29.■過去と依頼
一行は何度か野営を入れつつ進んで行き、やっとのことで森から離れ、しばらく砂利道を進むと次の目的地であるオーバの村に到着間近となる。
「もうすぐでオーバに着きます。しばらく野営が続きましたのでオーバで2、3日ほど準備をしてから出発しようと思っておりますぞ」
地図を見ながらジルベールは周知した。
次の場所に到着と聞くとテンションが上がるのがアリッサだ。
「野営も楽しかったけど、次もどんなところか楽しみね!」
「やっとゆっくり出来る、外で寝るのはやっぱり何度寝ても慣れないな……」
到着間近の報を聞いて、アルスは伸びをしながら呟く。
湖の一件でジルベールとアルスの関係は悪くなるかと思えたが、あの後ジルベールはすぐに謝りアルスもそれを許した。
むしろ共感できる戦友が出来たことで二人の仲が深まったのだ。
後の話だが二人は馬車の中で下ネタを言い合い楽しんでいる様子で、アリッサは話の内容はよく分かってないがゼロは終始微妙な顔をし、それとなくやめるよう注意をしていた。
ちなみにジルベールが馬車の手綱を握っている時はポールを弄ろうとアルスが色々話しかけていたが、ポールが口下手なため、全く会話にならず最終的にアリッサへちょっかいを出し、ゼロとアリッサに怒られるアルスであった。
※※※
そして、一行はオーバへ到着した。
オーバの村は集落と別で広い放牧場があり、野菜なども自分たちで育て、町ほどの人数もいるわけでは無いため村の皆で協力して生活をしてる。
また、他の町と比べ森も近いため冒険者も訪れる事がたまにあり、村には冒険者用に酒場や宿も営んでいる。
古くて大きな家が宿になり、木目に囲まれた宿の部屋は歩く度に木が軋み、体を拭くための水桶も言えば用意してくれるのだが、湯水は宿で用意できないので各々が魔法を使って桶に水をお湯に変えて張らせるか、魔法が使えなければ水で我慢することになる。
食事に関しても宿での用意は無いため酒場で取る事になり、旅の食材については村人から購入する形となる。
「食事の用意もないって、なんか私の想像と違うわね……」
宿で休憩していたアリッサがゼロの部屋へと入り、愚痴をこぼしていた。
「お城での生活とはかけ離れてるので旅とはこのようなものです。むしろユフィンの宿はぜいたく過ぎました。あと、遠征に行く騎士はもっと過酷な環境で寝泊まりしていると思いますよ……ねぇポールさん」
「そ、そうで、すね。宿が、あるだけでも、ありがたい、です」
今回もポールと同じ宿の部屋になったので、アリッサに食事のありがたさを感じてもらうため遠征の時の話をしてもらおうとゼロは話を振った。
「あれ、は16歳の頃、はじめて、キメラの討伐遠征に行った時、雪山で、はぐれて倒したモン、スター、のお腹の中で寝まし、た。それに―――」
「「………」」
ポールのたどたどしい話し方で若干アリッサがイライラしていたが、彼の話をかいつまんで話せばこうだ。
キメラ討伐時に雪山で討伐隊と逸れてしまい雪山で遭難し、寒さをしのぐため魔物の腹を裂いて中で夜を越した。
その後も崖からの転落や魔物数体に囲まれ、数日は魔物の腹の中で過ごし、魔物の肉を食らい生き延び、最終的に討伐目標のキメラを一人で倒したとのことだった。
その後、討伐の証であるキメラの爪を持ち下山途中で討伐隊と合流することができ、一人で討伐した事で大層驚かれた。
城に帰還すると珍しくジルベールが褒めてくれたと嬉しく語っていた。
あの口下手なポールがここまで話すのだから雪山での体験は壮絶だったのであろう。
アリッサも話を最後まで聞いて「なんだ意外とあなたってやるじゃない!」と、ポールを見直しているようだった。
※※※
一方その頃、ジルベールとアルスは酒場へ向かおうと村の中を歩いていた。
酒場は宿から少し歩く必要があり、酒場の外観が見えたところで一人の子供が小走りで近寄り話しかけてきた。
「わぁー!! 騎士様だ! カッコいい!」
子供は肩まで伸びた黒髪にクリっとした目、足まである布の服を着ていた。
騎士が村へと立ち寄ることはあまりないのでジルベールの着ていた鎧をみて舞い上がってしまったのだろう。
「おやおや、こんにちわ」
ジルベールはにこやかに顔に皺を寄せ挨拶をした。
そして子供による質問攻めが始まってしまった。
「何故来たの?」「どこに行くの?」「どんなことしてるの?」「どんな魔物倒したの?」
ジルベールは旅について明確な答えは避けつつ、終始笑顔で対応している様子を見る限り彼は子供が好きなのであろう……ただの好々爺になっていた。
一頻り会話しジルベールも別れの挨拶を交わそうとしたが、子供が急に緊張した面持ちになり何かを言おうとしていた。
「あの、き、騎士様にお願いがあるの……」
聞き入れてもらえるのだろうか不安に思っているのであろう。
その子は目を伏せながら、もじもじしていた。
「デュフフ……一体どうしたのかな? 変な事はしないからお兄ちゃんにも話してごらんなさい……はぁはぁ」
アルスの気持ちの悪い笑顔と奇妙な手つきを見た子供は「ひぃ」と小さな悲鳴を上げ後退りした。
「こりゃ! 怖がらせたらいかんぞ!」
「はっ! いかんいかん、幼女を見てるとつい我を忘れて……」
アルスが邪念を払ったところで、改めてどのようなお願い事なのかジルベールは聞いてみる事にした。
「……それで、どのような事をワシに聞いてほしいのじゃ?」
「あ、あの……えーと、魔物を倒してほしいの……」
「ほう? どのような魔物かのう?」
「えーと、なんとかブルテイル? だったかな?」
「おお、ブルテイルかそういえばオルテンシア方面で暴れておると聞いたのぅ。ふーむ、そこまで危険な魔物ではないのじゃが……」
ブルテイルは大きな体格をしている牛の魔物である。
鋭い角を持ち、突進して相手を貫くが、自らに害をなさない場合は襲ってこない。
過去に人が家畜として扱おうとしたが、命令を聞かず力のある者でしか抑える事が出来ない為、酪農を行う農家では扱うことが非常に難しい。
また、ブルテイルの肉は柔らかく冒険者などにも好まれるが群れで生活をしている為、直接立ち向かって狩ろうとすると群れで襲われ命を落とす者も少なくない。
「ふーむ……では、ワシらが進んで行く道中に遭遇したら倒しておくから安心せい」
ジルベールは屈んでにこやかに頭を撫でながら伝えたが、期待していた答えと違ったのかひどく落胆すると、しまいには泣きそうになっていた。
「やっぱ、聞いてくれなかった……ぐすん」
「おぉ……泣く出ないぞ。うーむ……どうしたものかのぅ」
目に涙を溜め今にも泣きだしそうになり、ジルベールがほとほと困っていると―――
「リンジェレン! 何やっているの?」
遠くから母親らしき人物がやって来た。
20代後半だろうか、子供と同じ黒髪で目元がはっきりしており、とても美しい。
子供も成長すれば母親に似てとても美しくなるだろう、とても期待が持てる。
そして、母親の胸には男を虜にさせる二つの大きな凶器を備えており、実質ジルベールを釘付けにした。
「騎士様に、、魔物倒してくれる、、ようにお願いしたの、、でも、、ダメだった……ぐすん」
「魔物ってブルテイルのことかしら? でも、そんなお願い騎士様にしちゃダメよ、騎士様も困っているじゃない。………あの、うちの子が無理を言って申し訳ありません」
母親は子供を抱きしめつつ二人に向かって頭を下げた。
すると服の首元から胸が見えそうになり、ジルベールは瞬時に凝視した。
「おお!? あ、い、いや……そんな無理なんてことはないですぞ。ところでブルテイルはこちらから手を出さなければ危険はないはずじゃがのぅ」
「ええ、そうなのですが、とても危険な魔物で炎を纏っているみたいです。最近この近くに現れたのか村の人も襲われまして……」
母親は俯きながらとても悲しそうに話した。
「なっ! 炎を纏っているブルテイルなぞ聞いたことがありませんぞ!」
「でも実際にいるのです! そして被害に遭った人もいるのです! わ、私の主人も……」
母親は俯いまま黙ってしまった。
「まさか……旦那殿も被害に?」
「騎士様! 無理を承知でお願いします! あの魔物を倒していただけませんでしょうか! どうか、どうか……!」
母親はジルベールへぴったりくっつくように近づき、祈りの手を握ると上目遣いで懇願した。距離が近いため胸も体に当たり、ジルベールの鼻の下が伸びてしまった。
「むふっ! ところで奥方殿、名はなんと申す?」
「……エルネッタと申します」
「あいわかった!! このジルベール、必ずや魔物を討伐してみせましょうぞ!!!」
「おい、ジル爺! 2、3日滞在したらオルテンシアに向かうんじゃなかったのか!」
「あ、ありがとうございます!」
エルネッタはお礼を言いながらジルベールに抱きつくと、彼を胸で圧迫した。
「むほぅ! 困っている民を助けるのも騎士の務めですぞ!!」
「このエロ爺め! エルネッタさん以外からお願いされてたら断ってただろ!」
「な、なにを言うか!! ワシは困っている民がいるならば騎士としての務めを果たすだけじゃ!」
ジルベールとアルスがいがみ合っているとリンジェレンと呼ばれている子供がアルスの近くに寄り、よそよそとズボンの袖を掴んだ。
「あ、あの……気持ち悪いお兄ちゃんは魔物やっつけてくれないの?」
「………」
リンジェレンの言葉に一瞬固まるアルス―――そしてじっと見つめる。
「やっぱダメなのかな?」
クリンとした目で母親と同じように上目遣いで問いかけた。
「うほっ! デュフフ……お兄ちゃんに任せなさい、幼女からのお願いは聞いてあげないとねぇ」
「お主もワシと変わらんな……」
コロッと態度を変えたのでジルベールは呆れた。
「憧れの騎士様にお願いを聞いてもらえてよかったわねリンジェレン!」
「うん! 本当にありがとう! 僕、大きくなったらおじいちゃんみたいな騎士になりたい!」
「うん? 僕? 騎士になるって? 女の子じゃないのですかい?」
「いいえ、リンジェレンは男の子ですよ。
……でも、よかったです! 騎士様たちが協力して魔物退治して頂けるなんて、村のみんなも大変喜ぶと思います!」
余程困っていたのであろう親子は抱き合って喜んだ。
ジルベールはその様子を微笑ましく見ていたが……アルスは―――
「まぁワイ、男の娘でもいけるから」
「お主……男色家の顔も持っておるのか? 戦いで背中を預けるから友情から愛情に変わる者もおるしのぅ」
「ジル爺、何か勘違いしているがワイは見た目が幼女ならそれでイケる口だ」
ジルベールが若干勘違いをしていたが、アルスの趣向については否定しなかった。
その後、ジルベールは宿へ戻るとアリッサにオーバの滞在期間を延ばす旨をお願いした。
当然理由を求められたので「近隣の魔物に民が困っているので退治したい」と伝え、ジルベールの意思に他の護衛達も感銘を受け賛同し、その様子を見たアリッサも了承せざるを得なくなった。
ただし、あくまでも旅が優先となるので期日として10日間で討伐出来ない場合、魔物を諦めオルテンシアへ向かうことに決まった。
ちなみに、エルネッタに詰め寄られながら討伐の依頼をされ、鼻の下を伸ばして快諾した事はもちろん旅の皆に伝えてない。




