31.■マタドール
「ぬぅ! こりゃいかん、散れ!! ――――アリッサ様、失礼!」
近くにいるアリッサを担ぎながらジルベールの言葉で固まっていた護衛達が取り囲むように左右に別れる。
ファイヤーブルテイルの攻撃を盾を使い全員で受け止めることも出来たが、どれほどの威力があるか分からずアリッサに危害が出る可能性を考え、離れたのだ。
『モゥッ!?』
散り散りに展開したためファイヤーブルテイルは一瞬戸惑い足を止めかけたがジミーが「来い! こっちだ!」と、挑発を行いジミーに狙いをつけた。
『グモオォォォォオォッ!!!』
ジミーは盾をしっかりと持ちファイヤーブルテイルの攻撃を受け流すため身構える。ブルテイルは頭を下げ、突進すると頭の角がジミーを捉える。そして――――
―――ドンッ!!!
「ぐわぁぁ!!!」
角を躱すことが出来たが盾ごと頭を持ち上げられジミーは吹き飛ばされてしまった。あまりの衝撃に耐えきれず、手から盾を放してしまう。
空中に放り出され地面へ叩きつけられたジミーを追撃をするべくファイヤーブルテイルは今にも突進を行おうと後ろ脚に力を入れようとしていた。
「させ、、ない」
「うりゃ!!」
ポールとモーブが隙をついて臀部へ剣を突き立てたのだが、炎を纏った皮膚に剣を突き刺す事が出来ず、まるで鉄に剣を当てているかのような感触で『カンッ』と弾かれた。
「そんな、なんて固い皮膚なんだ!」
『モウゥゥ!!』
後ろ脚をバタつかせポールとモーブの攻撃を振り払うと攻撃対象を二人に変えて向き直り、その隙にジミーは盾を拾いあげ、三人でファイヤーブルテイルを囲んだ。
「ねぇ、あの牛が私たちに来たらどうしてたのよ? だってジミー吹き飛ばされたじゃない! 私たちも飛ばされるわよ!」
「かっかっか! 心配ご無用でございますぞ! ワシがいる限りアリッサ様には指一本も触れさせませんわい」
アリッサを背負いながらジルベールは快活に笑う。
三人のうち一人がファイヤーブルテイルを挑発し、残りの二人で斬りつけるが硬い皮膚で守られ一向にダメージを与えられない。
「こりゃ、さっさと倒さんか! 技を使えい!」
なかなか決着がつかないのをみてジルベールがもどかしさを感じ始める。
「わ、わかった。―――うわっ!」
ポールの方へブルテイルが突撃し、慌てて避ける。
ジミーとモーブはその隙を見逃さなかった。
「トラストアタック!!!」
「アッパーブレード!!!」
二人の剣撃による「突」と「斬」の技を放ち、ファイヤーブルテイルの腿へ攻撃を命中させた。
『ぐもぉぉぉぉぉぉ!!!』
攻撃が当たった箇所の皮膚が抉れて僅かながらダメージを与えることができ、ファイヤーブルテイルも悲鳴を上げるように叫んだ。
だが、剥き出しになった肉は纏っている炎によりすぐ傷を塞いでしまった。
その様子を見ていたジミーとモーブの顔が歪む。
「水じゃ! 水魔法を使えい! 纏っている炎を消すのじゃ!!」
ジルベールの指示が飛ぶとポールはファイヤーブルテイルとの距離を開け、詠唱を助けるためジミーとモーブが挑発を行い注意を引きつけた。
「来たれ清流、我が導きに応えよ。水球の矢となりて放たれん……………アクアシュート!!!」
すると、危険を察したのかブルテイルはポールへと向きを変え――――
『ボゥッ!!!』
口から火の玉をポールへ向けて放った!
――ジュワッ!!!
蒸発音と共にアクアシュートの威力は弱まり、ファイヤーブルテイルへ届くことなく魔法は相殺された。
「じ、じいちゃん! 魔法を消さ、れたよ! ど、どどうしよう!」
「な、なんと……火を吐いたぞい……」
ドラゴンでもあるまいファイヤーブルテイルが火を吐く事に驚きを隠せない。
「じ、じいちゃん!」
「わかっておるわ! 皆の者、アレを使うぞ、ワシに集まれ!」
「ちょっと、何でこっちに集まらせるのよ!」
「かっかっかっ安心して下され、ワシのアレは大丈夫ですぞ! さてアリッサ様、ちょいと下ろしますが、ワシから離れないで下され」
ジルベールは不安そうなアリッサをよそに背中からおろすと、ファイヤーブルテイルを囲んでいた他の三人も近くへと集まる。
「ねぇ、このままだと牛がこっちに走ってくるわよ!」
「してアリッサ様、前に話した固有技の話を覚えておりますかな?」
「えっとー無詠唱? とか言ってた気がするわ。たしか、誰でも使える訳じゃないとか」
「ええ、その通りです。せっかくなのでこの機会にワシの固有技を披露しましょうぞ! ポール、ワシの槍を持て!」
ジルベール愛用の槍をポールへと手渡し、皆を庇うように一歩前へ出る。
「えっ! ジルベール使えるの? 何で教えてくれなかったのよ!」
「ワシの固有技はちと分かりづらいですからな、見せる機会がありませんでしてのぅ、それにマナも食うのでここぞとばかりの時に使います………そろそろ奴が来ますぞ」
『グモォォォオォォォ!!!!』
ファイヤーブルテイルが角を向けて勢いよく向かってきた。
このままではジルベールは角で貫かれ、後ろにいる皆も吹き飛ばされてしまう。
だが、ジルベールは慌てることなく両手を広げてまるで自ら攻撃を受け止めるかのような体勢を取る。
「ジルベール何やってるのよ! 危ないわよ!」
ファイヤーブルテイルは肉薄し、今にもジルベールが貫かれ体に穴が開いてしまう。その様子が脳裏に浮かびアリッサは思わず目を瞑る。
―――ドンッ!
「きゃっ!!」
何かがぶつかる音がした。
ファイヤーブルテイルと衝突した音だとアリッサは思ったのだが、自分自身が吹き飛ばされている感覚もなく、ジルベールの断末魔も聞こえないのでゆっくりと目を開けてみると――――
まるで見えない壁があるかのように目には見えない何かにぶつかり、その後も突進を繰り返すがジルベールに攻撃が当たる気配がない。
突進をするのを諦めたファイヤーブルテイルは火の球を口から吐き出すがこれもジルベール達の前で弾かれた。
「かかか! これが”鉄壁の壁”よ! ポール今じゃ、やれい!!」
「う、うりゃーーー!!」
ジルベール愛用の槍をマナを込めて突き刺した。
『グモォォォオォォォ!!!!!!!!』
―――ボンッ!!!!!!
断末魔と共に槍で貫かれたファイヤーブルテイルの体は真っ二つに裂け、爆発音と共に一瞬にしてブルテイルは燃え尽きてしまった。
「ほぅ……一瞬で消し炭になってしまったようじゃな……見たことのない個体じゃったから調べたかったのにおしいのぅ」
「じ、じいちゃん、の槍で倒したあと燃え、たの?」
ジルベールの槍を渡しながらポールが聞いた。
「いや槍ではないな、ブルテイルの体内……おそらく食道が発火しており、体内に密閉された炎が外気と触れ合って爆発したのじゃろう」
「ねーちょっと! 色々聞きたい事があるけど一体なんなのよ! 牛はこっちに来れなくなったし、槍で突いたら爆発するし意味がわからないわ!」
状況がわからずイライラしているアリッサをなだめながらジルベールは説明を始める。
「まぁまぁ……先も伝えましたがワシの固有技によりブルテイルの突撃を防いだのですぞ」
「手を広げてたけど、あれは何をしたのよ?」
「うーむ、見えない壁と言いましょうか、透明な障壁をワシの周りに張っておりました。この障壁を破れる者はそうそうおらんですからな」
「じゃ、その槍は何よ?」
「この槍は魔武器ですぞ! マナを込めるほど強固で鋭利になります!」
「なら、さっさとその槍で攻撃すればよかったじゃない!」
「かっかっかっ! 確かにそうですな! さて、倒したことですし村へ戻りましょうぞ!」
快活に笑うジルベールだが、槍で攻撃しなかった理由は見たこともない魔物と対峙し、敵の行動や様子を見たかったのだろう。
現に護衛三人を戦わせ行動を観察し、戦いの指示を飛ばしていたのはジルベールだ。
その結果、魔法や攻撃の効果が薄いと判断し固有技で足止めを行い、その隙に魔武器で止めを刺す判断をしたのだ。
※※※
オーバの村ではリンジェレンを含めた小さい子供とアルスが遊んでいた。
アルスは子供(とくに幼女)の面倒見がよく、村の中でも評判となり農作業の間に子供を預ける村人もいたほどだ。
そして、今日はなぜか人目が付きにくい民家の裏で遊ぼうと提案するアルスであった。
「デュフフ! 次は僕がお医者さんの番だねぇ……さーて、さっそく診察しちゃおっかなぁ……」
「あぁ、いたいた! アルス殿、ただいま戻りましたぞ! いやーアルス殿がいない時に魔物が現れて大変でしたぞ!」
「ぐわーーー!!! 誰だ、びっくりした! ―――ってなんだジル爺か」
「………あんたこんな場所で何やってるの?」
「え、いやー……あのー、これはですね……うーむ」
訝しげにアリッサが聞くと、しどろもどろになっているアルスを見かねたのか目の前に座っていた女の子が代わりに口を開いた。
「アルスが今日はお医者さんごっこしようって言ってきたの! んでね、順番にお腹を見せて触って次はアルスがお医者さんの番なの!」
「ええい、だまらっしゃい!! いや、これはですね、あの――――あがぴっ!!」
アリッサの鉄拳が炸裂し変態を成敗したところで、子供たちを保護し農作業から戻って来た親元へ無事に帰すとエルネッタへの報告も翌日行う事にした。
時刻はすでに夕暮れ時となっており、宿で休憩を取ってから酒場で討伐の打ち上げをする事になった。
一応、ポールが虫の死骸のように仰向けになっているアルスへ酒場で打ち上げを行う旨を伝えてから宿へと戻る。伝える際にピクピクと体が痙攣していたので恐らく言葉の認識はしているはずであろう。
宿の部屋を開けるとゼロが胸元のシャツを開け、ラフな格好で椅子へ腰かけて外を眺めており、討伐期間中、旅の食材集めや村人の農作業の手伝いを行っていたのだ。
「あぁ、ポールさんお帰りなさい。今日はどうでしたか?」
「きょ、今日はやっと、討伐、、することが、できました」
「おぉ、おめでとうございます! 疲れているでしょう。水桶を用意してありますのでどうぞ使って下さい」
「あ、ありが、、とう、、ございます」
ポールは煤だらけになった鎧を脱ぎ、武具の手入れを始める。
手入れをしながらファイヤーブルテイル討伐の話をし、ゼロもうんうんと聞いている様子だった。
武具の手入れを終えると肌着を脱ぎ、布を水桶で濡らし身体を拭うのだが、ポールは身体を拭く前に自身の首に下げているペンダントを握りしめ目を閉じた。
その後、再び目を開けると水桶に浸していた布を固く絞り身体を拭き始める。
その様子を見ていたゼロは前々から気になっていたが伺うタイミングを逃していたので、この際思い切って聞くことにした。
「あの、聞きそびれてましたがそのペンダントは?」
「あ、ああこれは、、ですね、、話すと少し、、長くなります、がいいですか?」
「ええ、大丈夫ですよ」
「わ、わかりました」
―――――ポールが自身の過去についてゆっくりと語りだした。




