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44.■追跡者と強襲者

少女の髪はピンク色のセミロングで辺りが暗くても十分目立つ髪色だ。

ブロンドの髪をした綺麗な西洋人形を大事そうにしっかりと持っている。

ただ、人形と同様に無表情のため不気味さが漂う。


互いの目線が混じり合うとゼロが口を開いた。


「……レフですか? 昔と姿が変わってませんね」

「ボスの命令で来た。アリッサはどこ」

「そうですか……アリッサ様はここにはいません。それにどこにいるかも教える気もありません」

「そうなんだ」


「「…………」」

レフの言葉を最後に二人は沈黙になる。

ゼロは警戒し自然とダガーに力が入り、レフに至っては何事もなかったかのように無表情でゼロを見つめていた。


(一体何を考えているんだ?)


攻撃がいつ来てもいいように身構えているが、レフから一向に攻撃する素振りすらない―――いや、ゼロに対する殺気さえも感じられない。


そして、レフの行動に困惑しつつも襲ってこない事を確信し、脚にオーラを込めると力強く踏み込み、その場から離れようとしたのだが―――


「………」


―――レフは無言のまま顔色も一切変えず、一定の間隔あけながらどこまでもゼロに付いてくる。

ゼロは森の手前まで来ると撒くのを諦め、レフもそれに反応して足を止めた。


「なぜ付いてくるんですか?」

「ゼロに付いて行けばアリッサに会える」

「だから会わせる気は無いと言っているでしょう!」

「そうなんだ」

「くそっ……これじゃ話にならない」


レフの行動は謎だ。

ゼロを問い詰める訳でもなく攻撃をする事もせずアリッサがいる場所を聞いてくるだけだ。

たが、仮にアリッサの居場所がレフにバレれば恐らくアリッサを殺害するであろう。

何もせずにアリッサに会うなど考えられないし、攻撃をしてこようとせずともレフは組織側だ。


そして撒くことも難しい。機動力に優れているゼロに息を切らすことなく付いてくるのだ。

このまま逃げ続けてもよいが、組織の仲間と合流されるとゼロの立場も危うくなる。


ゼロは息をゆっくり吐きだすとレフを見据え覚悟を決める。


―――ダンッ!!

と、思い切り踏み込み一気に肉薄しレフの背後を取る。

レフもゼロの動きを目で追っていたのだが何故かその場から動こうとしない。そして、背後から首元へシルバーダガーを突き刺し真横へ引き裂いた。


(目で追っていたはずなのに避けようともしないのか!?)


ブシュッ!!!

引き裂かれた首から血が噴水のように吹き出し、辺りには血だまりが出来る。

その状態にもかかわらずレフは大事に抱えていた人形を自身の血で汚れないよう、すぐさま手放した。


「―――――ッ!!」

レフはただ叫び声も上げることなくゼロをギロリと見つめる。

無表情のままじっと見つめてくる様子を見て、気味の悪さにゼロは顔をしかめた。


―――そして、レフは目を見開いたままその場に倒れ、念のためゼロは首元に手を当て脈が無い事を確認し辺りを警戒しつつ離れた。


何度か後ろを見つつ、時折立止まっては追手がいないか警戒を解かないよう移動する。

時間はかかるだろうが慎重に行動する事に越したことはない。だが、未だにレフの行動に疑問を感じつつ、アリッサの元へ戻るゼロであった。



※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



物語はポネの村でゼロが家から出たその直後の夜まで(さかのぼ)る―――


「あの執事、たしかゼロって名前だっけ? 私の言う事聞かずに出て行ったね……。夜に外を出るなんて危険なのに、なにを考えてるの?」


「……ゼロなら大丈夫よ。戻るって言ってたし」


「ふーん、信頼してるのね」


「ま、まぁね!」

答える時に少し照れてしまった。


ポネの村に辿り着くまでゼロの献身的な姿勢を見ており、そしてアリッサの持ち前の性格も起因しているのだろう。

いつも間にかゼロに対する懐疑的な気持ちは無くなっていた。



「……今日は色んなことがあって疲れたでしょ? もう寝ましょ。二階にもベッドはあるわ、案内するからついて来て」


「そうね……そうするわ。ありがとう」


案内された部屋にベッドが二つあり、ケイもアリッサと同じ部屋で寝るようだ。

アリッサはベッドに横になると安心したのかすぐに寝てしまい、寝息を立てるアリッサをケイは微笑ましく見つめていた。




翌朝、アリッサが目を覚ますとベッドにはケイの姿は無く、一階にも降りてみたが姿が見当たらない。

仕方がないのでアルスの様子を見ていると、昨日と比べ顔色は良さそうだ。


「あら、起きたの? もうちょっとゆっくりしてても良かったのに、ちょっと待ってて、今からご飯作るから」


後ろを振り向くとケイが空になった籠を持ってドアの入口から家の中に入ってくるところだった。

どうやら洗濯を外でしていたらしく、アリッサが窓の外に視線を向けると昨日来ていた洋服がゆらゆらと風に(なび)いていた。


「ありがとう……わ、私もなにか手伝った方がいいのかしら?」


「貴族の子が気を使わなくていいのよ。でも、あんないい服なのに洗濯しちゃってよかった? 石鹸でゴシゴシ洗っちゃったったけど、あとで弁償って言われたもそんなお金ないわよ」


「だ、大丈夫よ! 予備ならいくらでもあるわ!」


冗談を言ったつもりがアリッサは真に受けたようでケイはクスクスと笑い、ご飯が出来るまで椅子に座って待つように伝える。


そして、ケイは手早く朝食を作りあげる。

出来上がった朝ごはんは豆スープと()り卵のサラダ、雑穀パンだ。質素で素朴な庶民の朝食である。


「あんまり口に合わないかもしれないけど……どう?」


「……うん、なんかあんまり味がしないわね」


「ふふふ、正直でいいわね」

ケイは微妙な顔をしながら雑穀パンをモソモソ食べるアリッサをみて微笑んだ。


朝食を食べ終えたアリッサはゼロのマネをして、アルスに食べさせてあげようと思いベッドへ近づく。そして、彼の口にスープを運ぼうとしたのだが――


――ぽたっ

「アチィっ!」


アルスの口に注ごうとしたところ、勢いよく口元にスプーンを運んだため熱いスープがアルスの首元にかかってしまった。


「ごめんお姫様……なんか、してもらって悪いけど自分で食べるよ」

アルスはスープを受け取りると、やんわりと自分で食べる事を伝えた。


その後、ケイが夕食の食材を買いに道具屋に行くことになったのでアリッサも服を借りて一緒に付いて行く事にした。


村には民家が多くあるように見受けられるが出歩く人もほとんど居なく、開いている店も少ない。宿屋に至っては看板はあるが営業してない様にみられる。


「ねぇ、家が多いわりになんか寂しいところね……さっきの道具屋も元気なかったし」


「………」

食材を購入した帰り道、ケイに話しかけたが村については黙ったままだった。


それからしばらくして洗濯物が乾き、ケイと一緒に洗濯物を取り込んでいると一人の老人が話しかけてきた。

「おや、ケイのお客さんかな? 村では見ない顔だ」


「そ、村長、こんにちは。そう、お客さんなの」


「ふむ、お客とは珍しいな……ケイよ、わかっておるな?」


「ええ、2、3日うちの家にいるだけよ」


「うむ、なら問題ないな」

簡単な会話を終えると村長は去って行った。


村長と話す時のケイのよそよそしい態度に、アリッサの中で何か引っかかりを感じていた。

洗濯物を取り込み終わり、二人で家の中へと戻るがケイの表情は一向に優れない。


「ちょっと元気になったよ。まだ本調子じゃないけど」


アルスの体調は徐々に回復に向かっており、歩く程度なら問題なさそうだ。

アリッサは「まだ寝てなさいよ」と強めに言いうと、「はい、すんません」と、大人しく従った。


夕飯の準備を手伝おうとケイに手伝えることは無いか聞いてみるが、朝食の時と同様にやんわりと断られ、椅子に座って待つように言われた。


ただ、ケイの態度がどうしても気になり、心の(もや)を晴らすためにも確認をする。


「ねぇケイ、何か私たちに秘密にしてる事とかない? なんだか村長と話してから様子がおかしいわよ……。なんか余裕が無いと言うか……」


「な、なにもないよ。ちょっと待っててすぐにご飯作るから……」

「嘘よ!! 絶対に何かあるわ!!」

「だから、なにも無いって――――――」



「おいっ!! いつものやつ用意しろ!!! わかってんだろ、村長さんよ!!」

―――家の外からけたたましい声が聞こえてきた。


「嘘……なんでこんなに早いの……」

声に反応したケイは慌てて窓を見た。


視線の先には3頭の馬にそれぞれガラの悪い男達が乗っており、そのうちの一頭には女性が乗っている。

慌てて家から飛び出した村長と何かを話をしているが一人の男に蹴られ、村長はその場に倒されてしまった。


「ね、ねぇ? どうなってるの?」

「……ごめんなさい。巻き込むつもりはなかったけど、こうなったら隠しても仕方ないわね……。今から説明するから―――」


混乱するアリッサを宥めるようにケイが説明を始めた。

このポネの村は数か月前から山賊が周囲に危険になりそうな魔物を駆除する代わりに、定期的に食料や金銭を強引に要求してくるようになった。


当然、反発する者もいたが反抗する者は惨殺され、ケイの両親も彼女の目の前で殺されてしまった。

そして、その要求は段々とエスカレートし――――慰み者として村の若い娘を要求しだしたのだ。


「え、噓でしょ……じゃ、ケイも被害に遭ったってこと?」

「………ええ、そうね……思い出したくもないけど……」

「それなら護衛とかギルドとかに頼めばいいじゃない!! なんとかしてくれるわよ!」

「ダメよ……人質に取られてるの、私の弟も他の人たちも家族を、人質に取られてる。もしバレたり、アジトに襲撃したらあいつら……真っ先に人質を殺すって……だから、ここであった事は誰にも言わないで!」


「で、でもそれってどうにか出来ないの? ――――ちょ、ちょっと!」

話を遮るかのように腕を掴むとアルスとアリッサを半ば強引に二階の部屋へと押し込めた。


そしてドア越しにゼロが戻ったら家から去り口外しないよう強く伝えるとケイは二階から離れた。

もちろんアリッサも続こうとしたが、アルスに腕を掴まれ止められた。


「ちょっと離しなさいよ!!!」

「ごめん俺も助けたいんだけど、今の俺じゃお姫様を守ることが出来ない! お姫様が死ぬことはゼロも望んじゃいないんだ!! だから……頼むよ」

「うるさいっ! 離して!!」


―――バチン!

「ぶへっ!!」



その頃、外では村長が山賊へ貢物(みつぎもの)の徴収免除を(すが)り付くように懇願(こんがん)していた。


「いくらなんでも、早すぎる! 次は10日後の約束じゃろう!」


「こっちで預かってる奴らが食べ盛りでよぉ、すぐに食料が無くなっちまうんだ。それによ、この女何も反応しねぇから全く楽しめねえよ」


山賊は同じ馬に乗せていた女性を降ろした。絶望的な目をした女性は地面に降り立つとフラフラと村長の元へ歩きだす。


今にも倒れそうだったので村長が支えてあげると、村の女性は声を押し殺して涙を流した。


「も、もう勘弁してくれ……この村にはお主らに捧げるものは殆ど残っておらん……」


「おいおい、俺らは村を守ってやってるんだぜ? 善意でやってるのにそりゃないだろ? ………貢物が何も無いなら、こっちで預かっている村人は処分するしかねぇーなぁー」


「そ、そんな!! それだけは勘弁してくれ!!!」


村長は懇願するが、男は鬱陶しいそうに足で払った。


「待ちなさい! わ、私が行くわ! だから弟には手を出さないで!」

ケイが声を震わせて山賊へと歩き出した。山賊達はいやらしい目で見つつ―――


「ああ、手は出さねぇよ。お前にはずいぶん楽しませてもらったから、夜が楽しみだぜ……へへへ」


「待ちなさいよ!!!」

すると、ケイの前にアリッサが割り込むように立ちはだかる―――


「ちょっと、アンタ達何なのよ! 村の人が困ってるじゃない、さっさと人質解放しなさい!」


―――ケイとアルスの忠告を無視したアリッサが山賊達の前へ現れるといきなり食ってかかる。


「ちょっと、アリッサなんで出てきたの!? 隠れてないとダメじゃない!」


「活きがよくて、育ちの良さそうな女だなぁ……へへへ」


「こ、この子は関係ないから私だけ連れて行きなさい」


「おい、村長! 今日のところはこいつらで勘弁してやる! ―――オラ来いよ、金髪の女ぁ!」


「ちょっと、なにすんのよ! 離しなさいよ!」

山賊は強引にアリッサの手をグイッと引っ張った。


そして、山賊たちは卑下(ひげ)た笑みを浮かべケイとアリッサを馬に乗せると走り去り、取り残された村人はその様子を口をぎゅっと結んで見つめていたのだった。



※※※



ゼロがレフを殺害してから少し経過した頃、冷たくなった亡骸にトボトボと近づく影がある。


目を見開き死んでいるレフにその者が手を触れると、みるみるうちに首の傷が塞がり次第に生気を取り戻していく。


そして、むくりと起き上がるとレフは助けた者に声をかけた。

「遅かったね、リー」


リーと呼ばれた少女の顔はレフと瓜二つだ。

違いと言えばセミロングの髪色がパープル色をしており、彼女もまた人形を手にしている。


だが、その人形は髪や目は抜け落ちボロボロの洋服を着せ、レフの持っている綺麗な人形と違いとても気味が悪い。


「レフ、なんでゼロに殺された?」

「ゼロの様子を見ろと言われた」

「そうなんだ、殺さなくていい?」

「命令にない。それに()()()()()()()()()()()()()()

「うん」

「帰ろう、リー」

「帰ろう、レフ」


――――2人は会話を終えると消え去るようにどこかへ去っていったのだ。

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