24.■手合わせ
護衛達は焚火の準備を行い始めつつ、各々手入れや見張りなどの持ち場につく頃、少し離れた場所でアルスとジルベールが手合わせをする事になっていたので、その様子を見学しようとアリッサとゼロは共に歩いて近づく。
「アルス殿の噂はかねがね聞いておりましてな。
実は我慢しておったんじゃが馬車の中でのご活躍の話を聞いてるうちにどうしても手合わせしてみたくなってのぅ……やはり木刀なんぞではなく真剣にするべきか?」
「い、いえいえ! 真剣なんてとんでもない! (自分が)怪我をしたら大変です! 木刀にしましょう!」
「ふむ? アルス殿がそう言うなら木刀でも良いが……」
ジルベールが首をかしげながら用意した木刀をアルスへと手渡すと、不安な顔をしていたアルスの表情がより一層険しさをます。
「……あの、あまり乗り気はしないのでやっぱりやめない?」
「かっかっか! 何を申されるか! ワシの怪我の心配をしてくださるとは……じゃが、ワシ相手に手加減でもせずともよいですぞ!」
自信なさげなアルスとは対照的にジルベールは満面の笑みを浮かべながら答えた。
「あ、あれ? なんか違う意味で伝わってるぞ? このままじゃホントに手合わせしないといけない―――あっ!」
テンパるアルスは近くで見ていたアリッサを視界に捉えると懇願するように話しかけた。
「お、お姫様ぁ~手合わせなんて見たくないですよね?」
「え? やるならさっさと始めなさいよ」
「そ、そんな……!」
アルスは逃れられない運命に絶望した。
「他の人がやる手合わせって初めてみるわ! アルスの後に私も手合わせしてもらうおうかしら」
「おぉ……アリッサ様に稽古など出来ませんわい」
「ジルベール様、お気になさらず。私が説得しておきます」
困っているジルベールを見かねてゼロが間に入る。
「おぉ、すまんなゼロ! さて、ではそろそろやるかのぅ!」
ジルベールは声を掛けた後、アルスと対峙する。
先ほど困っていた表情が嘘のように勇ましい顔付きになっていた。
ちなみに現在に至るまでの経緯としては、馬車の中でアルスに手合わせを申し込んだ後、すぐにジルベールは手合わせの許可をアリッサに取り、アリッサは二つ返事で快諾した。
だが、この手合わせがゲイルとの一件を思い出させるのではないかとゼロは心配したが本人も手合わせをしたいと発言するあたり、どうやら杞憂のようだ。
「ワシは初手に様子をみる癖があるのでアルス殿から来て下され」
そのように告げたジルベールは両手で木刀を持ち、攻撃を受ける態勢に入る。
「あ、は、はい、、、、」
アルスの言葉に覇気が無くなっていた。
そして、なぜか攻撃にいかずジルベールの様子を見続けていた。
まだ手合わせが始まらないと判断したアリッサが隣にいるゼロに質問をする。
「ねぇゼロ、手合わせって魔法とかも使っていいの? 私がやってた実戦練習とは何か違うのかしら?」
「基本的には魔法は使いません。技であれば使うことはありますが相手を殺める事は禁止なので、技を使っても構いませんが勝負がついた時点で終わりとなります」
「勝負がついた時点?」
「はい、例えば武器を手から離し相手に武器を突き付けられている状態であることや相手がなんらかの理由で手合わせが出来なくなること……例えば気絶などです。他にも自ら敗北を宣言すればそれこで終了となります」
「ふーん……そうなのね……」
アリッサの質問タイムが終わっても二人は見つめ合ったまま、一向に手合わせが始まらない。
痺れを切らしたのは対峙する二人ではなく、アリッサが先だった。
「ねぇ、見つめ合ったままなんだけど、まだ始まらないのかしら? アルス! 早く始めなさいよ!」
「うぐっ! わかりましたよ……――――う、うりゃー!」
びくりと反応したアルスはそのまま勢いでジルベールに向かって木刀を振りかざすと―――
――カン!!!
木刀が激しくぶつかり合う。
「うん?」
ジルベールは疑問に思いつつ攻撃を受け止めた木刀を払い――――
「う、うわ!」
――――それと同時にアルスも後ろへ勢いよくジャンプした。
「……アルス殿、聞いてもよいか?」
「な、なんでしょう?」
「なぜオーラを使わずマナを使っておるのじゃ?」
「お、おかしいなー? オラさ、使ってるはずだべよ!」
「うむ? 耳が遠くなったかのぅ。 話し方が変わった気がしたわい。……もう一度ワシが受けるので来てもよいですぞ」
「あ、はい……おりゃー」
アルスは木刀を大きく振りかざしたまま走りながらジルベールへ突撃した。
その様子を見ていたゼロは目を見開くと「なぜだ?」とぼそぼそと呟き、隣にいたアリッサもあまり見ないゼロの様子を不思議に感じていた。
「どうしたのゼロ?」
「……もしかすると彼は只者じゃないかもしれません」
アリッサは首を傾けながら話しかけたが、ゼロは口元に手を置き勝負の行く末を見続ける。
「そうなの? 全然そんな風に見えないんだけど。―――あ、そう言えば聞きたいことがあるんだけど……ねぇ聞いてるの? ねぇってば!」
アリッサに話しかけられていたが、ゼロは思慮を巡らせており会話の反応が出来なかった。
なぜ思慮を巡らす必要があるのか―――――そう、アルスについてだ。
彼の攻撃の型はどの流派にも当てはまらないのだ。
いや、当てはまらないのではない、型云々の前に刀の振り、立ち回り、足捌きがまるで素人なのだ。
木刀を振り被ったまま走り向かうなど、腹を見せ攻撃してくださいと言っているようなものである。
そして、やはり―――
――カンッ!!!
木刀がぶつかりジルベールが払うと、同時にアルスは勢いよく後ろへ飛び距離を保った。
先と同じ事の繰り返しである。
ジルベールは防御の構えを解いて、黙ったまま俯いてしまった。
ゼロも黙ったまま様子を見ていた。
アルスの行動はアリッサ誘拐犯である二人組のチンピラ以下にも思えるほどだ。
そして信じられない事にドラゴンの討伐や盗賊団の壊滅を一人でやってのけ、その実績を買われ今回の旅に同行をしている。
その実績は真実なのかどうかわからないが、仮に実力が無いまま運だけでこれだけの実績をこなすのは不可能だ。
ドラゴン相手では運よく討伐など出来ない、せいぜい運よく逃げ切れるほどだろう。
であれば、ジルベールを相手に怪我をさせまいと手加減をしているのだろうか?
だが、立ち振る舞いから手加減ではなく素人に見えてしまう、もしわざとそのようにしているのであれば相手を馬鹿にしている行動だ。
アルスの行動について考えるほどゼロの頭はこんがらがってしまうのだった。
手合わせと言えど、仮に敢えて手加減せずにおちょくる事であの”ジルベール・バルテルミー”をわざと本気にさせるのであれば彼は只者ではないだろう。
「……アルス殿よろいしか?」
黙っていたジルベールが口を開いた。
「は、はい。 なんでしょ」
「ワシに怪我をさせぬよう手加減をして頂いているのであればけっこうじゃが、ワシも”鉄壁のジルベール”と呼ばれておる。名前ぐらい聞いたことあろう?」
「……えーと、、、たぶん聞いたことあるかと」
アルスは知らなそうな顔で答えた。
「ワシもいくつかの死線は超えて来てのぅ、今では若いもんに教える立場なんじゃ」
「は、はい」
「……先の攻撃はワシを馬鹿にしておるのか? それとも手合わせだからと手を抜いておるのか? もし、アルス殿が本気を出せぬのなら、本気をださせるようにするまでかのう」
ジルベールは段々と語気が強くなり、改めて木刀を握り直すとギラリとアルスを睨みつける。
「ええええ! あの、怒ったのならすみま――――」
「行かせてもらうぞ!!」
話を遮り、ジルベールはアルスへと肉薄した。
瞬時にアルスの前までくると首元目掛けて木刀を放つ。
「ひぃぃぃぃいい!」
悲鳴と同時にアルスはなんとか回避し、後ろを向き距離を取ろうとしたが――――
「逃がさん!」
ジルベールはすぐ距離を詰め、アルスの背中に狙いを定めた。
「アルスクイック!!!!」
アルスは叫びながら凄まじい勢いで走り抜けた。
「ほほ、逃げたか! だがそれほどのマナを消費していてはすぐにバテるぞ」
逃げるアルスに追いかけるジルベール、一向に木刀で打ち合おうとしないのでアリッサが再び痺れを切らした。
「アルス! 逃げてばっかりじゃなくてちゃんと打ち合いなさいよ!!!」
「そうですぞ! このままでは手合わせになりませぬ!」
彼女の言葉にジルベールも続いた。
「ぐぬぬぬ、わかりましたよ! やればいいんでしょ、やれば!!」
アルスは投やりになるかと思われたが――――
「来いジル爺! こうなったらアルスアイを使う!」
――――意外にも逃げるのを止め、迫ってくるジルベールへと向きを変えた。
「ほほ、言っている意味がよくわかりませぬが打ち合うとなると血が滾ってきますな!」
アルスに走りながら近づくと突きの構えを取った。
「そりゃ!!!」
アルス目掛け渾身の力で放たれた突きはぬるりと剣先で方向を変えられ、その勢いのままジルベールの胴体へアルスの木刀が走る。
「ぐっ! こりゃまずい!!!」
ジルベールは受け流された方向へと身体をひねり攻撃を避けると、そのまま前方へと地を転がりアルスに対峙した。
「ワシの突きを受け流すとはやりますな! さて、どれほど耐えきれるか楽しみですわい!!」
それからジルベールの猛攻が続きアルスの防戦一方の展開が続いた。
一見ジルベールの圧勝に見えるが決定打が欠けていた。
アルスは攻撃を一切せずにジルベールの攻撃を受け流し、場合によってはカウンターを狙っているのだ。
「なぜ勝負がつかないんだ……?」
攻めに関しては素人に見えたはずなのに守りはあのジルベールの攻撃を上手く捌き、あわよくばカウンターまで狙っている為、ますますゼロは混乱した。
「すごい速いわね!」
ゼロの混乱をよそにアリッサは二人の戦いから目が離せず興奮を隠せない。
「はぁ、はぁ……やはりワシに本気を出させるため最初は敢えて手を抜いていましたな?」
若干息を切らしているジルベールに対し。
「うーん……まぁ、そういうことにしておきましょう」
アルスはまだまだ余裕そうだ。
「かっかっか! ずいぶん余裕じゃのう―――では、もう少し本気をだそうかのぅ」
「え? い、今まではのは一体……?」
アルスの顔が引き攣った。
「準備運動みたいなもんじゃ! 次は技を使うから覚悟せい! ―――ではいくぞ!」
ジルベールはアルスへ再び肉薄し、木刀を振りかざした。
そして攻撃を受け流し続けていると徐々にアルスの表情が歪み始める。
「ほれ、どうじゃ!」
「ぐっ!!」
カンカンと木刀で打ち合う度にアルスの反応は鈍くなっていく。
「あー! も、もうダメだ!」
アルスは叫びながら後ろへ下がり、距離を取る。
「ジル爺、俺になにをした! う、腕が持ってかれそうだ!」
アルスの両腕が痙攣を起こしていた。
「攻撃しながら腕重荷を数発撃ちこんだわい! オーラで相殺しなければ一発で剣を握ることが出来なくなるが、それを数発受け続けて腕の痙攣だけとはお主怪物か?」
「うぐぐ……腕が……」
「じゃ、終わらせるかの」
ジルベールの容赦のない攻撃で何度か受け流しをしたが、ついにアルスは後ろへ下がると同時に木刀を手放し、尻もちをついてしまった。
「これで終いよ」
「………ふふふ」
決着がついたかのように思えたのだが、危機的状況の中で不気味に微笑むアルスの姿があった。
明けましておめでとうございます。早いもので投稿から半年たちましたが今年もより一層面白い作品を書いて行きますのでよろしくお願いします!




