14.■傷心
騎士達は怪しいところがないか周辺を探し、アリッサが囚われている家屋の窓ガラスが道端に散乱していたので思いのほか早く特定することが出来た。
ゲイルが放った技で窓ガラスが割れたのが原因であろう。
騎士達は建物の中に入ると屋内で転がっている無数の死体をみて事件性があると確信し、囚われている部屋まで注意深く進み、天井に穴が開ている部屋の中で気を失っているアリッサを発見し保護した。
遠目からその様子を見ていたゼロは騎士達の保護を確認し、すぐさま城へと戻った。
その後、何食わぬ顔でパントリーの片づけをしている最中にアリッサが見つかり保護されたとの知らせが城内を巡った。
城まで運ばれたアリッサはいつものように治癒士と医者による診断が行われ、幸いに今回も大事に至らなかったようだ。
診断の途中に目を覚まし一時的に錯乱状態になったが、なんとか落ち着かせることが出来たのだが、錯乱状態の時に「ゲイル、嫌!」との発言とポールが襲撃された事でゲイルによる犯行と判断が下された。
また、ポールが破壊して家については一時ゲイルの仕業と思われていたが、ある人物によってポールの技とすぐに判明され、本人を問い詰めたところ「自分の技で破壊した」と白状した。
ちなみに破壊された家屋もたまたま空き家だった事と剣客ゲイルに命を狙われたとの理由から今回もポールのお咎めは無く、家については国が補償を行う事になった。
ただし、ポールが相当お叱りを受けたことは言うまでもないだろう。
※※※
誘拐事件から一夜明け、城内の片づけ作業がいくらか残っている中、ゼロは朝食の準備を行う。
コック達が調理場をなんとか片付け、残っている食材から白いロールパン、フルーツ、テールスープ等の質素な朝食になってしまったのだがこの状況ではアルフォードも文句は言いまい。
アリッサの朝食は事件後を考慮し、メイドが部屋まで持っていき、場合によっては食べさせてあげるように指示を行った。
大広間ではアルフォードが一人無言のまま席に座っている。
あまり眠れなかったのか目の下にクマが出来ていた。
ゼロはグラスに水を注いで差出し、簡単に朝食のメニューを伝えると同時に昨夜のキラーラットの事件により質素な朝食になってしまったことを陳謝するが、アルフォードは無言のまま食事を取り始めた。
黙々と食べるアルフォードだったが、しばらくすると食べる手を止め、一言だけゼロに伝えた。
「………アリッサの様子を見て来てくれないか」
「かしこまりました」
給仕をメイドに任せ、ゼロはアリッサの部屋へと向かった。
アリッサの部屋の前ではメイド達がいつものようにオロオロと困り顔をしていた。
そして、一人のメイドの手には朝食がのったトレーを持ったまま立ち往生しているように見受けられのでゼロはメイド達に問いかけた。
「一体どうしたんだ、なぜ朝食を部屋に運ばないのだ?」
「それが……朝食は要らないとおっしゃいまして……」
「私からもアリッサ様に聞いてみよう………アリッサ様!」
コンコンとドアを叩き、アリッサに呼びかける。
「……朝食なら要らないわ、誰も入ってこないで」
ドア越しから返答されたがいつもの活発な声と違い、静かで淡々とした声だ。
「………かしこまりました」
メイドを解散させ、一連をアルフォードへ報告した。
「そうか」と、一言だけ言葉が返ってきたが心配と同じにその表情からは焦燥感も感じられた。
恐らくアリッサがここまで落ち込んでいる姿を見たことが無いため、親としてどう声を掛けていいか分からず、身の回りを見ているゼロに任せたのだろう。
アリッサの持ち前の性格ですぐに気を取り直してもらえればいいが……とゼロは考えていた。
※※※
それから二日経ったがアリッサは部屋に引きこもったままだった。
念のため部屋の前に食事を置き、時間を空けると少しばかり食べた物がドアの前に置かれているので、全く食べ物を口にしないと言う事はないだろう。
三日目からはアルフォードが部屋へと入り、何か言葉を掛けた後に曇った表情ですぐに部屋から出たのであまり成果は上げられなかった様子に見えた。
その翌日にはゼロからも声を掛け様子を見るように命令が下された為、アルフォードの夕食の給仕を終えた後にアリッサの部屋へと向かうことにした。
部屋の前には夕食が置あるがまだ手を使ている様子は無かったので、ゼロはトレーを持ちそれを口実にしようと考え、部屋のドアをノックした。
「アリッサ様、夕食をお持ちしました。中に入ってもよろしいでしょうか」
「………嫌だ、部屋の前に置といて」
やはり一筋縄ではいかぬようなので「ふぅ」と一呼吸置き、命令があった事を伝えそのまま部屋に入ることに決めた。
「申し訳ありません、アルフォード様より直接食事を届けろと申し付けられておりますので、………失礼します」
部屋に入るとアリッサはパジャマを着てベッドに膝を抱えてままシーツを頭から被り、窓を見つめていた。
いや正確には窓の外を眺めていたのだろう。
部屋は暗く、窓から差し込む月の光がアリッサを照らし哀愁も相俟って、彼女をより美しく映し出した。
トレーを片手で持ちドアを閉めると、廊下から差し込んでいた光は消えより一層暗く感じる。
そして小脇の机にトレーを置き、アリッサの様子を伺うように話しかけた。
「夕食をお持ちしましたが、お召し上がりになりますか?」
「……………」
「………アリッサ様、体調はいかがでしょうか」
「………大丈夫よ」
「それはよかったです。………椅子に座ってもよろしいでしょうか?」
「……いいわよ」
化粧台の椅子を持ち、アリッサの傍に座った。
アリッサはその様子を見ることは無く、まだ窓の外を見つめているままであった。
「「……………」」
しばらく二人とも黙った。
アリッサは外を見て、ゼロはアリッサを見ながら。
なにも部屋に入りいきなり話しかけることはない、この状況を少し整理するため、お互いに話を始めるまで時間を空ける事も重要なのである。
するとアリッサからぽつぽつと話始めた。
「………ねぇ、私ってバカよね」
「………」
「魔法も出来なくて、歴史も寝ちゃってるし、マナーもこの歳まで習おうとも思わなかったし、外の事なんて全然わかんないのよ」
「………」
「……でもね、剣術だけはすごく楽しかったの」
「……ええ」
「今までの剣の先生と違ってね……げ、ゲイルはちゃんと、私の、こと叱って……くれたし。
わ、私もすごく楽しかったの、よ」
アリッサは絞り出すかのように話した。
「………はい」
「だ、だから、剣術だけは、頑張ろうと思ってたの。で、でもね……ゲイルにもバカ姫って言われちゃったし。
わ、たしって本当に、何をしてもダメな子よ、ね」
「……ゲイルの思惑に気付けず申し訳ありませんでした。
ですが、私はアリッサ様に対してそのような事は思いません」
「そんなの嘘よっ!」
アリッサはゼロへと顔を向けた、涙を流し言葉の語気は強かったが、寂しげでどこか悲しそうな表情だった。
「他のみんなだって思ってるわ、私はダメな子だって……お父様だって、きっと私のこと……」
「アルフォード様はそのような事は思いません」
「………そんなことないわよ」
「部屋にこもっている間も大変心配されていました。現に昨日アルフォード様が様子を見に来たと思います」
「……昨日の事よく覚えてないけど、お父様に酷いことを言った気がするわ」
「ええ、確かにあまり優れた顔はされていませんでした。
ですが、こうして私にも話す機会をアルフォード様に作っていただいてます」
「……そんなのお父様の命令だからでしょ、だから、きっとゼロも、私のこと……」
「アルフォード様の命令が無くても、様子を伺おうと決めていました。
それに、部屋にこもり始めてから常に気にかけていました」
「……………」
「私が城で務めていられるのもアリッサ様のおかげでもあります」
「………」
「他の皆様がアリッサ様の敵だとしても私はアリッサ様の味方です。
今後、このような事が無いよう命を懸けてお守りします」
「……」
「失礼かもしれませんが、私にとってアリッサ様はとても大切な存在で家族のように――――」
「ゼロ、わかった。もうわかったから…」
ゼロの話を黙って聞いていたアリッサはボロボロと涙を流し、彼の手を取って小さく体を丸め、顔を埋めた。
そのまま泣き続け、ゼロも落ち着くまで黙って様子を見守った。
「……ゼロ、ありがとう」
「あの、もしまだ辛いようでしたら私からアルフォード様に伝えておきましょうか?」
「もう、大丈夫って言ってるでしょ」
アリッサはクスクス笑う、目元は散々泣いてたので赤くなっていた。
笑いながらもゼロの手は離さず、その手は強く握られていた。
「でもゼロったら珍しく笑顔じゃないわね」
「え? そうですか」
「ええ、あんまり真面目な表情とか見ないけど、その顔も嫌いじゃないわ」
「……ありがとうございます」
「ねぇ、夕食を持ってきてくれたって事は食べさせてくれるんでしょ?」
「いえ、体調は問題ないと聞いておりますので……」
「なによ! 私は誘拐されて酷い目に遭ったんだからちゃんと看病して!」
「はぁ……かしこまりました。今回だけですよ」
「ふふ、分かればいいのよ」
珍しくアリッサのわがままを聞き、スプーンで夕食を小分けにして食べさせる。
最後まで食べきった時に満足げな表情をしていた為、いつものアリッサの雰囲気が戻ったように感じられた。
空になった食器とトレーを持ち、部屋から出た時にアルフォードへの報告内容を頭でまとめる。
簡単ではあるが「夕食を食べ少し会話が出来たが、念のためもうしばらく様子を見みる方向が良い」と進言の内容を考えていた。
ふと、今日の出来事で「アリッサのおかげで城に努められている」と話したのを思い出し、過去の懐かしみながら思い出すゼロであった。




