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5.■魔法と準備

昼食が終わり、小休憩を挟んだ後に今度は魔法の授業を行う。

魔法を教えるのは宮廷魔術師のテレサと呼ばれるふくよかな女性だ。


テレサは熟練の魔術師であり火・水・土・風の基本四属性を扱うことができ、治癒術も下位であれば唱えることが出来る万能型だ。


中でも水属性が彼女の得意ジャンルであり、魔法の構築も水であれば周りへの危険が伴わないため、彼女が教師としてアリッサを担当する事になった。



「テレサ今日もよろしくね」


「はいアリッサ様、本日もよろしくお願いします。あとゼロも今日は付いてくれるのね」


「はい、邪魔にならないよう、少し離れています」


魔法の授業は部屋の一室で椅子に座り、お互いに向き合った状態で二人の間には水桶を置き、その上で魔法の練習を行う。


ゼロも急ぎの業務がない限りは、少し後ろから見守るようにしている。

アリッサが魔法の制御が出来なかった場合の家具への対処を行うためである。


「では、始めましょうか」


二人が席に着いたのを確認したゼロは部屋の入口あたりで待機をする。


テレサは魔術師という立場であるため原則ローブを着て過ごしている。赤毛で毛先に少しウェーブがかかっているのが彼女の特徴だ。


少し小皺(こじわ)が目立つが年齢の割に若く見られると言われるらしい……本人談だ。


アリッサの教師はすべて年齢層が高い人物が教えている。

もちろん過去に若くて実績がある者も教師として招かれたこともある。


だが、アリッサの性格で精神的に長く続かず消えてしまい、披露宴へ向けてダンスレッスンの強化を境に教師陣を年配層へガラリと変えた。

その結果、習得状況はとやかくアリッサも授業を続けていられるようになった。



「本日も私が初めに見せるのでマネをしてみてください」


テレサはそう言うと両手を前に出し、指を広げ呪文を唱える。


『来たれ清流、我が導きに応えよ』


両手からうっすらと淡い光が出て交じり合うと、20㎝ほどの水の球が成形された。


「この後に続けて呪文を唱えると、下位魔法のアクアシュートとなります。先ずは構築の練習が先ですので頑張りましょう」


テレサは両手を下に降ろし、水桶にちょぼちょぼと自ら構築した水の球を流しいれる。

目の前で確認したアリッサもうんと頷くと両手を前に伸ばし、同じように呪文を唱える。


『き、来たれ清流、我が導きに応えよ?』


両手から淡い光が出て交じり合う。

そして……


水の球が成形できず交じり合った先からチョロチョロと下に流れてしまった。


「うーん、なんで出来ないのかしら?」


「アリッサ様、想像も大事です。頭の中で水の球が出来ているようにイメージしてからもう一度やってみて下さい」


「わ、わかったわ」


アリッサはもう一度呪文を唱える。

『来たれ清流、我が導きに応えよ』


今度は詰まることなくスムーズに詠唱ができた。

すると、水の球がグネグネと作られ―――



―――パシャ!!!


「「きゃっ!」」

音を立てて水が弾けしまい二人ともグッショリと濡れてしまった。

ゼロは慌てて駆け寄ると、手ぬぐいを二人に手渡す。


「大丈夫ですか?」


「ありがとうゼロ、やっぱり構築は難しわね……力を入れると破裂するし、弱いと形にならないわ」


テレサは顔を拭きながら、魔法の構築について語りだす。


「アリッサ様のおっしゃる通り、マナの力加減で形が変わってきます。呪文を唱えマナの量を増やすようにすると形や威力が大きくなります。

逆にマナを減らすようにすると形や威力は小さくなります。

達人クラスになると構築の際に意図的にマナの量を調節するので、下位魔法でも使い方によって脅威になりますよ」


「下位の魔法がどのように脅威になるの?」


「そうですね……例えば今練習している水魔法ですが、これは呪文を最後まで唱えた場合ですが、

『来たれ清流、我が導きに応えよ。水球の矢となりて放たれん』

これで、アクアシュートになります。

構築時に出来るだけ薄く、そして丸くて平べったい水を成形します。

アクアシュートを放つ際に回転を加えて放つと、相手をスパッと剣で切るような攻撃にもなります。これが下位魔法でも使い方次第で脅威になるという事です」


「すごい、カッコいいわね! 私も早く出来るようになりたいわ」


「うーん……アリッサ様はもしかすると治癒術の方が向いているかもしれませんね」


「そうなの?」


「えぇ、治癒術は呪文を唱えますが構築する必要はありません。相手の負傷部位に手を当て、マナを馴染ませる必要があります。マナの量が多いほど治癒力は高くなります」


「うーん、よくわからないわね……まぁ、治療術はいいわ! 攻撃魔法を覚えたいのよ!」


「かしこまりました。では、引き続き練習をしてみましょう」


その後、練習は続けるがやはり構築は出来ず、ムキになったアリッサは力んでしまい、1mほどの水の球を破裂させてしまった。

その結果、ゼロを含めた三人は再びずぶ濡れになってしまうのだった。



※※※



魔法の授業も終わり、夕食が出来るまでアリッサは再び小休憩に入る。

休憩と言ってもメイド達による、夕食までのドレスアップを行っている。


ゼロも授業後は日頃の業務を行う。

業務内容はメイドへの指示や教師たちとの打ち合わせ、夕食での皿選びなどだ。


まれに執事長のジョルジュとアリッサの事を話すことはあるが、ジョルジュからアルフォードについての情報共有はされない。


ゼロから一度だけアルフォードについてジョルジュに伺ったが、「余計な詮索(せんさく)は不要」と返され、それ以降は聞くことをやめた。


アルフォードから絶大な信頼を置いているのがジョルジュだが、彼は自分の事を人に語らないため謎の多い人物である。



夕食の時間になると大きなテーブルにはいつも2人で食事を行っている。

アルフォードは昼食時にアリッサと食事をする機会が少ないが、夕食は用事がない限り一緒に食事をするようにしている。


食事時が唯一のコミュニケーションの場であり、翌日は外出となるため、注意も兼ねてアルフォードがアリッサへ話しかける。


「明日がギルドへ行く日になるが、問題を起こさないように大人しくゲイルに付いていくのだぞ」


「わかっているわよお父様、もう心配性なんだから……ところで、お買い物とかしてもいいわよね?」


「買い物?」


「気になる物があれば買ってみたいのよ」


「うーむ、買い物か……」


通常であれば断るところだが、これはよい勉強になるのではないかとアルフォードは考えていた。

普段、王族が市街で売買をする事などない。

また、貴族でも召使を使わせるので実際の物の相場などはわからない。


市場での売買は必要ないと思い、算術に力を入れていないが、実際に現場に赴くことで学ぶ経験になれば良いと考えをまとめた。


「わかった、買い物も許可しよう。ただし、このことはゲイルと護衛にも伝えておく」


「やった! お父様大好き!」


「ではゼロ、後ほど100ゴルドほどお前に渡す」


「ひっ、100ゴルドでございますか! 失礼ですが、それは少しばかり多い気がします」


「ふむ? ではいくら必要だ?」


「5ゴルドあれば十分かと」


「ふむ、少ない気もするがわかった、ジョルジュからお前に渡しておこう」


「かしこまりました」


王族の金銭感覚はやはりずれていると、ゼロが再認識したところで夕食は終わった。

夕食後、アリッサはメイドに連れられ入浴を行い、猫の顔が散りばめられているパジャマに着替える。


本来ならば薄いシルクのシーツを寝間着として着るのだが、貴族街で外出をしていた幼少期のアリッサが行商人が扱っていた商品を気に入り、買い取った事がきかっけでパジャマを着るようになった。


パジャマはアリッサの成長につれ、サイズを合わせて作り直しもしている。


夕食の片づけを終え、アリッサの入浴が終わるまで少しの間待っているとさっぱりとしたアリッサが浴場から出てきたので、ゼロは部屋まで送る。


「明日は何を着ていこうかしら? やっぱりいつもの純白のドレスにしようかな」


「明日はお忍びでの外出となりますので、目立つような服装では控えて下さい」


「えーじゃあ、パジャマで行くことになるのー?」


「いや、パジャマもやめてください」


「わかったわ、じゃ、裸で行く!」


「アリッサ様……それ以外に着ていく服の希望はないんですか?」


「ないわ」


「……ではメイドに外出用の服を用意させます。明日の事もありますので早めにおやすみください」


「わかったわ、おやすみゼロ」


「おやすみなさいませ」


挨拶を済ませるとゼロはドアを静かに閉めた。

この後ゼロは()()()()()()、夜更けに床に就くのだった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


≪アリッサ習得具合≫

剣術:基本の型は出来る

礼儀・作法:挨拶や作法は問題ない

ダンス:簡単なダンスは可能

魔法:構築は出来るが、マナの調整が出来ない

歴史:二つの主要な戦争は大体わかる  

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