49.■メルトへ向けて
ポネの村でお世話になったケイと別れたゼロ達はメルトへと向かう事になる。
そして、成り行きでアナと言う魔術師の少女とも出会い、目的地が一致しているためメルトまで行動を共にする事になった。
「ところでまだそのメルトって街まで着かないの? はぁ……もう疲れたよ」
アルスが文句を言いながらダラダラと歩いていた。彼はマナが枯渇し、一時的に戦闘が行えない状態だったが現在は旅の同行は問題が無いところまで回復している。
「……ホントよ、私も疲れたわ……なんで私が歩かないといけないのよ……ゼロ、私を抱えて運びなさい!」
珍しくアリッサもアルスの意見に同調した。旅の中で少し成長は見受けられるのだが、わがままな性格は一向に直らないようだ。
「森ではアリッサ様が怪我をされたので背負いましたが、今回は我慢してください。それに私の両手が塞がれたらいざと言う時に皆さんをお守りする事が出来ないです」
ポネでは馬を貰うことが出来ず、メルトへは徒歩で向かうことになる。
盗賊達が所有していた馬は元々近隣の村から奪いとった物になるので、おいそれと旅人に貸すことなど出来ない。
大都市メルトを中心に少し離れると村や町があり、馬に乗れば日帰りで帰ってこれるが徒歩だとキツい。
そのためメルトや近隣の町村へ行くならば馬車を利用する者が多く、野党や魔物から馬車を守るためギルドから護衛の仕事も多く存在する。
「……ふぅ、もうすぐで日が沈みそうね、そろそろ野宿した方がいいわよっ」
文句を言っている二人ほどでは無いがアナも少し疲労が見えている。
アナはなぜか道中でゼロの顔をチラチラと見ており、その視線に気付いたゼロは見返すのだが、すぐそっぽを向いてしまう。
三回目あたりからゼロは気にしない事にした。
しばらくすると近くに大きな岩の窪みを見つけたのでそこで野宿をする事に決める。
当然、食べるものは何も無いので食料を調達しなければならない。枯れ草を集めアナの魔法で焚き火を作ると食料探しはゼロの役目となる。
幸いメルト付近は定期的に魔獣駆除が行われているので、そこまで強い魔物と出くわす可能性も低い。
「では、ゼロくん野生動物を狩ってきたまえ。私はアナルンとお姫様をお守りしないといけないからね。さぁ、二人とも私の近くに来たまえ!!」
アルスはどっかり座ると両手を広げ二人を迎え入れようとしたが―――
「誰がアンタの近くに行くのよ!!」
「あだ名で呼ばれてるけど、まだ私あなたとそこまで親しくないわよね?」
アリッサには怒られ、アナには嫌悪の眼差しで見られたがアルスは気にもせず「照れなくていいよ」と、すかした笑いをしながら両手を広げ続けていたので―――
「アンタしつこいのよ!!」
「あがぴッ!! 久しぶりに……ありがとうございます……」
アリッサの鉄拳が炸裂し、お礼を言いながら天に召されたアルスを見届けたゼロは狩に森へと繰り出したのだった。
索敵能力に長けているゼロにとって狩猟は容易い。巣に戻る鳥類やラビットなど気配や音で認識し、いとも簡単に仕留めるのだ。
血の匂いで魔物を寄ってこさせないため、獲物の処理は野営地から離れた場所で行う。
皮を剥ぎ、臓物を取り除き木の枝をダガーで尖らせ処理した生肉に突き刺して焼く……原始的な料理だ。
「なんか肉なのにあんまり味がしないわね……」
アリッサが肉にかぶりつきながら微妙な顔をして食べている。当然のことだろう、香辛料も何も付けてない素材の味である。
「ところでずっと気になってたんだけどアリッサって貴族に見えるのに、どうしてこんな旅をしてるのっ? 従者もいるなら馬車で移動すればいいじゃない」
不意なアナの質問にゼロは黙ってしまった。確かにそうであろう、執事と護衛を従えているのに手持ちの金もなく、馬車もない……疑問に思うのは仕方のないことである。
「…………アリッサ様」
また、一国の王女である事も伏せなければならないため慎重に回答しなければならないと判断したゼロは目で合図を送る。
そして、アリッサも意図を汲んだのかコクリと黙って頷く。いつもはおちゃらけているアルスもさすがに空気を読み、静かに肉を食べていた。
「私の身体からマナが漏れ出してて、それを治す旅をしてるのよ! ピロなんとかって言う大陸に行かないといけないんなけど、お城を出てオルテンシアまで行ったら―――」
「アリッサ様ッ!?」
ゼロが思わず声を出してしまった。痣の事や城にいた事までを話してしまったのだ。
「えっ!? お城に住んでたのっ!?」
「え、ええ……とても大きな家に住われていたので、お城みたいな家と言いたいのではないでしょうか、はははは……」
少し驚いているアナに苦し紛れの嘘をついた。空笑いが何とも胡散臭く見えてしまっている。
「そ、そうなのねっ!」
ゼロが焦っていたのでアナはこれ以上詮索しないように返事だけをしようとしたのだが、その状況を気にする事もなく再びアリッサが口を開いた。
「まぁ、そんなところね! それで船に乗る前に変な奴らに襲われちゃって護衛がみんな死んじゃって、ゼロも裏切ったけど助けてくれたし―――」
「アリッサ様ッ!!」
「お姫様もう話さなくていいよ!」
ゼロとアルスは一緒にアリッサの口を封じる。
「えっ!? 護衛が死んだ? ゼロが裏切り?」
最初の言葉よりも気になる疑問が多すぎる―――アナは困惑よりも若干混乱してしている。
「え、ええ。まぁ……色々ありましてアリッサ様の治療が目的で旅をしている訳です」
「そ、そうなのねっ! まぁ……何となくわかったわっ」
「あ、あのー……よろしければアナの事も聞かせて下さい」
ゼロが話を逸らすため、さり気なくアナの事を聞くことにした。
これ以上ゼロ達の話をすればアリッサによって全て話されてしまうからだ。
アナは「そ、そうね」と、言うと外ハネの髪の毛と魔術師の帽子もいじり、身だしなみを整えるとコホンと咳払いをして口を開く。
「私の生まれはエクリエル王国だったんだけど、育ちがバリョッサス帝国なの。私のママから賢者ラーヴェスの血筋を引いてる話を聞いたのがキッカケで魔術師を目指そうと思って、魔法が先行してるエクリエル王国へ学びにきたのよ」
「賢者ってどこかで聞いたことあるわね……」
アナの言葉に呟き、目をひそめつつ首を傾げながらアリッサは思い出そうとしていたが―――
「最初は働き口を探しに王都に居たんだけど、インスティにある王立魔法研究所の話を聞いて、そこで働いている魔術師も多いと思ってメルトを経由して、そこに行くことに決めたのっ!」
「王立魔法研究所ってなに?」
―――アナが話の続きをしたため、考えるのを止めたのかアッサリの表情は元に戻っていた。
「私も実際に見たことがないのでわかりませんが、たしかにメルトより先の街に王立魔法研究所があると言う話は噂で聞いたことがあります。アルフォード様が以前よりマナと魔法の研究の一環として設立したと聞いたことがありますが詳しい事はわかりません」
「バリョッサスでも研究はしてるけど、やっぱりレベルは全然違うのよっ。この間も種族によるマナ伝達経路と身体の発現についても研究所で発表されてすごい感銘を受けたのっ!!」
「私もその魔法研究所ってところに行ってみたいわ!」
「ええ、機会があれば一緒に行きましょっ! ……まぁ、たどり着く前に山賊に捕まったんだけどね……」
「どうして捕まったのよ?」
「怪我をして倒れている人を助けたらお礼をするって言われて、それで付いていったら山賊のアジトだったのっ! もう本当についてないわ……」
「へー……ところでアナルンは魔法ってどれくらい使えるの?」
アルスにとってアナの経緯はさほど興味は無いようだ。
魔法についてもただ何となく聞いただけのようだが、アルスの質問でジト目を見開き鼻高々に反応したあたり、よくぞ聞いてくれたと言ったところだろう。
「そうねー私は基本四属性の下位はマスターしてるわよっ! 土属性も中位が使えるし、力は弱いけど治癒術も下位なら使えるわっ!」
「それがすごいのかわからないわ……どうなのゼロ?」
「そうですね、下位を使うのはさほど難しくないと言われています……が、下位から中位までの過程が難しいと聞きます。上位の魔法が一つ使えるだけでも相当な魔術師であると思いますね。以前アリッサ様が魔法を教わっていたテレサ様も水魔法なら上位を使えると聞いたことがあります」
「えっ! 上位魔法を使う魔術師に教えてもらってたのっ!?」
「あっ! ええ、そうですね……アリッサ様の家庭はとても裕福でしたので、はははは……」
アリッサの質問に答えるつもりが思わず口が滑りそうになってしまったので、ゼロはぎこちない笑いをしながらお茶を濁した。
「ああ……そうなの。でも、魔法って本当に奥が深いのよっ! 四属性の上位種だと全く別物の魔法になる事もあるし、下位でも使い方によってはとても強力になるのよっ!」
アナが両手を握り目をキラキラさせて魔法を語る様子を見たからなのか、アリッサが次第に興味を持ち始めていた。
痣からマナが漏れ出している事が発覚してから魔法を禁止され、オルテンシアまでの道中で初めてマナの構築が出来てからゼロに注意された以降一切使っていない。
身近にこうも魔法の魅力を語られたのなら、アリッサであれば興味をひかないはずがないのだ。抑止されればされる程使いたくなってしまう……アリッサならば尚更であろう。
「ねぇ、旅に出るなら私も魔法を覚えた方がいいわよね」
「アリッサ様、治療が終わるまでは使用しない方が良いです」
「もう! いいじゃない!!」
「ダメです!」
どうしてもアリッサが魔法を使いたがっていたがゼロは頑なに拒否をした。
アルスも以前アリッサにマナの構築を教えてゼロに説教された事もあるので、コクコクと頷きゼロの言葉に賛同していた。
そんな三人を他所にアナは顎に手を当てながら一人で考えていた。それはアリッサが発した言葉の『マナが漏れ出している』ことについてだ。
「ねぇ、アリッサ? マナって身体のどこから漏れ出してるのっ?」
「あーそれならここから出てるらしいわよ」
アリッサはおもむろにシャツを捲り上げると痣をアナに見せつけた。
まるで王族とはあるまじき行為にゼロは頭を抱えて天を仰ぎ、アルフォードに対して小さく「申し訳ございません」と謝罪する。
アナはジト目をさらに細めつつ近くまで寄るとジッと食い入るようにその痣を見つめた。
「これは痣……と言うよりも紋章の様にも見えるわねっ。マナが流れ出ている様には感じないけど、なんでここから漏れ出しているってわかったの?」
「私も詳細まではわかりませんが、古い文献にその痣から微量のマナが漏れ出していると記述があったそうです。治る見込みはあるかわかりませんが、文献の可能性を信じて旅をしています」
「そうなんだ……ふーん」
アナは痣から目を逸らし、再び顎に手を置き下を見つめながら何か考え事を始めたのでアリッサに捲り上げたシャツをしまう様に伝えたゼロはアナへと問いかける。
「何かわかりますか?」
「いや……わからないわねっ。マナが自動放出するなんて聞いたことが無いし、研究所の発表とか思い出してるんだけど似たような事例とか無い気がするわ。……もしかしたらまだ発見されてない病気かもしれないけど、古い文献では載っているってのが気になるわね……」
「そうですか……わかりました、確認して頂いてありがとうございます。見張りは私がしておくのでお休みください」
アナはお礼を行って焚き火の奥に座り、ゼロは岩の窪みの入り口に座る。
焚き火の光が漏れる岩の中からはアルスが過去にドラゴンを討伐した自慢話をしているようだ。
ふと上空を見上げると綺麗な星空が一面に広がっていた。
暗躍していた頃は月明かりを避け闇と同化して任務を遂行する事が主流となっていたが、組織を裏切った今、光り輝く夜空を見ることなど今であったであろうか。
組織を裏切り、エクリエル王国も裏切り、ゼロの所為でジルベール達が殺されたと言っても過言ではない。
だが、そんなゼロをアリッサは許した。到底許されるべきで無いことを彼女は許したのだ。
それからゼロは短い期間だが献身的に行動を取った。組織の追手を振り切り、山賊から危機を救い、旅も継続させている。
だが、いつも通りの振る舞いを見せるアリッサの心の奥底ではゼロはまだ許されていないと思っているのも事実だ。
だが初めて自由の身となった今、満天の星空を眺めていると張り巡らせれた気持ちがまるで浄化されていく感覚になり、ゼロは皆が寝静まるまでずっと眺め続けていたのだった。
翌朝になり出発準備を整えると見通しの良い道を進み歩く。馬車をひいた行商人と何度かすれ違ったので目的が近い証拠だ。遠くにうっすらとメルトの外観も見えてきている。
そして、昼を過ぎ夕方に差し掛かりそうな頃、三大都市の一つであるメルトの入口へと到達するのだった。
このメルトで待ち受ける様々な運命など――――
――――この時の一行はまだ知る由もない。




