表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/57

19.■貴族街の悪魔

ゼロは(いぶか)しみながら黒ずくめの男に問いかけた。

「カインか?」


「そうだよ、そう警戒すんなって」

カインは頭を覆っているフードを取った。


端正な顔立ち、黒髪、黒目、漆黒の剣、黒いコート、黒いブーツ。

全身黒づくめであるが、明るく爽やかな笑顔で話しかけるその表情は服装とまるで対照的だ。


「なぜエクリエルに? 何の用だ?」


「あのなー……久しぶりに会ったんだからもっという事あるだろ? ほら、元気にしてたとか、会えなくて寂しかったとか」


「……久しぶりだな、何の用だ?」


「おいおい、それだけかよ」

カインはガックリ肩を落とした。


「まぁいいや。指令が届いただろ? 俺もそいつを追ってるんだ」


「なぜカインが追っている? 手紙には銀狼(シルバーウルフ)と書いてあったぞ」

ゼロは懐から手紙を取り出し、カインに見せつけた。


「はぁ……お前は銀狼(シルバーウルフ)なのに、相変わらず俺は漆黒(ジェットブラック)のままか……俺だけ容姿でコードネーム決めてるだろ、変えてくんねーのかな……」


「おい、どうなんだ?」

カインが落ち込みながら、独り言を言い始めたのでゼロは話を戻そうする。


「あ、すまん……実は俺が始末する予定だったんだが油断してよ、取り逃してしまったんだ」

カインは苦笑いしながら、頭をぽりぽり掻く。


「それで奴が逃げているのを追いかけてたら、結局エクリエルまで来てしまったと言う訳よ」


「はぁ……なるほど」

ゼロはため息をしつつ、呆れた様に答えた。


「カイン、何か情報は無いか? 一緒に送られてきた布だが被害者の物である可能性が高くマナの判別が出来ないんだ」


「お、情報ならあるぞ!

名前は……わからないが俺が対峙した時、奴は男だったぞ。そいつは貴族や裕福な者だけを殺害しているんだ。だが、ただ殺している訳じゃない」


「対峙していたのに取り逃がしたのか? まぁいい、ただ殺している訳ではないとは?」


「手足をバラバラにした後、強引に体にその手足を被害者の体にぶっ刺してるんだ……そしてなぜか死体に薔薇を咥えさせている」


「快楽殺人者か、反吐が出るな……」


「被害者は全て富裕層であったことから、(ちまた)では貴族街の悪魔と呼ばれている。

バリョッサスで取り逃してから俺はそのような事件が起きた街を巡ってここに辿り着いたって訳よ。

最近、貴族街で殺人が起きたとか聞いたことないか?」


口元に手を当て考えるゼロであったがそのような話は聞いた覚えがなかった。

ほぼ毎日スラム街付近や市民街でも殺人や人攫いは起きているのだ。

貴族街で事件が起きたとしても衛兵が対処し、よほど大きな事件にならなければ城まで情報は入ってこない。


「いや聞いたことが無い」


「そうか……あっ! いいもんがあるぞ!」


カインはゴソゴソと胸ポケットを探ると、血の付いた小さなナイフを取り出しゼロに手渡した。


「奴が持っていた物だ、自慢の鼻で追跡してくれ」


「お前のマナの匂いも残っているぞ、まぁ手がかりが無いよりはましか」


「おいおい、折角持ってきたのに文句が多いな」


「元々は誰が取り逃したんだよ……全く」


ゼロがチクリと言葉で刺すと、カインは再び苦笑いで誤魔化し始めた。

それを尻目にゼロはナイフを顔に近づけ匂いを嗅ぎ始めた。


「相変わらず便利だよな、(それ)。俺も少しぐらいならわかるんだが、追跡出来るまでは嗅ぎ分けられるのはお前しか見たことがないよ。

たしか、それでお姫様の誘拐も阻止出来たんだったけな? マジで便利だよな」


ゼロはマナの匂いを判別することが出来る。

ただし物自体がマナの影響を受けたか、もしくは直接ゼロに魔法を当てなければマナを特定することが出来ない。


ゲイルによる誘拐を阻止出来たのは、授業中に水の球をアリッサが破裂させ、びしょ濡れになった事でアリッサのマナを判別することが出来たのだ。


「……あぁ、そうだな……これで、追跡は可能だ……」


「うん? どうかしたか? 急に考え込むような顔して」


カインの言葉でゼロは誘拐事件を思い出していた。

大広間でアリッサの痣について微量のマナが漏れ出していると言う説明を受けたが"日ごろから彼女の傍にいるのになぜ気付けなかったのか"と言う疑問を抱いていた。



「いや、何でもない。追跡をしよう」

今は優先すべきことがあるため、考えるのを止めた。



※※※



時刻は深夜。

すでに出歩いている者はなく、大通りを外れれば暗闇が広がる。

大通りから外れた市民街の路地裏に貴族服を着た青年が手足をロープで縛られていた。

声を上げようにも猿轡(さるぐつわ)を噛まされており声も出すことが出来ない。

「うーうー」と唸りながら目の前にいる男に懇願するような目で何かを訴えかけていた。


「うふふふ……安心したまえ君はこれから昇華し! 美しく! 生まれ変わるんだ!!」


彼の目の前にいたその男は色鮮やかな奇抜な服、ロングスカートを履き、セミロングの髪を(なび)かせている中性的な顔立ちで遠目からだと女性に間違われるであろう。

縛られた男を見据え、ニンマリと口元を邪悪に歪ませていた。


「あぁ、もう待ちきれないよ!」


男は腰元からナイフを取り出し、じっと見つめると淡い光でナイフが包まれた。


「切れないナイフは美しくない…何度も切ってしまうと作品自体が汚くなってしまうよ……君は幸せ者だね、最後までこの僕を見続けたまま生まれ変われることが出来るのだから!」


「うぅーー!!!!」

貴族服を着た男は涙を流し必死で声を上げようとする。


「そんなに嬉しいのかい? あぁ僕も嬉しいよ……さぁ、一緒に楽しもう! 先ずは手足から行こうか!」


「うぐーーーーーーーー!!!!!」


一つ、また一つとナイフの痛みが身体を巡り、猿轡で断末魔を上げる事さえ出来ない。


「さぁ、お腹の中も綺麗にしようね……。

おっと、別のナイフに変えるから少し痛むかもね、ははは」


「うぅっ……う……」

次第に(うめ)き声は弱々しくなり、ついに声を発することも無くなってしまった。


「あぁ、素晴らしかったよ、もっと一緒に居たかった」


貴族服を着た男だった者の頭を撫で、手足が無い上半身を眺めると男の首に()()()()()()臓物を巻いた。


「うん! これでもっと良くなったね。あとは、最後の薔薇(仕上げ)だ!」


「お楽しみ中悪いな、悪魔さん」


胸元から薔薇を取り出そうとしたところで、急に後ろから話しかけられた為、一驚(いっきょう)してしまった。

急いで後ろを振り向くと黒い服装の男が2人立っていた。


「だ、誰だ!」


「やっと会えたな! 俺のこと忘れたのか?」


「確か君は……バリョッサスで僕が臓物用のナイフを投げたら逃げ出した奴か? 

初めて作業中に僕の姿を見られたから覚えているよ。君たちも僕の出来上がったばかりの作品を見に来たのかい?」


「カイン……お前逃げ出したのか?」


「いや、話しかけたらあいつがびびりだしていきなりナイフを投げて来てよ。

それは躱したんだが、子供の泣き声が近くから聞こえてきたんで、そっちを優先した」


「おいおい、任務を優先しろよ」

ゼロは呆れた様に答えた。


「今回は何もしなくていいから、俺が奴をやる」

カインは一歩前に踏み出した。


「何もしなくてもって……ここまで匂いを辿ったんだけどな。それに元々はカインのミスでこっちに指令が回ってきたなら、カイン(そっち)で対処してくれ」


「さっきから僕を無視して何がしたいんだい? あと、後ろの君なら僕の作品にしてもいいよ! とても身なりが綺麗だ」


男はナイフをゼロの方向へ向けた。


「俺は汚くて悪かったな」


カインは腰元から剣を抜く。

それは漆黒の剣。

闇夜に抜かれたので刀身が闇と同化し剣がどこにあるのかわからない。


「ふん! 僕から逃げたのに口だけは達者だね!」


男はカインへとナイフを向けた。


「これはただのナイフじゃないよ……魔武器(マジックスミス)なんだ。

作品作りにはいつもこれを使っているのさ!

これはね、マナを使うと僕みたいな美しい人でも身体強化してくれる……もちろん切れ味も! でも、君には興味ないから一刺しで終わらせてあげるよ」


男は持っているナイフに淡い光を再び纏わせると、カイン向けて斬りかかった。

カインは漆黒剣でそのナイフを弾くと同時にナイフから淡い光が消え、男はバランスを崩し倒れてしまった。


「そ、そんな! なぜだ!」


「悪いな、俺にそーゆーの効かないんだ」


「ま、待ってくれ! 僕は後世へと作品を残している芸術家だぞ! 君が行おうとしていることは世に名を馳せる芸術家の殺害になるんだぞ!」


後づさりしながら意味のわからない発言をしている男にカインは徐々に近づき―――


「じゃ、お疲れ」


――――グシュッ!

男の首を一振りではね落とした。


「よし! 任務完了だな」


「追跡をしてやったんだ、死体の処理はカインがやってくれよ」


「あぁ、わかってるって、…今回は助かったよ」


「……こちらもナイフがあって助かった、あれがなければ奴を探し出すのに時間が掛かっていたよ」


「まぁ、俺のおかげだな」


「奴を取り逃したのもお前のおかげでもあるけどな」


「ははは……すまん、俺は死体の処理をやっとくんで今回の報告は頼むわ。

その後、俺は帰還するよ」


「ああ、わかった」


「また顔出すからそれまで元気にしてろよ」


「カインもな」


お互いに手を振り簡単な別れの挨拶を終えるとカインに死体の処理を任せゼロは城へと戻った。

いつものように窓から自室へと戻り黒いフードを外し水桶で身体を清めると、紙に今回の結果内容を記した。


書き終わった手紙を丸め窓から外へ向かい指を鳴らすと、新たなレターバードがゼロの元へとやって来て足元へ括り付け夜空へと放った。



※※※



貴族街の悪魔暗殺の報告から一週間経ち、いつものようにゼロは業務をこなしていた。

旅支度も必要最低限の物で済むため、前もって準備をする必要もとくにない。


アリッサについては「これで私も世界を回れるのね!」と、自分の命に関わることなのに、なぜか今の現状を楽しんでいるように思えた。

もっと緊張感を持ってもらいたい。


同行するアルスについてはまだ謎が多く実力もアサートンから説明されたきりだ。

ゲイルの件もあった為、同行に問題はないのかジョルジュに確認したが「問題ないのでお前が気にしなくても良い」と、相変わらず一蹴(いっしゅう)された。


アリッサが夜食が欲しいと駄々を捏ねていたので就寝前にフルーツを用意したところでその日の業務を終えたいつもの夜。

そう、出発日も徐々に迫っているのに普段の日常と何ら変わらない夜だ。


ゼロが寝支度をしていると窓枠からコンコンと漆黒のレーターバードかやって来た。

いつものように部屋に招き入れ、送られてきた手紙を確認する。


そこにはいつものように今回の指令(ターゲット)が書かれていた。

そう、いつもように―――――





     ※※『銀狼(シルバーウルフ)に告ぐ、アリッサ・エクリエルを殺害せよ』※※


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] マジですか、、、 [一言] これからも頑張ってください。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ