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12.■執事と剣客

スラム街にほど近い四階建のレンガ作りの古くて広い空き家。


昔、家具工房として利用されていたが付近の治安が悪くなってくるとその店の主人は店をたたみ、その後は物置として利用されていた。

付近がスラム街化してからは物置としての利用も無くなり、ごろつき達の溜まり場になっている。


だが、今現在は一階から三階まで無数に転がるごろつきの死体、四階には城の執事と剣客が対峙している。


ゼロは投げつけた剣が首元に刺さった男を足蹴りで壁へと追いやり、その様子を見てゲイルもアリッサを自身の後ろへ位置を変えた。


改めて互いに向き合った2人、どちらも攻撃を仕掛けるのを待っていたが先に痺れを切らしたのはゲイルの方だった。


「うらぁぁぁあ!!!!!!」


踏み込みから一気にゼロへと肉薄し、凄まじいスピードで斬りかかった。

ゼロは身を逸らして躱し、反撃をするためダガーをゲイルへ向けたが―――


「させねぇ!」


躱された直後にも剣先を変え流動的に斬りかかり、身を躱し続けるゼロに反撃の間を与えない。

ゼロは足に力を入れ、後ろへと一旦距離を取った。


「俺の攻撃を躱すとわやるじゃねぇか…」


「………………」


「しかも呼吸も乱れてねぇな、ホントに何者だ? 

お前みたいな奴がいるなんて、そんな情報聞いてねぇぞ」


「……」


「喋る気は相変わらずねぇようだな、俺の剣じゃねぇけど今は仕方ねぇ……」


ゲイルは剣を下段に構えると呼吸を整え始めた。

すると、ゲイルが持っている剣が淡い光で包まれ始め――――


「奥義! 鎌鼬(かまいたち)!」


常人では見えない速度で振られた太刀筋から、目には見えない斬撃がゼロへと襲い掛かる。


ゼロは身を丸め空中で一回転し躱すと同時に後ろの扉が崩れた音が響き、クロスして太刀が振るわれたのか、ゲイルから扉の壁まで×印のようにひび割れていた。

×の中心点となった扉は破壊され、さらにその先の壁も技の衝撃でひび割れており、穴が開きそうになっていた。


「まさか、これも躱すのかよ……」


驚愕している隙を見逃さず、今度はゼロが肉薄しダガーで首元を狙いにかかった。


「っと危ねぇ!」


ゲイルはダガーを弾いたが、ゼロはダガーを逆手に持ち直しさらに追撃を行う。

だがその攻撃に反応しダガーを剣で受け止め、鍔迫(つばぜ)り合いになる。

段々と押されていくゲイルは片手で持っていた剣を両手で支えた。


「くそ、なんて力だ!!」


鍔迫り合いの最中、ゼロの蹴りがゲイルの脇腹に入った。

「――がっ! うるりゃ!!」


一瞬、蹴りで怯みかけたゲイルは渾身の力でダガーを払い、ゼロを後ろへと下げさせた。

ゲイルの息遣いは段々と荒くなってきているが、もう一方のゼロの呼吸は乱れておらず、未だに沈黙を保っている。


「はぁ、はぁ……まさかオーラとマナを纏っている俺に蹴りで傷を負わせるとは……音で居場所がバレちまうかもしれねぇが仕方ねぇ! ここでやるしかねぇ!」


ゲイルは蹴られた腹部を掌で確かめるように確認し、そのまま剣を上段に構える。

次第に剣は淡く光り始め、徐々に光は強くなり、そして禍々しい赤色が変わった。


「奥義! 浸喰魂(しんしょくこん)


勢いよく振り下ろすと、まるで剣から這いずりでるように赤黒い(もや)が剣から放たれた。

放射された衝撃なのか、ゲイルの後ろの窓ガラスが割れる。


(もや)は赤い手で迫るように見え、スピード自体はそこまで早くはない。

だが、先ほどの目には見えない技と違い認識出来るためゼロはそれを容易に(かわ)したのだが―――


「くっ!」


まるで意志があるかのように身体を逸らした方向へと向きを変え、逃げても逃げても迫ってくる。その執拗さにフードで表情は悟られないが、ゼロは顔を(しか)めた。


「さっき蹴られた時にお前のマナを取り込んだんだ、この技から避けられねぇぜ!」


何度も躱すがやはり振り払う事が出来ず、改めて距離を取るとその場所で立ち止まった。


「ふふ、潔く諦める事も肝心だぜ!」

ゲイルは勝利を確信して薄ら笑う。


ゲイル自身を倒せば浸喰魂(しんしょくこん)を消滅させる事は出来る、仮にゼロが攻撃をしたところでダガーを受け止め攻撃を防ぐことが出来るので、鍔迫り合いの最中に迫ってくる浸喰魂を同時に捌くことは出来ない。


また、この攻撃が当たった相手は強制的に体内のマナを侵食され内部から破裂してしまう。

破裂するまでのタイムラグでこの男を窓から放り投げれば良いと考えていたのだが、ゲイルは考えを変える事となる。


浸喰魂がフードの男の真正面に迫ると自身の技と重なり注視することが出来なかったが、男の目の前に淡い何かが出現し、男が片腕を振り上げると浸喰魂を打ち上げ、ゲイルの真上あたりの天井に穴を開けた。


天井を突き抜けそのまま外へと打ち上げられた浸喰魂は空中で破裂し夜空を明るく照らす。


パラパラと天井の破片が落ちてくるのを手で防ぎながら、驚愕した表情で穴の開いた天井とゼロを交互に視線を移した。


「おい、嘘だろ! まさかてめぇ、固有(ユニーク)持ちか!? 

ちくしょうっ! 今のでマナをほぼ使い切っちまったし、このままだと分が悪ぃな……」


アリッサを置いたままゲイルは膝を曲げ力を込めて天井の穴へと飛び上がり、ゼロもそれを追うように穴から屋上に向かった。


「来ると思ったぜ! うるりゃ!!」


ゼロが追ってくるのを見越して、屋上で待機していたゲイルは穴から出てきたゼロを狙う。

その斬撃がフードを掠めたが頭部を逸らし、寸でのところで回避し穴を(また)いで対面するように着地する。


着地と同時に斬られたフードがはらりと落ちてしまった――――


「な、てめぇは城の執事じゃねえか!」


「………」


ゲイルに顔を見られ正体がバレてしまった。

だが、ゼロは気にせず鋭い眼光で睨みつける。


「お前たしかゼロって言ったよな? 執事の時の笑顔は作りもんなのか、そんな怖え顔も出来んだな……お前は国王の命令でここに来たのか?」


「……答える義理はありませんね」


「ほーう、顔を隠してるってこたぁ、正体がバレたらマズイ……違うか?」


「……さぁ、どうでしょう」

ゼロはダガーを構えた。


「まぁちょっと待てよ、俺もお前も色々とバレたら厄介だろ、お互いに身を引くなんてどうだ?」


提案を無視し構えを崩すことはないゼロを見て焦り始めるが、ある事に気づいた。


「あっ! ヤベェな、俺が攫ったって姫さまに言ったんだった。

まさか、お前みてーな奴が現れるなんて想定外だったぜ、まぁ、俺の愛刀を使って戦ったら俺にも勝算があったかもしれねぇが……今じゃ言い訳にしかなんねぇな」


ゲイルは笑って見せた。

こんな状況でも何か策があるのか、それともゼロに対して説得を行うための時間稼ぎなのか。


「そーいや、前にギルドに行く途中にも下の奴らの仲間に姫さまを攫うように(けしか)けて攫うところまでは良かったが、その後にそいつらの死体が路地裏で見つかってよ……誘拐に失敗しちまったんだが、実はお前が殺したんじゃねぇのか?」


「……まさか、あなたの指示だったとは思いませんでしたよ」


ゼロは姿勢を低くし今にも襲い掛かろうとしていたが、その様子を見たゲイルは慌てて言葉を繋いだ。


「ああ、やっぱりお前だったか! あの時は敢えて執事と一人の兵だけにしてもらうように王様にお願いしたんだが、お前が居るとはとんだ誤算だったよ!」


「もう言い残す言葉は無いですか?」


「ま、まぁ聞けよ、俺はオーラもマナも殆ど残っちゃいねぇし、お前と戦うつもりも今はねぇ。

仮にお前の正体がバレたくねぇなら、俺は何も言わねぇ! ここは見逃してくんねぇか? 頼むわ」


「……それは出来ませんね」


「……だろうな。だがよ、仮に正体がバレたくねぇなら、お前もこの事を誰かに言えねぇよな? 今回の事は()()()()()()()ことにすればいいんだよ」


「どう言う意味ですか?」


「つまり、一人を口封じすればいい話じゃねえのか?」

問いかけるように話すと、ゲイルは(いや)らしく微笑んだ。


「まさかっ!」


「そうだよ! 口封じするのは姫様だよ!」


ゲイルはポケットから何かを取り出すと穴へと投げつけた。

それを見ていたゼロは急いで穴へと飛びこむ。


「あばよ!」

屋上から声が響き、ゲイルはその場から立ち去った。


ゲイルが投げたのは紋が刻まれた小型の爆薬だ。

マナを込めて投げる事で紋が発動し、局所的な爆発が起きる。

ゼロは瞬時に見つけると淡い光を手に纏い握りつぶした。


そしてすぐに横たわっているアリッサの様子を確認すると外傷もなく、口元より若干漂ってくるスリプ草の匂いから眠らされているだろうと判断した。


夜空に散った明かりで騎士が駆けつけて来ると予測し、遠目で騎士の保護を確認してから城へ戻る事にした。


仮にゲイルが執事にやられたなど吹聴(ふいちょう)しても冗談か頭のおかしい者としか見られないため、現段階では見逃しても問題無いであろう。


ゲイルを追って騎士や市民に目撃されるリスクを負うことはしない。

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