27.■緑の森
野営地では既に火がたかれおり武具の手入れをする者、見張りをする者、食事の準備をする者に別れていた。
野営地へと戻ったゼロは袖を捲り前掛けを首から着て包丁を握ると、護衛のモーブが木を切って用意してくれた台の前に立った。
食材の調理はゼロが行う事になっており、簡易的な調理器具は旅の前に準備をして馬車に載せていたのだ。
台の上にまな板を置きその上に魚をのせると包丁で器用に鱗を剝ぎ、軽やかに捌く。
臓物を取り除き切れ目を数か所入れ数匹同じように捌いたのち、鍋にワインや香草、野菜を入れ蒸し焼きにする。
蒸し焼きにする事で旨味である出汁が魚から滴り落ち、後の料理に応用が利く煮汁スープができるのだ。
鍋がカタカタ鳴り始めたら頃合いをみて蓋を開けると、香草の芳ばしい香りが辺りに漂う。
出来上がった料理を皿に盛りつけ、量が足らない時は煮汁にパンを付けて食べてもらうようにする。
アリッサには立場や危険も考え馬車の中で食事を取るように伝えたが、やはりそれを嫌がり結局みんなで火の回りを囲い食事を取ったのだった。
ちなみに城の豪華な食事と段違いのためアリッサは小言を言いながら食べていたのだった。
翌日、朝日が昇り始める頃にオルテンシアへ向けて出発を開始した。
今回はポールが朝まで外に立ち見張りをしていた為、ジルベールが馬の手綱を握り、馬車に揺られながらポールはウトウトと眠たそうに座っていた。
そして出発してからしばらく経ち、道なりを歩いていると森との距離が近づいてきた。
町付近は舗装され魔物の駆除も行われるが町から離れていくにつれて道幅が狭くなり、木や草も生い茂り、経路も分かれてくるのだ。
日の光が雲に隠れ、さらに大きな木々で日光が遮られるため、辺りは段々と薄暗くなってくる。
すると前方の馬車が急に止まった為、ジルベールは手綱を手前に引いて馬の進行を止めて大声で前の馬車へ話しかけた。
「おーい! 何があったんじゃ? 魔物が出たのか?」
「ええ、大量のグリーンバグに囲まれています!」
先頭馬車にいる護衛のウッスイも負けじと大声で後方に返した。
既に残りの護衛は馬を守るため馬車との距離を空け臨戦態勢に入った。
「なんと! 囲まれておるのか! そりゃいかんな」
『イィーーー!!! イーー!!!』
多くのグリーンバグが護衛を囲い、威嚇をしていた。
今にも飛び掛かってきそうな気配だ。
グリーンバグはその名の通り50㎝ほどの緑色をした蟲である。
腹には無数の腹脚があり移動自体は遅いが、雑食性で草よりも肉を好む傾向がある。捕食方法は獲物に飛びつき噛り付いたあと、すぐに数匹まとまって飛び掛かり獲物を数で圧倒するのだ。
「とうとう私の出番が来たわね!」
アリッサが興奮しながら馬車の外へ飛び出した。
「あ、ああ、アリッサ様、、どう、かお戻り、、下さい」
「危険ですので馬車の中へ入って下さい!」
ゼロとポールもその後に続き、止めようとしたがアリッサは止まらない。
前方の馬車から予備の剣を持つと今にもグリーンバグ向かって行こうとしていた。
それを見た護衛がアリッサを囲い、グリーンバグによる飛び掛かりを防ぐように守る。
アリッサの後方はジルベールが守り、飛び掛かって来るグリーンバグを槍で突き刺していた。
「こりゃポール! お前も守らんか!!!」
「こ、、これか、ら、、やろうと、思ってた」
ポールもジルベールの隣で応戦する。
「ゼロ! アリッサ様はワシらがお守りする! お主は馬車に隠れておれ!」
「はい!」
ゼロは執事という立場上、戦闘に関して応戦することが出来ないため馬車の中に戻るしかなかったが、馬車の中ではアルスが何もせず気まずそうに座っていた。
「あの……皆さん戦ってますがあなたは行かないのですか?」
「ボク……虫嫌いなんだ……」
「………」
ゼロは睨みつけ無言の圧力をかけた。
「すみません、今すぐ逝きますぅ!」
アルスは逃げるように馬車から出たのだった。
一方そのころ前衛である護衛に囲まれるアリッサはなかなか攻撃が出来ずにイラついていた。
「もう! あんた達じゃまよ! そこどかないと私も倒せないじゃない!」
「アリッサ様、今はとても、危険なので、お戻りくだ、さい――――痛たたたた!」
ジミーが何とかアリッサに返事を返したが、グリーンバグを払いのけた際に腕を噛まれたようだ。
前衛は特にグリーンバグが多く盾で弾きながら剣で攻撃をするが、斬れど防げど無尽蔵にグリーンバグが湧いてくる。
尚且つ、アリッサへの飛び掛かりをなんとか防いでいるため会話をするのも一苦労なのだ。
「もう! 前がダメなら後ろよ!」
「あ、アリッサ様、、、だ、、ダメです、、、危険」
「ポールも邪魔しないでよ!」
ポールが気を取られていると一匹のグリーンバグがポール目掛けて飛び掛かった。
気付いた時には防御は間に合いそうにない。
「う、うわぁ!!!」
―――グシュ!!
『イイィ!!!』
目前でジルベールの槍によってグリーンバグは貫かれ、なんとか事なきを得た。
「こりゃ!! 気を抜く出ないぞ!!」
「あ、あり、がとう、、、じ、、じいちゃん」
バルテルミーの二人でもアリッサを庇いつつ大量の敵を相手にするには分が悪く、アリッサも馬車に戻る気配が全くない。そしてどれほどの敵が湧いてくるかわからない為ついにジルベールは覚悟を決めようとしていた。
「―――しても量が多いのぅ! こんな状況じゃ! アレを使うぞ!」
ジルベールが皆に何かを周知をした矢先――――
「前衛のみんな! 前に少しだけスペースを作ってくれ!」
アルスが駆け付けて来た。
「おお、アルス殿! かしこまりました! 盾で一気に押し返すぞ!」
前衛の護衛達はオーラを盾に纏い、グリーンバグの群れを押し返しすと5mほどのスペースを作った。
アルスはジャンプで護衛達の前に着地すると剣を逆手に構え腰を落とし、高圧のマナを剣へと集約させた。そして―――
「アルーーーストラッシュ!!!!!」
凄まじい閃光が走った。
それは剣を振り被ると同時に一気にマナを放出し轟音と共に地面は抉れ、大量に湧いていたグリーンバグをほぼ跡形もなく消滅させたのだ。
あまりの威力にマナにより放出された範囲で森の木も倒れた。
「なんと……!」
「信じられない」
「なんだ今のは……」
先の光景を目の当たりにした者たちは各々衝撃を受ける。
―――ただし一人を除いて。
「眩しかったわね……あれ? もうほとんど残ってないじゃない! なんてことしてくれたのよ!」
「いや、皆さん大変そうでしたから……」
「もう、いいわ! 残っている奴は私が片付ける!」
そしてアリッサは残りの弱っているグリーンバグを攻撃し始めた。
――グチュ! グチャ! ズバッ!
『イィィイィーーーー!!!!』
アリッサの容赦ない攻撃にグリーンバグは黒く滲んだ緑色の体液を撒き散らしながら断末魔を上げる。
そのグロテスクな光景を目の当たりにしたアルスも呼応するように悲鳴をあげた。
「ひぃぃぃいい!!! 気持ち悪い!!!」
アルスの攻撃範囲外のグリーンバグはジルベールとポールがあらかた片付けており、それでも残っていたグリーンバグをアリッサのためにポールが弱らせていたのだ。
しかも、すでに死んでるもの・弱っているもの関係なく斬りつけいていた為、暫くスプラッターショーが続きそうだ。
周りをみて危険が無いことを確認しアリッサを見守るようにポールへ伝えると、ジルベールは先の攻撃がどうしても気になった為、グリーンバグに鳥肌を立てているアルスに伺ってみる事にした。
「アルス殿! よろしいか?」
「はい、なんでしょ?」
「先ほどの攻撃は一体何なのじゃ? グリーンバグが一瞬で消滅したわい」
「あー……あれはね。昔見たアニメを元に考えたというか、ほぼマネをしたやつ」
「アニメが何か知らんがあれは集約したマナを放ったのか?」
「まぁ、そうっす」
「あれほどのマナを放出しとるのにピンピンしているのか……お主化物じゃろ」
「ふっふっふ……私はそれだけではないですよ――――お姫様それを近づけないで下さい!」
アリッサはグリーンバグの亡骸を数匹ほど剣に串刺しにして護衛達に見せつけており、最後にジルベールとアルスへ向かってきたのだ。
「えー! いいじゃない! 私が獲った獲物よ!」
「くっ、仕方ない! アルスクイック!!!」
アルスは凄まじい勢いで馬車の中へと逃げたのだった。
「なによアイツ、変なの」
その後もアリッサは何度も串刺しにして掲げ、グリーンバグはもはや原型を止めていなかった。
他に形が良さそうなグリーンバグがないか探していると――――
「かっかっか! 意外と臆病なのかもしれませんな。……してアリッサ様、いくら魔物ともいえど命があったもの、そのような扱いをしてはいけませんぞ。
食するために魔物を狩る時もありましょう、時には治安を守るため駆除することもあります。
ですがそれは安全や生き延びるためにしている為ですぞ、今のように何度も突き刺したり死んだものを玩具にする事は止めて下され」
「……わかったわ」
ジルベールはアリッサに命の大切さを教えたいがため少し強い口調で言ってしまったが後悔はしていない。
アリッサもそれを汲んだのか反論せず素直に従った。
その後、時間はかかったがグリーンバグの亡骸を一か所にまとめ、魔法を使い燃やす。
グリーンバグの死肉に他の魔物が群がる可能性があるからだ。
また、焼く匂いに釣られる可能性もぬぐい切れない為、火属性が得意で旅に同行する護衛の一人であるクラーイの中位魔法で亡骸を一気に消滅させた。
幸いなことに今回は軽傷はあったが誰も大きな怪我をせずに済んだ。
だが油断は出来ない、旅には危険がつきものでいつ死に至る傷を負うかもわからないのだ。
旅の目的地であるピロカット大陸では特に危険が伴い、馬車から飛び出し魔物と対峙した際に怪我をする可能性が非常に高いため、少しずつアリッサへ危機感を教えておこうと思ったジルベールであった。




