3.■お願い事
披露宴まで残り二ヶ月となった。
レッスン中心の授業をしていた為か、ぎこちなさは残るもののダンスに関して言えば問題はないレベルまでアリッサは成長を遂げ、剣術も型が出来るまでにはなっていた。
ある日の剣術の時間、ゼロが用意した木人形を相手にアリッサは木刀を打ち込んでいた。
ゲイルはその様子を見つつ、うんうんと頷きながらいつものように大声でアリッサに話しかける。
「よし、型が出来るようになってきたな! そろそろ実戦を教えてやるか!」
「ほ、ほんと! やっと実践が出来るのね!」
「あぁ、問題ねぇ! 執事よ、邪魔になるから木人形をどけてくれ」
「かしこまりました」
事前に実践練習をすると聞いていたので、ゼロは木人形をせかせかと片付けて少し離れてアリッサを見守る。
「実践については特に俺からは教えることがない、と言うか教えることが出来ねぇ。こればっかりは感覚で覚えていくしかないからな。じゃ、俺も木刀で受けるようにするから、かかってきな」
アリッサとゲイルはお互い向き合った。
ゲイルは正面に木刀を構え、アリッサもジリジリと近づいていき、掛け声とともにアリッサは木刀を振りかざす。
「やぁ!!」
ゲイルは木刀を軽々と受けるとそのまま足払いをしかけ、アリッサはドサッと芝生の上に倒れてしまった。
「痛ぁい……」
「アリッサ様!!」
ゼロは慌ててアリッサに駆け寄り、肩を抱く。
「大丈夫だよ、手加減して怪我させねぇようにしてるから」
「……教わる立場ではありますが一国の姫でありますので、あまり手荒な事はしないで頂けますか?」
「大丈夫よ、平気だから」
アリッサはゼロの手を払い、一人で立ち上がると両目でゲイルを見据え、息は荒くなっている。
どうやらアリッサの闘争心に火がついたようだ。
「まだまだこれからよ!!」
「いいねぇ! 何度でも来い!」
結局その日、アリッサはゲイルに何度も打ちのめされてしまった。
ただ、怪我という怪我もしておらず、終盤にはアリッサの息が上がり終了となった。
アリッサは生まれてきた人生の中で打ちのめされた経験がないため、次回から指導者が変わるのではないかとゼロは内心思っていたが―――
「やっぱり実践だと楽しいわね! 次は絶対に当てて見せるわ!」
―――アリッサの言葉で杞憂に終わった。
「怪我もなく安心しました、楽しんで頂けて何よりです。
ところで、本日はアルフォード様も一緒に昼食となりますが、ゲイル様はどうしますか?」
「うーん、せっかくだしお父様と一緒に食事してもらうわ!
みんなで食べたほうが美味しいわよ! あとゼロ、あなたも一緒に食事をしなさい!」
「三名での食事はかしこまりました。……あ! 急いで食事の準備をしなければ! ではこれにて」
「待ちなさいゼロ! ちょっと、あなた達何するのよ!」
ゼロは白い歯を覗かせながら片手をあげ、アリッサに別れを告げると颯爽と立ち去った。
そして、アリッサはどこからともなくやって来たメイド達に捕まり、昼食時のドレスアップをするため部屋に連れ去られるのだった。
アリッサの準備が終わり、大広間へと向かうと既にアルフォードは席に着いていた。
定位置なのかアルフォードはテーブルの奥に座るため、アリッサとゲイルは対面で座ることになる。
全員が着席したのを確認したゼロは料理を並べ始める。
「本日のメニューはカボチャの冷製スープ、エビフィッシュのステーキ、ルビーフルーツでございます」
「うわっ! 今日も旨そうだな! ってかうめぇ! 匂いがすでにうめぇ!」
ゲイルは食べる前に騒いでいる。
この男に品位は無いようだ。
「ところでゲイルよ、アリッサの剣術はどのようになっておる?」
「あぁ、お嬢さんは型はすでに出来ています! まぁ、弱い魔物であれば倒せるぐらいのレベルですかね」
「えっそうなの? なら魔物を倒してみたいわ!
ゲイルも前にドラゴンを倒したって話してくれたよね、だったら私もハイゴブリンぐらいなら倒せる気がするわ!」
「ハハハ! まぁ、ギルドやってた頃の昔の話だからなー……
ドラゴンは強ぇから俺一人じゃなくて、ギルドのみんなで倒したんだよ。
それにお嬢さんよぉ……いくら弱ぇ魔物でも油断すると死ぬ時は死ぬぜ」
ゲイルは出だしこそは笑っていたが、最後の言葉尻は笑みは消えていた。
昔のギルド時代を思い出した際に、魔物によって死んだ者がいるのだろうか。
はたまたアリッサの自惚れを注意したのか、ゲイルの表情から読み取れない。
「そ、そうなのね!」
普段、見ないゲイルの真面目な顔にアリッサも言葉が詰まってしまった。
「あっ! そう言やぁギルドで思い出した。近いうちに寄らねぇといけなかったな」
「だったら私もついて行きたいわ!」
「それはならん!」
「なんでよお父様! いいじゃないの!」
「いいか? ギルドは貴族街ではなく市民街にある、治安は悪くは無いが何が起きるかわからん! それに姫が行くところでもないのだ」
アリッサの外出は原則認められていない。
だが、数えるほどではあるが貴族街のみ、かつ護衛つけて外出をしたことは過去にある。
アリッサにとってゲイルの魔物の討伐やギルドの話は自分が経験したことのない未知の話であり、とても魅力を感じていた。
「もー、なんでよ! ダンスも出来るようになったんだし、ちょっとぐらいいいじゃない!」
「ほぅ、ダンスも出来るようになったとな?」
チラリとアルフォードはゼロを見る。
「私の意見ではございますが、ぎこちなさはありますが大きなミスはなく踊れるかと思います」
「ふむ……だが、ダメだ」
差し迫っている披露宴でのダンスの失態の可能性が払拭でき、可能ならばアリッサの望みを叶えたいとアルフォードは考えを改めようとした。
だが、ゲイルと共にギルドへ行くだけで多くの兵を使わせた場合、民にも迷惑がかかるのではないか?
貴族街ならともかく、市民街の場合その光景に奇異な目で周りから見られる事を考えると結論として行かせない方が良いのではないのか?
考えた末、外出させない方向で考えを纏めようとしていたが―――
―――最後の一押しはゲイルから生まれた。
「王様、お嬢さんもこう言ってんだし、なんなら俺が護衛をしましょうか?」
「えっ!! いいの!?」
アリッサは意外な人物が味方ので驚きを隠せない。
「いや、しかし娘の我が儘に付き合わせる訳もいかん」
「もう! お父様、ゲイルも護衛するって言ってんだからいいじゃない! うちの兵士よりも役に立つわ!」
「うーむ……わかった、ではゲイルよ、引き受けてくれるか?」
「あぁ、かまいません」
「すまんな……ただし外出には条件がある、城の兵士も同行させ護衛をつける」
「えぇー! また囲まれながら移動するの? 別にギルドに行くだけなのに大袈裟よ」
「あのー……すみませんが兵士をつけるならそこの執事と護衛一人だけにしてくれませんかね?
あんまり大所帯だと俺もギルドに行きづらくて……」
ゲイルは頭をぽりぽり掻きながらアルフォードに要望する。
「執事が必要になるのか?」
「えぇ、お嬢さんのことなんで……まぁギルドに行くのに執事が居ると助かります」
「ふむ、まぁいいだろう。お主ほどの腕があれば兵も一人でかまわん」
「お聞き入れ、ありがとうございます」
「ゼロもそれでよいな?」
「はい、かしこまりました」
「やったー! 久しぶりのお出かけよ! お父様大好き! ゲイルもよく言ったわ!!」
アリッサはハイテンションでゲイルの肩をバシバシ叩くのだった。
ゼロは外出について一連の話を聞き終わると、アリッサに絡まれ不憫そうなゲイルを見つめていた。
剣の腕だけでアルフォードの信用を勝ち取り、かつてギルドで名を馳せていたとの情報はあるが、どれほど腕が立つのか未知数である。
情報と言ってもゲイルがアリッサに話している経験談が聞こえたり、アリッサからの又聞きとなるので、イマイチ信憑性に欠ける話でもある。
ゲイルの雇用については執事長のジョルジュとアルフォードが話を内密で進めていたため、彼の経歴についてはゼロはあまり知らない。
武器が入っているであろう布袋を肌身離さず持っており、食事の際も足元に置き食べている。
一見、短絡的な立ち振る舞いに見えるが、隙を全く見せつけないので剣の腕前は相当な物であろう。
外出については兵士も同行すると言っていたので、彼女に危険が迫る可能性は少ないとゼロは自分自身を納得させた。
外出できると決まったため、その日のアリッサはとても機嫌が良く、普段は寝ている歴史の授業も真面目に受け教師を驚かせたのだった。
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≪アリッサ習得具合≫
剣術:基本は出来る
礼儀・作法:挨拶、作法は不安は残る
ダンス:簡単なステップは可能
魔法:構築は出来るがキープが出来ない
歴史:ほぼうろ覚え
お盆なので明日も投降します!




