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38.■迅雷

そんなこんなであっという間に出航の期日となる。

ピロカット大陸に出向するまでオルテンシアでいろいろとあったが、ゼロは無事に食器などの備品や食料の購入を事前に終わらせることが出来た。


ジルベールの方は聞き込みを行っていたが、目ぼしい成果は上げられなかったようで、ピロカット大陸の地図についても手に入れる事は出来なかった。

仕入れた情報としては港からの周辺にある街の名前ぐらいだ。


勝手に市場から離れたアルスについては薬草の効果を実感したのか急いで娼館(しょうかん)へ駆け出し行為に及ぼうとしたが、結局のところ娼婦に罵られながら残念そうな顔で歩いている姿をモーブが見かけた。


その後、アルスは様々な方法で改善しないか治療を試した。

全裸で悟りを開いたり、全裸で筋トレをしたり、全裸でイメージトレーニング(妄想)を行なった。他にも素数を数えたり、ポールに薬草を買い与え興奮作用のある薬の調合を指示したり……。


効果を試すため毎日……いや中には1日に4回ほど娼婦にお願いしたのだが、どれもことごとく成果は無く、いつの間にか彼の手持ち金は薬草と風俗で底をついてしまったのだ。


そして、行きついた果てにアリッサからの暴力行為や、まるで生ごみを見るような冷たい目を向けられることに対して興奮を覚える事に気付く――――

しかし、自ら欲を発散する事は出来るが、いざ対人となると発散できないどころか使い物にもならないので―――そのうちアルスは考えるのをやめた。



※※※



時刻は深夜、昼間の活気に満ちた市場が信じられないほど静寂が漂い、酒場が並ぶ通りは冒険者で賑わっている。


そんな酒場街を他所に一行は指定された港へ向かうため、オルテンシアの市街を馬車で移動をする。


港へ近づくと海港ギルド(シャーク・シー)の案内で指定された場所へと向かう。

事前に馬車を船に乗せる事ができないと伝えられているため、荷物を船に運び終えたら馬車はギルドメンバーがエクリエル王国詰所まで送り届けてくれるとのことだ。


大きな港にはいくつも倉庫が並び、進むたびに辺りはどんどん暗くなる。

馬車に括り付けているランタンの光で足元がやっとみえるぐらいだ。


一行は指定された場所へ辿り着いた。

開けた場所で古めの倉庫も近くにあるが、あたりはボロボロで山積になった箱も置いてある。


倉庫は現在は使われていないのか松明の火もなく……そして、ピロカット大陸へ渡る()()()()()()()()のだ。


「……どうなっとるんじゃ? 船が見当たらんぞ」


「じ、じいちゃん、場所、、間違えた?」


「馬鹿もん! そんなことはあり得ん、場所もさっきの案内も間違っておらんはずじゃ」


「ぎ、ギルドの人、が間違えた、、のかな?」


「うーむ……それもあるな、どれ確認しに戻ってみるかのう」


ジルベールが一度引き返そうと、他の護衛が乗っている馬車に指示を出そうとしたその瞬間、足元から広範囲に淡い光が広がった。


「な、なんじゃ!!? これは……まずい!!!」

「じいちゃん、これって、まさか!」


二人は咄嗟(とっさ)に避けようと光の外に移動しようとしたが光は瞬く間に広がり、回避が間に合わず身体の中を思いっきり掻き乱される感覚が巡る。


「「ぐぁぁぁぁああああぁあ!!!」」

「えっ!? み、みんな急にどうしたの?」

アルス以外の者が急に悲鳴を上げ始めた。


「ちょ、ちょっと!! 何なのよ、今の! 身体に変な感覚がしたわ!」

馬車から顔をのぞかせたアリッサがジルベールへ慌てて声を掛けた。


「はぁはぁ、今のは魔法陣ですぞ。……これは何者かの罠かもしれません。そして、さきの身体を巡る感覚……まさか!」


「何よ、罠って……!」

ジルベールの発言から思わずアリッサの顔が曇り、不測の事態に不安が押し寄せてくる。


「―――ッ! くそ、やられたわい! ポール、マナを使ってみろ!」


「わ、わかった―――――じ、じいちゃん、だ、ダメだ、、、使えないよ!」


「やはりな、これはまずいぞ! 急ぎ引き返すのじゃ!」


馬車を反転させ戻ろうとするが、それを防ぐかのように何者かに辺りを取り囲まれる。

外の不穏な空気を察し、馬車の中から護衛達が飛び出すと既にジルベールは槍を持ち警戒をしていた。


「お主ら――――その鎧を見る限りバリョッサスの兵か? 何をしているのかわかっておるのか?」


ジルベールの問いかけに何も答えず、ただバリョッサス兵は武器を構えて様子を見ている。


「(……アルス殿、どうやら2人で出かけた時に酒場で酒を頭にかけた奴もおりますぞ)」

敵兵に見かけた顔があったのでアルスに耳打ちするようにこっそり伝えた。


「(え? 俺ってそんなことしたの?)」


「(あぁ、酔っ払って覚えとらんのか)」



バリョッサス兵が道を空けるように移動すると、奥から大男が歩いてきた。

男は巨大なハンマーを軽々しく肩に乗せ、馬車から一定の距離を保ちつつ口を開いた。


「よう、アリッサ姫! つい最近、港で会った以来か?」


短髪の黒髪にもみあげと髭が繋がっているのが印象的な鋭い目つきをした大男―――当然アリッサも覚えているであろう、悪寒を感じた男だ。


「アンタ誰!! 気安く名前を呼ばないでよ!」 

―――どうやら覚えてなかったようだ。


「……覚えてないのか、まあいい。お前らの乗船券は無い、なにせここで死ぬんだからな!」


「くっ! アリッサ様とゼロを囲んで陣形を組め! 相手の攻撃に備えるのじゃ!」


「「はっ!」」

ジルベールの指示により二人を囲うように取り囲む。


「マナが使えない相手に俺が出る幕も無いが、今回の指揮は俺が持ってるんだったな? よし、お前ら突撃しろ! んで、残りの奴は魔法をぶっ放せ!」


大柄の男がバリョッサス兵に指示をするのだが―――


「先ほどの魔法陣で魔術師の中位魔法の形成に時間が掛かります。下位魔法でもいつもより威力も少なく、発動まで時間が掛かりそうです。魔法を放ったとしても仲間の兵に被弾する可能性がありますが……」


「あ?」


「……えっと、つまり武器で攻撃を繰り出すなら魔法は使わない方が……」


「うるせぇ!! 口答えすんじゃねぇよ、とっとと行け!!」

大柄の男は動揺しているバリョッサス兵の意見を無視し、強引に従わせた。


そして、男の指示によりジルベール達へバリョッサス兵が群がる。


「マナが使えなくともオーラは使える! なんとか攻撃を防ぐのじゃ! ポール、一人で突っ走るなよ」


「わかってるよ、じいちゃん」


バルテルミー家を筆頭に護衛達も奮闘する。


「さすがに人数が多いなぁ、ポールくんやジル爺はともかく他の護衛はちょっと危ないかも」


アルスが転がっている死体をあまり見ない様にしつつ、上手い具合に皆をフォローする。

さらに、致命的な攻撃が当たらない様に敵の武器を弾いていた。


「きゃあ! 誰か――な、なんとかしてよ」

「アリッサ様、皆さんがついているので大丈夫です」

怯えるアリッサをゼロは背中に手を当て、守るように励ました。



ほとんどその場を動かないジルベール達に対し、護衛によってすでに倒されたバリョッサス兵が足の踏み場を阻害していた。それにより、敵兵の体勢が崩れるところをジルベール一行に付け込まれる。

どうやらバリョッサス兵は数で押している効果があまり無いようだ。


「おい! 魔法はどうした! さっさと放て!」


「ですが……」


「いいからやれ!!」


大柄の男はあまり事が上手く運ばない事に苛立ちを隠せず、バリョッサス兵がジルベール達の近くにいるにも関わらず魔法攻撃を命令する。


「ファイヤーアロー!!」

「ウィンドバレット!!」

バリョッサス兵が下位魔法放つが――――


「「ぎゃあああぁぁああぁぁ!!」」

―――被弾したのは群がっているバリョッサス兵だ。


背後からの魔法攻撃に反応するすべがなく中には詠唱が聞こえ振り向く者もいたが、ポールはその隙を見逃さず斬り捨てる。


「ああ、くそ使えねぇなぁぁぁぁあぁ!! 前衛はもういい下がれ! ジルベール達(あいつら)は動けねぇから魔法だけで攻撃しろ!」


群がっている兵が後ろへ下がり、魔術師が詠唱を始めるが魔法陣の影響で下位魔法でも発動までの時間が遅い。


「ポール、馬車から弓を人数分持ってこい!」

「わかった!」


「させるか! ファイヤーアロー!!」

馬車の弓を取りに行っているポールの方へバリョッサス兵の魔法が放たれた。


「アクアシュート!」

―――――ジュワ!!

何者かが魔法を放ち相殺した。


「なっ! どうして魔法が使えるんだ! 魔法陣でユニークも魔法も使えねぇはずだろ!」

「なぜ魔法が使えるんじゃ……?」

大柄の男もジルベール驚きを隠せない。


――――なんと、魔法を放ったのはアルスだった。


「ジル爺、詮索は後にして今はこの状況をなんとかしないと」

「そ、そうじゃな……これはいけるかもしれんわい」


アルスの言葉は冷静に聞こえるかもしれないが、彼の表情からいつもの余裕は消えていた。

そして、ジルベールはアルスが魔法を使える事がわかり打開策を練る。


「お待たせ、弓持って来たよ!」

馬車からポールも戻って来て皆に弓と矢筒を手渡した。


「よし、ここから挽回するぞい! 魔術師は5人でかたまっておる、弓で牽制するぞ―――」

―――ジルベールは弓を引き絞り狙いを定めた。


「―――こんな風にな!!!」

詠唱をしている一人に弓を放ち、それに驚いた魔術師は詠唱が止め急いで弓を躱した。


「ウィンドバレット!!」

だが、別の魔術師が魔法を放つが―――


「ファイヤーアロー!」

それをアルスが再び相殺した。


「魔術師を狙え、奴らに詠唱する暇を与えるな! 仮に魔法が来てもアルス殿が相殺してくれるわい! 近接で攻撃する者が来たらポールが迎え撃て!」


「はっ!」

「わかったよ、じいちゃん」


「ワシはもう一人やる―――!!」

ジルベールは大柄の男に狙いを定め、弓を引き絞ると勢いよく放つ。


「うぜぇな! 俺には効かねぇよ!」

大柄の男は簡単に矢を叩き落としてしまった。


「―――やるのぅ……アイツは後回しじゃ」


ジルベールの指示により魔術師の詠唱が妨げられ、矢を躱したところを狙うことにより、一人また一人と魔術師を減らしていく。


「ああああ!!! くそが!! お前ら使えねぇなぁぁぁあ! おい、そこのお前らあいつらに近づいて弓を射るのを防げ!」


「わ、私達だけですか?」


「あ? 文句あるのか? さっさと行けよ!!」


大柄の男は近くにいた二人の兵に命令し、戸惑いながらも男の威圧に負けジルベール達へ突っ込む。


「むぅ? 二人だけか、ポール頼めるか?」


「二人ならいけるよ、じいちゃん」


対人戦に強いポールは二人の攻撃を受け流し、あっという間に切り捨てる。

その間に最後の魔術師が倒れ、バリョッサス側は大柄の男と兵士が複数人のみとなった。


「よし! ポールよ、あのデカ男は避けつつ他の兵を減らすのじゃ!」


「わかった!」


「だぁぁぁぁあ!!! どいつもこいつも、兵士はこんなにも弱ぇのかよ!!」


戦略が全くハマらず苛立っている大柄の男は大声をあげて、残っているバリョッサス兵達はあまりの指示の悪さに軽蔑の眼差しで男を見ていた。


「ふぅーふぅー……」

興奮したせいなのか、大柄の男は息を切らし短髪の頭が怒りで逆立っている。


ポールは大柄の男を避けつつ、別の兵を倒すため武器を構え走った。

圧倒的不利な状況から指示の悪さに助けられ、今まさに勝機が生まれると誰もが思っていた。

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