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28.■お姫様の水浴び

グリーンバグを一掃してから森が近いにも関わらず魔物が近づくことは無かった。

おそらくアルスの集約した高密度のマナの放出による轟音と閃光により魔物たちも危険を感じたのかもしれない―――それでも馬車は茂みを抜けるため走り続ける。




「うーむ……ここら辺だと思うのじゃがのう……」

ジルベールは馬車の中から辺りを見渡しつつ地図とにらめっこをしていた。


「どうかしたの?」


「もうすぐで湖がある場所に着くはずですが見つかりませんわい……。

探すためにちょいとポールと馬を代わりますかな。―――ポオォォォールゥゥゥッ!!! 返事をせい!!!」


「じ、じいちゃん、、近くな、んだから、そん、なに大声出す必要ない、よ……。ところ、でな、なに?」


「馬を代われい!!」

「わ、わかった、、よ、、――うわっ!!」


ジルベールは強引に手綱を握ると前方の馬車と大声で連携を取り始めた。

悲しそうな表情のまま馬車の中に入って来たポールだったが、この表情は大体いつもしているので実際に悲しいのかどうかわからない。


「前から気になってたけど陰キャくんはジル爺にいつもあんな風に扱われてるのかい?」


普段のポールを知らない為、その様子を見かねたアルスが話しかけた。


「………」


「あれ? 無視されてる?」


「あ、、ぼぼ、くの事ですか?」


「陰キャは君しかいないだろう」


「陰キャ? とは一体なんのこと、でしょう?」


「ふっ……それは前世の自分みたいな―――こほんこほん! 君みたいな地味な奴のことを言うのだよ。……それは置いといて、ジル爺にいつもあんな扱いをされてるの?」


「ええ、そ、そうです。で、でももう慣れました。

ぼ、僕がしっかり、してないから、じいちゃんは心配し、てるんだと、思います」


「うん、確かにしっかりしてなさそうだ。なぜ陰キャくんがこの旅に同行してるか不思議なくらいだよ」


「アンタがそれを言うんじゃないわよ!!」

アリッサに突っ込まれて、頭を叩かれた。


「でも、アルス殿はあのじいちゃん、に手合わせ、で勝ったと聞きました。今度、よかったら、僕とも、手合わせを、お願いしたいで、す」


「うぐっ……! ま、まぁ機会があれば考えとくよ」


アルスはバツの悪そうな表情で答えた、これは手合わせをやらない顔だ。

オーラが使えなくともマナで補えばいいのだが、ジルベールの手合わせ以降、他の護衛にも手合わせをお願いされるらしく、その都度難色を示し(かたく)なに嫌がるのだ。



「そろそろ着きますぞ!!」


ジルベールの声が響いた。

どうやら野営の場所が見つかったようで馬車が湖にほど近いところまで移動し、開けた場所で止まる。


「やっと湖に着いたわね! これで身体を綺麗に出来るわ。ゼロ、着替えを用意しなさい」


「かしこまりました」


野営で寝泊まりを繰り返していた為、洗濯をする暇もなく肌着のストックも無くなりつつある。

また、護衛達とアリッサはグリーンバグの体液が鎧や服に付着していた為、若干服から嫌な臭いも漂っていたのだ。


「今日はちと早いですがここで野営をしましょう、他の者はアリッサ様の後に順番で洗体と武具の手入れをするぞ」


ジルベールの指揮で早めに野営の準備となる。その間にアリッサは水浴びを行うが当然危険もあるため、今回はポールとネガティーが湖の近くに護衛として立つことになった。


「アリッサ様、着替えの用意が出来ました。こちらをどうぞ―――」

ゼロは綺麗に畳んだ服や肌着を差し出したのだが、アリッサはそれを受け取らなかった。


「ゼロそのまま付いて来て私の体を洗いなさい」


「え? ……あっ!」


ゼロはその時気付いた。

城では浴場にメイドが付き添いアリッサの体を洗っていたのだ。

ならば当然、今回の旅では従者であるゼロの仕事であるだろう。


「……アリッサ様、申し訳ございません。

城ではメイドが行っていましたが、今回の旅について私ではそれは出来かねます」


仮に引き受けたとしても護衛達があまり快く思わないと判断したゼロは断った。


「えー! いいじゃない」


「お姫様、よろしければこの私がお背中を流しましょうか?」


なぜか凛々しい顔をしたアルスが話しかけた。

よく見ると鼻の下が伸びているので、凛々しい表情の裏には下心満載だろう。


「え? いいの? アンタも気が利くじゃない! じゃあ、お願いしようかしら」


「いやいや! 絶対にダメです!」

快諾するアリッサをゼロは全力で止めた。


その後、アリッサの着替えを持ち湖まで付き添う。湖までの距離は近くだが道中草木で覆われているので手でかき分けながら進む。


湖に到着すると今までの服をまとめて洗濯するため、水浴びが終わった後に今着ている服を回収するのでわかりやすいところに置くように伝えゼロは湖から離れた。


草木をかき分けながら進み、護衛をしているポールとネガティーが立っている場所まで戻ると何故かそこにはアルスが二人の前に立っていた。


「……そこをどきたまえ、陰キャくんとネガティブくん」


「な、、なぜどかなけれ、ば、、いけないので、、すか?」

「……ポールと同じ意見となりますがなぜでしょうか?」


「なぜって? 愚問だなぁ……そんなの決まっているじゃないか! お姫様の水浴びを覗きに行くからだよ!」


「「はっ?」」


あまりにも清々しく堂々と発言をしたのでゼロは呆れてしまい。ポールとネガティーは言葉を失ってしまった。


「な、、なに、、を言っているの、ですか?」


「いやいや……ちみは分かってないなぁ……お姫様と言う属性が水浴びをしているのだよ! 逆に覗かないのが失礼にあたるよ! お風呂や水浴びと言ったら覗きフラグが立つに決まっているじゃないか。なーに、みんなで覗けば怖くないさ!」


「はぁ……アルス様、覗きを許可出来る訳ないじゃないですか。

それにアリッサ様を襲うようなことがありましたら、護衛の皆さまも黙っていませんよ」

呆れながらもゼロが釘を刺した。


「執事君は勘違いをしているよ。確かに覗きたい、だがね、お姫様の体が目的じゃないのさ、いや、やっぱ目的でもあるけど」


「じゃあ、な、なにが、、目的、、なんですか?」


「覗くまでのバレるかバレないかの極限の緊張感、そして覗いた時の達成感だよ! 時には皆で協力して眼福(がんぷく)へ向かって切磋琢磨するのさ!」


三人がアルスの話に呆れていると恐ろしい形相をしたジルベールがこちらへ向かってきている―――

近くで焚火の準備をしていたのでどうやらアルスの話し声が聞こえていたようだ。


「ああ、よかった。ジルベール様からも何か言ってください」


わなわなと身を震わせているジルベールにゼロは注意をしてもらうように伝えた。

顔を伏せているので表情はよく見えないが相当怒っているのだろう。


「な、なんだよ。ジル爺も文句あるのか? なぜこうも男の浪漫がわからないんだ! 女の子が水浴びと言ったら覗きのフラグが立つでしょ! ええい、もしダメでも奥の手はちゃんと―――」


「アルス殿……!!!」

「な、なんだよ?」

「お主は……本当に……!」


ジルベールの語気が強まる。

ゼロや護衛の安心感と対照的にアルスの不安感は増し、表情も強張りつつある。この後、怒号と共にたっぷり叱られると誰しもが思っていた――――



「よく言った!!! 全くその通りじゃ!!」


「ジルベール様っ!?」

「じいちゃんっ!?」

―――ジルベールの思いがけない言葉にゼロもポールも動揺を隠せない。


「そりゃワシの若いときはジョルジュと一緒に湯を覗いたもんじゃわい! あの時は覗きがバレてのぅ、何度か命を落としかけたぞ! 今ではいい思い出じゃのう、かっかっかっか!」


「おぉ! ジル爺も共感してくれるのか!」

不安感から解放されたようにアルスの目が輝いた。


「うむ。今の若いもんは真面目でつまらん! ポールも覗くぐらいの度胸をつけい!!」


「な、、何言ってる、んだよ、じいちゃん!! の、覗きは、いけない事だからやった、らダメだ、よ」


「……自分もそう思います」

ネガティーも控えめに主張した。


「ええい、つべこべ言うな! 男は度胸じゃ! 皆の者、我に続け! アリッサ様に向けて行進じゃーーー!!!」


「おーーーー!!」

だがしかし、行進を始めたのジルベールとアルスだけだ。


「ジルベール様! それはさせません!」


ゼロと護衛は必至で止めた。

無理やりにでも進もうとするため、焚火の準備をしていたジミーやウッスイも阻止するのに加わり、二人を抑えようとした。


「ええい!! ワシらを止めるな!」


「ダメ、、、絶対、、!」

ポールも必死に抵抗をしている。


ウッスイがアルスを羽交い締めにして抑え。

ジルベールに至っては手足を掴むようにして止めているんだが―――


それでも彼らの勢いは止まりそうになかった。

一歩、また一歩と足を止めることなく進み、掴まれている手を振り払いつつ行進は進んでいく……恐るべしエロパワー。


「ぐっ……! ジルベール様あなたオーラ使ってませんか? 三人がかりでなのに止まらないじゃないですか! アルス様もマナ使ってますよね? そこまでして覗きたいのですか!」


「ゼロよ、お主はわかっとらんな……エロの為なら鉄の壁(アイアンウォール)さえ超えてみせるぞ!」


「ジル爺よく言った!! そこに裸がある限りこの壁を俺達は乗り越えてみせる!!」


ゼロの訴えも虚しく、覗きの為に二人は力を使っているようだ。

徐々にマナとオーラの分量を増やされ、とうとう抑えきれなくなっていった。


「あ、、ああもう、、ダメだ。すみ、ません、アリッサ様、、、」


ポールを含め他の者も限界を迎えていた。

当然抑えている者もオーラを使い応戦したのだが、エロへの探求心を持った二人を止める事が出来ない。


そして彼らを抑える手が離れ、皆力尽きて倒れてしまった―――


「よし! 壁は超えた!! 行くぞジル爺!!!」

「ええ、行きましょうぞ!!」

と、二人は意気揚々と茂みの中に入ろうとすると――――



「あー気持ちよかった!! ゼロ、洗濯物置いてきたけどあのまま――――ん? なんでみんな倒れているの?」


タイミング悪くアリッサが水浴びを終え戻ってきてしまった。

アルスは固まり、ジルベール顔面蒼白になっていく。


「あ、、あアリッサ様、、じ、じいちゃんた、達が―――」

「ポ、ポオォォォールゥゥゥッ!!! 余計な事を言うでない!!」


「ん、どうかしたの? ポールが何か言うそうだったけど」


「い、いえ……これはですな―――あっ!」

しどろもどろになっているジルベールだったが、ハッと何かを思いついたようだ。


「……実はアルス殿がアリッサ様の水浴びを覗こうと企てておりまして、皆で必死に止めたのですが護衛を倒してまで覗きに行こうとしてまして……」


「ファッ!?」

ジルベールはさも辛そうに答え、隣にいたアルスは驚愕した。


「アルス! あんた信じられないわね……! 覚悟しなさい!」


「ジ、ジル爺裏切りやがったな!! ってか何で背中流すのはいいのになんで覗くのはダメなんだよ!」


「それとこれとは別よ! ―――さて、もうこの世に思い残すことはないわね……」

アリッサは指を鳴らしながらジリジリと詰め寄り始めた。


「くそ、このままではまずい! アルスクイック!!」

「あ! 待ちなさい!!」


凄まじい勢いで逃げるアルス、怒りの形相で追いかけるアリッサ、そして遠い目で優しく二人を見るジルベール。


「……ジルベール様、これっきりにしてくださいね」

ゼロがむくりと起き上がると服に付いた土を払いながらジルベールへ告げた。


「かっかっか! なーにほんの冗談じゃよ。お主らの力を試したかったのじゃ! さて、アルス殿には悪いことをしたのう、後で謝っておくか」


「な、なんだ、冗談だったの、か。じいちゃん、お、驚かせない、でよ」

ポールも座りながら冗談だとわかると安心したようだった。


「ポールもワシに騙されとるじゃまだまだ甘いのぅ!」


「……ほんとに冗談ですよね?」


「な、なんだゼロ? わ、ワシを疑っとるのか? ちゃんとアルス殿を最後は止めるつもりだったぞ! 少しは信用せい!!」


(いぶか)しげに聞くと目が泳いでいたのでジルベールがどこまで本気かわからないが、仮にあのまま護衛達の抑止を破り、覗きに行くことになっていたのであれば、アルスを止めていた事を信じたい。




ちなみに、その後アリッサによって捕まったアルスは罵声を浴びせられながら殴られ踏まれ、「これはこれでご褒美だ!」と叫びながら、幸せそうに葬られたのだった。

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