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15.■経過と日常

翌日、アリッサはメイドを部屋に入れ食事を取るようになり、午後には部屋から出て城内を歩き、少しづつ元の生活に戻ろうとしている。


アルフォードにはしばらく様子を見ると伝えていたので、食事の参加や授業に関しては本人に確認を行った上で対応をする予定だ。


アリッサに対して夕食に参加するのか、それとも部屋に持ち運んだ方がいいのか確認を取ったところ「参加するに決まってるでしょ!」と、いつも通りの強い口調で言われたのでゼロは少し安堵した。


夕食に向けてパントリーで二人分の皿選びをしていると、いつも行っている事なのになんとなく久しく感じた。


あまり日が経っていないのだがキラーラット騒動から始まり、ゲイルとの戦闘、アリッサの消沈と立て続きに起こり、アリッサが部屋から出てくるまで食事の時にアルフォード分の皿しか用意しなかったことが原因だろう。

ここ最近のことを思い出しながらゼロは夕食の準備を進めた。


大広間の長いテーブルでは既にアルフォードはいつもの定位置に座っていた。

事前にジョルジュへアリッサが夕食に出ると伝えておいたので、アルフォードの耳にも伝わっているのであろう、若干そわそわしていた。


すると奥の通路から純白のドレスで腰に赤いリボンを巻いたアリッサがやってきて、こちらもアルフォードの隣であるいつもの定位置に着座した。


アルフォードはちらちら横を見ながら話しかけるタイミングを見計らっているようだ。


「あー……アリッサ、もう大丈夫か?」


「ええ、もう大丈夫よお父様。心配かけてごめんね」


「そうか……ならいいのだが」


ぎこちない親子の会話が終わり、二人の目の前には夕食が並べられた。

並べ終わるといつものようにゼロのメニュー説明が入る。


「今日のメニューはローストポーク、テルミシ産ビミーフィッシュのカルパッチョ、冷製キャロットスープ………あっ! ローストポークのガルニチュールはマッシュポテトです」


気まずい雰囲気なのか、うっかり付け合わせの説明を忘れてしまった。


「ところで授業の件なのだが、気が乗らないなら無理に受けなくても別によいの――――――」


「大丈夫よ、明日から授業を受けるわ」

アルフォードが話し終える前に答える。

そして―――


「剣術は誰が教えてくれるの?」

あまり触れたくない話題を自ら話したのだ。


ゼロを含め周りに居るメイド達もギョッとしてしまい、アルフォードは顔をしかめながら答えた。


「あー……それについてはまだ代わりの者が見つかっておらん。

披露宴が近いので、魔法と歴史を少なくしてダンスレッスンを多くしてもらおうと思っている」


「ふーん、そう……わかったわ」

アリッサはそれ以上、先の事は言わなかった。


「う、うむ。ダンス中心は嫌か?」


「まぁ、披露宴も近いし仕方ないわよね。さぁご飯を食べましょ! なんだか一緒に食べるのが久しぶりに感じるわ」


「そうだな」


若干のぎこちなさは残るものの、少しの時間で解決出来そうな気がした。

剣術の話題をアリッサから振ったのは、もうゲイルの事は自分は気にしていないとアリッサなりに気を使ったのかもしれない。



※※※



それから数日が経ち、披露宴は二週間後に迫まり、城内はいつもの日常に戻ったと思える。


扉の前で狼狽えるメイド達。

カーテンを開けてスイッチを押すゼロ。

情けない声を上げて起こされるアリッサ。

歴史の授業に寝るアリッサ。

魔法を破裂させるアリッサ。

ダンスのステップが何故か下手になってしまったアリッサ。

頭を悩ます教師達………いつもの日常である。


ゲイルについてはエクリエル統治領内で指名手配になったが、まだ足取りは掴めていない。

恐らく息のかからない隣国のバリョッサス帝国方面へと逃げたのではないかと思われる。


キラーラット騒動についても兵達による尋問で男二人組の犯行が判明された。

布を張った荷車に積まれた樽の中にキラーラットを詰めこみ、貴族街でそのまま荷車数台を待機させる。


その後ゲイルがアリッサを攫い、搬入口を見張っている兵士を気絶させ、城から出たその隙にキラーラットを放つよう二人に指示したのだ。


キラーラットを放った者はアリッサを匿った男達との関係性は無く、金で雇われた。

過去に盗みで捕まり騎士にしょっ引かれていた経歴があるため、少なからず王国に対しての恨みがあり、この手の仕事を快く引き受けたらしい。


そして前金をもらい犯行後に残りの金額をゲイルの仲間たちにもらう手筈になっていたが待ち合わせの場所にいつまで経っても受渡し人が現れず、そうこうしているうちに騎士の聞き込みで容疑をかけられて捕まった。


ゲイルが城の中を色々と見て回っていたのは恐らく、守りの薄い個所を調べるためだろう。

また、神出鬼没に城内の至る所で顔を出していれば怪しまれない。

現にレッスンを終えて城から正面口からではなく、搬入口から出る事もあった。


雇われた当初は庭園へはメイドに連れられた後に剣術をアリッサに教えていたが、いつからだろう……メイドの案内を断り一人で庭園に向かう口実を言い、城内を散策していたのは……。


城から払われている賃金も少なくは無い、王女を相手に教えているわけなので騎士達よりも良い額を払われているだろうが、金の為とは言っていたが何がきっかけでこのようなリスクを負ったのか、今となっては知る由もない。



※※※



披露宴まで残り一週間となった。

歴史と魔法の授業の時間は入れず、礼儀・作法とダンスのレッスンを本番まで連日続けて行う取り決めとなっている。


あとで説明をするがステップは基本が出来ていた頃の状態に戻ったので、そのことをアルフォードに報告をすると息を吐いて安心した。

成人の披露宴となると失敗は許されないのであろう、最近は彼の強張った顔しか見てないような気がする。


アルフォードと違い、主役である当の本人はあまり披露宴の事を気にかけている様子はなさそうにダンスレッスンを受けていた。


「アリッサ様、披露宴が近いので本日もダンスレッスンをメインに残った時間で挨拶の練習をしましょう」

いつものにこやかな表情でカーラが話した。


「わ、わかりましたわ」


少しぎこちなさを感じる挨拶をした、普段から(かしこ)まった話し方をしていないので未だに慣れない様子だ。


「本日もステップの練習をしてから、ゼロを相手に踊ってみましょう」


「はい」


「ゼロもそれでいいわね?」


「はい、問題ありません」


「では、始めましょう! それワンツー……ワンツー……」


いつものステップ練習が始まる……。

今では基本が出来るようになったが、少し前にこもっていた部屋から出て練習を始めた時はぎこちないステップに戻っているのをみて驚きと焦りがあった。

あのカーラでさえ「この短期間でどうして……」と、呟いたほどだ。


一時は応用まで出来ていたので、披露宴まで余裕が持てると皆思っていたが披露宴まで日数が少ないので絶望的かと思われたのだが、この一週間で基本ステップまではなんとか元に戻った。


以前に剣術の足捌きとダンスのステップが関係していると思ったこともあったが、ゲイルが頭をよぎりそのせいでステップに影響が出たのではないかとゼロは思っていた。

だが、ゲイルが関係している事を聞くに聞けず、アリッサもゲイルの事を忘れようとしたのかステップが日に日に改善して今に至る。



「では、基礎練習はここまでにして、一旦休憩をしましょう」


カーラの声でアリッサはステップを止め小休憩をはさむ。

軽く水分補給をしつつ休憩を終えると実戦練習となる。


「じゃあ、ゼロはいつものようにパートナーをお願いしますわ」


「かしこまりました」


アリッサを前にしたゼロは胸に手をあて会釈をした。

それに応えるように両手でスカートを持ち上げ、背を伸ばしたまま軽く膝を曲げてアリッサも挨拶を行う。


「よろしくお願いいたしますわ」


腰を少し落とし二人は片手を握り合い、もう片方の手はアリッサは(ひじ)の下あたりをゼロは脇の下を持ち、流れるように踊る。


「アリッサ様、もう少し顔を上げて下さい」


「……!」

手を叩きながらリズムを取るカーラの言葉にアリッサは無言で顔を上げる。

集中しているのだろう。

その後大きなミスは無く、最後に二人で会釈し踊り終えることが出来た。


「お疲れ様でした、この調子でしたら披露宴は問題無いと思いますわ」


「カーラ様のご教授のおかげです」


「まぁ、ゼロったらお上手ね」


辺りがキラキラするような笑顔で二人は会話した。

披露宴まで不安は払拭出来そうになったからだ。


「私なら出来て当然よ……はぁ、はぁ……ねぇ、喉が渇いたわ。ゼロ、ジュースを用意して」

アリッサは少し息を切らしながらゼロに頼んだ。


「水であれば既にご用意しておりますが……」


「私はジュースが飲みたいの!」


「は、はあ。かしこまりました」


ゼロが少し困りながら、ジュースの用意をするため部屋から出ようとすると、カーラがそっとアリッサの近くへとやって来た。


「アリッサ様……今はレッスンですから良いのですが、披露宴の時は国賓(こくひん)として近隣諸国の貴族、王族が招かれダンスを踊ることになります。

ダンスの相手は一人ではありませんので踊り終えたからと言って決して油断しない様にお願いいたしますわ」


「わ、わかりましたわ」

カーラの表情はにこやかで、話し方も穏やかであったが、目には見えない圧を感じたアリッサは顔を強張らせた。


披露宴まで一週間を切っている、ダンスも作法も大きな粗は無いが何故か安心が出来ないのだ。


アルフォードはダンスの進捗を毎日のように確認し、ジョルジュも壁から顔を半分出し様子をこっそり覗いたり、他の講師陣たちもゼロと会う度にアリッサの様子を確認してくる始末だ。

ゼロも聞かれるたびに「今のところ披露宴は問題ない」と伝え対処しているが、やはり当日は何が起きるか予測は出来ない、大きな問題なく披露宴を終えたいと願う一同であった。

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