覚した特性が上の耳に入れば、早ければ明日、遅くとも3日以内に実験があるだろう。

 いざという時に釣るためのご褒美として買ったが、我々の都合で窮屈な思いをさせてしまうだろう実験に付き合わせるのだ。いい思いをさせてあげてもいいだろう。

 早速楽しみはじめたようで、良い香りが漂ってきた。

 さて、夕食を済ませたら書類作成だ。


 □■□


 23:48

 何とか水槽の申請書と不死鳥の報告書が仕上がった。

 不死鳥も眠っているようだ。

 せっかく直した籠をまた燃やされては困るので、明日からまた早起きして給餌しなければならない。

 今日も泊まり込みだ。シャワーは起きたら浴びよう。

 メガネを外して髪を解き、白衣を脱ぎ捨てて簡易ベッドに倒れこみ眠りに落ちた。

元々連載する予定だった作品を短編にしてみました。

気が向いたら連載するかもしれません。

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