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46.■執事と山賊

アリッサは取り囲んでいる山賊の中心に勢いよく飛び掛かった。


――――だが、男はあっさり躱すとアリッサの足につま先を引っかけ、勢いよく転倒させた。


「「ぎゃーっはははっははー」」

山賊たちは地べたから這い上がろうとするアリッサを見て大笑いする。


「やってくれたわね……許さないんだから!」

むくりと起き上がるアリッサの目はギラギラとしており、まだ闘志は消えていない。

そして、打ち所が悪かったのか鼻血も出たため、服の袖で血を拭い終えると山賊たちを睨みつけた。


今度は足蹴りを食らわそうとするが逆に足を掴まれ、またアリッサはバランスを崩し倒れてしまう。

そんなアリッサの始末に山賊たちは再び爆笑に包まれた。


アナは怯えるばかりでその場から動けず、何も出来ない。

ただ諦めの悪いアリッサを見て、その光景がとても悲しく思えたのだった。


「もういいっ! アリッサもういいわよっ! 大人しく捕まりましょう!」

目に涙を溜めながらアナが説得するとその言葉に山賊たちも反応する。


「そうだぜぇ、もういい加減諦めな、さっさと降参しろって」

「うるさいわよっ!! ――――このっ!!」


「いてぇっ! やりやがったな!!!」

油断したのか山賊の顔面に拳を食らわした。


アリッサは息を切らし顔は泥だらけになりながらも一撃当てる事が出来たのだが、この判断は誤りだった事にすぐ気づくこととなる――――


「このクソ(あま)ッ!!!」

――――ドンッ!と鈍い音が響き、アナは口を手で覆った。


「かはっ!」


殴られた男はアリッサのみぞおちを思いっきり殴りつけたのだ。

アリッサは息が一瞬止まり、痛さと苦しさで腹を抑えながらうずくまる。

そんな状態でも男は容赦なく倒れているアリッサの腹部を蹴り続けた。


「おいっ! そこまでにしとけ、親分に殺されるぞ」

「はぁはぁ、別に見えねぇところだったら大丈夫だろ」

「売る前に身体を見られるんだ、価値が下がるかもしれねぇだろ!」

「なに!? すまん、つい頭に血が上っちまって……」


仲間に制止されようやく蹴るのを止めたのだが、アリッサを傷物にした事を後悔し始めた。

蹴られ続けている間は牢の中の村人は怯え、アナも見るに耐えられず顔を手で覆っていた。


だが、それでもアリッサは諦めなかった―――


ガブゥッ!

「いででででっ!!!」

―――アリッサが男の(すね)にガブリと嚙みついたのだ。


「痛ぇ!! こいつぶっ殺してやる!!!」

「おい、よせ! 俺らが親分に殺され―――」


噛み付くアリッサを見下ろすと、男は仲間の制止を無視して手に持っているナイフを突き刺そうと振りかざす。


―――その場にいる誰もが息を飲んだ。


「ぐふっ!!」

突き刺さろうとするその刹那、山賊の男は何者かに蹴り飛ばされるとナイフを手放し後ろへと吹き飛んだ―――


「お待たせしました、お怪我はありませんか?」

「はぁ、はぁ、来るのが遅いわよ! 死にそうだったじゃない!」


―――そこに現れたのはゼロであった。


マナの匂いを追っている洞窟内までたどり着いたが、ケイとアリッサの匂いが二手に別れたため、アリッサを優先したのだ。


「誰だテメェは、侵入者か? とりあえず、捕まえてこいつも売るように親分に伝えてやるよ」


「……アリッサ様、ここは私が抑えます。隅にいて下さい」


オーラも纏っていない相手ではゼロに太刀打ち出来るはずもなく、まるで大人と子供の戦いだった。

ゼロはいとも簡単に山賊達の攻撃を躱すと、手刀で次々と気絶させあっという間にその場を抑えたのだ。


「ゼロがこんなに強いだなんて知らなかったわ……」

実際にゼロが目の前で戦う様子を見た事が無かったため、アリッサは少し驚いたようだ。


「―――そんなことより、ケイよ! どっかで見なかった? 私と一緒に連れ去られたんだけど途中で別のところに連れていかれたのよ!」


「大丈夫です。場所なら大体わかりますので」


「そう、なら私も一緒に――――」


「アリッサ様! ここは私に任せてください。救出を終えたら戻ってきますので」


「……っ、わかったわ」


アリッサが納得したところでゼロは背を向けその場を立ち去った。

そして、気絶している山賊の身体をまさぐり、鍵を見つけると檻に囚われている村人たちを救出する。


気が緩んだからなのかアリッサから鼻血が再び流れ、それに気が付いたアナが治癒魔法をかけようとアリッサに近づき手を背中に添えた。

「ちょっと、アリッサ動かないでっ! 今治してあげるから――――」


―――そしてアナは目を閉じると手に意識を集中させる。

『聖なるマナよ、我が祈りと光に答えよ……リカバリー』


淡い光に包まれた手を撫でるように移動させる、転倒して転んだ腕や足の擦り傷はみるみる消え、頬に手を当てると鼻血も止まった。


「なにこれ! なんか温かいと思ったら急に痛みが取れてきたわ!! 治癒術でこんなに傷が治るなんてすごいじゃないアナ!!」


「逆に今まで治癒術を受けたことが無かったのっ!? でも、私は攻撃魔法が専門だからホントに小さい傷ぐらいしか治せないわよ」


アリッサは治癒術を城で何度か受けたことはあるが、かすり傷にも満たない傷に対してかけられることが多かったので、あまり実感を得る事が今まで無かったのだ。


また、大怪我をした者に治癒術を施す場面など見たこともなく、アリッサの中では治癒術についての信頼は低かったが、今回の一件で考えを改めたようだ。


「でも魔法が使えるなら山賊(あいつら)を倒すことだって出来たじゃない。なんで魔法使わなかったのよ?」


「後ろに手を縛られてたし、そんな状態じゃマナの構築が出来ないわ。それに詠唱中は無防備になるからこんな狭いところじゃすぐにやられちゃうのよ―――――ねぇ、そんなことよりさっきの男の人だれよっ? アリッサの男なのっ?」


「うん? あー……ゼロの事ね、彼は私の執事よ」


「執事ッ!? アリッサって貴族なのっ? 仮に貴族だとしてもなんであいつらに捕まったのよ?」


「まぁ、貴族みたいなもんね。あいつらに捕まったのはケイって女の子にお世話になってて―――」 


アリッサが大まかにこれまでの経緯を説明した。

時系列がバラバラ且つ、話の内容もざっくりだったので途中で話を切り上げると、ゼロとの関係性を探るように聞く。

アリッサの話ではゼロはあくまでも給仕と言う立場を知ると、どこか安心するアナの姿があった。



※※※



山賊たちの宴。

大きな石テーブルの上には近隣の村から奪った食料や酒で満たされており、大きな椅子にでっぷりと太った髭面の大男が肉を咀嚼しながら酒を飲む。

石テーブルの周りには手下の山賊達が酔っぱらいながらバカ騒ぎをする。


その様子をニンマリと見つめているこの太った男こそ山賊の頭領である。

両腕には露出の多い女性を抱えており、酒を飲むように勧めるが女性がやんわり断ると表情は曇ったままだ。


そのフロアの近くに牢が置かれ女性たちが悲しみにくれながら囚われている。

時折、山賊達が笑いながら牢越しにちょっかいを出し女性を怯えさせ楽しんでおり、その檻の中にはケイの姿もあった。



「―――あのー、お楽しみ中すみません。ここに囚われている人を出していただけませんか?」

フロアの入口からゼロの声が響き渡ると一斉に視線が彼に集まる。

ゼロは執事服の上着で口元を覆い隠し、顔を見られない様にしていた。


「てめぇ、誰だ? 別のシマのもんか? 何しにきやがった」

近くにいた山賊がゼロを問い詰めた。


山賊達が(いぶか)しみながらゼロを凝視していたが、ケイだけは何かに気付いたようにハッとしていた。


「てめぇら静かにしやがれ!! こいつの目的を聞こうじゃねぇか!」

「へ、へい親分!」


山賊の頭領の一言で騒いでいた手下たちは口を閉じてゼロの言葉を待った。

その間、頭領はにやにやとゼロを舐めるように見据え、まるでこの状況を楽しんでいるかのようだ。

ゼロはため息を吐くともう一度同じ内容を伝える。


「……はぁ、もう一度言います。ここに囚われている人を解放してください。そうすれば見逃してあげない事もないです」


「へへへっ……俺達を見逃してくれるんだってよ、そりゃーうれしいねぇ。―――お前バカだろ? そんなこと聞いて「はい、そうですか」って言う奴はいねぇよ! たっぷりお仕置きしてやるぜ、五体満足で帰れると思うなよ! おい、お前らこいつを捕まえろっ!!」


「「へいっ!」」


頭領の言葉で手下達が一斉にゼロへと群がった。

ゼロもこうなることを予想していたのか「まぁ、そうなると思いましたけどね」と、ひとり言を呟きつつ手下の山賊達を一人ずつ躱し手刀で気絶させていく。


「な、なんだこいつ……強ぇ!!」

「おい、逃げるぞ!!」


そのうち何人かが戦力差に気付きゼロに背を向け逃走を図ろうとする。

ゼロはテーブルの上に置いてあったグラスなどの食器を逃げた山賊達の後頭部めがけて思い切り投げつけた。


皿やグラスに当たった山賊達は目をグルンと上げ泡を吹いて倒れていき、最後の一人を片付けると残ったのは山賊の(かしら)のみとなった。


「ほーう、てめぇ随分強いじゃねぇーか。傭兵か何かか?」


「……いえ、ただの使用人です」


「ぷっ! はははははっ! 冗談も言えるんだな! ―――気に入ったぜ、なぁ俺の仲間にならねぇか? こんな弱い奴らよりお前と組んだ方がいい。それに俺と組めば女も抱けるし、金も食料も手に入る……なぁ悪い話じゃねぇだろ?」


「……うーん、お断りします」


「そうか……でもここまでされてタダで帰す訳にもいかねぇ……俺にもメンツってもんがあるんだ、お前をここで殺すしかねぇ」


両腕に抱えていた女性たちを離すと椅子からゆっくりと立ち上がる。

大きな巨体は座っていても存在感があったが立ち上がる事で、でっぷりと太ったその姿はゼロの二倍ほど大きく感じられる。


「おい、お前ここまで来るまでに見張りの奴らも倒したのか? それとも忍び込んで来たのか?」

「……面倒だったので片っ端から気絶させときましたよ」

「へぇ、やるじゃねぇか……ますます気に入ったぜ。殺すのがもったいねぇよ」

「大丈夫です。そう簡単に殺されないので――――」


ゼロが話し終えると凄まじいスピードで頭領の後ろへと回り込み、脂肪で包まれている首元に手刀を放つ。

男は意識を失い前方に倒れる――――と、思われたが右足を踏ん張り踏みとどまった。


そして――――


「よし! 捕まえたぜっ!!」

振り向くと同時に後方にいたゼロの腕を素早く捕まえると、腕を持ったままブンブン振り回し、洞窟の岩壁にゼロを思いっきり叩きつけた。



―――ドゴォン!!!

岩壁に激突すると鈍い音が立ち、めり込むようにぶつかる。

その周りには岩に亀裂が走り、ボロボロと周りの岩も落ちるあたり中々の衝撃であることがわかる。


「ぎゃははっははは! 早くやりすぎちまった!! もう死んじまったか?」

そこには喜々として笑う山賊の頭領と壁にめり込んだまま俯き、ピクリとも身体を動かさないゼロの姿があったのだ。

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