13.■騎士と剣客
ゲイルの浸喰魂が打ち上げられ夜空に怪しげな光が迸った頃、その光にほど近い場所に居た一人の騎士が現場へと駆けつけようとしていた。
短めの金髪に気の弱そうな表情、見廻りで夜の街を歩いても独り言で不審者と間違われそうな男……ポール・バルテルミーである。
「な、なんだ、あの光は?」
アルフォードの命令で捜索へと繰り出している騎士の一人でポールは偶然にもアリッサが匿われた建物から少し離れた場所で捜索していたのだ。
光が見えた場所に向かう途中、通り脇から1人の男が現れた。
男の手には剣が握られ、鞘に収められておらず月夜でキラリと刃先が光る。
その様子を見て思わずギョッとしてしまった。
「わっ! 、、あれ? 、ゲイル殿じゃ、ないですか」
「あん? あー……お前は確かギルドに行く時についてた護衛だったよな。ま、名前は忘れたけどよ」
「ぽ、ポール、、です」
この時ポールはアリッサの行方が分からなくなった事を伝えて、捜索に協力してもらおうと考えた。
「あ、あ、あの、、、アリッ――」
「そうか、俺は急いでるんだ、またな!」
ゲイルは足早にその場を去ろうとし、ポールの横を通り過ぎた。
それを横目で見ていたポールだが、口下手が災いし引き止めることが出来ない。
後ろ姿を見つめているだけだったが、数歩先でゲイルはピタリと止まり、振り返った。
「ああそうだ、やっぱお前に用事があったわ」
「な、なんで、、しょう? あ、あの私も、伝えたいこ、ことが」
ゲイルはゆっくりと近づき―――
「まぁ、なんだ……死んでくれや」
剣を首元めがて振り抜いた!
だが紙一重で斬撃を躱すと、そのまま後に尻餅をついた。
「わっ! な、なにを、するん、ですか!」
「まさかお前も躱すとはな、俺が近づいた時に少し後ろに下がったからか? ……まあいい、運の良いやつだな」
ゲイルは急所を突くように攻撃を繰り広げるが、ポールは逃げるように躱し、距離を取って立ち上がると剣を抜いた。
「ど、どういう、つ、つもりですか、、」
「ああくそ! 今日はついてねぇな、お前も俺の太刀について来れんのかよ!」
「え?」
「っち! 仕方ねぇな!」
ゲイルは残り少ないオーラを身体に纏い襲い掛かるが――――
「ふん!」
――――ポールは剣で弾いた。予想外の展開にゲイルも目を丸くする。
「なっ……てめぇもオーラを纏えんのか! ただの兵って訳じゃねぇな!」
ポールは剣を構え、姿勢を正し、目つきは鋭く普段の弱々しそうな表情はどこにも無い。
その立ち振る舞いから勇敢さも見えるであろう、もはや別人だ。
「なぜ私を襲ったのかはわかりませんが、もし今回の事件と関係があるなら教えてもらいたい。アリッサ様の行方がわからないのですが、何か知っていますか?」
「なんだよ、てめー普通に喋れんじゃねぇか。……知っているって言ったらどうなんだよ?」
「あなたを拘束し場所を吐かせます」
「ほーう、じゃあ知らねぇって言ったら?」
「騎士である私に襲い掛かり殺害を行おうとしたので、一度あなたを拘束し、投獄後に処罰を受けてもらいます」
「んだよ、どのみち捕まっちまうじゃねぇかよ。ならよ、やっぱりお前を殺すって言ったら?」
「身の危険が及ぶ場合、あなたを斬ることになります」
「……そうかよ」
お互い剣を抜き対峙したまま、少しの間沈黙が流れ、真意を問うように最後のつもりでポールは質問をする。
「ゲイル殿、改めて伺いますがあなたはアリッサ様の行方を知っていますか?」
「……俺の答えはこれだよ!」
ゲイルはポールに斬りかかった。
だが、ゼロとの戦闘でオーラとマナを僅かしか残していない為、ゲイルは本気で攻撃が出来ない、そして簡単にポールに剣を捌かれる。
「残念です」
ぽつりと呟くように言葉を吐くと、一方的な展開となる。
ポールの怒涛の攻撃が始まり、ゲイルは残り少ないのオーラの関係上、太刀打ちが出来ない。
だが、幾つもの死線を潜り抜けたゲイルは攻撃を捌いており、峰打ちを狙うポールもしぶとく抵抗されるため決定打に欠けていた。
「おいおい、どうした? 騎士様ってのはこんなもんかよ!」
「……さすが剣客だけはありますね。
殺したくありませんでしたが仕方がない、本当に残念です」
ゲイルは腹を足で突き飛ばし距離を取ったがポールは追撃せず、その場で剣を上段に構えた。
それを見たゲイルはニヤリと笑う、技を使うつもりだろうと判断した。
経験上、技直後に隙が生じ、身体を守るオーラが減少するため、その隙を突くことで勝機があるとゲイルは剣を交える前に考えたのだ。
そして、今まさに技を使おうとしている千載一遇のチャンスが訪れ、敢えてポールとの距離を縮めようと近づいたのだが、ゼロとの戦闘と同様に再び考えを変えることになる。
「地奔斬ッ!!!」
大きく振り下ろされた剣は地面に当たると大地を抉り、蠢くような衝撃波が地を駆け巡りゲイルへ放たれた!
「なっ! やべぇ!!」
数多の経験から放たれた技がいかに危ないのか身の危険を感じ取ったのだろう。
ポールとの距離を埋める為に近づいていたが、技が発動されたと同時に残り少ないオーラを使い、全力で横っ飛びで回避を行う。
―――ズドンッ!!!!!
地奔斬は大地を抉りながら一直線に伸びスラム街の民家に直撃すると、ぶつかった衝撃により爆音と共に家に大穴を開けた。
「あ、ああ、しまった! 家を壊してしまった!」
「おい、おい! なんなんだよ今のは……」
片手で頭を押さえ、焦った表情をしているポールとは対照的に、横たわりながら驚愕しているゲイルがいた。
彼の額から汗が吹き出し、口を開けたまま大穴が開いた家を見つめ、立ち上がるのを忘れていたようだ。
ゲイルは先の技が自分に当たった事を想像しゾッとしたところで我に返り、急いで立ち上がると、ある疑問が浮かんだのでポールへ問いかけた。
「てめぇ、名前はなんて言うんだ?」
「ぽ、ポールですが……」
「ちげぇよ! フルネームだよ!」
「ポール・バルテルミーで、です」
「バルテルミーだと!
なるほど……どうりでこんなのを使えんだな……
いや、どうみたって技じゃなねぇ! てめぇも固有持ちか!?
くそ! それにしても今日はとことんツイてねぇ、さっきの執事と言い、バルテルミー家の坊主と言い」
「さ、さっきからな、なにを、言っているのですか? あぁ、そんな場合じゃない、ど、どうしよう、家が……」
ゲイルは苦虫を嚙み潰したような表情でポールを見据えていたが、当の本人は既に口調が戻ってしまい、家の事で慌てふためいていた。
夜空に明るく照らされた光と大穴が開いた家の破壊音で市民が何事かと集まりだし、大通りの奥からは騎士達が駆け足で向かってくるのを確認したゲイルは諦めたかのように剣を投げ捨てた。
「はぁ、仕方ねぇな」
「て、抵抗しても無駄です、よ?」
「うん? そうだよな、抵抗しても無駄だもんなぁ」
ゲイルは不敵な笑みを浮かべた、なぜこのような状況で笑うことが出来るのかポールには理解出来ず、諦めているものだと感じたのだろう。
援軍の騎士達もあと少しで到着し、ゲイルも武器を持たず両手をポケットに入れているのを見て安心したポールは警戒を解いていた。
「だがよ、最後の奥の手は取っておくものだぜ……」
「えっ?」
「あばよ!」
ポケットから何か取り出したゲイルは地面にそれを叩きつけると、あたり一面が煙で覆われた。
再び剣を構え迎撃態勢を取るポールだったが、煙の中から最後のゲイル言葉が遠のくように聞こえたのだった。
しばらくすると徐々に煙が去り視界も良くなると、ゲイルの姿はどこにも無く、代わりに周りには野次馬や煙が無くなるのを待っていたであろう騎士達の姿も見え、一人の中年騎士と目が合うと駆け寄ってきた。
「大丈夫か、何があった?」
「げ、ゲイル殿に突然お、襲われて、、、」
「なに! ゲイル殿とやり合って生き残るとは流石ポールだな。
ちなみに失踪事件と襲撃された件の関連はありそうなのか?」
「そ、それはわかりませんが、、、襲った、のを考えると、、おそらく、あるかと、、、」
「そうか……空に浮かんだ怪しい光はもう確認したか? お前がここに居るって事はすでに確認済みか」
「い、いえ、、現場に向かう途中に襲われまして、、」
「そうか、なら俺達と確認をしに行こう……ん?」
煙が消え去ると同時に穴の開いた民家の姿を現し、それを見た市民が集り始めていたので騎士達が家の前で危険なので近づかないよう注意喚起を始めた。
「まさか……あの家もゲイル殿の仕業か! とんでもない事をしたもんだ!」
「あ、、いや、、あれは、、、その」
怒気のこもった声だったので思わず自分がやったとその場で言えず、バツの悪い表情で黙るしかなかった。
夜も更けていた為なのか、もしくは騎士達の注意喚起で家の前に集まっていた野次馬は徐々に去りつつつある。
「よし、ではポールも俺達と合流して光が上がった怪しい場所を特定するぞ!」
野次馬を追い払うと、光が見えた場所を特定すべくポールと騎士達で捜索の続きを開始しようとした矢先に、
――――ズドォォォォオオオォォォン!
轟音を上げながら家が崩れ、その倒壊する様子を泣きそうなポールと苦々しい表情の騎士達が眺めていたのだった。




