30.■燃える雄牛
炎を纏う魔物―――燃える雄牛の討伐にあたり、先ずジルベール達は例のブルテイルによって被害にあった村人に話を聞くことにした。
村人の家はエルネッタの話では宿からそう遠くないとのことだ。
宿から少し歩くと小さな家が並んで建てられており、そのうちの一つが被害者の家である。
ジルベールは家のドアをノックし自身が騎士である事とブルテイルの討伐にあたり話を聞きたい等の説明をドア越しに行い、家の住人から入ってもよいと許可を得た。
小さな家の中へ入ると体中包帯だらけの男が横になっており、年老いた母親が看病を行っていた。
男にこちらから何か話しかけても「うぅー……」と唸るだけで会話にならず、母親によると火傷が酷く話すことも困難で水を飲ませる事が精一杯らしい、腹部の包帯から滲んでいる血が痛々しい。
「ほれ、話せる状態まで回復させてやろう」
このままでは情報が引き出せず、傷も酷く放っておけば死に至る可能性がある為、ジルベールが治癒術を施し、会話ができる状態まで回復させた。
「あ、あ、ありがとう、ございます」
「うむ! しばらくは安静せい。ところで炎を纏ったブルテイルじゃが、本当に存在したのか?」
「は、はい……火で身体を覆い、鋭い角と赤い目が印象的でした。……近くの森にキノコを採り行った時に奴と出くわし、腹部を突き刺されました。その後、突き刺されたまま思いっきり振り回され、火がわ、私の体を囲って……死ぬかと思いました」
「そのような傷を負って、お主はよく生きておったのぅ」
「ええ……たまたま森に居た冒険者の方々が魔物の注意を引いてくれまして、私はそのまま命からがら逃げたのですが村に着くのと同時に意識を失いました」
「おお、ではそやつらがすでに片付けておるかもしれんのぅ」
「そ、それは、ありえません」
「なぜじゃ?」
「その方々はこの村の宿に泊まっていたのですが……未だに村に帰っていないと母から聞いております」
「いつから帰って来んのじゃ?」
「……もう三日ほど経ちます」
母親が代わりに答えた。
「三日か……もしかするとやられたのかもしれんのう……他にも聞きたいことがあるのじゃが――――」
他の質問として襲撃現場や他の被害者、ブルテイルの大きさ、他に同じようなブルテイルはいたか、など聞いたが襲撃現場しか情報を得る事が出来なかった。
「邪魔したのぅ」と別れの挨拶を告げ、母親が改めてお礼を伝えるとジルベール達を家の外まで見送った。
ある程度情報を仕入れたので次の行動に移る。
次は襲撃があった場所で罠を仕掛けるための買い出しだ。
ブルテイルは群れをなす習性があるため、群れから離すため身動きを取れなくさせる必要がある。
草食のブルテイルは香草を好むので、罠となる餌は牧草、香草、スリプ草を混ぜた罠を仕掛ける。そして仕掛ける罠は一匹が食べきれる量を用意する、それ以上多くの餌を用意するとブルテイルが群がり、スリプ草の効果が薄くなるからだ。
幸いオーバの村は牧場があるので牧草は用意ができる。料理で使う香草を混ぜて、スリプ草は森で採取することで罠の準備は容易に出来た。罠の調合についてはポールが得意としているので罠の作成を命じ用意させる。
だが準備を始めてから時間も経ち日も暮れかかっているので、次の日に襲撃現場へと向かい現場の下見をする事となった。
次の日の朝、村人が襲われた襲撃現場に向かうことにする。
メンバーはジルベール、アルス、ポール、ジミー、モーブと……アリッサだ。
アリッサには危険なので部屋で待つように説得したが言うことを聞かず付いてきてしまった。そのため現場へ行く人数も増えてしまったのだ。
「さーてやっと着いたわ………ここが襲撃されたところね」
「き、危険なので、一人で森へ、入らな、いで下さい」
「わかってるわよ!」
「ひぃ!」
注意をしたがアリッサの大きな返事で身を震わせてしまうポールだった。
襲撃現場の森の中は大きな何かが通ったであろう草木が倒されており、その周りには若干燃えたような焦げ跡が残っていた。
森の奥へ進むと立ち向かった冒険者の物であろうか靴や剣が落ち、辺りの木々には血飛沫が飛んだような跡も見受けられる。
「……靴も剣もまだ綺麗じゃ、もしかすると村人を助けた者たちの血痕かもしれんのぅ」
ジルベールは悲しい顔をしながら現場の検証を行っていた。
「と、ところで、じいちゃん、罠は、どこに、仕掛ける?」
「うーむ……情報が少ないからのう。襲撃現場に仕掛ける他はなさそうじゃ。……では、罠の設置を頼むぞ」
「はっ!」
モーブが返事を返し、荷車で運んできた罠を山のように盛りつけて設置した。
後は魔物が掛かるまで離れた場所で待機となる。
※※※
その後、しばらく待つがファイヤーブルテイルは姿を出さない。
「はぁ……まったく出てこないわね」
「アリッサ様、狩りとはこのようなものですぞ。まだ時間はあるじっくり腰を据えて待ちましょうぞ」
「……わかったわ」
だが、待てど待てど罠にかかる気配は無く、討伐隊は日が暮れるまで待ったがファイヤーブルテイルは結局その日に現れなかった。
次の日も現れず、またその次も日も現れないので罠の設置場所も変えたが効果は無く、森へ入り捜索なども行ったが発見に至らず……早々に匙を投げたアルスは五日目から討伐隊に同行しなくなった。
そして討伐から八日が経ったある日。
「おかしい……なぜこうもかからんのじゃ」
一向に成果を上げられずジルベールは頭を抱えていた。
アルスに至っては「幼女と戯れるのも私の務めだ」と言い放ち村の子供とおままごとをやり始め、様子も見に来ない始末だ。
だが、そんなアルスと違いアリッサは毎回付いてきた。
罠にかかるまでの待機時間中は暇を持て余しているようだが、村に残っている方が退屈らしい。
とうとう九日目になり、討伐に決められた期日が近づいてくる
今回、現場に向かったのはアルスを除いた初日のメンバーだ。
「うーむ……潮時かのう……」
ここまで待っても罠にかからないならファイヤーブルテイルはすでにこの場所から離れてしまったのではないかと思い始め、ジルベールは討伐を諦めようと思い始めた矢先―――
森から黒い何かが勢いよく飛び出した!
『ガルルル』
「あ、、アリッサ様、、、危ない!!」
ポールが身を挺してアリッサの前に立つ。
森から飛び出してきたのはバッドウルフだ。
バッドウルフは鋭い牙と爪を持ち、黒い体毛を纏わせる四足歩行の魔獣だ。
機動力と夜間も見通せる目を持ち集団で行動を取るため、機動力、集団力、攻撃力を兼備えるので囲まれると非常に厄介だが……そこに現れてのは三匹のやせ細ったバッドウルフだった。
「あら? 犬かしら? とても危険に見えないわよ」
「いやいや、相手は魔物油断してはなりませんぞ! ……して、このような少ない数で襲ってくるとは珍しいですな」
『グルグルグル―――ガゥ!!』
一匹のバッドウルフは唸り声をあげ、ジミーへ飛び掛かった――――
「そりゃ!!」
『ギャウッ!』
ジミーは飛び掛かてきたバッドウルフを躱し、背中を斬りつけた。
痩せていたからなのかスピードが遅く、いとも簡単に避ける事が出来たようだ。
他のバッドウルフもモーブとジルベールが簡単に処理をした。
倒したバッドウルフを燃やすため一ヵ所に集めながらジルベールは疑問を感じた。襲撃にしてはあまりにも数が少なく、まるで何かから逃げてきたように見受けられたのだ。
――――だが、その疑問はすぐに解明される。
『グモォォォォォゥウウ!!!』
けたたましい声と共に森の奥から巨大な何かが姿を現した。
黒くて薄い体毛、鋭い角、赤い目……体は炎で覆われている。
そう、姿を現したのはファイヤーブルテイルだ。
ファイヤーブルテイルの声を聴くと同時にジルベールはアリッサの近くへとすぐさま移動をした。
『ぐちゃ、ガリガリ……くちゃ……』
ファイヤーブルテイルは死んでいるバッドウルフに近づくと頭からかぶりつき、咀嚼し始める。
「なん、だ、この魔物は?」
「おい、おい……どうなっとるんじゃ?」
一同はその光景に戦慄する。
先ず体の大きさだ、通常のブルテイルの2倍ほど大きく感じ、本来であれば草食なのだがバッドウルフに喰らいついている。
『ガリゴリ、ぐちゃ……ゴックン!』
バッドウルフをあっという間に平らげるとその目は次の獲物を見つけたかのように鋭い目つきでジルベール達を見据える。
「じ、、じいちゃん!!!」
「ポール、慌てるでない。……よいか優先すべきことはアリッサ様をお守りする事じゃ! こやつはただの魔物じゃないぞ、皆の者油断するな!」
「「ハッ!」」
ジミーとモーブが返事を返した。
「前の虫からずいぶん待ったわ、これでやっと私の出番がきたわね!」
「アリッサ様! やつは危険なのでワシから離れないで下さい!」
「な、なによ! そんなに危険な魔物なの?」
「あれはワシの知っておるブルテイルではありません! 何をしてくるかわかりませんぞ! なので、どうか……」
「わ、わかったわよ!」
未知の魔物と遭遇したからなのかジルベールは自分から離れないよう懇願しているように聞こえ、グリーンバグに囲まれた時とは違い、今回は明らかに様子が違ったのでアリッサも素直に受け入れたようだ。
―――そして素早くアリッサを中心に護衛達が身を囲い、守りを固めた。
「こんな時に限ってアルス殿がおらんのぅ……」
渋い顔をしつつジルベールから苦言が漏れる。
『ンモォォォオォォォオオォーーーーー!!!!』
雄叫びのような声を上げ体全体に覆われている炎が一段と大きくなり、前のめりに角を突きだすと、身を固めているアリッサ達へ突撃するかのように勢いよく走り出したのだ――――




