16.■披露宴
披露宴当日。
朝から準備に追われていた。
披露宴は午後から行われるため、念入りな準備が必要となる。
料理、内装、ウェルカムドリンク、披露宴の流れ確認……。
ゼロもパントリーからグラスを準備し、いざ本番で数が足りないことなどならないよう余念が無いようにしている。
グラスを準備していると厨房のコック達は慌ただしく動いている。
仕込みもあるため、徹夜が続いているのだろう。
目の下にクマを作りながら牛肉をスライスしている者や眠たそうにセルクル型へガルニを詰めている者もいるようだ。
ちなみに城下町の住人達には城内でアリッサの披露宴が行われる事を事前に周知している。
招待者が城まで安全かつスムーズに移動できるよう騎士をいつもの倍で配置する手筈になっている。
成人披露宴で王女の顔が拝めると期待していた住人もいたようだが、アルフォードの方針で時が来たらお披露目とのことだ。
おそらく国民を前にして王族の振舞いが出来るようになってからだろう。
アリッサはいつも通りに寝ていたので、ゼロがいつものように起こし、朝食を食べてからカーラによる礼儀作法・ダンスの確認が行われる。
朝食を食べている時、アリッサは特に緊張などしていない様子だったので、変に気を張ってなくてある意味よさそうだ。
問題は起きないとは思うがカーラのことなので本番中にアリッサ対して目を光らせている事だろう。
※※※
夕方に差し掛かり徐々に披露宴の時間が近くなってくると、遠方からの招待客が徐々に集まり始めた。
入口にて招待状を騎士が確認し、城内へと執事およびメイドが案内をする手筈になっている。
ゼロも自分の仕事を終え、招待客の案内を手伝っていると入口から怒号が聞こえてきた。
「吾輩を中にいれろ!! 遠路はるばるやって来たのだぞ!!!」
趣味が悪い斑の貴族服を着た男が入口の騎士に向かって叫んでいる。
脂っこい長髪、狐のようなつり目、鼻の下からくるっと巻いた髭、いかにも性格が悪そうである。
「申し訳ないが、招待状が無い者は城へ入れることは出来ない」
「貴様では話にならん! アルフォード王を呼べ! 吾輩は王国に住んで居たのだぞ! ならば当然参加する権利はあるのだ!」
顔を真っ赤にして怒り狂っている男をゼロは遠目から見ていると、いつの間にか横にジョルジュが立っていた。
「何か問題が起きたのか?」
共に入口の方を見つつ、ジョルジュが話しかけてきた。
「私も詳しくはわかりませんが、なにやら招待状を持ってない方が叫んでいるみたいです」
「ほう……ヴァインベルガー卿か」
「ご存じで?」
「ああ、以前問題を起こした貴族だよ、たしかメルト付近の町の領主として左遷されたと聞いたが……騎士も困っているようだし、私が対応しておこう」
ジョルジュは揉めている騎士と貴族の輪に入り、貴族に何かを告げると怒りで真っ赤になった顔が急に青白くなり、逃げるように立ち去っていった。
貴族の姿が無くなるまで見送った後にゼロの元へとジョルジュは戻って来た。
「流石ですね、なんと言ったのですか?」
「お前には関係ない事よ、他のお客様も参られる。ご案内に集中するように」
いつものようにジョルジュにはぐらかされたので、ゼロも気にせず業務に集中するようにした。
日が落ち披露宴の開始が近づくと大広間には招待客で溢れていた。
貴族街で見たことがある顔もいれば、乳母を従えた者、金髪くせ毛のそばかすが目立つ双子の王子もいる。
アリッサに紹介をするためか、王子を引き連れている者が多そうだ。
しばらくすると階段からでっぷりと太った短髪のアサートン大臣が姿を現した。
賑わっていた大広間の招待客は口を閉じ始め、降りるのを待つように見つめる。
アサートンが階段を降り、大広間の前に立つと披露宴開始の挨拶を始めるため口を開く。
「えー……本日はアリッサ・エクリエル様の成人の義で遠方より、ご足労いただきありがとうございます。
アリッサ様も本日で歳が16となり、立派な淑女になられました。
ご本人の登場の前に一度、父であり国王のアルフォード・エクリエル様から皆様へご挨拶をお伝えしたいと思います」
アサートンが話し終わると、階段上の通路奥からアルフォードが姿を現す。
大広間からは姿が見えると同時に大きな拍手が沸き起こり、アルフォードが手で拍手を止めるよう身振りをして拍手を抑えさせ、コホンと咳ばらいをすると挨拶を始める。
「本日は娘の成人に集まってもらい、感謝している。
なにゆえ大事な娘なのであまり紹介をしておらず、本日初めて姿を見る者もいるだろうが、紹介しよう………アリッサこちらへ」
アルフォードの言葉で通路の奥から、アリッサが姿をあらわした。
金髪はブローがされ、頭には煌めくシルバーのカチューシャ、ピンクのドレスを身に纏い、白のリボンで腰を巻いている。
「おお!」
「お美しい……!」
大広間からは感嘆の声が上がった。
アリッサはアルフォードの隣へ行くとドレスの裾を持ちながらぺこりと挨拶をした。
大広間の反応をみたアルフォードはニンマリとし、ご機嫌な様子だ。
「では、これよりアリッサの成人披露宴を始める。ささやかながらこちらで料理も用意した、皆ゆるりと楽しんでいってくれ」
アルフォードの言葉で披露宴が始まった。
大広間には皿盛りの料理がワゴンで運ばれ、ゼロ含むメイドもトレンチにシャンパンを乗せ、希望者に配った。
アリッサは続々と諸国の王子たちにダンスに誘われ、終わるとまた他の王子に声を掛けられるのでダンスの順番待ち状態になっている。
アルフォードには諸国の王、貴族が集まり自身の息子がいかに素晴らしいか説明をしている。
鬱陶しそうな表情もしながらも話を聞いているようだ。
するとそこへ――――
「お話し中、失礼します」
アサートン大臣が脇からアルフォードへ話しかけた。
「どうした?」
「レターバードより祝い状が届いておりまして、読み上げをさせていただけないと」
「ほう……どこからだ?」
「えぇ、それが………」
アサートンは少し言いづらそうにして、額から汗が流れていた。
「どこだ?」
早く言わんかと言わんばかりにアサートンを見つめる。
「えーと……バリョッサス帝国から届いております」
「なに? バリョッサス帝国だと! あちら側に披露宴の情報が漏れていたのか?」
「近隣諸国への招待状や大々的に国民へも周知をしておりましたので、おそらく巷のうわさで嗅ぎつけたのかと思われます」
「ふーむ……まぁよい。それを貸せ」
アサートンの祝い状を取り上げると、一人で黙読し始め、一頻り読み終えるとつまらなそうな表情をし、アサートンへ祝い状を差戻した。
「それは捨て置け」
「よろしいので?」
吐き捨てるように告げられた為、アサートンはきょとんとした。
「あぁ、大したことは書かれてない。ただの祝い文だ」
「は! かしこまりました」
アサートンが下がると、再び王族、貴族たちに取り囲まれてしまった。
一方その頃アリッサは双子の王子の一人とダンスを踊っていた。
片割れはダンスが終わるのをちらちら見ながら、待っていた。次に誘おうと待ち構えているのだろう。
挨拶とダンスが延々と続いていた為、アリッサは腹を空かせているのか踊りながら料理を見ていた。
ダンスを終えた途端、双子の片割れがここぞとばかりに近づいてきて、胸に手を当て頭を下げるとアリッサに話しかけた。
「アリッサ様、ご成人おめでとうございます。私は先ほど踊っていたムメイダ国の第一王子ティモシーの弟にあたる――――」
「うるわいわね!」
「ファズでござ……え、あの? ……え?」
いきなり怒鳴られてしまった為、鳩が豆鉄砲を食ったような顔をして思わず言葉が詰まる。
「私は―――!」
とアリッサが何かを言おうとしたが寸でで声を止める。
それは言葉を出そうとした時にアリッサの視界に入った。
柱の陰からひょっこりと顔を出し、その者の表情は変わることはない。
恐らく感情のまま言葉を発した際には身の危険を感じたのだろう――― ―――アリッサが見た者はカーラだ。
カーラがいつもの笑顔で見つめていたのだ。
優しい笑顔ではなく禍々しさを感じる眼差しのような笑顔で。
「これは失礼いたしましたわ。私としたことが……おほほほ」
「あの、お気を悪くさせたなら申し訳ありません」
「いえ、そのようなことはございませんわ。あなたもダンスを踊りたいのでしょう? さぁ、手を取って踊りましょう」
半ば強引に王子の手を取って、踊り始めた。
そして時間が経ち成人披露宴は「本日はお集まりいただき、本当にありがとう」のアルフォードの言葉で締められた。
終始囲まれていたアルフォード、腹ペコのアリッサ、サービスに勤しんでいたゼロとメイド、監視をしていたカーラにより、それぞれが役割をこなし大きな問題もなく披露宴は幕を閉じた。
アリッサには落ち着いたころに、ゼロの指示でメイドに料理を運ばせた。
後から聞いたメイドの話によると大変喜びながら料理を頬張っていたとのことだ。
今後は剣術と魔法を取りやめ、歴史と礼儀作法の授業を続けつつ政策も取り入れるらしい。
もちろん普段の授業と違うため真面目に取り組み、学ばなければならない。
アリッサの事だ、前途多難になることは容易に想像できる。だが、皆で力を合わせサポートを行っていけばきっと大丈夫だ。
今後、授業から政策に変わることが日常になるのもそう遠くはない。
将来大人になったアリッサは民の為、国の為に尽力するのだろう。
アリッサが政策に関与し始めるころには、より深い情報も定期的に組織へ送れるはずだ。
もしかするとジョルジュがまた「お前には関係ない」と言い放ち、アルフォードとアリッサのサポートをして、政策については聞き出せないようにするのかも……と考えるゼロであった。
だが、その日常の終わりがすぐそこまで来ている事をまだ知る由もない。
それは披露宴が終わり、平穏になったいつもの朝に―――
――――――――唐突としてやってくるのだった。




