34.■トラウマ
馬車の中にいるゼロは外での不穏な動きに気付く。
辺りを取り囲まれ、魔物の気配も感じ、揉め事の声も微かに聞こえた為、厄介ごとに巻き込まれていると判断し横で寝ているアルスを揺らしながら起こす。
「……アルスさん、起きて下さい」
アリッサを起こさない様になるべく小さな声を発し、ゆさぶり起こす。
「うーん……もう朝なの?」
「違います、外の様子がおかしいので様子を見て下さい」
「えージル爺達がいんじゃん……zzz」
「寝ないでください! 早く行って下さい!」
少し大きな声を出してしまった。
「う、うーん……むにゃむにゃ」
ゼロの声でアリッサが寝返りをする。
「ほら、大きな声だとアリッサ様が起きてしまうでしょう。さっさと様子を見て下さい」
「お姫様が起きようとしたの絶対に俺のせいじゃない……」
アルスは小言を言いつつ半ば強引に馬車の外に放り出された。
眠たそうに目を擦りながら辺りを見てみると、そこには魔物を従えた上裸の男と辺りを囲む野盗達、武器を構えて対峙する護衛がいたのだ。
「えぇーなにこれ? ……ジル爺なんかまずい感じ?」
「おお! アルス殿も出て来てくださったか、なーに何も問題ありゃせん」
「へっ! ガキが一匹出てきただけで状況は何も変わってねぇよジジイ、さっさと食い物と金目のもん出せばお前以外は奴隷商に売り飛ばしてやるぜ! 抵抗すれば皆殺しだけどなぁ、ぎゃはははははっは!」
「あらまぁ、随分と盛り上がっていることで……あの魔物は俺がやるよ」
アルスも剣を取ろうと手を腰に伸ばしたが――――
「アルス殿、アリッサ様はまだ寝ておられるだろうか?」
ジルベールに話しかけられたので、鞘に納めたままにした。
「そりゃぐっすりと寝てるよ」
「そうか、起こしたら可哀そうじゃのう……ポール、いけるか?」
「任せて、じいちゃん!」
ポールは剣を構えて対峙しているが弱々しい表情ではなく野盗を睨めつける強面になっていた。
いつもであれば頼りない反応をするはずなのだが……。
「わかっていると思うが加減はしろよ……よいな?」
「うん!」
ポールは野盗達の前へと歩きだした。
「うむ、ではいくかのぅ無音の壁!!」
野盗の前に出たのを確認したジルベールは自身のユニークスキルを発動させる。
すると辺りから風の音や野盗達の笑い声といった今まで聞こえてい音が消えてしまい、急に隣にいるジルベールの呼吸音しか聞こえなくなってしまった為、アルスは動揺を隠せない。
「あ、あれ? 急に周りから音が無くなったように感じるけど? なにこれ?」
「ワシのユニークスキルじゃよ、あと今回はポールだけで良いのでアルス殿は休んでいて下され」
「あー……今まで見る機会なかったけどジル爺がユニーク使うってお姫様が前に言ってた気がするなぁ。あと、ポールだけで大丈夫なの? 陰キャ君だけでは荷が重いんじゃ……」
「今回はマナをより込めて見えない壁と外の音も消しておりますからな、これでアリッサ様にも揉め事など聞こえないでしょう。ちなみにポールなら大丈夫じゃよ、逆に野盗達が心配じゃ」
「え、そうなの? うーん……でも流石にこの人数だと陰キャくんキツイと思うけどなぁ……」
「かっかっか、まぁ見とりなさい」
――――そして、二人は見えない壁ごしにポールへと目線を移したのだった。
「か、頭! なんか馬車に近づけないっす! 見えない何かがあるようです!」
背後からこっそり馬車へ近づいた野党の一人が声を上げた。
「なに寝ぼけた事言ってんだよ? んなわけねぇだろ……ってかテメェなんだよその目は?」
毛皮の男を鋭く睨みつけ、ポールは警告をする。
「死にたくなければ今すぐここから立ち去れ!」
「はぁ? 何言ってだよ、お前がここで死ぬんだよ! ……もういいわ、いけ犬ども、あいつを八つ裂きにしろ!!」
男がパチンと指の音を鳴らすとグランドウルフ達が唸り声を上げ、ポールへ襲い掛かる。
『グルゥゥゥガァァアァ!!!』
「邪魔だ!」
ポールは飛び掛かって来たグランドウルフを一振りで真っ二つにする。
グランドウルフの臓物はあたりに飛び散り、断末魔を上げる間もなく肉塊となったのだ。
「テメェ、よくもやりやがったな……! お前らやるぞ! こいつら皆殺しだ!!!」
「「おぉ!!!」」
野盗達が一斉に襲い掛かるのだが――――
「な、なんでだよ! 馬車に近づけねぇ!!」
「ダメだ! 武器で殴っても弾かれちまう」
馬車に向かった者はジルベールのユニークスキルにより近づくことが出来ず――――
「回る風斬り!!!」
「こいつ化物か! なんで一振りで何人もやられちまうんだ!」
「やめろ! く、くるなぁ!!」
――――ポールへ向かった者は一太刀で数人が肉塊となってしまう。
野盗達の人数は減っていき、中には対峙して逃げる者もいたがポールとの距離が離れていてもポールが剣を振れば衝撃波が当たり、逃亡越しに上半身と下半身に分かれてしまった。
そして、野党は委縮してしまいポールに立ち向かう者が次第にいなくなってしまった。
あまりの戦力差と馬車さえも近づくことが出来ない為、毛皮の男は野盗達に大声を出して伝える。
「こいつらはユニークスキルを持っていやがる!!! このままだと勝ち目はねぇから、お前ら一斉に逃げるぞ!!」
野盗達は四方に散らばりながら慌てて逃げ出したのだが―――
「ウィグル・ブレードデビジョン!!!」
大きく振り下ろされた剣は地面に当たると大地を抉り、蠢くような衝撃波が複数に分かれ地を駆け巡り、逃げ惑う野盗達へと迫る!
野盗が逃げ出した四方全てに先の技を放ち、一人また一人と命の灯が消えて行くのだった。
毛皮の男にもポールの技が当たる寸前で横っ飛びを行い回避をしようとしたが、間に合わず右足一本が吹き飛んでしまい、思わず悲鳴を上げる。
「ぎゃあぁああぁああぁ!!! 痛てぇぇえぇえ!!!」
男にゆっくりポールが近づいてゆく。
男は恐怖し足を引きずり、這いつくばりながら逃げ出そうとするが、すぐに追いつかれてしまった。
男はポールの足を掴みながら懇願する。
「はぁはぁ……すまん! 俺が悪かった! み、見逃してくれ!!」
「……言ったでしょう、死にたくなければ立ち去りなさいと」
「あぁ、本当に悪いと思う! お、俺は死にたくねぇ! 頼む許してくれ!!!」
「もう遅い」
ポールは足を掴んでいる男を蹴り飛ばし退かせる。
そして剣を大きく振りかぶり――――
「ポールそこまでじゃ!!!」
背後からジルベールの声が響く。
「や、やめてく――――ぐぇ!!!」
――――ジルベールの声が耳に入らなかったのか、一振りで男の首を跳ね飛ばし、男の鮮血でポールの鎧は血染めとなる。
「ポール! 加減しろと言っただろう!!」
「あ、じ、じいちゃん、、、終わっ、、たよ」
「命乞いしとる相手を殺めおって! 足をやられた時点でもう勝負はついておったぞ!!」
「ご、ごめん、じいちゃん、、」
「……もういい、血の匂いを嗅ぎつけて魔物が来ても面倒じゃ早く片付けるぞ、血がついた鎧も手入れをしておけ」
その後、護衛達により死体は一ヵ所にまとめる作業に入り、アルスにも協力をお願いをしたが頑なに拒み、手伝おうとせず臓物を撒き散らした死体を見るなり大きな岩陰に隠れ夕食に食べた物を戻していた。
そして、死体は一ヵ所にまとめられクラーイの魔法で一気に焼き切る。
魔法で作られた火柱をアルスは呆然と眺めながらジルベールへと話しかけた。
「……ジル爺、陰キャ―――ポールが使ってたのってユニークスキルだよね? あいつあんなに強かったんだ」
「うむ、ポールは鋭い真空波を飛ばすことが出来るのじゃ。
だがのぅ、昔色々とあってなポールはユニークスキルを上手くコントロールする事ができなくてのう、野盗や覚悟を決めた時にしかユニークスキルを使うことが出来んのじゃ」
「……そうなんだ」
「うむ、ポールは対人の戦闘は強くてのぅ、ノスピネル学校も短期間で首席卒業できたんじゃよ。バルテルミー家の者としてワシもその時は鼻がたか―――――」
「ごめん、俺もう寝るわ」
「おぉ、そうか、ゆっくり休んでくだされ」
アルスはジルベールの話を切り上げ、元気がなさそうに馬車へ戻り、馬車の中にいたゼロにもとくに何も言わずそのまま横になる。
いつもと違う様子のアルスに少しだけゼロは気になったが、今はそっとしておくことにした。
何も知らないアリッサは幸せそうに寝ており、外での片が付いたのを確認したゼロも眠りにつくのだった。
翌朝になってもアルスは元気が無く、ポールに対しても少し優しくなっていた。
その様子を不思議に思ったアリッサは何かあったのか聞いていたが、昨夜の出来事はジルベールに口止めされていた為、体調が少し悪いと苦し紛れの嘘を付いていたが、アリッサは信じていたようだ。
※※※
そして日は経ち、一行はとうとう鉄の壁の終わりであるオルテンシアへの入口が見えてきた。
オルテンシアの外観は鉄の壁ほどまでではないが高い城壁に囲まれており、エクリエル側とその反対にバリョッサス側の大きな門が出入り口となっている。
門の近くにはエクリエル王国の詰所があるので先ずはそこに立ち寄ることになっている。
アリッサもオルテンシアの大きな門に近づくほど馬車の中で「すごい、なんて大きい門なの!」と、鼻息を荒くしていた。
ちなみにアルスは日が経つにつれていつもの彼に戻っていた。
それでもポールに対しては少し距離を置き、いじりすぎてキレられたら手が付けられなくなるのを恐れたのであろう、あまり彼をいじる事をしなくなった。
オルテンシア到着後の予定は船でピロカット大陸へと渡ることになり、さらに過酷な旅が待ち受ける事になる。
当然アリッサは初めて船旅となるが、ゼロも城での生活が長かったので実は彼も初めて船を見る事になる。
表情には出さないが内心楽しみにしているのだった。
船に期待を寄せつつ、ゼロはオルテンシアに辿り着くまでの道中を思い出していた。
アリッサとっては野宿、魔物との戦闘、外の世界……旅を始める前と比べると彼女も少しだけ成長したように感じる。
アルスはアリッサと同い年なので初め身近に出来た友達? ……と言えようか、王族に対する態度としてはあり得ないが仲良くやっていると思う。
ずっと傍にいた為か思い出すことが自分の事ではなくアリッサのことになっており、忍笑するゼロであった。
―――だが、旅の前に出した手紙の返事は組織から未だに返って来ず、旅の思い出に浸っていたゼロの頭からアリッサ暗殺の事などいつの間にか頭からすっぽりと抜けていたのだった。




