43.■森を抜けた先
しばらくの間ゼロが森の奥へと進んでいくと森の先から光りが見え、無事に出口へと出る事が出来た。
森の先には広い草原が広がっており、そこから少し離れた場所に複数の民家が並んでいるのも確認できる。
先ずはその村へと進むことに決め、すぐさま二人が休んでいる場所まで戻ることにした。
森の出口を目指す際に木のところどころにシルバーダガーで印を付けていたので戻る時にはその印を頼りにした。
「ただいま戻りました」
「あ、お帰りどうだった?」
誰もいないところから返事が返ってくるのを確認し、ゼロも声がした近くまで行く。
すると、そこには寝ているアリッサと座っているアルスがゼロの視界にふっと現れた。
「この先に村があります。宿があるかわかりませんが先ずはそこに向かってみたいと思います」
「わかった。お姫様も寝てるしゼロも少しは休んだら?」
「……そうですね、そうします」
アルスの言葉でゼロは横になった。
おそらくほんの1~2時間程度の仮眠だったろうか、アリッサが目を覚ますと欠伸の声と同時にゼロも目を覚ました。
少し寝たことで幾ばくか気持ちも落ち着いたようだ。
アリッサにも森の先に出口があることを伝え、村を目指し森の奥へと進もうとしたのだが――――
「―――ッ! 痛い!」
数歩歩くとアリッサの足に痛みが走った。
バルドスの攻撃で地面を割った破片などが足にぶつかってしまったのだろう、足首あたりが腫れている。
「アルスさん、回復魔法は使えませんか?」
「ごめん、簡単な攻撃魔法しか使えない」
「……私も治癒術は使えません。では、背負っていきましょう。―――アリッサ様、どうぞ背中に乗って下さい」
怪我人をあまり激しく動かすことも出来ない。
アルスのユニークスキルに守られつつゆくっりと森の出口を目指すことにした。
※※※
朝方に出発したにも関わらず、足場の悪い森を背負いながらゆっくり歩いたせいか森を出るころには夕暮れになっていた。
「はぁ、はぁ……やっと出れた。出るまで結構長かったな……はぁ、はぁ」
アルスのユニークスキルのおかげで魔物の傍を通ることはあったが襲われることは無かった。
「ありがとうございます。おかげで無事に森を抜ける事が出来ました――――アルスさん?」
道中気にはなっていたがアルスの呼吸は時間が経つにつれ次第に荒くなっていた。
そして森を抜けるころには足元はおぼつかず、息遣いも荒い。
「な、なに? はぁ、はぁ……俺の名前でも呼んだ? はぁ、はぁ…… 」
「はい、その……大丈夫ですか?」
「だ、大丈夫……はぁ、はぁ……」
返事をしたはいいがアルスの目は焦点が合わず半開きになっており、そしてついに―――
―――ドサッ!
と、そのまま倒れてしまった。
「アルスさん!!」
「ねぇ、ちょっと大丈夫!?」
アリッサをゆっくりと地に下ろすと二人でアルスの近くへ駆け寄ると息はしており意識もあるようだ。
だが、小さい声で「ごめん、もう無理」とか細い声で話していたところをみると歩くのは難しい様子だ。
「アリッサ様……」
「わかってるわよ、私は大丈夫だからアルスを運びなさい」
「はい、もうすぐで村に着きますのでゆっくり行きましょう」
アルスの肩を担いでゆっくり村へと向かって歩く。アリッサも痛む足を引きながらついて来た。
村へと到着するころには夜になっていた。民家が立ち並び道具屋らしき看板はあるが宿屋は見渡すところ見当たらない。
そこで近くの家に伺ってみることにし、家のドアを叩いた。
―――コンコン
「すみません、どなたかいらっしゃいますか?」
「……誰? なんの用?」
ドア越しから返ってきた声は冷たい声だ。
「旅の者です。少し伺いたい事があるのですがよろしいでしょうか」
少しの沈黙のあとカチャリとドアが開いた。ドアから現れたのは茶髪のすらりとした若い女性だ。
ボロボロのゼロ達を見るや否や口を慌てて開く。
「ど、どうしたのあなた達? もしかしてあなた達も奴らにやられたの?」
「奴ら? あの、この村に宿屋はありませんか? 怪我人もいるので休める所を探しています」
「残念だけど、この村に宿屋は無いわ……さ、入って」
「よ、よいのですか?」
「ええ、とにかく中に……どうぞ」
家の中は木の机や椅子、小さな暖炉など質素な家であったが家族で住めるほどの大きさだ。
だが、家の中は人の気配がせず女性一人しか住んでなさそうに思える。
「そこの男の子はベットに寝かせて……女の子は足を怪我してるでしょ? 椅子に座ってもらえる?」
「はい」
「わかったわ」
ゼロとアリッサは女性の指示に従う。アルスをベットに寝かせているうちに女性は包帯と薬草を用意し、座っているアリッサの怪我を手当してくれた。
「はい、パンとスープと水よ。寝てる男の子にも食べさせてあげてね」
「何から何までありがとうございます。ですが、私たちは何も待ち合わせがありませんでして……」
「別に大丈夫よ、それに私が中に入れなかったら寝る場所も無かったでしょ?」
「はい、申し訳ございません……」
「あの、あ、……ありがとう」
アリッサも少し照れながらお礼をした。
その後、もらったスープや水をアルスに飲ませたが、息遣いは荒いままで一向に体調が良くならない。
「ねぇ、アルス大丈夫なの?」
アリッサもアルスの様子を心配そうに見ている。
「大丈夫……ではありませんが、思い当たる節ならあります」
「何よ?」
「恐らくマナが枯渇したのかと思います。私たちをユニークスキルを使って長時間守っていたので、ここに辿り着くまで相当無理をしたのでは無いかと」
「えっ! マナが無くなったら死ぬんじゃないの? 大丈夫なの?」
「身体機能に影響を出してマナを使えない様にしているとおもいます。なので、今は無理せずに休む事しか方法が浮かびません。もしかするとしばらくは魔法やユニークスキルを使えないかもしれませんね」
「そうなのね……わかったわ」
「あなた達も食べなさいよ。スープが冷めるわよ」
机の上に置かれたスープを気にしながら女性は二人に伝えた。
「はい、ありがとうございます。……ところであなたのお名前は?」
「私はケイよ、あなた達は? 見た感じ貴族のように見えるけど何があったの?」
「私の名前はゼロと申します。そしてこちらの女性がアリッサ様、横になっているのが――――」
ゼロはみんなの名前とこれまでの経緯を説明する。念のためアリッサの身分は伏せて自分は使用人だと伝えた。
オルテンシアでいきなり賊に襲われ、命からがら逃げてこの村に辿り着いたと説明した。
何か聞かれるかと思われたが、ケイから妙な詮索はしなかった。
「それであなた達はこれからどうするの?」
「明日になればアルスさんもある程度回復するので、いつまでもご迷惑を掛ける訳には行きません。明日には発とうと思っております」
「……明日じゃ全然回復出来ないと思うし……あと、アリッサだっけ? その子もまだ歩かせるのも可哀そうよ。2、3日ここに泊まっていいわよ」
「そうね。ここまで言ってることだし、私もまだ歩きたくないからお言葉に甘えましょう」
「アリッサ様!?」
「ふふふ、あなたは正直で面白いわね」
「そう? ケイも親切にしてくれてありがとう」
少しだけ女同士の友情が出来たようだ。
その後三人で用意してくれた食事を食べ、村の名前をケイが教えてくれた。
この村はポネと言うらしく街から移住する者もいるらしいが、ここ最近は長老が移住を断っているとのことだ。
食事を終えるとケイが寝間着を用意し、汚れた服を洗うため籠の中にまとめてくれた。
ゼロはアルスの服を脱がせ寝間着を着せてあげ、その間にアリッサも着替える。
ケイは一人で住んでいるにも関わらずなぜかベッドも4人分あるようだ。
そしてゼロにも服を脱ぐようにケイが催促したがやんわりと断ると、アリッサに向けてこれからの事を話す。
「アリッサ様、アルスさんの能力が使えなくなったのでこちらの居場所がバレてしまう可能性があります。……ですのでこれから私は追跡を防ぐため、偵察に行かせてもらえませんでしょうか? ……いや、行かせてください」
「……わかったわ。でも、必ず帰って来てね」
「はい、早ければ明日の夜……遅くとも明後日には戻ります」
そして、ゼロは入口のドアに手をかけ―――
「ちょ、ちょっと! あなた二人を置いて出ていくの?」
「あ、申し訳ございません。お二人の事よろしくお願いします」
―――ケイの静止を振り切りポネの村から一人で抜け出した。
※※※
森を抜けオルテンシアから離れた荒れた荒野――――その岩陰でゼロはすやすやと寝ている。
ポネを出た後、自慢の脚力を使い昼頃には荒野までたどり着き、身を隠せる岩陰を見つけ睡眠を取っていたのだ。
十分に休憩を取ったその夜、グランドウルフを狩って焚火で肉を焼き腹を満たし終えると、近くから『クークー』と、どこかで聞き覚えのある泣き声が聞こえてきた。
ゼロはすぐさまその声に反応し―――
『グェッ!!』
―――声の主に止めを刺す。
シルバーダガーで仕留めたのは漆黒のレターバードだ。城で長年連れ添った仲だったため、ダガーを突き刺しているゼロの顔が歪む。
漆黒のレターバードは特殊な品種で市場には出回っていない。雛の頃から持ち主のマナを覚えさせ、数キロ先からかすかなマナの匂いを察知する事が出来る。
本来のレターバードは人物の顔と住んでいる場所を記憶していると言われており日中しか行動が出来ないが、漆黒のレターバードはマナを頼るために昼夜は関係なく飛行が可能である。
標的を見失った次の行動は城を発つ前に放った漆黒のレターバードを使って捜索する事が予測できる。
森ではアルスのユニークスキルによってゼロのマナは関知できなかったであろうがアルスが倒れた今は状況が違うのだ。
組織側としては当然のごとく捜索にレターバードを活用し、レターバードがゼロの前に姿を現すと言う事はそれを頼りにゼロを追う追跡者も現れることを暗示しているのだ――――
「やっと見つけた、ゼロ」
―――近くから無機質な声が聞こえてくる。
視線を向けるとそこには不気味な人形を持った無表情の少女がじっとゼロをみつめていたのだった。




