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36.■新たな事実

「ところでジル爺、今度はどんなことをするんだい? もしかしてあれかい? ここに来てまたお姫様に悪戯でもするのかい?」

鼻の下を伸ばしながらアルスが聞いたがジルベールはやんわりと首を横に振った。


「いや、それはダメじゃ。いくら高級宿と言っても部屋には見張りが付くし、それにバレたらワシの立場が終わってしまうからのぅ」


「まぁ、それもそうか、水浴びの時は冗談で済まされたしねー。んじゃ、どこ行くの?」


「せっかくオルテンシアに来たんじゃ、外に出て女子(おなご)と遊ぶぞい」


「なるほど……夜の街に繰り出すと言う訳か、ってかアンタ下の方は大丈夫なの? もうお爺ちゃんじゃん」


「たしかにそっちの方は現役引退しとる……じゃがの! ワシだって若い女子(おなご)にちやほやされたいんじゃ! なーに金ならあるから心配無用じゃ!!」


「ジ、ジル爺あんたそれ、まさか旅の金じゃ……」


「皆には黙っておれよ」

パチリとアルスにウィンクした。


「ジル爺ならぬ汁爺め! やってる事は最低だがあんたの心意気は気に入った!! さっそく街へと繰り出そう!! あれ? でも今日の護衛当番ってジル爺じゃなかったけ?」


「あーそれならポールに押し付けてきたから大丈夫じゃわい! かっかっかっ!」


「なんだ、それなら安心だね! ははは」


そして二人の(おとこ)は意気揚々と夜の街へと繰り出していった。



オルテンシア飲み屋街。

数多くの酒場が並び、近くには娼館通りもあるため女達が道行く男に声を掛けるのは日常茶飯事だ。


街道を歩くアルスも胸元が開いた金髪の娼婦に話しかけられ、慣れていなのか彼は挙動不審な態度を取っていたがジルベールが「今は間に合っている」とやんわり断りを入れた。


「あれ? ジル爺、そっち方面に行くじゃないの?」

アルスは娼館通りを指さした。


「いやいや、先ずは軽く飲んでからじゃ!」


「なるほど、確かに飲んだ方が盛り上がりそうだしね!」

アルスも賛成し、軽く飲みに酒場へと移動を始めた。



酒場へ着くと店内の中は卓上のテーブルが多く設置されており、テーブルを囲みながら酒を飲む冒険者達で賑わっていた。


トレンチを持ったセクシーな店員に酒を頼み、酒が到着するとすぐさま二人でグラスを軽くぶつけ乾杯をする。

何を思ったのかアルスはいきなり一気飲みをして、すぐさま代わりの果実酒を追加で頼んだ。


ファットラビットの燻製肉をつまみに酒を飲み、二人でこれまでの旅の話で盛り上がる。

そして、アルコール度数は高いが口当たりがまろやかで飲みやすい果実酒をアルスは何杯もお代わりしてしまい、いつの間にか彼は泥酔していた。


「あれ、、、飲みすぎた、、、ひっく。 こ、、れ美味いな、、、お代わり!」


「アルス殿ちっと飲みすぎじゃろうて……」


「うるへー! まだまだ、、、飲みたり、、、ヒック―――あ!」


バシャッ!!!

千鳥足だったため、近くにいた男に酒をぶちまけてしまった。


「てめぇ! 何しやがる!!」


頭から酒を被った男は怒り心頭だ。

アルスの胸倉をつかみ今にも殴りかかろうとする。


「おうおう、まぁ落ち着くのじゃ。すまない、こちらが悪かったので酒は奢る」


慌ててジルベールが間に入ろうとするが、アルスは酔っぱらっているので殴られそうなのにニヤニヤと笑って楽しそうだ。


「っち! 人に酒をぶっかけといてこの酔っぱらい笑ってやがる、思い知らせてやらねぇと俺の気が済まねぇ!」


「ここで暴れたら迷惑になろう」

ジルベールが男の腕を掴み、睨みつけた。


「お、おい! そいつは例の、、、そこまでにしとけ!」

連れの男がジルベールを見るやいなや、慌てて声を掛けて争いを止めさせる。


腕を掴まれた男もジルベールを見てはっと息を飲み、アルスを掴む手を放した。

「ちっ! わかったよ」


「あ、酒を奢るのじゃが……」


「いや、大丈夫だ! じゃあな!」

そして男たちはすぐさま酒場を出たのだった。


「あ、あれ誰? ジル爺、、、の友達なの? 、、ひっく」


「……いや、向こうは知っているようじゃがワシは知らんのぅ。ドルフレッド(ドリー)が有名だからワシも顔を知られておるのかも知れんが……」

顎に手を当て考え込むが、皆目見当もつかなかった。


「うむ、考えてもわからんし会っていたとしてもいちいち覚えとらんな……それにしてもちと酔いすぎじゃのう、ワシらもそろそろ出るか」


そして二人は酒場を出たが、外に出た瞬間アルスが路地裏へと走り、吐瀉物(としゃぶつ)をぶちまけた。


吐き出し切ったのか暫くすると少しげっそりした顔でアルスが現れ、ジルベールは下位の解毒魔法をアルスにかけ、そして(ふところ)から薬草を取り出した。


「ほれ、薬草のクシルスじゃ、酔いを醒ますのに少しは役立つじゃろう」


「げっ! またこれか……相変わらず不味い」

アルスは文句を言いながらもしゃもしゃ食べる。


「それにしてもお主は酒が強くないのにガンガン飲むのう、若気の至りって奴か。

……ふふっ、ワシも若い頃はジョルジュと飲み比べをよくしたのぅ。どっちが酒に強いかよく勝負をしたもんじゃわい」


遠い目をしながらジルベールが語っていたが、アルスにはさっぱりだった。

「ジョルジュって誰?」


「ジョルジュはゼロの上司じゃよ。

昔は色々と奴と争ったもんじゃな、良き友……いや良きライバルと言ったところかのぅ―――まぁ昔話はもうよいな、ところで体調はどうじゃ?」


「……ありがとう、だいぶ良くなったわ」


「無理せんとここでしまいにするか?」


「いや、大丈夫。夜はまだ長いしね」


「そうか、あまり無理するもんじゃないぞい」


二人はゆっくり歩きながら夜風にあたる。

ジルベールの解毒魔法が効いたのか薬草が効いたのかわからないが、しばらくするとアルスは復活した。


そして二人は娼館前まで到着すると、立ち寄るのかと思われたがジルベールの足がぴたりと止まった。


「……ワシはここまでじゃ」


寂しそうに遠くを見つめアルスへ伝える。

その様子を見てアルスは一瞬怖気づいてしまったのかと思った。


「なにジル爺、ここまで来て行かないの?」


「いや、ワシは気持ちはあるのじゃが身体が言うとこと聞かんのじゃ、なので近くの店で女子(おなご)と酒を飲むだけで満足じゃ。だがアルス殿は若い、一頻(ひとしきり)り楽しんでくればいいぞい」

そう告げると、アルスに一晩中遊べそうな金額を渡した。


「ジル爺、あんたまさかこの金って……」


「ふっ、もちろん旅の金に決まっておろう!」


「あんた最低だけど最高だな!!! ジル爺の気持ちは受け取った! 俺がジル爺の分まで楽しんでくるよ!」

そしてアルスは意気揚々と娼館へと向かったのだ。



娼館がいくつも並ぶ通りを歩き、好みの女性がいる店を探す。

彼の中での理想は背が小さくてちっぱいで顔が童顔の……所謂(いわゆる)、ロリ系が好みである。

また、彼はM属性でもあるため多少気の強い子の方がより望ましい。


娼館前の客引きに自分の理想を伝え実際に確認する作業を繰り返した結果、童顔ではないがそれ以外は自分の理想となる女性を見つけることが出来、部屋へと案内された。


小さな部屋の中はおそらく高揚感を高める為か独特なアロマの香りが漂っている。

部屋の中央にあるベットはフリルが付いておりとても可愛らしい、そこに二人で座った。


アルスはずいぶんご無沙汰だったせいか緊張が隠せず表情が硬くなってしまった。

それを見かねた娼婦が緊張を和らげようと声をかける。


「うふふ、緊張してるの坊や……かわいいわね」


「ひゃい!!」

耳元をすっとなぞられ変な声を上げならがビクっと反応してしまった。


「ちょっと、この世界でのプレイは初めなので至るところがありましたら、ご指導のほどよろしくお願いします。……私は基本受け身なので好きにしてください」

アルスは畏まって頭を下げた。


「ふふふ、わかったわ。さて、じゃあ服を剝ぎ取ちゃおうかな♡」


アルスは言われるがまま、そしてなされるままに衣服がどんどん剥がれると、あられもない姿になってしまった。

当然彼の心の中は最高潮になっている―――――()()()()()


(あれ? なんか頭によぎるぞ)


アルスの頭の中に映し出されたのは生前の自分を刺し殺そうとする彼女の顔だった。なぜ出てきたのかはわからないが、頭をブンブンと左右に振り彼女の存在を消そうとする。


「うん? どうかしたの?」

様子のおかしなアルスを娼婦は少し心配したようだ。


「い、いやなんでもありません。ど、どうぞ続けて下さい!」


それから身体を弄られるのだが、アルスの()()は全く反応しない。

次第に娼婦の顔も歪み始める。


「ちょっと疲れてるのかしら、元気が無いわねぇ……」


「え? あ、おかしいなぁ……いざ本番になると元気になるのかも」


「……わかったわ」

娼婦はベッドへ寝そべり受け入れ態勢に入る。


なんとか脳内妄想や元気ずけようと自らを弄りようやく兆しが見えたため、いざ突入を開始しようとしたのだが――――


『ねぇ、私のこと好き? 浮気しないでね? 別れるなんて嫌よ! ……別れるぐらいなら心中するわ――――ドス!!』


頭に浮かんだのは自分が彼女に殺される場面がフラッシュバックされる。

そして、いつの間にか彼の息子は完全に沈黙してしまったのだ。


「……ねぇ、まだなの?」

痺れを切らした娼婦がアルスへ問いかけたが―――


「…………」

アルスもまた沈黙してしまった。



結局、行為を行う事ができずに「酔って疲れていた」などの言い訳をして逃げるように店を去り、一過性のものだと思いながら店を変える。


先ほどは相手の体型が幼かったので自制心が働いたと信じ、次は少し年上の娼婦とベッドに向かったのだが、全く反応せず「根性なし!」と罵られ店を追い出された。


(おかしい! そんなはずはない!!)

彼の中で焦燥感が出始める。


それからいくつか娼館を巡ったのだが、結果は同じで依然元気のないままだった。


いつの間にか時間は過ぎていき日が昇る頃まで粘ってみたが、既に完全に酔いは醒めているのにも関わらず結果は全敗となり道端で打ちひしがれてしまった。



―――そして、朝日を浴びながら彼はある事に気付き絶望した。




―――――そう、この世界では女を抱くことが出来ない体なのだと。

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